市田柿と干し柿の違いとは?GI認証ブランドと伝統の製法を解説

冬の訪れと共に店頭に並ぶ、あめ色の美しい「干し柿」。そして、その中でもひときわ目を引く、白い粉をまとった小ぶりな「市田柿」。

どちらも日本の伝統的なドライフルーツですが、この二つの違いを正確にご存知でしょうか。

実は、「干し柿」は柿を乾燥させた食品全体の「総称」であり、「市田柿」はその干し柿の一種で、特定の地域・品種・製法で作られた「ブランド名」なのです。

この記事では、市田柿と干し柿の基本的な違いから、なぜ市田柿が特別な存在なのか、その製法、歴史、そしてGI認証の意味まで詳しく解説します。

読み終わる頃には、贈答品に市田柿が選ばれる理由も、白い粉の正体もスッキリ理解できるはずです。

「市田柿」と「干し柿」の違いが一目でわかる比較表

【要点】
「干し柿」は柿を乾燥させた食品の総称です。対して「市田柿」は、長野県飯田市周辺で「市田柿」という固有の品種を使用し、特定の製法(柿もみなど)で作られた干し柿の地域ブランド名であり、農林水産省の地理的表示(GI)保護制度にも登録されています。

まずは、両者の核心的な違いを一覧表で比較してみましょう。

項目 市田柿 干し柿(一般的なもの)
分類 特定の商品名・ブランド名 食品の一般名称
主な産地 長野県 飯田市・下伊那郡など(GI登録地域) 全国各地(山梨県、和歌山県、福島県など)
主な原料柿 市田柿(渋柿の品種名) 平核無柿、甲州百目、蜂屋柿など様々
見た目の特徴 小ぶり。きめ細かく白い粉(ブドウ糖)に覆われる。 形状や色は様々。あんぽ柿のように水分が多いものもある。
食感 もっちり、しっとり ねっとり、しっとり、ドライなど様々
上品な甘さ、凝縮された風味 品種や製法により甘さや風味が異なる
GI認証 あり(登録番号第9号) なし(産品による)

簡単に言えば、「干し柿」というカテゴリの中に、「市田柿」という高級ブランドが存在する、という関係性ですね。

「市田柿」と「干し柿」とは?まずは定義を解説

【要点】
「干し柿」は、柿の皮をむき乾燥させた食品の総称です。一方、「市田柿」は、長野県南部の特定地域で「市田柿」という品種の渋柿を原料として作られる干し柿のことで、GI認証を受けたブランド産品を指します。

干し柿(ほしがき):柿を乾燥させた食品の「総称」

「干し柿」とは、柿(主に渋柿)の皮をむき、天日や機械などで乾燥させて水分を蒸発させ、保存性を高めると同時に甘みを凝縮させた食品の総称です。

日本全国で作られており、使用する柿の品種や乾燥の度合いによって、さまざまな種類があります。

例えば、水分を多く残した半生タイプのものは「あんぽ柿」(主に福島県産)、しっかりと乾燥させたものは「枯露柿(ころがき)」(主に山梨県産)などと呼ばれ、これらもすべて「干し柿」の一種です。

市田柿(いちだがき):特定の地域・製法で作られる「ブランド名(GI産品)」

「市田柿」は、単なる干し柿の品種名ではありません。長野県飯田市および下伊那郡の特定地域で栽培される渋柿の品種「市田柿」を用い、伝統的な製法に基づいて作られた干し柿のことを指すブランド名です。

2016年(平成28年)には、その品質と伝統が認められ、農林水産省の「地理的表示(GI)保護制度」に登録されました(登録番号第9号)。

これにより、「市田柿」という名称は国の基準を満たした製品のみが使用できる、保護されたブランドとなったのです。

製法・見た目・食感の決定的な違い

【要点】
一般的な干し柿は「吊るし干し」が基本ですが、「市田柿」は乾燥途中で「柿もみ」という手作業を加えます。この工程が、水分を均一にし、きめ細かい「白い粉(ブドウ糖)」を浮き出させ、独特の「もっちり」とした食感を生み出します。

