「湯引き」と「湯通し」の違いとは?目的と対象食材で分かる使い分け

「湯引き」と「湯通し」。

どちらも日本の料理でよく使われる下ごしらえの技法ですが、この二つの違い、正確に使い分けていますか?

「湯引き」は主に魚(ハモやタイなど)の皮目に熱湯をかけたり、サッと湯に浸したりして「霜降り」状態にすることを指します。一方、「湯通し」は野菜のアク抜きや油揚げの油抜き、こんにゃくの臭み抜きなど、より幅広い食材と目的で使われる言葉です。

この記事を読めば、「湯引き」と「湯通し」の明確な目的の違い、具体的な手順、そしてよく似た「湯がく(茹でる)」との違いまでスッキリと理解できますよ。

それでは、料理の幅が広がる下ごしらえの世界を見ていきましょう。

結論|「湯引き」と「湯通し」の最も重要な違い

【要点】

「湯引き」と「湯通し」は、どちらも食材を熱湯にサッと通す下ごしらえですが、主な目的と対象食材が異なります。「湯引き」は、主に魚介類(ハモ、タイ、マグロなど)や肉類を対象に、表面を加熱殺菌し、生臭みを取り、皮を柔らかくする技法(霜降り)を指します。一方、「湯通し」は、野菜(ほうれん草など)のアク抜きや、油揚げの油抜き、こんにゃくの臭み抜きなど、より広範な食材と目的に使われる言葉です。

「湯引き」は「湯通し」の一種とも言えますが、料理の世界では、特に魚介類や肉の表面だけを白くさせる「霜降り」の技法を指して「湯引き」と呼ぶことが多い、と区別すると分かりやすいですね。

両者の違いを一覧表で比較してみましょう。

項目湯引き(ゆびき)湯通し(ゆどおし)
主な目的霜降り(生臭み取り、殺菌、皮の軟化)アク抜き油抜き、臭み抜き、色止め
主な対象食材魚介類(ハモ、タイ、マグロ)、肉類(鶏ささみなど)野菜全般、油揚げ、こんにゃく、豆腐など
加熱時間極めて短時間(数秒)短時間(数秒〜数十秒)
加熱後の処理すぐに氷水で冷やす(中まで火を通さない)冷水に取る(色止め)、またはそのまま使う
調理法分類湯通しの一種(特に霜降りを指す)熱湯を使った下ごしらえの総称の一つ

「湯引き」と「湯通し」の定義・調理手順・目的の違い

【要点】

「湯引き」は、食材の表面だけを加熱し、内部は生に近い状態を保つための技法です。目的は生臭みの除去や皮の硬化防止です。一方「湯通し」は、食材を熱湯にくぐらせることで、アク、油、臭みなどを取り除き、味を染み込みやすくする、より汎用的な下ごしらえの総称です。

「湯引き」とは?(霜降りにする技法)

「湯引き」は、食材、特に魚介類(ハモ、タイ、マグロのサクなど)や、鶏ささみなどの肉類に使われる技法です。

主な方法は2種類あります。

  1. 食材の皮目に熱湯をサッとかける
  2. 沸騰した湯に食材を数秒間だけ浸す

どちらの場合も、加熱後はすぐに氷水に取って急冷するのが鉄則です。これにより、余熱で中まで火が通るのを防ぎ、表面だけが白く「霜が降りた」ような状態(=霜降り)にします。

「湯通し」とは?(アク抜き・油抜きの技法)

「湯通し」は、食材を熱湯にサッと通す、またはくぐらせる行為全般を指す、より広い意味の言葉です。

「湯引き」も広義には「湯通し」の一種ですが、「湯通し」という言葉は、主に以下のような多様な目的で使われます。

  • 野菜のアク抜き:ほうれん草や小松菜などをサッと茹でて水にさらし、シュウ酸などのアクを取り除きます。(これは「湯がく」とも呼ばれます)
  • 油揚げの油抜き:油揚げに熱湯をかけたり、湯にくぐらせたりして、余分な油と油臭さを取り除き、だし汁の味を染み込みやすくします。
  • こんにゃくの臭み抜き:こんにゃくを湯通し(または下茹で)して、特有の石灰臭を取り除きます。
  • 青菜の色止め:ブロッコリーやインゲンなどを鮮やかな緑色に仕上げるためにサッと熱湯に通します(ブランチング)。

