「アプフェルシュトゥルーデル」と「アップルパイ」。
どちらもリンゴを使った温かいスイーツの代表格ですが、この二つの明確な違いをご存知ですか?カフェのメニューで見かけると、どちらにしようか迷ってしまうこともありますよね。
最も決定的な違いは、使われている「生地」と「形状」にあります。アプフェルシュトゥルーデルは非常に薄く伸ばした特殊な生地でリンゴを「巻いた」お菓子であり、アップルパイはバターをたっぷり使った層状の生地でリンゴを「包んだ」お菓子です。
この記事を読めば、二つのスイーツの起源から製法、食感、食べ方の違いまでスッキリと理解でき、自信を持って注文できるようになります。
それでは、まず結論から見ていきましょう。
結論|アプフェルシュトゥルーデルとアップルパイの違いとは?
アプフェルシュトゥルーデルとアップルパイの最大の違いは「生地の種類」と「形状」です。アプフェルシュトゥルーデルは、オーストリア発祥のお菓子です。「シュトゥルーデル生地」という、紙のように極めて薄く伸ばした生地で、リンゴやレーズン、パン粉などを「巻物(ロール)状」にして焼き上げます。食感は「パリパリ」「サクサク」と軽快です。
アップルパイは、イギリス発祥でアメリカで発展したお菓子です。「パイ生地」という、バターと小麦粉が層になった生地を使い、リンゴのフィリングを「パイ皿(円形)に敷き詰めて」焼きます。食感は「サクサク」「しっとり」としています。
つまり、名前は似ていても、生まれ故郷も、作り方も、食感も全く異なるスイーツなんですね。
【徹底比較】アプフェルシュトゥルーデルとアップルパイの違い一覧表
二つの違いは「起源」「生地」「形状」「食感」に明確に現れます。アプフェルシュトゥルーデルはオーストリアの「巻物」でパリパリ食感、アップルパイは米・英の「皿型」でサクサク食感と覚えるのが簡単です。
両者の特徴を一覧表で比較してみましょう。
| 項目 | アプフェルシュトゥルーデル | アップルパイ |
|---|---|---|
| 主な起源 | オーストリア(ウィーン) | イギリス(アメリカで発展) |
| 分類 | 温製菓子(シュトゥルーデル) | 温製・冷製菓子(パイ) |
| 生地の種類 | シュトゥルーデル生地 (薄く引き伸ばす生地) |
パイ生地 (バターが層になった生地) |
| 生地の油脂 | 溶かしバター(塗る)、または油 | 冷たい固形バター(練り込む・折り込む) |
| 形状 | 巻物状(ロール状) | 円形の皿型(ホール状) |
| 主な中身 | リンゴ、レーズン、ローストしたパン粉、シナモン | リンゴ、砂糖、シナモン、バター、レモン汁 |
| 食感 | 生地:パリパリ、サクサク(軽快) 中身:しっとり |
生地:サクサク、ザクザク、しっとり 中身:とろり、シャキシャキ |
| 食べ方 | 温かい状態で提供。 粉砂糖をかけ、バニラソースや生クリームを添える。 |
温かい状態(アラモード)でも、冷たい状態でも良い。 |
アプフェルシュトゥルーデル(Apfelstrudel)とは?
アプフェルシュトゥルーデルは、「リンゴの渦巻き」という意味を持つオーストリアの伝統菓子です。ウィーンのカフェ文化を代表するスイーツの一つとされています。
特徴:オーストリア伝統の「巻物型」アップルスイーツ
アプフェルシュトゥルーデル(Apfelstrudel)は、ドイツ語で「リンゴ(Apfel)」と「渦巻き(Strudel)」を意味する名前の通り、オーストリア=ハンガリー帝国時代に生まれた伝統的なお菓子です。
特にウィーンのカフェハウス文化(Kaffeehauskultur)において欠かせない存在で、ザッハトルテと並んで最も有名なお菓子の一つですね。
その最大の特徴は、後述する「シュトゥルーデル生地」にあります。
アップルパイ(Apple Pie)とは?
