薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)と上用饅頭(じょうようまんじゅう)、この二つの和菓子に違いはあるのでしょうか?
結論から言うと、これらは基本的に同じものを指す場合がほとんどです。
違いは主に「薯蕷(じょうよ)」という原材料名で呼ぶか、「上用(じょうよう)」という用途や格で呼ぶかの違いにあります。
この記事を読めば、その微妙なニュアンスの違い、生地の秘密、そしてどのようなシーンで使われるのかがスッキリと分かりますよ。
それでは、まずその核心的な違いから見ていきましょう。
結論|薯蕷饅頭と上用饅頭の違いを一言でまとめる
薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)と上用饅頭(じょうようまんじゅう)は、基本的に同じ和菓子を指します。最大の違いは「呼び名」の由来です。「薯蕷」は原材料の「山芋(やまいも)」を意味し、「上用」は「上等な御用達」という意味合いや「薯蕷」の音が変化したものとされます。
和菓子屋さんで「じょうよ饅頭」と「じょうよう饅頭」の両方が並んでいることは稀ですよね。
それもそのはず、この二つは、すりおろした山芋類を生地に使った上等な饅頭(薯蕷饅頭)を指す言葉であり、呼び方が異なるだけで、実質的には同じものとして扱われることが大半です。
あえて違いを強調するならば、その言葉の成り立ちにニュアンスの違いがあります。
| 項目 | 薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう) | 上用饅頭(じょうようまんじゅう) |
|---|---|---|
| 名前の由来 | 原材料の「薯蕷(山芋)」から | 「上等な御用達」または「薯蕷」の音変化 |
| 主な生地 | 共通(薯蕷、上新粉、砂糖) | |
| 主な餡 | 共通(こしあん) | |
| 特徴 | しっとり、もっちりした食感。上品な甘さ。 | |
| 主な用途 | 共通(祝儀、不祝儀、お茶席など) | |
薯蕷饅頭と上用饅頭は同じもの?呼び名(語源)・原材料・製法の違い
「薯蕷(しょよ・じょうよ)」とは山芋や長芋など「ヤマノイモ」を指す漢語です。一方、「上用(じょうよう)」は「上等な御用達」という意味や「薯蕷」の音が転じたものとされ、どちらも「すりおろした山芋類を生地に使った上等な饅頭」という点で共通しています。
なぜ二つの呼び名が存在するのか、それぞれの言葉の成り立ちと製法を見ていくと、その理由がよくわかります。
「薯蕷饅頭」の定義と語源
「薯蕷饅頭」の「薯蕷」は、「しょよ」または「じょうよ」と読みます。
これは、山芋(ヤマノイモ)や長芋、自然薯(じねんじょ)といったヤマノイモ科の芋類を指す漢語です。
つまり、「薯蕷饅頭」とは、原材料である「薯蕷(山芋)」を生地に使った饅頭ですよ、ということをストレートに示している呼び名なんですね。
「上用饅頭」の定義と語源
一方、「上用饅頭」は、主に二つの説があると言われています。
- 用途・格に由来する説
かつて高貴な方々や幕府などに献上されていた「上等な御用達(ごようたし)のお菓子」であったことから、「上用」と呼ばれるようになったという説です。 - 音が変化した説
「薯蕷(じょうよ)」という言葉が、時代とともになまって「じょうよう」と発音されるようになり、そこに「上用」という縁起の良い漢字が当てられたという説です。
特に関西地方では「上用饅頭」という呼び名が広く使われる傾向があるようです。
どちらの説をとっても、「薯蕷を使った上等な饅頭」であることに変わりはありませんね。
共通する原材料と製法
薯蕷饅頭(上用饅頭)の生地は、非常にシンプルです。
