トマト料理、特にパスタやスープを作るとき、棚に並ぶ「パッサータ」と「トマト缶」。
どちらも同じトマト加工品ですが、何が違うのか迷ったことはありませんか?
この二つの決定的な違いは、「トマト缶」がトマトの「固形(果肉)」がそのまま入った水煮であるのに対し、「パッサータ」はトマトを「裏ごし」して種や皮を取り除いた、滑らかな液状(ピューレ状)である点。
つまり、ミキサーや裏ごし器を使わずに滑らかなソースを作りたいなら「パッサータ」、果肉のゴロゴロ感や煮崩れた食感を楽しみたいなら「トマト缶」が正解です。
この記事を読めば、それぞれの製法や味の違い、そして料理ごとの最適な使い分けがスッキリ理解できますよ。
結論|「パッサータ」と「トマト缶」の最も重要な違い
「パッサータ」と「トマト缶」の最大の違いは、製法と形状です。「トマト缶」(ホール/カット)は、湯むきしたトマトの「果肉」がゴロっと入った水煮(素材)です。一方、「パッサータ」は、トマトを丸ごと「裏ごし」して種や皮を取り除いた、滑らかな液体状(ピューレ状)のものです。パッサータは、裏ごしする手間が不要なため、滑らかなソースやスープの「時短」に最適です。
どちらも基本的には「味付けされていない」トマト100%の製品ですが、その形状が料理の仕上がりを大きく左右します。
まずは、両者の特徴を一覧表で比較してみましょう。
| 項目 | パッサータ | トマト缶(ホール・カット) |
|---|---|---|
| 状態・製法 | トマトを裏ごししたもの(種・皮なし) | トマトを水煮にしたもの(種あり・皮なし) |
| 形状 | 滑らかな液体(ピューレ状) | 固形(果肉)+トマトジュース |
| 食感 | 均一で滑らか | 果肉のゴロゴロ感、繊維感 |
| 主な用途 | 滑らかなソース、スープ、ピザソース | 煮込み料理、果肉感を残すソース |
| 調理の手間 | 裏ごし不要(時短) | 必要に応じて潰す・刻む・裏ごしする |
| 別名 | トマトピューレ(濃度により近いものもある) | トマトの水煮、ホールトマト、カットトマト |
「パッサータ」と「トマト缶」の定義・製法の違い
「トマト缶」は、湯むきしたトマトの果肉を、トマトジュースやピューレと共に缶に詰めて加熱殺菌した「水煮」です。一方、「パッサータ」はイタリア語で「濾(こ)したもの」を意味し、生または加熱したトマトを裏ごし機(パッサベルドゥーラ)に通し、種と皮を取り除いた滑らかな液体を指します。
「パッサータ」とは?(裏ごしされた滑らかな液体)
「パッサータ(Passata)」はイタリア語で、「Passare(通り過ぎる、濾す)」という動詞に由来し、「濾(こ)したもの」という意味を持ちます。
その名の通り、生トマト、あるいは軽く湯通ししたトマトを丸ごと「裏ごし」し、種と皮を完全に取り除いたものです。製品によっては加熱殺菌されていますが、トマト缶の水煮に比べると加熱時間が短いものが多く、フレッシュな風味が残りやすいのが特徴です。
トマトジュースよりも濃く、トマトピューレ(JAS規格ではパッサータをさらに煮詰めて濃縮したもの)よりはサラッとした、均一で滑らかな液体状をしています。
「トマト缶」(ホール・カット)とは?(固形物が残る水煮)
一般的に「トマト缶」と呼ばれるものは、イタリア料理などで使われる「トマトの水煮缶」を指します。
収穫したトマトを洗い、皮を湯むきし、それを「丸ごと(Whole)」または「角切り(Cut / Dice)」にして、トマトジュースやトマトピューレと一緒に缶に詰めて高温で加熱殺菌したものです。
最大の特徴は「果肉(固形物)」がそのまま残っている点です。種は取り除かれていないため、調理の過程で潰したり、滑らかにしたい場合はミキサーにかけたりする必要があります。
決定的な違い:「濾す(こす)」工程の有無
つまり、両者の製造工程における決定的な違いは「裏ごし」の工程があるかどうかです。
- トマト缶:果肉 + 種 + トマトジュース = 固形物
- パッサータ:果肉 + トマトジュース(を丸ごと裏ごし) = 滑らかな液体
パッサータは、トマト缶を使ってミキサーにかけ、さらにザルで濾す、という手間のかかる作業を、すでに済ませてくれている便利な食材なんですね。
味・食感・濃度の違い(滑らかさ vs 固形感)
