「イラストレーター」と「デザイナー」、どちらもクリエイティブな仕事として人気ですよね。
でも、いざその違いを説明しようとすると、「あれ、具体的にどう違うんだっけ?」と言葉に詰まってしまうことはありませんか?
実はこの二つの職種、似ているようでいて、その中心的な役割、求められるスキル、そして仕事の進め方に明確な違いがあるんです。絵を描くことが専門なのか、それとも全体の設計を担うのか、そこが大きな分かれ道になります。
この記事を読めば、「イラストレーター」と「デザイナー」それぞれの本質的な役割、仕事内容、必要なスキル、そして両者の関係性までスッキリ理解できます。もうこの二つの言葉の使い分けや、キャリアを考える上で迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「イラストレーター」と「デザイナー」の最も重要な違い
基本的には、依頼に応じて絵や図を描く専門家が「イラストレーター」、目的達成のために視覚的な設計を行う専門家が「デザイナー」と覚えるのが簡単です。「イラストレーター」は表現力が、「デザイナー」は課題解決能力や設計力がより重視されます。
まず、結論からお伝えしますね。
「イラストレーター」と「デザイナー」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な役割の違いはバッチリです。
| 項目 | イラストレーター (Illustrator) | デザイナー (Designer) |
|---|---|---|
| 中心的な役割 | 絵、図、キャラクターなどを描く・制作する | 目的達成のために、視覚要素(文字、色、形、画像など)を設計・構成する |
| 主な成果物 | イラスト、挿絵、キャラクターデザイン、図解など | Webサイト、アプリUI、ポスター、ロゴ、パンフレット、製品デザインなど |
| 重視されるスキル | 画力、表現力、独創性、クライアントの意図を汲む力 | デザイン原則の知識、構成力、課題解決能力、コミュニケーション能力、ツールスキル |
| 仕事の焦点 | 視覚的な表現そのもの | 情報伝達、問題解決、ユーザー体験の向上などの目的達成 |
| 使うツール例 | ペンタブレット、Illustrator, Photoshop, Procreate, Clip Studio Paintなど | Illustrator, Photoshop, Figma, Sketch, Adobe XD, CADなど |
一番大切なポイントは、イラストレーターが「絵を描くこと」を専門とするのに対し、デザイナーは「視覚的な設計(デザイン)をすること」を専門とするという点ですね。
もちろん、デザイナーがイラストを描いたり、イラストレーターがレイアウトに関わったりすることもありますが、その核となる専門領域が異なります。デザイナーは、イラストをデザインを構成する「素材」の一つとして扱うことが多い、と考えると分かりやすいかもしれません。
なぜ違う?役割と焦点からイメージを掴む
「イラストレーター」は“Illustrate”(図解する、挿絵を入れる)すること、つまり絵による表現や説明が役割の中心です。「デザイナー」は“Design”(設計する、計画する)すること、つまり目的達成のための構造や計画の立案が役割の中心です。
この二つの職種がなぜ異なる役割を持つのか、それぞれの言葉が持つ意味合いから、その本質的なイメージを探ってみましょう。
「イラストレーター」の役割:「描く」ことで魅力を伝える
「イラストレーター(Illustrator)」は、「イラストレーション(Illustration)」を行う人ですね。「Illustration」の動詞形は「Illustrate」で、これはラテン語の「illustrare(照らす、明るくする、明らかにする)」に由来します。
この語源が示すように、イラストレーションの本来の役割は、文章や概念を「分かりやすく照らし出す」ための図解や挿絵でした。そこから転じて、物語の場面を描いたり、キャラクターを生み出したり、広告に使うイメージを描いたりするなど、視覚的な表現を通じて、情報や感情、雰囲気を伝えることがイラストレーターの中心的な役割となりました。
つまり、イラストレーターは「描く」という行為そのものを通じて、メッセージを伝えたり、魅力を付加したりする専門家、というイメージですね。
「デザイナー」の役割:「設計する」ことで問題を解決する