アップルパイは、パイ生地でリンゴのフィリングを包んで焼いたお菓子です。イギリス発祥とされますが、アメリカに渡って独自の発展を遂げ、「おふくろの味」として国民的なデザートとなりました。
特徴:アメリカを象徴する「皿型」のパイ菓子
アップルパイ(Apple Pie)は、今や世界中で愛されるデザートですが、その起源はイギリスにあるとされています。それがアメリカに伝わり、”As American as apple pie”(アップルパイのようにアメリカ的だ)という言葉が生まれるほど、アメリカの食文化を象徴する「おふくろの味」として定着しました。
パイ皿にパイ生地を敷き、甘く煮たりんごを詰め、上からもパイ生地を被せて(または格子状にして)オーブンで焼くのが最も一般的なスタイルです。
【核心】シュトゥルーデル生地 vs パイ生地 決定的な違い
両者の食感を決定づけるのが生地の違いです。シュトゥルーデル生地は油分が少なく「薄く引き伸ばす」ことでパリパリ感を生み出し、パイ生地は大量のバターを「層状に折り込む」ことでサクサク感を生み出します。
二つのスイーツを全くの別物たらしめているのが、この「生地」の違いです。作り方も食感も正反対と言っていいほど異なります。
アプフェルシュトゥルーデル:「シュトゥルーデル生地」
シュトゥルーデル生地は、強力粉などの小麦粉に、水、卵、少量の油(または溶かしバター)を加えて作られます。
この生地の最大の特徴は、生地を紙のように、向こう側が透けて見えるほど極端に薄く引き伸ばす点にあります。この作業は非常に高度な技術を要し、熟練の職人は生地を大きな布の上で新聞紙が読めるほどの薄さまで伸ばすと言われています。
薄く伸ばした生地に溶かしバターを塗り、フィリングを置いて巻いていくため、焼き上がりは層状でありながらも、非常に「パリパリ」「サクサク」とした軽快な食感になるのです。
アップルパイ:「パイ生地」
アップルパイに使われるのは、いわゆる「パイ生地(Pâte à tarte や Pâte brisée、Pâte feuilletéeなど)」です。
小麦粉に、冷たい固形のバターを大量に加え、練り込んだり(練りパイ)、生地とバターを交互に折りたたんだり(折りパイ)して作られます。
生地作りの過程でグルテンの形成を抑えつつ、バターの層を作ることで、焼いた時にバターが溶けて蒸発し、生地の間に空気の層ができます。これにより、「サクサク」「ハラハラ」とした独特の食感が生まれるのです。
形状と中身(フィリング)の違い
アプフェルシュトゥルーデルはフィリングを「巻く」ため細長い形状になり、アップルパイはパイ皿に「敷く」ため円形になります。また、シュトゥルーデルにはリンゴの水分を吸わせるために「ローストしたパン粉」を入れるのが伝統的です。
生地が違えば、当然、作り方(形状)と中に入れるフィリングの工夫も変わってきます。
形状:「巻く」シュトゥルーデル、「敷く・被せる」パイ
アプフェルシュトゥルーデルは、薄く伸ばした生地の上にフィリングを広げ、生地をくるくると「巻き寿司」のように巻いて作ります。そのため、焼き上がりは細長い「巻物状(ロール状)」になります。
アップルパイは、パイ皿(型)に合わせて生地を「敷き」、その上(または中)にフィリングを詰め、上から生地を「被せる」か「格子状(ラティス)」にして作ります。そのため、形状は円形の「皿型(ホール状)」が基本です。
中身(フィリング):パン粉とレーズンの有無
フィリングも似ているようで、決定的な違いがあります。
アプフェルシュトゥルーデルのフィリングには、リンゴとシナモンに加え、レーズン、そして「バターでローストしたパン粉」が入るのが伝統的です。このパン粉が、調理中にリンゴから出る水分を吸い取り、薄い生地がベチャッとなるのを防ぐ重要な役割を果たしています。ナッツ(クルミやアーモンド)が入ることも多いですね。
一方、アップルパイのフィリングは、リンゴ、砂糖、シナモン、少量のバター、レモン汁(変色防止と酸味付け)が基本です。リンゴの水分を調整するためにコーンスターチや小麦粉を少量加えることはあっても、パン粉やレーズンが入ることは一般的ではありません。
食感と食べ方の違い
アプフェルシュトゥルーデルは温かい状態で、バニラソースや生クリームを添えて食べるのが定番です。一方、アップルパイは温かい状態(アイスクリーム添え=アラモード)でも、冷たい状態でも美味しく食べられます。
提供のされ方にも、それぞれの文化が反映されています。
食感:パリパリ食感 vs サクサク・しっとり食感
アプフェルシュトゥルーデルは、何層にも重なった薄い生地が命。焼きたては「パリパリ」「サクサク」とした非常に軽い食感が楽しめます。
アップルパイは、バターの層による「サクサク」感はもちろんですが、リンゴのフィリングと接している部分は、水分を吸って「しっとり」とした食感になるのも特徴です。この食感の対比も魅力の一つですね。