干し柿(一般的):吊るして乾燥させる

一般的な干し柿の多くは、皮をむいた柿を縄やヘタに付けた軸で連結し、軒先などに吊るして乾燥させる「吊るし干し」で作られます。

天日乾燥が伝統的ですが、現在は品質を安定させるために機械乾燥(乾燥機)を併用することも多いです。水分量や食感は、その地域の気候や、あんぽ柿・枯露柿といった種類によって様々です。

市田柿:独自の「柿もみ」製法と「白い粉」

市田柿の製法は非常に特徴的です。

皮をむいた柿は、まず「柿すだれ」と呼ばれる専用の器具に吊るされ、約1ヶ月間かけてじっくりと乾燥されます。

最大の特徴は、乾燥工程の途中(乾燥6~7割程度)で行われる「柿もみ」という作業です。熟練の技術者が一つ一つの柿を手でもみ、水分を均一にしながら形を整えます。この「柿もみ」を複数回繰り返すことで、果肉が柔らかく、もっちりとした食感に仕上がります。

さらに、乾燥と熟成が進むと、柿内部の糖分(ブドウ糖)が結晶化して表面に白い粉として現れます。このきめ細かく上品な白い粉こそが、市田柿の品質の証です。

味・糖度・栄養の違い

【要点】
市田柿は糖度が65~70%にも達しますが、味わいは「上品な甘さ」と表現されます。表面の白い粉はブドウ糖の結晶で、自然な甘みの証です。干し柿全般として、食物繊維やビタミンA(β-カロテン)が豊富に含まれます。

市田柿の「上品な甘さ」と「もっちり感」

市田柿は非常に糖度が高く、JAみなみ信州によると65~70%にも達するとされています。これはメープルシロップに匹敵するほどの甘さです。

しかし、その味わいは砂糖のような直接的な甘さではなく、凝縮された果実の「上品な甘さ」と表現されます。また、「柿もみ」によって生まれる独特の「もっちり」とした食感と、羊羹(ようかん)にも似た風味が特徴です。

干し柿全般に含まれる栄養素

干し柿は、水分が抜けることで栄養素が凝縮されます。特に豊富なのが以下の栄養素です。

  • 食物繊維:便通の改善に役立ちます。
  • カリウム:体内の余分な塩分を排出するのを助けます。
  • ビタミンA(β-カロテン):生の柿よりも含有量が増え、皮膚や粘膜の健康維持に役立ちます。
  • タンニン:渋みの成分ですが、乾燥過程で不溶化し渋みが抜けます。

ただし、糖度が高くカロリーも高いため、食べ過ぎには注意が必要ですね。

歴史とGI認証の違い

【要点】
干し柿の歴史は非常に古いですが、「市田柿」というブランドは、大正時代に長野県飯田市の「市田村」で本格的な生産が始まったことに由来します。2016年にはその歴史と品質が認められ、GI認証産品となりました。

干し柿:日本古来の保存食

干し柿は、日本において非常に古い歴史を持つ保存食です。一説には奈良時代にはすでに存在していたとも言われています。甘味料が貴重だった時代、柿の渋みを抜き、甘さを凝縮させる干し柿は、冬の間の重要な糖分補給源でした。

市田柿:大正時代に始まる長野県飯田市の特産品

「市田柿」の歴史は、約500年前に飯田市市田地区で栽培が始まったとされる「市田柿(品種名)」が原点です。

本格的な干し柿としての生産が軌道に乗ったのは、1921年(大正10年)頃とされています。当時、この地域が「市田村」であったことから、この干し柿は「市田柿」と呼ばれるようになりました。

そして2016年、農林水産省は「市田柿」を地理的表示(GI)保護制度の対象として登録しました。これは、地域の伝統的な生産方法や気候・風土と結びついた、高い品質を持つ産品の名称を知的財産として保護する制度です。「夕張メロン」や「神戸ビーフ」などと同じですね。