一方、「デザイナー(Designer)」は、「デザイン(Design)」を行う人です。「Design」の語源は、ラテン語の「designare(デシグナーレ)」で、「de-(完全に)」と「signare(印をつける)」が組み合わさり、「計画を示す」「輪郭を描く」「設計する」といった意味を持っていました。
この「計画する」「設計する」という語源が、デザイナーの役割の核心を表しています。デザイナーは、単に見た目を美しくするだけでなく、特定の目的(情報を分かりやすく伝えたい、商品を使いやすくしたい、ブランドイメージを高めたいなど)を達成するために、様々な視覚的要素をどのように組み合わせ、構成するかを「設計」する専門家なのです。
課題を理解し、その解決策として最適な視覚表現を計画・構築する。それがデザイナーの中心的な役割であり、見た目の美しさ(審美性)だけでなく、機能性や伝達性、ユーザー体験(UX)なども考慮に入れる点が特徴です。
具体的な仕事内容とスキルで違いをマスターする
イラストレーターは書籍の挿絵、ゲームのキャラクター、広告イラストなどを制作し、画力や表現力が必須です。デザイナーはWebサイト、ロゴ、ポスターなどを制作し、デザイン原則の理解、構成力、課題解決能力が求められます。使用ツールも専門分野に応じて異なります。
それぞれの役割の違いを、具体的な仕事内容と求められるスキルから、さらに詳しく見ていきましょう。
イラストレーターの仕事内容と必要なスキル
イラストレーターの仕事は多岐にわたりますが、主に以下のようなものが挙げられます。
- 書籍、雑誌、Webサイトなどの挿絵(カットイラスト)制作
- 広告、ポスター、商品パッケージなどのメインビジュアル制作
- ゲーム、アニメ、アプリなどのキャラクターデザイン、背景美術
- 絵本、漫画の制作
- 教材、説明書、プレゼン資料などの図解、テクニカルイラスト制作
- 似顔絵、ウェルカムボードなどの制作
これらの仕事で求められる主なスキルは以下の通りです。
- 画力・描写力:デッサン力、色彩感覚、様々な画材やタッチを使いこなす能力。
- 表現力・想像力:伝えたい内容や雰囲気を的確に絵で表現する力、オリジナルの世界観を構築する力。
- コミュニケーション能力:クライアントの要望を正確にヒアリングし、意図を汲み取って形にする力。
- デジタルツールスキル:Illustrator, Photoshop, Procreate, Clip Studio Paintなどの描画ソフトを扱う能力。
- 専門知識:担当する分野(例:ファッション、医療、科学)に関する知識があると強みになることも。
デザイナーの仕事内容と必要なスキル
デザイナーも専門分野によって仕事内容は大きく異なりますが、代表的なものとしては以下のような分野があります。
- グラフィックデザイナー:ポスター、チラシ、パンフレット、ロゴ、名刺、書籍の装丁などの印刷物や平面のデザイン。
- Webデザイナー:Webサイト全体のデザイン、レイアウト、コーディング(HTML/CSSなど)。
- UI/UXデザイナー:アプリやWebサービスのユーザーインターフェース(UI:見た目や操作部分)とユーザーエクスペリエンス(UX:利用体験全体)の設計。
- プロダクトデザイナー:家電、家具、雑貨などの工業製品のデザイン。
- ファッションデザイナー:衣服やアクセサリーのデザイン。
- エディトリアルデザイナー:雑誌や書籍など、ページもののレイアウトデザイン。
これらの仕事で共通して求められる主なスキルは以下の通りです。
- デザイン原則の知識:レイアウト、タイポグラフィ(文字のデザイン)、配色、構図など、視覚デザインの基礎理論。
- 構成力・論理的思考力:情報を整理し、目的達成のために最適な構造や見せ方を設計する力。
- 課題発見・解決能力:クライアントやユーザーが抱える課題を理解し、デザインによって解決策を提案する力。
- コミュニケーション能力:クライアントやチームメンバーと円滑に意思疎通を図り、共同でプロジェクトを進める力。
- デジタルツールスキル:Illustrator, Photoshop, Figma, Sketch, Adobe XD, InDesignなど、専門分野に応じたデザインソフトを扱う能力。
- 情報収集・分析力:トレンド、競合、ターゲットユーザーなどに関する情報を収集し、デザインに活かす力。
もちろん、デザイナーにも美的感覚や発想力は必要ですが、それ以上に「なぜこのデザインなのか」を論理的に説明できる設計力や、課題解決への貢献が重視される傾向がありますね。
【応用編】似ている職種「アートディレクター」との違いは?
