「わらび餅粉」と「片栗粉」の違いとは?デンプンの種類と仕上がりの食感を比較

夏の和菓子「わらび餅」を作ろうとした時、棚にある「わらび餅粉」と「片栗粉」、どちらを使えばいいか迷ったことはありませんか?

どちらもデンプン(澱粉)ですが、その由来と仕上がりは全く異なります。

最大の違いは原材料です。「片栗粉」は現在ほぼ全てが「ジャガイモ」のデンプンであるのに対し、「わらび餅粉」は「わらびの根」から採れるデンプン(本わらび粉)、または「サツマイモ」などのデンプンで作られています。

この記事を読めば、なぜ「本わらび粉」が非常に高価なのか、片栗粉で代用するとどんな食感になるのか、その違いがスッキリと理解できますよ。

結論|「わらび餅粉」と「片栗粉」の最も重要な違い

【要点】

「片栗粉」と「わらび餅粉」の決定的な違いは原材料です。「片栗粉」は、もともとカタクリという植物の根から作られていましたが、現在はほぼ100%「ジャガイモ(馬鈴薯)デンプン」です。一方、「わらび餅粉」は、本来「わらびの根」から採れる「本わらび粉」を指しますが、これは非常に希少で高価なため、市販の安価な「わらび餅粉」の多くは「サツマイモ(甘藷)デンプン」や「タピオカデンプン」などで作られています。

つまり、「片栗粉」=「ジャガイモデンプン」、「市販のわらび餅粉」=「サツマイモデンプンなど」、「本わらび粉」=「わらびの根のデンプン」と、すべて原料が異なるのです。

この違いが、食感、透明感、そして価格に大きな差を生みます。

項目片栗粉わらび餅粉(市販品)本わらび粉
主な原材料ジャガイモ(馬鈴薯)サツマイモ(甘藷)、タピオカなどわらびの根
食感(わらび餅風)ぷるぷる、やや歯切れが悪い、冷やすと固くボソボソにもちもちとした噛み応え非常に強い弾力と粘り、独特の風味
透明感透明感は高い半透明黒っぽい色合い、透明感は低い
主な用途料理のとろみ付け、揚げ衣わらび餅作り(家庭用)高級わらび餅(和菓子店用)
価格安価安価〜中程度非常に高価(希少)

「わらび餅粉」と「片栗粉」の定義・原材料の違い

【要点】

「片栗粉」はジャガイモデンプンが主流です。一方、「わらび餅粉」という名前で売られているものには2種類あり、わらびの根100%の「本わらび粉」と、サツマイモデンプンなどで代用した安価な「わらび餅粉」があります。

「わらび餅粉」とは?(本わらび粉と安価なデンプン)

「わらび餅粉」という言葉は、非常に紛らわしいので注意が必要です。

  1. 本わらび粉:山菜の「わらび」の地下茎(根)を叩き、水にさらしてデンプンを取り出し、乾燥させたもの。わらびの根10kgからわずか70g程度しか採れない非常に希少なもので、国産品は極めて高価です。色は灰色や黒っぽく、独特の風味と強い粘り、弾力があります。
  2. わらび餅粉(市販品):一般的にスーパーで安価に売られている「わらび餅粉」。これは本わらび粉ではなく、サツマイモ(甘藷)デンプン や、タピオカデンプン、葛粉などを主原料に作られたものです。本わらび粉の食感に近づけるため、あるいはコストを下げるためにブレンドされています。

「片栗粉」とは?(現在はジャガイモのデンプン)

「片栗粉」は、もともとはユリ科の「カタクリ」という植物の根茎から採れるデンプンでした。しかし、カタクリの減少と、明治時代以降に北海道でジャガイモの栽培が盛んになったことにより、性質が似ているジャガイモ(馬鈴薯)デンプンが「片栗粉」という名前のまま主流になりました。