調理の目的の違い

「湯引き」の主な目的は、生臭みの除去殺菌、そして食感の調整です。

特にハモやタイの皮は硬いですが、湯引きすることで皮が柔らかくなり、ゼラチン質が適度に固まって美味しく食べられます。マグロのサクを湯引きすれば、表面のドリップ(旨味の流出)を防ぎ、旨味を閉じ込める効果もあります。

「湯通し」の主な目的は、食材から不要なものを取り除くことです。野菜の「アク」、油揚げの「油」、こんにゃくの「臭み」などですね。これらを取り除くことで、料理全体の味をクリアにし、後から加えるだしの味が染み込みやすくなります。

調理手順・器具・時間の違い

【要点】

「湯引き」はザルに乗せた魚などに「熱湯をかける」か、鍋に「サッと浸す」方法が主流で、加熱時間は数秒です。必ず氷水で急冷します。「湯通し」は鍋で沸かした湯に食材を「くぐらせる」方法が一般的で、時間は食材によりますが、これも数十秒と短時間です。

「湯引き」の手順(かける・浸す)

魚のサクなどを「湯引き」する(霜降りにする)場合の典型的な手順です。

  1. ザルに対象の食材(例:マグロのサク、タイの皮目)を乗せる。
  2. 食材全体に熱湯(沸騰したもの)をサッとかける。(皮目がある場合は皮目から)
  3. 表面が白っぽく色が変わったら、すぐに氷水が入ったボウルに移して急冷する
  4. 水気をキッチンペーパーでしっかり拭き取る。

加熱時間はほんの数秒です。この「すぐに冷やす」プロセスが、中を生に保つために非常に重要です。

「湯通し」の手順(くぐらせる)

油揚げの「油抜き」を「湯通し」する場合の手順です。

  1. 鍋に湯を沸かす。
  2. 油揚げを熱湯に入れ、菜箸で押さえながら全体を湯にくぐらせる。
  3. 数十秒ほど(油が浮いてくるまで)加熱したら、ザルに上げる。
  4. (粗熱が取れたら)軽く絞って水気を切る。

野菜のアク抜き(湯がく)の場合は、冷水に取って色止めとアク抜きをしますが、油抜きの場合は冷水に取らず、粗熱を取るだけのことが多いですね。

仕上がりの味・食感・栄養への影響

【要点】

「湯引き」は、表面の生臭みが消え、皮は柔らかく、中心部は生の食感が保たれます。「湯通し」は、アクや油が抜けることで、雑味がなくなり味が染み込みやすくなります。どちらも短時間ですが、ビタミンCなどの水溶性栄養素は一部お湯に流出します。

「湯引き」した魚は、生臭さやドリップが抑えられ、旨味が凝縮されます。皮は適度に柔らかくなり、身は生のプリッとした食感が楽しめます。鶏ささみは、表面に火が通ることでパサつきが抑えられ、中がしっとり仕上がります。

「湯通し」した野菜は、アクが抜けて食べやすくなり、色鮮やかに仕上がります。油揚げやこんにゃくは、余分な油や臭みが抜けることで、だしや煮汁の味が格段に染み込みやすくなります。

栄養面では、どちらも熱湯を使うため、ビタミンCやビタミンB群といった水溶性のビタミンは、お湯に溶け出してしまいます。ただし、加熱時間は非常に短いため、長時間「茹でる」場合に比べれば、その損失は少ないと言えるでしょう。

「湯引き」「湯通し」と「湯がく(茹でる)」の違い

【要点】

「湯引き」「湯通し」は、食材の表面だけに作用させる、またはアク抜きなどを目的とした数秒〜数十秒の「下ごしらえ」です。一方、「湯がく(茹でる)」は、食材の中までしっかり火を通す、または柔らかくするために数分間加熱する「調理」そのものを指すことが多いです。