「アートディレクター」は、プロジェクト全体の視覚表現の責任者です。デザイナーやイラストレーター、フォトグラファーなどのクリエイターを指揮・監督し、コンセプトに基づいたビジュアルの方向性を決定・管理する役割を担います。デザイナーやイラストレーターが「プレイヤー」だとすれば、アートディレクターは「監督」に近い立場です。
イラストレーターやデザイナーと関連して、「アートディレクター」という職種もよく耳にしますね。この役割との違いも理解しておきましょう。
「アートディレクター(Art Director)」は、広告、出版、Webサイト、映像、ゲームなど、様々なクリエイティブプロジェクトにおいて、視覚表現(アート)に関する最終的な品質と方向性に責任を持つ人です。
主な役割は以下の通りです。
- プロジェクトのコンセプトに基づき、ビジュアル全体の方向性(トーン&マナー)を決定する。
- デザイナー、イラストレーター、フォトグラファー、映像作家などのクリエイティブスタッフを選定し、具体的な指示を出す。
- 制作されたビジュアルのクオリティをチェックし、コンセプトに合致しているか判断・監修する。
- クライアントやプロジェクトマネージャーと連携し、予算やスケジュール内で最高の視覚表現を実現する。
つまり、デザイナーやイラストレーターが実際に手を動かしてビジュアルを制作する「プレイヤー」だとすれば、アートディレクターはチームを率いて全体のビジュアル戦略を考え、クオリティを管理する「監督」や「指揮者」のような立場と言えます。
アートディレクター自身が優れたデザイナーやイラストレーターであることが多いですが、必ずしも自分で手を動かすとは限りません。プロジェクト全体を俯瞰し、最適なビジュアルコミュニケーションを設計・実現することが主な仕事です。
「イラストレーター」と「デザイナー」の関係性とキャリアパス
デザイナーは、プロジェクトに必要なイラストをイラストレーターに依頼することがあります。両者は協力して一つの制作物を作り上げることが多いです。キャリアパスとしては、イラストレーターがデザインスキルを学んだり、デザイナーがイラストスキルを磨いたりして、両方の領域をこなせるようになる、あるいはアートディレクターを目指すといった道も考えられます。
イラストレーターとデザイナーは、それぞれ専門分野が異なりますが、実際の仕事の現場ではどのように関わり合うのでしょうか?また、キャリアとしてはどのような道があるのでしょうか?
協力関係:
多くのプロジェクト、例えば広告制作、Webサイト構築、書籍デザインなどでは、デザイナーとイラストレーターは協力して仕事を進めることがよくあります。
デザイナーが全体のレイアウトや構成を設計し、その中で必要となるイラスト(キービジュアル、挿絵、アイコンなど)の制作をイラストレーターに依頼する、という流れが一般的です。デザイナーは、プロジェクトの目的やターゲット、全体のデザインコンセプトをイラストレーターに伝え、イメージに合ったイラストを制作してもらいます。
逆に、イラストレーターがメインのビジュアルを描き、それを基にデザイナーがロゴや文字要素を配置してポスターを完成させる、といったケースもあります。良い制作物を作るためには、両者の円滑なコミュニケーションと相互理解が不可欠ですね。
キャリアパス:
イラストレーターとデザイナーのキャリアパスは多様です。
- 専門性を深める:それぞれの分野でスキルを磨き続け、特定のジャンル(例:キャラクター専門のイラストレーター、UI/UX専門のデザイナー)で第一人者を目指す。
- 領域を広げる:イラストレーターがレイアウトやタイポグラフィなどのデザインスキルを学び、デザインもこなせるようになる。逆に、デザイナーがイラストレーションのスキルを高め、自分でイラスト素材を用意できるようになる。このように、両方のスキルを持つことで、仕事の幅が広がります。
- アートディレクターへ:経験を積み、プロジェクト全体を俯瞰する視点やリーダーシップを身につけ、アートディレクターとしてキャリアアップする道もあります。
- 独立・フリーランス:会社勤務を経て、フリーランスのイラストレーターやデザイナーとして独立する人も多くいます。
どちらの職種からスタートしても、本人の興味や努力次第で、様々なキャリアの可能性が開かれていますね。
僕が「デザイナー」にイラストだけ依頼してしまった体験談
これは僕がまだWeb業界に入りたてで、役割分担をよく理解していなかった頃の話です。