現在、私たちが「片栗粉」として使っているものは、ほぼ全てがジャガイモデンプンです。

原材料と製法の決定的な違い

つまり、スーパーで見かける3つの粉は、以下のように原料が全く異なります。

  • 片栗粉 → ジャガイモ
  • わらび餅粉 → サツマイモ(またはタピオカなど)
  • 本わらび粉 → わらびの根

これらはすべて「デンプン(澱粉)」ですが、原料植物が異なるため、加熱した際の粘度や食感、透明感、風味が変わってくるのです。

味・香り・食感・見た目の違い

【要点】

「片栗粉」は無味無臭で透明感が高いですが、冷めると固くボソボソになります。「わらび餅粉(サツマイモデンプン)」は、ほんのり甘みがあり、もっちりとした噛み応えが特徴です。「本わらび粉」は、独特の土のような香ばしい風味があり、色は黒っぽく、非常に強い弾力と粘り(コシ)が特徴です。

味と香りの違い

片栗粉(ジャガイモ):ほぼ無味無臭です。料理の味を邪魔しないため、とろみ付けなどに最適です。

わらび餅粉(サツマイモ):原料がサツマイモなだけあり、ほんのりとした甘い風味を感じることがあります。

本わらび粉:独特の香ばしい風味、少し土っぽい野性的な香りがあります。これが高級和菓子としてのわらび餅の決め手となります。

食感と見た目(透明感)の違い

加熱してデンプンが糊化(こか)した際の食感と見た目に、最も大きな違いが現れます。

片栗粉(ジャガイモ)
加熱すると透明感が高く、強いとろみがつきます。わらび餅風にすると、出来立ては「ぷるぷる」「とぅるん」とした食感です。しかし、非常に大きな欠点として、冷えるとデンプンが老化しやすく、固くボソボソとした食感になってしまいます。

わらび餅粉(サツマイモ)
片栗粉ほどの透明感は出ません。食感は「もちもち」とした噛み応えが特徴です。

本わらび粉
色は黒っぽく、透明感は低いです。食感は非常に強く、弾力(コシ)と粘りがあり、噛み切るのに力が必要なほどです。片栗粉やサツマイモデンプンとは全く異なる、独特の高級な食感です。

料理での使い分け・代用(わらび餅は作れる?)

【要点】

「片栗粉」の主な用途は、中華料理などの「とろみ付け」や、唐揚げの「揚げ衣」です。一方、「わらび餅粉」「本わらび粉」の用途は、ほぼ「わらび餅」を作ることに特化しています。片栗粉でわらび餅を代用することは可能ですが、食感が異なり、冷やすと固くなるため注意が必要です。

「片栗粉」の主な用途(とろみ付け・揚げ衣)

片栗粉(ジャガイモデンプン)は、その特性から料理に幅広く使われます。

  • とろみ付け:あんかけ、麻婆豆腐、八宝菜、スープなど。加熱すると強いとろみがつきますが、冷めるととろみが弱くなる性質もあります。
  • 揚げ衣:唐揚げや竜田揚げに使うと、衣がサクサク、クリスピーに仕上がります。
  • つなぎ:肉団子やしんじょなどに加え、食感を良くし、まとまりを出すために使われます。

「わらび餅粉」の主な用途(わらび餅)

「わらび餅粉」および「本わらび粉」は、その名の通り、和菓子の「わらび餅」を作るために使われます。

片栗粉でわらび餅は代用できる?

代用して「わらび餅風」のお菓子を作ることは可能です。

片栗粉、砂糖、水を鍋で加熱して練り上げれば、透明でぷるぷるしたお菓子ができます。しかし、これは「本わらび粉」や「わらび餅粉(サツマイモ)」で作ったものとは食感が異なります。

最大の注意点は、「冷蔵庫で冷やしてはいけない」ことです。片栗粉は冷やすと固くボソボソになり、わらび餅特有の食感が失われてしまいます。片栗粉で作る場合は、出来立てを氷水でサッと冷やして、すぐに食べるのがおすすめです。

価格・入手性の違い

【要点】

「片栗粉」と「わらび餅粉(サツマイモデンプン)」は、どちらも非常に安価で、どこのスーパーでも手に入ります。しかし、「本わらび粉(わらびの根100%)」は、希少価値が非常に高く、片栗粉や市販のわらび餅粉の数十倍の価格がすることも珍しくありません。