GIマークが付いた「市田柿」は、厳しい基準をクリアした本物の証と言えます。

【体験談】「市田柿」の白い粉に驚いた日

僕が子供の頃、冬になると祖母が時折、木の箱に入った干し柿を送ってくれました。

ある年、届いた干し柿はいつも見ているオレンジ色のものとは違い、全体が真っ白な粉に覆われていました。当時の僕は「え、これってカビじゃないの?古いのが届いたのかな?」と勘違いしてしまったんです。

母にそう言うと、「これは『市田柿』っていう特別な干し柿で、この白いのはお砂糖の粉だから大丈夫よ」と笑われました。

恐る恐る一口食べてみると、びっくり。僕が知っている干し柿の「グニュッ」とした食感とは全く違う、「もっちり」とした上品な歯ごたえ。そして、口の中に広がるのは、砂糖の甘さではなく、柿そのものが凝縮されたような深くて上品な甘みでした。

あの白い粉が、柿自身の糖分(ブドウ糖)が結晶化したもので、品質の証だと知ったのは随分後になってからです。

それ以来、市田柿は僕にとって「特別な日の干し柿」になりました。あの独特のもっちり感と上品な甘さは、他の干し柿ではなかなか味わえない、まさにブランド品ならではの体験だと感じています。

「市田柿」と「干し柿」に関するよくある質問

市田柿と干し柿に関して、特によく寄せられる質問をまとめました。

Q1. 市田柿についている「白い粉」はカビですか?

A. いいえ、カビではありません。
これは、柿の内部の糖分(主にブドウ糖)が乾燥・熟成の過程で結晶化し、表面に浮き出てきたものです。「柿霜(しそう)」とも呼ばれ、きめ細かく均一に粉がふいているものほど、品質が高いとされています。

Q2. 「あんぽ柿」と「市田柿」の違いは何ですか?

A. 最も大きな違いは「水分量」と「製法」です。
「あんぽ柿」は硫黄燻蒸(くんじょう)という工程を経て作られることが多く、水分量が50%程度と非常に多い「半生」の干し柿です。食感はトロリとしています。一方、「市田柿」は水分量が25~30%程度まで乾燥させ、柿もみを行うため、もっちりとした食感になります。

Q3. 市田柿の美味しい食べ方と保存方法は?

A. まずはそのままお茶請けとして、その上品な甘さともっちり感を楽しんでいただくのが一番です。また、クリームチーズやバターと合わせたり、刻んでサラダやなますに入れるのもおすすめです。
保存は高温多湿を避け、冷暗所(または冷蔵庫)で行います。表面の粉が溶けてベタついてしまうためです。長期保存したい場合は、ラップで包んでから冷凍保存も可能です。

まとめ:「市田柿」は干し柿の中でも特別な存在

「市田柿」と「干し柿」の違い、明確にご理解いただけたでしょうか。

  • 干し柿:柿を乾燥させた食品の「総称」。あんぽ柿や枯露柿など様々な種類がある。
  • 市田柿:長野県飯田市周辺で、特定の品種・製法(柿もみ等)で作られる「GI認証ブランド」。白い粉ともっちり感が特徴。

つまり、すべての市田柿は干し柿ですが、すべての干し柿が市田柿ではありません。市田柿は、数ある干し柿の中でも、厳しい基準と伝統的な手仕事によって守られた、特別な存在なのです。

ご家庭で気軽に楽しむなら一般的な干し柿を、大切な方への冬の贈り物や、特別なひとときのお供には、その歴史と品質が保証された「市田柿」を選んでみてはいかがでしょうか。

農林水産省の地理的表示(GI)保護制度については、こちらのページも参考にしてみてください。

他にも、「スイーツ・お菓子」に関する違いの記事を多数掲載しています。ぜひご覧ください。