お菓子作りや化粧品選びで「ココアバター」と「カカオバター」という2つの表記を見て、戸惑った経験はありませんか?
名前が似ているけれど、何か違いがあるのでしょうか。
結論から言うと、ココアバターとカカオバターは基本的に同じものです。日本語での呼び方が違うだけで、どちらもカカオ豆から抽出された脂肪分(油脂)を指します。
この記事を読めば、なぜ呼び方が2つあるのか、その特徴や具体的な使い道、保存方法までスッキリと理解できます。
もうこの2つの言葉の違いに迷うことはありません。それでは、詳しく見ていきましょう。
結論|ココアバターとカカオバターは同じものです
「ココアバター」と「カカオバター」は、基本的に同一の物質を指します。どちらもカカオ豆から圧搾して取り出された脂肪分(油脂)のことです。呼び方の違いは言語的な背景(英語圏の「ココア」と原料由来の「カカオ」)によるもので、成分や用途に違いはありません。
まず、最も重要な結論からお伝えしますね。
「ココアバター(Cocoa Butter)」と「カカオバター(Cacao Butter)」は、基本的に全く同じものです。
どちらも、チョコレートやココアの原料である「カカオ豆」に含まれる脂肪分(油脂)を指しています。
この2つの言葉の違いを理解するために、まずは「ココア」と「カカオ」という言葉自体の違いから見ていくと分かりやすいでしょう。
ココアバターとカカオバターの定義と原材料
ココアバター(カカオバター)は、カカオ豆を発酵・乾燥・焙煎し、すり潰してペースト状にした「カカオマス」を圧搾(プレス)することで分離されます。この時に残った固形分が「ココアパウダー」の原料となり、抽出された脂肪分が「ココアバター」となります。
2つの呼び名を持つカカオ豆の脂肪分
チョコレートの製造工程を想像していただくと分かりやすいかもしれません。
まず、カカオ豆を発酵・乾燥させ、焙煎(ロースト)します。これをすり潰すと、ペースト状の「カカオマス」になりますよね。
このカカオマスには、脂肪分(カカオ分)が約55%含まれています。
このカカオマスを強力な圧搾機(プレス)で圧力をかけて搾ると、液体(脂肪分)と固形分に分離されます。
この時、液体として抽出された脂肪分こそが「ココアバター」であり、「カカオバター」なのです。
ちなみに、この時に残った固形の搾りかすを粉末にしたものが、私たちが飲み物などで親しんでいる「ココアパウダー(ココアの粉末)」となります。
「ココア」と「カカオ」呼び方の違いはなぜ?
では、なぜ「ココア」と「カカオ」という2つの呼び方が存在するのでしょうか。
これには諸説ありますが、最も有力なのは言語的な背景です。
もともとカカオ豆の原産地である中南米では、学術名(Theobroma Cacao)にもあるように「カカオ(Cacao)」と呼ばれていました。
しかし、これがヨーロッパ、特に英語圏に伝わる過程で「カカオ(Cacao)」が「ココア(Cocoa)」と呼ばれるようになったと言われています。一説には、”Cacao” のスペルを “Cocoa” と読み間違えた、あるいは発音しやすく変化した結果ともされます。
日本では、この両方の呼び方が定着しました。
一般的に、カカオ豆やカカオマスなど、原料に近い状態のものを「カカオ」と呼び、ココアパウダーや飲み物のココアなど、加工が進んだ製品を「ココア」と呼ぶ傾向にあります。
ココアバター(カカオバター)は、この中間的な存在であるため、どちらの呼び方も広く使われている、というわけですね。
ただし、最近では健康志向の高まりから、カカオ豆が持つ本来の栄養素をアピールするために、あえて「カカオ」という呼称を好むメーカーも増えています。
特に、高温で焙煎しない「ローフード」の文脈では、非加熱処理のものを「ローカカオバター」と呼び、「ココアバター」と区別して販売するケースもありますが、日本の食品表示基準上では両者に明確な定義の違いはありません。
