千六本切りと千切りの違い!「つま」はどっち?プロの技を解説

料理本やレシピで「千六本切り」と「千切り」、どちらの言葉を使えばいいか迷ったことはありませんか?

どちらも食材を細く切る技法ですが、実はこの2つには明確な違いがあります。

結論から言うと、「千切り」は野菜などを細く切る技法の「総称」であり、「千六本切り」はその中でも特に細く、均一に切る「専門的な技法」を指します。

よくお刺身に添えられている、大根の繊細な「つま」。あれこそが「千六本切り」の代表例ですね。

この記事を読めば、それぞれの定義、求められる太さの目安、そして料理における正しい使い分けまでスッキリ理解できます。この違いを知るだけで、あなたの料理も一段とプロの仕上がりに近づくでしょう。

それでは、まず2つの定義の違いから詳しく見ていきましょう。

結論|千六本切りと千切りの違いを一言で

【要点】

「千切り」は、野菜を細長く切る調理法の「総称」です。太さの定義は曖昧で、キャベツの千切りからきんぴらごぼうの太めのものまで幅広く含みます。
一方、「千六本切り」は千切りの一種であり、特に細く(約1〜2mm角)、均一な長さに揃えて切る、より専門的で繊細な技法を指します。刺身の「つま(剣)」を作る際の切り方が代表例です。

最も重要なポイントは、千六本切りは千切りという大きなカテゴリの中の一つである、ということです。

「千切り」は、食材を細く切ること全般を指す便利な言葉です。対して「千六本切り」は、和食の料理人(板前)が使うような、寸法や均一性にこだわったプロの技術を指すことが多いですね。

日常の料理で「人参を千切りにして」と言えば伝わりますが、「人参を千六本切りにして」と言うと、かなりの細さを求められていることがわかります。

千六本切りと千切りの「定義」と「技法」の違い

【要点】

「千切り」はキャベツのように、太さや長さに厳密な定義がなく「細ければ良い」とされることが多いです。対して「千六本切り」は、和食のプロが使う技法で、食材を「桂剥き(かつらむき)」などで薄くスライスしてから、それを重ねて極めて細く(千本のように多く)切る高い技術と均一性が求められます。

千切りとは?

「千切り」は、その名の通り「千本のように細く切る」という意味合いを持つ、日本料理における基本的な切り方の一つです。

キャベツ、大根、人参、きゅうり、生姜、ピーマンなど、多くの野菜に使われます。

千切りの最大の特徴は、その「汎用性」です。太さや長さには厳密な定義がありません。

例えば、とんかつに添えるキャベツの千切りは幅1mm程度かもしれませんが、きんぴらごぼうにする際の千切りは3〜5mm角と太めですよね。これら両方とも「千切り」と呼ばれます。

千六本切りとは?

「千六本切り(せんろっぽんぎり)」、または単に「千六本(せんろくほん)」とも呼ばれます。

これは千切りの一種ですが、和食のプロの世界で使われる、より専門的で繊細な技法を指します。

千六本切りに求められるのは、「極細であること」と「均一であること」です。

具体的な寸法は流派やお店によっても異なりますが、一般的には1mm〜2mm角程度、長さは4〜5cm程度にビシッと揃えるのが目安とされます。

この細さを実現するため、通常は食材をまず「桂剥き(かつらむき)」という技法で紙のように薄く長く剥き、それを畳んでから端から極めて細く刻んでいきます。スライサーでは難しい、職人の包丁技術が光る切り方ですね。

比較表|千六本切りと千切りの違いが一目でわかる

【要点】

両者の違いは「定義の範囲」と「求められる精度」にあります。千切りが「細い」という状態を示すアバウトな総称であるのに対し、千六本切りは「均一で極めて細い(1〜2mm角程度)」という具体的な寸法と技術が求められる専門技法です。

2つの切り方の違いを、比較表にまとめました。これでイメージが掴みやすくなるでしょう。

項目千六本切り千切り
定義千切りの一種。特に細く均一に切る専門技法。野菜を細長く切る技法の「総称」
太さの目安極めて細い(約1〜2mm角)定義なし(料理により1mm〜5mm角まで様々)
均一性非常に高い均一性が求められる求められるが、千六本切りほど厳密ではない
主な用途刺身の「つま(剣)」、繊細な和え物、吸い物の椀づまサラダ、炒め物、煮物(きんぴら)、薬味
主な食材大根、人参、きゅうり、柚子の皮などキャベツ、大根、人参、ごぼう、ピーマン、生姜など
技術レベル専門的・高い技術(桂剥きなど)が必要基本的な技法