食べ方:温かいソース添え vs 温冷どちらもOK
アプフェルシュトゥルーデルは、温かい状態で提供されるのが基本です。焼き立て、あるいは提供前に温め直されます。
そして、皿には粉砂糖が振られ、温かいバニラソース(カスタードソース)や、ホイップした生クリーム(シュラークオーバース)がたっぷりと添えられます。このソースとパリパリの生地、甘酸っぱいリンゴの組み合わせが絶品です。
アップルパイも、焼きたてを温かいまま食べることが多いですが、冷やして食べても美味しいのが特徴です。温かいパイに冷たいバニラアイスクリームを添える「アップルパイ・ア・ラ・モード」は、アメリカで非常に人気のある食べ方ですね。
【体験談】ウィーンのカフェとアメリカンダイナーでの記憶
僕にとって、この二つのスイーツは、旅の記憶と強く結びついています。
初めてアプフェルシュトゥルーデルを食べたのは、ウィーンの歴史あるカフェでした。観光客で賑わう店内、クラシック音楽が流れる中、運ばれてきた一皿は、粉砂糖でお化粧され、想像以上にたっぷりのバニラソースの海に浮かんでいました。
「こんなにソースを?」と驚きながら一口食べると、その理由が分かりました。生地は驚くほどパリパリで香ばしく、中のリンゴは酸味がしっかり残っています。この酸味とパリパリ感を、温かく濃厚なバニラソースが優しく包み込むんです。これはソースと一体になって初めて完成するデザートだ、と感動しました。パン粉とレーズンの食感も良いアクセントになっていましたね。
一方、アップルパイの記憶は、アメリカの国道沿いにあるダイナー(大衆食堂)です。チェッカー柄の床、赤いビニール張りのソファ。映画で見たままの光景で注文したアップルパイは、格子状の武骨な見た目で、お皿にドスンと置かれました。
一口食べると、生地は「サクッ」というより「ザクッ」と硬めで、バターの香りが強烈。中のリンゴは砂糖とシナモンで甘くとろとろに煮込まれていました。「おふくろの味」と呼ばれるのが納得できる、素朴で、どこか懐かしい甘さでした。追加で頼んだアイスクリーム(アラモード)が、その甘さを中和してくれて、最高の組み合わせでしたね。
同じリンゴのお菓子でも、アプフェルシュトゥルーデルは「洗練されたカフェの味」、アップルパイは「気取らない家庭の味」という、全く異なる文化を感じた体験でした。
アプフェルシュトゥルーデルとアップルパイに関するよくある質問(FAQ)
アプフェルシュトゥルーデルの生地は家で作れますか?
伝統的なシュトゥルーデル生地を紙のように薄く伸ばすのは、非常に高度な技術が必要で、家庭ではかなり難しいですね。そのため、家庭で作る場合や、一部の店舗では、市販の「パート・フィロ(フィロ生地)」や「春巻きの皮」、「冷凍パイシート」で代用することも多いです。
なぜアプフェルシュトゥルーデルにはパン粉が入っているのですか?
リンゴを加熱すると、かなりの水分(果汁)が出ます。アプフェルシュトゥルーデルの生地は非常に薄いため、その水分を吸ってしまうと、せっかくのパリパリ感が失われ、ベチャッとした仕上がりになってしまいます。バターでローストしたパン粉を入れるのは、この水分を吸わせ、生地の食感を守るための伝統的な知恵なんです。
アップルパイにも種類があるんですか?
はい、あります。フィリングを生地で完全に覆う「ダブルクラスト(またはトップクラスト)」タイプ、上部が格子状になった「ラティス」タイプ、上部の生地がない「シングルクラスト」タイプ(アップルタルトに近いかもしれません)などがあります。また、イギリスにはリンゴと豚肉や羊肉を一緒に焼く、食事としてのパイの伝統もありますよ。
まとめ|気分で選ぶ、二つのアップルスイーツ
アプフェルシュトゥルーデルとアップルパイの違い、これでバッチリですね。
最後に、二つの決定的な違いをもう一度おさらいしましょう。
- アプフェルシュトゥルーデル:オーストリア発祥。紙のように薄い「シュトゥルーデル生地」で、リンゴ、レーズン、パン粉を「巻物状」に焼いたお菓子。パリパリ食感が特徴で、温かいバニラソースなどを添えて食べる。
- アップルパイ:イギリス発祥・アメリカ育ち。バターが層になった「パイ生地」を使い、リンゴを「円形の皿型」で焼いたお菓子。サクサク・しっとり食感が特徴で、温かくても冷たくても美味しい。
「今日はパリパリの軽い生地と甘酸っぱいリンゴ、温かいソースのハーモニーを楽しみたい!」という日は、アプフェルシュトゥルーデル。
「バターの香り豊かなサクサク生地と、とろりと甘いリンゴの満足感を味わいたい!」という日は、アップルパイ(アイス乗せも!)。
どちらもリンゴの魅力を最大限に引き出した、素晴らしいスイーツです。ぜひ、その日の気分で選んで、素敵なデザートタイムをお過ごしください。
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