あるWebサイトのリニューアルプロジェクトで、サイト内で使うちょっとしたアイコンや説明図が必要になりました。僕は、プロジェクトに参加していた優秀な「Webデザイナー」のAさんに、「Aさん、ここの部分に使うアイコンと、このサービスの仕組みを説明する簡単な図を、ササッと描いてもらえませんか?」と気軽に頼んでしまったんです。
Aさんは一瞬困った顔をして、そして言いました。
「うーん、アイコンや簡単な図なら、もちろん僕も作れますよ。でも、もしクオリティの高いオリジナルの『イラスト』が必要なら、それは専門のイラストレーターさんに頼んだ方が良いものができると思います。僕は全体の構成や使いやすさを考えるデザイナーなので、絵を描くこと自体が専門ではないんです。もちろん、デザインに必要な素材として簡単なものは作りますが…」
僕はその時、ハッとしました。デザイナーなら当然イラストも描けるだろう、と安易に考えていたのです。Aさんは確かにデザインツールを使って図形を描くことはできましたが、僕が求めていたのは、もう少し温かみのある手描き風の「イラスト」でした。
デザイナーの仕事は「設計」であり、必ずしも「絵を描く専門家」ではないという、基本的な役割の違いを全く理解していなかったのです。Aさんの専門性を無視した失礼な依頼をしてしまったと、顔が熱くなりました。
結局、Aさんに相談に乗ってもらい、別途フリーランスのイラストレーターさんを探して、イメージ通りのイラストを描いてもらうことができました。
この経験から、職種名を混同せず、それぞれの専門家が持つスキルと役割を正しく理解し、敬意を持って仕事を依頼することの重要性を学びました。「デザイナーだから絵も描けるはず」「イラストレーターだからレイアウトもできるはず」といった思い込みは禁物ですね。
「イラストレーター」と「デザイナー」に関するよくある質問
Q. イラストレーターとデザイナー、どちらが儲かりますか?
A. 一概には言えません。収入は、個人のスキル、経験、実績、働き方(フリーランスか会社員か)、専門分野、そして営業力など、多くの要因によって大きく異なります。トップクラスになればどちらの職種でも高い収入を得ることは可能です。一般的には、需要の変動や単価交渉力などが収入に影響しやすいと言えるでしょう。
Q. デザインもできるイラストレーター、イラストも描けるデザイナー、どちらを目指すべきですか?
A. あなた自身の興味や得意分野によります。絵を描くことが好きで、表現力を追求したいならイラストレーターを軸にデザインスキルを身につけるのが良いかもしれません。課題解決や仕組みづくりに興味があり、視覚的な設計力を磨きたいならデザイナーを軸にイラストスキルを学ぶのが良いでしょう。両方のスキルを持つことは、仕事の幅を広げる上で大きな強みになります。
Q. 資格は必要ですか?
A. イラストレーターにもデザイナーにも、必須となる国家資格のようなものはありません。最も重要なのは、スキルと実績を示すポートフォリオ(作品集)です。ただし、関連する民間資格(色彩検定、Illustrator/Photoshopの認定資格など)を取得することは、スキルの証明や学習の助けにはなります。
「イラストレーター」と「デザイナー」の違いのまとめ
「イラストレーター」と「デザイナー」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 核心的な役割の違い:イラストレーターは「描く」専門家、デザイナーは「設計する」専門家。
- 焦点の違い:イラストレーターは視覚的な「表現」そのもの、デザイナーは目的達成のための「課題解決」。
- スキルセットの違い:イラストレーターは画力・表現力、デザイナーはデザイン原則・構成力・課題解決能力がより重視される。
- 包含関係の可能性:デザイナーはイラストを「素材」として使うことがあり、広義のデザインプロセスの中にイラスト制作が含まれることもある。
- 関係性:プロジェクトでは協力関係にあることが多い。
- キャリア:専門性を深める道、領域を広げる道、アートディレクターを目指す道など多様。
これらの違いを理解することで、自分がどちらの仕事に興味があるのか、あるいは仕事で誰に何を依頼すべきなのかが明確になりますね。
どちらも魅力的なクリエイティブ職ですが、その本質は異なります。それぞれの専門性を尊重し、適切な場面でその力を活かすことが、良い成果を生み出す鍵となるでしょう。自信を持って、これらの言葉を使い分けていきましょう。カタカナ語・外来語の使い分けについてさらに知りたい方は、カタカナ語・外来語の違いをまとめたページもぜひご覧ください。