用途・食材の違い(使い分け)

【要点】

使い分けは明確です。「千六本切り」は、大根や人参を使い、繊細な食感を生で楽しむ「つま」や和え物、椀だね(吸い物の具)に使います。一方、「千切り」はキャベツ、きゅうり、生姜、ごぼうなど様々な野菜に使い、サラダ、炒め物、薬味、煮物(きんぴら)など、生でも加熱調理でも幅広く使われます。

この2つの切り方は、料理の目的によって明確に使い分けられます。

千切りの主な用途(サラダ、炒め物、薬味)

「千切り」は、その汎用性の高さから、あらゆる料理に登場します。

  • 生食(サラダ・付け合わせ):とんかつでお馴染みの「キャベツの千切り」や、サラダ用の人参やきゅうりの千切り。
  • 炒め物:チンジャオロースー(青椒肉絲)のためのピーマンやタケノコの千切り。
  • 煮物・和え物:「きんぴらごぼう」のように、少し太めに切って食感を残す千切り。
  • 薬味:冷奴やそうめんに添える「生姜」や「みょうが」の千切り。

このように、千切りは生でも加熱しても良く、料理に合わせて太さを変えられるのが強みですね。

千六本切りの主な用途(刺身のつま、和え物)

「千六本切り」は、その極細で均一な仕上がりを活かす料理に使われます。

  • 刺身の「つま(剣)」:千六本切りと聞いて、プロがまず思い浮かべるのがこれでしょう。刺身の鮮度を保ち、見た目を引き立てるだけでなく、口直しとしての役割も果たします。
  • 和え物・酢の物:「紅白なます」などで、人参や大根を千六本切りにすると、味が素早く馴染み、口当たりが非常に良くなります。
  • 椀だね・吸い口:吸い物や茶碗蒸しの上に飾る、柚子の皮の千切り(松葉柚子)なども、香りを立たせるための繊細な千六本切りです。

千六本切りは、食材の繊細な食感や香りを「生」または「軽く味を馴染ませる」程度で楽しむ料理に不可欠な技法と言えるでしょう。

味・食感への影響の違い

【要点】

切り方で食感は劇的に変わります。千切りは、太さに応じてしっかりとした歯ごたえ(シャキシャキ感)を残します。一方、千六本切りは極細であるため、口に入れるとフワッとした軽やかな食感や、パリッとした繊細な歯触りが特徴です。繊維を細かく断つため、味の馴染みも非常に早くなります。

切り方が違うと、当然ながら口に入れたときの食感や味の感じ方が大きく変わってきます。

「千切り」は、ある程度の太さと存在感があります。キャベツであればシャキシャキとした食感、きんぴらごぼうであれば「噛む」楽しみが残りますよね。

一方、「千六本切り」で仕上げた大根のつまを想像してみてください。

口に入れると、フワッとしていて、まるで空気を含んでいるかのような軽やかさがあります。シャキシャキというよりは「パリパリ」あるいは「繊細」という言葉が似合います。繊維が極めて細かく断たれているため、口溶けも良く、主役である刺身の邪魔をしません。

また、細ければ細いほど表面積が増えるため、和え物などでは調味液が絡みやすく、味が短時間で均一に馴染むという利点もあります。

文化・歴史・語源の背景

【要点】

「千切り」は古くからある基本的な技法です。「千六本切り」の語源は諸説あり、「千切り(せんぎり)」が「千六(せんろく)」に転じた説や、「千(せん)に切ったものをさらに六(ろく)回切るほど細い」という説、あるいは単に「たくさんの(千・六)」という意味の古い言葉から来ている説などがあります。

「千切り」という技法自体は、日本の食文化において古くから存在していました。

では、「千六本切り」という言葉はどこから来たのでしょうか?