片栗粉:非常に安価で、入手性は抜群です。

わらび餅粉(市販品):片栗粉と同様に安価で、スーパーの製菓コーナーなどで手軽に入手できます。

本わらび粉非常に高価です。わらびの根から採れるデンプンの量が極めて少ないため、国産100%のものは100gで数千円することもあります。一般的なスーパーで見かけることは稀で、高級和菓子材料店やオンラインストアでの取り扱いが中心です。

市販の「わらび餅粉」に「本わらび粉入り」と書かれている場合でも、そのほとんどはサツマイモなどのデンプンで、本わらび粉の配合率は数%程度であることも多いので、原材料表示を確認してみると良いでしょう。

体験談|「本わらび粉」と「片栗粉」で食べ比べた衝撃

僕は以前、料理好きが高じて、奮発して「国産本わらび粉100%」という粉末を取り寄せたことがあります。それは灰色がかった粉で、価格はいつもの片栗粉の30倍以上しました。

「片栗粉で作るわらび餅風と、どれほど違うのか?」

好奇心から、同じ分量(粉:砂糖:水=1:1:5)で「本わらび粉のわらび餅」と「片栗粉のわらび餅風」を同時に作ってみました。

火にかけて練り上げると、まず見た目が全く違います。片栗粉が透明になっていく のに対し、本わらび粉は黒っぽく、重たい粘りが出てきます。

冷やして食べてみると、その違いは衝撃的でした。

片栗粉の方は「とぅるん、ぷるん」としていて、喉越しは良いですが、噛むと歯切れが悪く、どこか頼りない食感です。

一方、本わらび粉は、まず口に入れた瞬間に香ばしい独特の風味が広がりました。そして食感!「ぷるん」ではなく「むっちり、もっちり」とした強い弾力とコシがあり、噛みしめるほどに旨味が出てくるようでした。

「これは同じ『わらび餅』という名前のお菓子ではない」と確信しました。片栗粉の手軽さも魅力ですが、本わらび粉の持つ奥深い風味と食感は、まさに高級和菓子そのもの。なぜあれほど高価なのか、身をもって理解した体験でした。

「わらび餅粉」と「片栗粉」に関するよくある質問

「わらび餅粉」と「片栗粉」の違いについて、よくある疑問にお答えしますね。

結局、スーパーの「わらび餅粉」の正体は何ですか?

多くの場合、「サツマイモ(甘藷)デンプン」です。他にもタピオカデンプンや葛粉、加工デンプンがブレンドされていることもあります。本わらび粉(わらびの根)は高価すぎるため、代用品として食感が似ている芋類のデンプンが使われています。

片栗粉でわらび餅を作った後、冷蔵庫で冷やしてもいいですか?

おすすめしません。片栗粉(ジャガイモデンプン)は、冷蔵庫で冷やすとデンプンが老化し、白く濁って固くなり、ボソボソとした食感になってしまいます。出来立てを氷水で短時間冷やし、常温で食べるのが一番おいしいですよ。

片栗粉の代わりにお好み焼き粉は使えますか?

用途によります。唐揚げの衣などには使えますが、あんかけのとろみ付けなどには絶対に使わないでください。お好み焼き粉には「だし」や「膨張剤」が入っているため、料理の味が変わってしまいますし、汁物が泡立ってしまう可能性があります。

まとめ|用途とコストで使い分ける2つのデンプン

「わらび餅粉」と「片栗粉」の違い、その謎は原材料の違いにありました。

どちらもデンプンですが、由来する植物が全く異なるため、食感や価格が大きく変わってきます。

  • 片栗粉(ジャガイモデンプン):料理のとろみ付けや揚げ衣が本業。安価で手軽にわらび餅「風」も作れるが、冷やすと固くなる。
  • わらび餅粉(サツマイモデンプンなど):家庭で手軽にわらび餅を作るためのミックス粉。安価でもちもち感が特徴。
  • 本わらび粉(わらびの根デンプン):非常に高価で希少。強い弾力と独特の風味があり、高級和菓子の材料。

手軽におやつを作るなら「片栗粉」や市販の「わらび餅粉」、本格的な和菓子を追求するなら「本わらび粉」と、目的と予算に応じて使い分けてみてくださいね。

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