「パッサータ」は非常に滑らかで均一なテクスチャーを持ち、トマト本来のピュアな酸味と甘みが特徴です。一方、「トマト缶」は、ホールなら柔らかく煮崩れやすい食感、カットならゴロゴロとした果肉感が楽しめます。味は加熱殺菌による水煮特有の風味と酸味があります。
パッサータの味と濃度
味・香り:種や皮が取り除かれているため、雑味がなく、トマト本来のフレッシュな酸味と甘み、香りがストレートに感じられます。加熱時間が短い製品が多いため、生のトマトに近いピュアな風味が特徴です。
食感・濃度:非常に滑らかで、均一なテクスチャーです。スープやパスタソースにした時に、ザラつきが一切ありません。濃度は製品によって様々ですが、一般的にトマトジュースよりは濃く、ドロっとしています。
トマト缶(ホール・カット)の味と食感
味・香り:缶詰にする際の加熱殺菌(水煮)を経ているため、パッサータに比べるとフレッシュ感はやや劣り、加熱されたトマト特有の風味と酸味が感じられます。種も含まれるため、わずかな青臭さや苦みを感じることもあります。
食感・濃度:最大の特徴である「果肉感」があります。
- ホールトマト:完熟トマトが使われることが多く、果肉が柔らかいため、木ベラなどで簡単に潰れます。煮込むと自然に溶け込み、ソースに適度なコクととろみを与えます。
- カットトマト:形が崩れにくいトマトが使われることが多く、煮込んでもゴロゴロとした果肉感が残りやすいのが特徴です。
料理での使い分け・相性の違い
「パッサータ」は、裏ごしの手間が不要なため、滑らかなパスタソースやスープを「時短」したい時に最適です。一方、「トマト缶」は、果肉感を活かしたい場合や、じっくり煮込んでトマトの旨味を引き出したい料理(煮込み、ミートソース、ラタトゥイユ)に最も適しています。
この違いを理解すれば、作りたい料理に最適なトマト製品を選ぶことができますよ。
「パッサータ」が適した料理(時短・滑らかな仕上がり)
パッサータは「すでに裏ごしされている滑らかな液体」である利点を最大限に活かします。
- 滑らかなパスタソース:シンプルなトマトソース(ポモドーロ)など、果肉のゴロゴロ感が不要なソースに最適です。ニンニクとオイルで加熱するだけですぐにベースが完成します。
- トマトスープ:ミキサーにかける手間なく、ビロードのような滑らかなスープが作れます。
- ピザソース:そのまま生地に塗るソースとして。
- 時短:ミートソースや煮込み料理でも、トマト缶を潰したり濾したりする時間を短縮したい場合に便利です。
「トマト缶」が適した料理(煮込み・果肉感)
トマト缶は「果肉感」と「煮込みによるコク」を活かします。
- 煮込み料理全般:ラタトゥイユ、カポナータ、ミネストローネ、ビーフシチュー、鶏肉のトマト煮込みなど。ホールトマト缶を使い、潰しながらじっくり煮込むことで、トマトが溶け込み、ソース全体に深いコクと旨味が出ます。
- 果肉感を残したいパスタ:アラビアータやアマトリチャーナ、ミートソース(ボロネーゼ)などで、トマトの存在感を残したい場合にカットトマト缶が向いています。
価格・入手性・保存性の違い
価格は、一般的に「トマト缶」(特に缶製品)の方が安価で、どこのスーパーでも手に入ります。「パッサータ」は主にイタリアからの輸入品で、瓶詰が多く、トマト缶よりやや高価で、取り扱い店も限られる傾向があります。保存性はどちらも未開封なら常温で長期可能です。
価格・入手性:
「トマト缶」(ホール/カット)は、世界中で大量生産されており、非常に安価です。1缶100円前後で購入できることも多く、ほとんどのスーパーで手に入ります。
「パッサータ」は、イタリアからの輸入品が主流で、紙パックや瓶詰(特に700g前後の大型瓶)で販売されていることが多いです。価格はトマト缶よりやや高価な傾向があり、取り扱っているのは大型スーパーや輸入食材店、オンラインショップが中心となります。
保存性:
どちらも加熱殺菌・密閉されているため、未開封であれば常温で長期間の保存が可能です。
開封後は注意が必要です。トマトは酸性が強いため、開封後に缶のまま保存すると金属が溶け出す可能性があります。トマト缶は開封したら、必ずガラス容器やプラスチックの密閉容器に移し替えましょう。パッサータ(瓶詰)も、開封後はカビやすいため、必ず冷蔵庫で保存し、2〜3日以内に使い切るのが原則です。使い切れない分は、冷凍保存するのが最もおすすめです。
文化的背景(イタリア家庭の保存食「パッサータ」)