この語源にはいくつかの説があり、実ははっきりとは分かっていません。

  1. 「千切り」からの音変化説:「せんぎり」が「せんろく」に音(おん)が変化し、それに「本」がついたという説。
  2. 細かさの強調説:「千(たくさん)に切り、さらにそれを六等分する」ほど細かく切る、という意味から来たという説。
  3. 古い言葉由来説:昔の言葉で「せんろく」が「非常に細かいこと」や「数が多いこと」を意味しており、そこから「千六本」となった説。

どの説が正しいにせよ、「千」も「六」も「本」も、「非常に数が多く、細かい」というイメージを共通して持っていますよね。

それだけ、この切り方が繊細さを要求される技法であったことがうかがえます。

体験談|大根の「つま」で挫折した僕の千六本切り

僕も料理が好きなので、昔、スーパーで買ってきたお刺身の盛り合わせを、家で料亭のように豪華に盛り付け直してみようと思ったことがあるんです。

その時、最大の難関が「大根のつま」でした。

「要は千切りだろう」と高を括り、まずはスライサー(マンドリン)を使ってみました。確かに細くはなるんですが、市販の千切りスライサーでは、お店で出てくるようなフワフワの「つま」にはならず、どこか太くて武骨な感じになってしまうんです。

「こうなったら包丁だ!」と意気込んで、大根を薄くスライスして(この時点で桂剥きには程遠いですが)、重ねて切ってみました。

……結果は惨敗でした。

太さはバラバラ、長さもバラバラ。とても「つま」とは呼べない、むしろ乾燥させる前の「切り干し大根」のようなものが出来上がってしまいました。

水にさらしてもフワッとはならず、シャキシャキ感が強すぎる「大根サラダ」になってしまったんです。

この経験から、僕たちが普段家庭でやっている「千切り」と、プロが作る「千六本切り」は、似ているようで全く別の技術なのだと痛感しました。

それ以来、お刺身についてくる「つま」を残さず、その繊細な技術に感謝しながら食べるようになりましたね。

千六本切りと千切りに関するFAQ(よくある質問)

千六本切りはスライサー(マンドリン)でできますか?

ご家庭用のスライサーでも「つま切り用」のアタッチメント(交換刃)が付属しているものを使えば、かなり細い仕上がりにすることは可能です。

ただ、プロが包丁で仕上げる「千六本切り」の均一性や、繊維を潰さない鋭い切り口(これが食感に影響します)までを完全に再現するのは、なかなか難しいかもしれませんね。

桂剥き(かつらむき)と千六本切りは違いますか?

はい、明確に違います。「桂剥き」は、大根や人参などの円柱状の野菜を、包丁で紙のように薄く、長く剥いていく技法です。

「千六本切り」は、多くの場合、この桂剥きにしたものを畳んで、端から極めて細く切っていくことで作られます。桂剥きは、千六本切りを行うための「準備段階」の技術と言えますね。

きんぴらごぼうの切り方は千切りですか?

はい、一般的には「千切り」に分類されます。ただし、先述の通り、千切りの中でも「太めの千切り」(約3〜5mm角)にすることが多いです。

これは、炒めたり煮たりしても食感がしっかり残るようにするためです。これをもし千六本切りの細さでやってしまうと、すぐに火が通り過ぎてしまい、きんぴら特有の歯ごたえがなくなってしまいますよね。

まとめ|千六本切りと千切り どちらの切り方を選ぶべきか?

「千六本切り」と「千切り」の違い、ご理解いただけたでしょうか。

最後に、もう一度ポイントを整理しておきますね。

  • 千切り細く切る技法の「総称」。太さは料理次第でOK。サラダ、炒め物、煮物など万能。
  • 千六本切り千切りの一種。プロが使う「極細で均一な」技法(1〜2mm角目安)。刺身のつまや和え物など、繊細な食感を生かす料理に使う。

普段の家庭料理では、ほとんどの場面で「千切り」で十分です。料理の目的に合わせて太さを変えることを意識すれば良いでしょう。

もし、本格的な和食やおもてなし料理に挑戦する際は、「千六本切り」を意識して、いつもより細く、均一に切ることを心がけてみてください。その繊細な仕上がりが、料理全体のクオリティを格段に引き上げてくれるはずです。

食文化や調理法・食文化の違いを知ることは、日々の料理をさらに深く、楽しくしてくれますね。