この3つの言葉は非常に似ていますが、最も大きな違いは「加熱時間」「目的」です。

  • 湯引き・湯通し:目的は「下ごしらえ」(臭み抜き、アク抜き、油抜き、霜降り)。加熱時間は「短時間(数秒〜数十秒)」。食材の内部は生か半生の状態が多い。
  • 湯がく・茹でる:目的は「調理」(中まで火を通す、柔らかくする)。加熱時間は「比較的長い(数分〜)」。食材の内部までしっかり加熱する。

例えば、ブロッコリーやジャガイモは「湯通し」するとは言わず、「茹でる(湯がく)」と言いますよね。これは中まで火を通す必要があるからです。

ほうれん草のアク抜きは、短時間なので「湯通し」とも言えますが、しっかり火を通す意味合いも含むため「湯がく」と呼ばれることの方が多い、という少し曖昧な領域にあります。

体験談|マグロのサクで実感した「湯引き」の効果

僕が「湯引き」の効果を最も実感したのは、スーパーで買ったマグロのサク(赤身)でのことです。

特売で買ったマグロのサク、そのまま刺身で食べたのですが、少し水っぽく、わずかに生臭さが気になりました。そこで、残りの半分で「湯引き(霜降り)」を試してみることにしたんです。

ザルの上にサクを乗せ、沸騰した熱湯を回しかけました。表面がサッと白くなったのを確認し、間髪入れずに氷水にドボンと浸けて冷やします。

キッチンペーパーで水気をよく拭き取ってから切ってみると、外側1mmだけが白く、中は鮮やかな赤身のまま。食べてみると…驚きました。あの気になっていた生臭さが完全に消えていたんです。

それだけでなく、表面がキュッと締まったことで、中の赤身のねっとりとした食感と旨味が際立って感じられました。同じマグロなのに、ただ熱湯をかけただけで、これほど味が変わるのかと。まさに「下ごしらえ」の魔力ですよね。

それ以来、カツオのたたきを作る時や、鶏ささみをサラダに使う時など、「湯引き」は僕の料理の定番テクニックになりました。

「湯引き」と「湯通し」に関するよくある質問

「湯引き」と「湯通し」について、よくある疑問にお答えしますね。

「湯引き」と「霜降り」は同じですか?

ほぼ同じ意味で使われます。「湯引き」は熱湯をかける、または湯に浸すという「行為」そのものを指すことが多いです。一方、「霜降り」は、その行為によって食材の表面が白くなり、まるで霜が降りたように見える「状態」を指します。どちらも魚や肉の生臭みを取る下ごしらえの技法として使われる言葉です。

ほうれん草のアク抜きは「湯通し」ですか?「湯がく」ですか?

一般的には「湯がく」または「茹でる」と呼ばれることの方が多いです。「湯通し」はもっと短時間(数秒)でサッと湯にくぐらせるニュアンスが強いですが、ほうれん草のアク(シュウ酸)を抜くためには数十秒〜1分程度の加熱が必要なため、「湯がく」がより適切とされます。ただし、目的(アク抜き)は共通しているため、境界はやや曖昧ですね。

こんにゃくの下ごしらえは「湯引き」「湯通し」どちらですか?

一般的には「湯通し」または「下茹で」と呼びます。沸騰したお湯で数分間加熱することで、こんにゃく特有の臭み(石灰臭)を取り除き、味を染み込みやすくします。「湯引き」は主に魚介類に使う言葉なので、こんにゃくにはあまり使いません。

まとめ|「湯引き」と「湯通し」を使い分けて料理上手に

「湯引き」と「湯通し」、どちらも熱湯を使う下ごしらえですが、その目的と対象食材に違いがあることがお分かりいただけたかと思います。

  • 湯引き:主に魚や肉が対象。生臭みを取り、皮を柔らかくし、旨味を閉じ込める「霜降り」の技法。必ず氷水で冷やす
  • 湯通し野菜、油揚げ、こんにゃくなど幅広い食材が対象。アク抜き、油抜き、臭み抜きなど、不要なものを取り除く技法。

この二つの技法と、さらに加熱時間の長い「湯がく(茹でる)」をしっかり使い分けることが、料理の味を格段に引き上げる秘訣です。

特に「湯引き」は、スーパーのお刺身でも格段に美味しくなる魔法のような技法ですので、ぜひ試してみてくださいね。

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