- 薯蕷(山芋、長芋など):すりおろして使います。
- 上新粉(米粉):うるち米の粉です。
- 砂糖
最大の特徴は、小麦粉を使わないことです(製品によってはつなぎで少量使う場合もあります)。
一般的なお饅頭が小麦粉と膨張剤(ベーキングパウダーなど)で生地を膨らませるのに対し、薯蕷饅頭は、すりおろした山芋が持つ酵素(アミラーゼ)が米粉に作用することと、蒸し上げる際の熱によって、生地が膨らみ、独特の食感が生まれます。
このため、グルテンフリーのお菓子としても注目されることがあります。
味・食感・香り・見た目の違い
薯蕷饅頭(上用饅頭)の最大の特徴は、山芋由来のしっとり、もっちりとした独特の弾力ある食感です。小麦粉の饅頭とは一線を画す、きめ細かく上品な口当たりと、ほのかな山芋の香りが特徴です。
呼び名が違うだけで基本的には同じものですから、味や食感、見た目に明確な違いはありません。
ここでは、薯蕷饅頭(上用饅頭)ならではの共通の特徴を解説します。
生地の独特な食感と風味
小麦粉を使った饅頭が「ふかふか」「ふわふわ」しているのに対し、薯蕷饅頭の生地は「しっとり」「もっちり」としており、強い弾力があります。
これは山芋の粘り気と米粉が合わさることで生まれる独特の食感ですね。
口に入れると、ほのかに山芋の上品な香りがします。また、生地自体にもしっかりと甘みが付けられており、きめ細かく滑らかな舌触りが特徴です。
冷めても固くなりにくいのも、山芋の保湿性のおかげです。
中餡(こしあん)との調和
この上品で繊細な生地に合わせるため、中に入れる餡(あん)は、なめらかな「こしあん」が使われるのが王道です。
粒あんが使われることは、ほとんどありません。
生地のしっとり感と、こしあんの滑らかさが一体となり、非常に上品な甘さと口溶けを楽しむことができます。
見た目の特徴と焼印
生地は真っ白できめ細かく、清廉な見た目をしています。
この白い生地を活かし、お祝い事(祝儀)では、生地の半分を薄い赤色で染めた「紅白饅頭」として使われることが非常に多いです。
また、表面には焼印(やきいん)が押されることが多く、お祝い事では「寿」や「鶴亀」などの縁起の良い柄、お茶席では季節の花、法事(不祝儀)では「蓮(はす)」や「菊」などが用いられます。
薯蕷饅頭・上用饅頭の保存方法・賞味期限・日持ちの違い
薯蕷饅頭は生菓子であり、日持ちしません。原材料の山芋と米粉は時間が経つと固くなり風味が落ちるため、消費期限は当日中、または翌日中に設定されているのが一般的です。
薯蕷饅頭は、そのデリケートな風味と食感を味わうためのお菓子です。
保存料などは基本的に使われておらず、生菓子に分類されます。
消費期限は製造当日、もしくは翌日までと非常に短いのが特徴です。購入したら、できるだけ早く食べるのが一番ですね。
保存する場合は、常温保存が基本です。冷蔵庫に入れてしまうと、生地の米粉や山芋が冷えて固くなり、特有のしっとり・もっちり感が失われてパサパサになってしまいます。
もし少し固くなってしまった場合は、蒸し器で軽く蒸し直すか、霧吹きで少し水をかけてから電子レンジで10~20秒ほど温めると、柔らかさが戻ることがありますよ。
文化・季節・贈答シーンでの使い分け
薯蕷饅頭(上用饅頭)は、その上質な味わいと美しさから、「ハレの日」のお菓子として特別なシーンで用いられます。日常のおやつというよりは、お茶席の主菓子、結婚式の引き出物、結納、上棟式などの祝儀、または法事の際の不祝儀(仏事)に使われます。
薯蕷饅頭(上用饅頭)は、その高級感と上品な味わいから、日常のおやつとして食べるというよりは、特別な「ハレの日」や儀式的な場面で使われる「上用菓子」の代表格です。
具体的には、以下のようなシーンで目にすることが多いでしょう。