「パッサータ」は、イタリアの家庭で夏に収穫された大量のトマトを、冬の間も使えるように加工する伝統的な保存食(まさに「調理法・食文化」)です。「マンマ(お母さん)の味」の基本であり、各家庭で手作りのパッサータを瓶詰めにします。トマト缶は、この文化が工業化されたものとも言えます。
イタリア、特に南部の家庭では、夏になると収穫された完熟トマトを使って、家族総出で1年分の「パッサータ」を作る伝統的な習慣があります。
大量のトマトを洗い、湯むきし、「パッサベルドゥーラ」と呼ばれる専用の裏ごし機(手動または電動)に通して、種と皮を取り除きます。この滑らかなトマト液を大きな瓶に詰め、煮沸消毒して保存食にするのです。
この自家製パッサータが、その家のパスタやスープの味の基本となります。まさにイタリアの「マンマの味」の原点ですね。
「トマト缶」や市販の「パッサータ」は、このイタリアの伝統的な家庭の仕事を、工場が代行してくれている、便利な加工品と言えるでしょう。
体験談|パッサータでスープを作って感動した「滑らかさ」
僕はトマトスープが好きなのですが、以前はいつもホールトマト缶で作っていました。
ホールトマト缶を玉ねぎと炒め、水とコンソメを加えて煮込み、最後にミキサーにかけて滑らかにするのですが、どうしても種や繊維のザラつきが残るのが悩みでした。さらに滑らかにしようとザルで濾(こ)すと、今度は量が半分くらいになってしまい、時間も手間もかかります。
そんな時、輸入食材店で瓶詰の「パッサータ」を見つけました。「裏ごし済み」という言葉に惹かれて使ってみたんです。
作り方は驚くほど簡単でした。炒めた玉ねぎにパッサータを注ぎ、コンソメと水(または牛乳)を加えて温めるだけ。ミキサーも裏ごし器も不要です。
そして完成したスープを一口飲んで、本当に感動しました。ザラつきが一切ない、ビロードのような滑らかな舌触り。トマトの酸味もフレッシュで、まるで高級レストランで出てくるようなポタージュに仕上がったんです。
「あの面倒な『濾す』作業から解放されるだけで、こんなに味が変わるのか!」と。
もちろん、果肉感を出したい煮込みにはトマト缶が最適ですが、こと「滑らかなスープ」に関しては、もうパッサータなしでは考えられない、と思うほどの体験でしたね。
「パッサータ」と「トマト缶」に関するよくある質問
「パッサータ」と「トマト缶」の違いについて、よくある疑問にお答えします。
「パッサータ」と「トマトピューレ」の違いは何ですか?
「濃度」が違います。どちらもトマトを裏ごししたものですが、JAS(日本農林規格)などでは、トマトの固形分濃度によって分類されています。「パッサータ」は比較的濃度が低い(サラッとしている)ものを指し、「トマトピューレ」はパッサータをさらに煮詰めて濃縮し、濃度を高めた(よりドロッとした)ものを指すのが一般的です。ただし、イタリア製品では濃いパッサータ(ピューレに近いもの)もあるため、製品の表示を確認するのが確実ですね。
「パッサータ」と「トマトジュース」の違いは?
「濃度」と「用途」が違います。トマトジュースはそのまま「飲む」ためのもので、塩や香辛料が加えられていることが多く、濃度もサラサラです。パッサータは「調理用」で、味付けされておらず、ジュースよりもはるかに濃縮されています。
トマト缶(ホール)でパッサータの代用はできますか?
代用できますが、非常に手間がかかります。トマト缶(ホールまたはカット)をミキサーにかけ、滑らかにした後、さらに目の細かいザルや裏ごし器で「種と皮」を完全に取り除く必要があります。この作業を省くと、パッサータ特有の滑らかな食感は出ません。
まとめ|滑らかさなら「パッサータ」、果肉感なら「トマト缶」
「パッサータ」と「トマト缶」、その違いは「裏ごしされて滑らかな液体か」「果肉がゴロゴロ残った固形か」という点にありました。
どちらもイタリア料理に欠かせない素晴らしい食材ですが、作りたい料理によって使い分けるのが正解です。
- 滑らかなスープやソースを「時短」で作りたい時
→ パッサータ(裏ごし済み) - ミートソースや煮込み料理で、トマトの「果肉感」を活かしたい時
→ トマト缶(ホール or カット)
この使い分けをマスターすれば、あなたのトマト料理は格段に本格的になるはずですよ。
調理法や食文化に関するさらに詳しい違いは、「調理法・食文化」カテゴリの記事一覧も参考にしてみてください。