ココアバターとカカオバターの成分と特徴
ココアバター(カカオバター)の最大の特徴は、常温では固形でありながら、人間の体温に近い約30〜35℃で急速に溶け始めることです。この融点の低さこそが、チョコレートの滑らかな「口溶け」を生み出す秘密です。
常温で固形、体温で溶ける「融点」の秘密
ココアバター(カカオバター)は、淡いクリーム色をした固形の油脂です。見た目はバターやラードに似ているかもしれません。
そして、最大の特徴は、その「融点(溶け始める温度)」にあります。
ココアバターは、常温(25℃程度)ではしっかりと固まっていますが、人間の体温に近い約30〜35℃の範囲で急速に溶け始めます。
これが、私たちがチョコレートを口に入れた瞬間に、スッと溶けて滑らかな食感(口溶け)を感じる理由です。他の多くの植物性油脂には見られない、非常にシャープな融点を持っているんですね。
また、チョコレート特有の、あの甘く豊かな香りの元でもあります。
主な成分(脂肪酸)と栄養
ココアバター(カカオバター)の主成分は、もちろん脂肪酸です。主な内訳は以下のようになっています。
- オレイン酸:約30〜35%(オリーブオイルにも多い不飽和脂肪酸)
- ステアリン酸:約30〜35%(飽和脂肪酸)
- パルミチン酸:約25〜30%(飽和脂肪酸)
飽和脂肪酸の割合が比較的高いため常温で固形を保ちやすいのですが、ステアリン酸は体内でオレイン酸に変換されやすい性質を持つとも言われています。
また、カカオ豆由来のポリフェノール(カカオポリフェノール)も微量ながら含まれています。
ココアバターとカカオバターの主な用途・使い道の違い
用途に違いはありません。最も代表的な使い道は、ホワイトチョコレートの主原料です。また、チョコレートの風味や口溶けを調整するために追加されたり、高級な焼き菓子の材料としても使われます。食品以外では、保湿効果の高さから化粧品(リップクリームなど)や、体温で溶ける性質から医薬品(座薬)の基剤としても利用されます。
ココアバターとカカオバターは同じものですから、もちろん用途や使い道に違いはありません。非常に幅広く利用されています。
用途1:チョコレート(特にホワイトチョコ)の主原料
最も代表的な使い道は、ホワイトチョコレートの主原料です。
ホワイトチョコレートがあのように白いのは、カカオマス(茶色の固形成分)やココアパウダーを含まず、ココアバター(脂肪分)、砂糖、乳製品(粉乳など)を主原料にして作られているためです。
また、ミルクチョコレートやビターチョコレートにも、口溶けを滑らかにしたり、流動性を高めて型に流し込みやすくしたりするために、追加でココアバターが加えられることが一般的です。
用途2:製菓・製パン材料として
チョコレート以外のお菓子作り(製菓)やパン作りにも使われます。
例えば、焼き菓子に加えると、チョコレートの豊かな風味としっとりとした食感を与えることができます。また、ムースやクリームのコク出しにも使われますね。
用途3:化粧品や医薬品(保湿剤・基剤)として
ココアバター(カカオバター)は、食品としてだけでなく、その優れた保湿効果から化粧品の原料としても非常に人気があります。
特にリップクリーム、ハンドクリーム、ボディバター(保湿クリーム)などに配合され、肌を乾燥から守り、滑らかにする効果が期待されます。
さらに、医薬品の分野でも重要な役割を果たしています。体温で正確に溶けるという性質を利用して、座薬(坐剤)の「基剤」(薬の有効成分を保持し、体内で溶けて放出させる土台)として古くから利用されているんです。
価格・保存方法・入手方法の違い
呼び方による価格差はほぼありません。製菓材料店やオンラインショップで「製菓用」として販売されています。油脂であるため酸化しやすく、光や高温、湿気を嫌います。密閉して冷暗所(冷蔵庫推奨)で保存する必要があります。