- 祝儀(お祝い事)
結婚式の引き出物、結納、七五三、入学・卒業祝い、上棟式などで、「紅白饅頭」として使われます。焼印も「寿」「鶴亀」「松竹梅」など縁起の良いものが押されます。 - お茶席(茶道)
抹茶の味を引き立てる主菓子(おもがし)として非常に好まれます。季節感を表す焼印が押されたものが使われます。 - 不祝儀(仏事・法事)
法事や葬儀の際の引き物としても使われます。この場合は、白一色、または青と白、黄と白の組み合わせの生地が使われ、焼印は「蓮の花」や「菊」などが一般的です。
体験談|お茶席で感じた薯蕷饅頭の「格」
僕が和菓子の上品さや「格」の違いに本格的に目覚めたのは、大学時代の茶道サークルの体験入部がきっかけでした。
それまで饅頭といえば、温泉地で食べるような茶色くふかふかしたものを想像していたんです。
ですが、その日のお茶席で「主菓子(おもがし)です」と出されたのが、まさにこの薯蕷饅頭でした。
真っ白で、きめ細かく、少し小ぶりな姿に、まず「これが饅頭?」と驚きました。
そして、黒文字(和菓子を切る楊枝)を入れたときの、しっかりとした弾力。一口食べた瞬間の、しっとり、もっちりとした皮の食感と、中のこしあんの驚くほど滑らかな口溶け…。
「僕の知っている饅頭と全然違う!」と衝撃を受けましたね。
後でサークルの先輩から、「これは『上用饅頭』と言って、皮に山芋を使っているから、こんな独特の食感なのよ。お祝い事やお茶席で使われる、ちょっと特別なお饅頭なんだ」と教えてもらいました。
あの体験がなければ、和菓子が持つ「用途」や「格」の違いに、深く気づくことはなかったかもしれません。薯蕷饅頭は、僕にとって和菓子の奥深さを教えてくれた、忘れられない一品です。
薯蕷饅頭・上用饅頭に関するFAQ(よくある質問)
薯蕷饅頭と上用饅頭は、結局どっちが正しい呼び名ですか?
どちらも間違いではありませんよ。「薯蕷饅頭」は原材料の山芋(薯蕷)に由来し、「上用饅頭」は「上等な御用達」という格や用途に由来する呼び名です。地域(特に関西)によっては「上用饅頭」が一般的な場合もありますが、基本的には同じものを指しています。
薯蕷饅頭はなぜ値段が高いのですか?
主な理由は、原材料に高価な「山芋(薯蕷)」をふんだんに使っていることと、製造に手間と熟練の技術が必要だからです。山芋の特性を活かして生地を仕上げるには、職人の経験が欠かせませんからね。
薯蕷饅頭は小麦アレルギーでも食べられますか?
はい、伝統的な製法で作られた薯蕷饅頭は、生地に小麦粉を使用せず、上新粉(米粉)と山芋、砂糖で作られるため、グルテンフリーのお菓子として知られています。ただし、製造所によっては小麦粉を含む製品と同じラインで製造している可能性もあるため、重度のアレルギーの方は購入時に確認するのが安心ですね。
まとめ|薯蕷饅頭と上用饅頭の違いを理解して使い分けよう
薯蕷饅頭と上用饅頭の違い、スッキリしましたでしょうか?
結論として、薯蕷饅頭と上用饅頭は、原材料(山芋)と製法は同じで、主に「呼び名の由来(原材料名か用途名か)」が異なる、上等な和菓子です。
どちらも山芋を使ったしっとり・もっちりとした食感が特徴で、お祝い事やお茶席など、特別な「ハレの日」に用いられます。
もし和菓子屋さんで見かけたら、それは日常のおやつではなく、少し「格」の高いお饅頭なのだと意識してみると、また違った味わい方ができるかもしれませんね。
和菓子には、ほかにも様々な種類があります。興味のある方は、スイーツ・お菓子の違いをまとめた記事もぜひご覧ください。
また、和菓子に使われる原材料などについて、より深く知りたい場合は、農林水産省の公式サイトなどで「和菓子 原材料」と調べてみるのも勉強になりますよ。