「ココアバター」と「カカオバター」、どちらの名称で販売されていても、価格に大きな差はありません。
ただし、注意点があります。
一般的なスーパーマーケットの店頭で見かけることは稀で、主に製菓材料の専門店や、オンラインショップ(Amazon、楽天市場、富澤商店、cottaなど)で「製菓用」として取り扱われています。形状は、扱いやすいように細かく刻まれたものや、ブロック状のものなど様々です。
保存方法については、ココアバターは油脂であり、光・高温・湿気・匂いを吸着しやすい性質があります。
品質を保つためには、密閉容器に入れ、冷蔵庫などの冷暗所で保存するのが最適です。常温保存は、特に夏場は溶けてしまう可能性が高いため避けましょう。
体験談|ホワイトチョコレート作りに挑戦した日の記憶
僕も以前、バレンタインデーのお返しに、手作りのホワイトチョコレートに挑戦しようと製菓材料店に行ったことがあります。
その時、棚に「カカオバター」と書かれた袋と、「ココアバター(製菓用)」と書かれた袋が並んでいて、頭が「?」でいっぱいになりました。
「え、どっちが正解なんだ…?ホワイトチョコだから白い方…?でもどっちも白い(クリーム色だ)…」
結局、その場でお店のスタッフの方に尋ねて、「どちらも同じもので、メーカーさんの呼び方の違いですよ」と教えてもらい、胸をなでおろした記憶があります。
実際に湯煎で溶かしてみると、本当に甘くて良い香りがキッチンに広がりました。ただ、ココアバター(カカオバター)は非常に繊細で、温度管理(テンパリング)が難しく、粉乳や砂糖と混ぜ合わせる工程で少しでも水分が入ると、すぐにボソボソに固まってしまうんです。
結局、その時は滑らかなホワイトチョコレートにはならず、少し食感の悪い「チョコ風の塊」ができてしまいました。
この経験から、プロのショコラティエが作るチョコレートの、あの完璧な口溶けは、この繊細なココアバターの性質を熟知した技術の賜物なのだと痛感しましたね。
ココアバターとカカオバターに関するよくある質問
ココアバターとカカオバターは、本当に全く同じものですか?
はい、食品の原材料としては、基本的に同一の「カカオ豆の脂肪分」を指します。どちらの表記を使っても間違いではありません。
なぜ「ココア」と「カカオ」で呼び方が分かれているのですか?
言語的な由来の違いが大きいです。「カカオ(Cacao)」が原料に近い学術的な呼び名であるのに対し、「ココア(Cocoa)」は英語圏で一般化した際に広まった呼び名とされています。日本では両方の言葉が使われています。
ホワイトチョコレートの原料は何ですか?
ホワイトチョコレートの主な原料は、ココアバター(カカオバター)、砂糖、乳製品(粉乳など)です。カカオマスやココアパウダーが入らないため、あの独特の白い色とミルキーな風味になります。
ココアバターは体に悪いですか?
ココアバターは脂肪分(油脂)ですので、もちろん摂り過ぎは肥満の原因になります。ですが、主成分の一つであるステアリン酸は体内でオレイン酸に変換されやすいとも言われ、適度な摂取であれば、他の油脂と同様にエネルギー源となります。何事もバランスが大切ですね。
まとめ|「ココアバター」と「カカオバター」違いの結論
「ココアバター」と「カカオバター」の違い、スッキリしましたでしょうか。
結論は「呼び方が違うだけで、中身は同じカカオ豆の油脂」ということでした。
お菓子作りで材料を選ぶ際も、化粧品で成分表を見る際も、どちらの名前が出てきても「ああ、あのチョコレートの香りがする脂肪分のことだな」と迷わず判断できるはずです。
私たちの生活に豊かな風味や潤いを与えてくれるカカオバター。その背景にある「ココア」と「カカオ」の言葉の違いを知ることも、また一つの面白い食文化の発見ですよね。
食の世界には、このように似ているようで奥が深いテーマがたくさんあります。その他の調理法・食文化の違いについても、ぜひご覧になってみてください。