アメリカンブリーとピットブル、その違いは?歴史と性格、法規制まで

筋肉隆々で強面(こわもて)なルックスがそっくりな「アメリカンブリー」と「ピットブル」。

どちらも威圧感がありますが、実はそのルーツ(作出目的)、性格、そして体型が全く異なる犬種です。

結論から言うと、「ピットブル」(正式名称:アメリカン・ピット・ブル・テリア)は運動能力に優れた闘犬ルーツの犬種であり、一方の「アメリカンブリー」は、そのピットブルから闘争心を抑え、より家庭犬向きに改良された比較的新しい犬種だということです。

この「闘犬」か「家庭犬」かというルーツの違いが、飼いやすさや法的な扱いにまで大きな影響を与えています。

【3秒で押さえる要点】

  • ルーツと性格:ピットブルは闘犬由来の気質(闘争心)を持つ一方、アメリカンブリーは家庭犬(伴侶犬)として穏やかに作出されました。
  • 体型(見た目):ピットブルは運動能力の高い引き締まった筋肉質。アメリカンブリーはブルドッグの血を引き、より横幅があり、ずんぐりとした筋肉の塊のような体型です。
  • 法的扱い:ピットブルは多くの自治体で「特定犬(危険犬種)」に指定され、飼育に厳しい規制があります。アメリカンブリーは指定外の場合が多いですが、同様の注意が必要です。
「アメリカンブリー」と「ピットブル」の主な違い
項目 アメリカンブリー(American Bully) ピットブル(通称)
正式名称 アメリカン・ブリー アメリカン・ピット・ブル・テリア(APBT)
分類・系統 コンパニオン犬種(伴侶犬) テリア種、闘犬
ルーツ(作出目的) 家庭犬(伴侶犬)として作出(1990年代〜) 闘犬として作出(1800年代〜)
サイズ(体高例) クラスによる(例:スタンダード オス43〜51cm) オス:45〜48cm程度
体型(見た目) ずんぐりむっくり、横幅が広い、頭が大きい 引き締まった筋肉質、体高と体長がほぼ同じ
性格 穏やか、温厚、フレンドリー、愛情深い 飼い主に忠実、愛情深い、闘争心が強い、興奮しやすい
飼育難易度 高い(中〜上級者向け) 極めて高い(超上級者向け)
寿命 8〜14年程度 12〜16年程度
かかりやすい病気 皮膚病、呼吸器疾患(短頭種)、関節疾患、眼疾患 皮膚アレルギー、股関節形成不全
法的扱い(特定犬指定) 一般的に指定外(自治体による) 多くの自治体で指定あり(例:札幌市、水戸市、佐賀県など)

見た目とサイズの違い

【要点】

最大の違いは「体型のバランス」です。ピットブルは運動能力を重視した引き締まった筋肉質。アメリカンブリーはブルドッグの血を引くため、ピットブルより圧倒的に頭が大きく、胸幅が広く、短足ずんぐりな「ブリースタイル」です。

「ピットブル」と「アメリカンブリー」、どちらも筋肉質な犬種ですが、そのシルエットは大きく異なります。

ピットブル(アメリカン・ピット・ブル・テリア)は、闘犬としての俊敏性とパワーを兼ね備えた、引き締まった筋肉質の体型が特徴です。犬種標準(スタンダード)でも「力強さと運動能力、優雅さと機敏さを持ち合わせている」とされ、無駄な脂肪がなく、バネのあるアスリートのような印象を与えます。体高と体長がほぼ同じくらいの、均整の取れた体型をしています。

一方、アメリカンブリーは、そのピットブルやブルドッグなどを交配させて生まれた犬種で、その名の通り「ブリー(Bully)」、つまり威圧感のある見た目を追求しています。ピットブルよりも骨太で、圧倒的に胸幅が広く、頭部が大きく、全体的に横幅が強調された「ずんぐりむっくり」とした体型が特徴です。重心が低く、まさしく「筋肉の塊」といった印象を与えます。

また、アメリカンブリーは、その作出の歴史の中で様々なスタイルが追求された結果、サイズによって「ポケット」「スタンダード」「クラシック」「XL」などの複数のクラス(タイプ)に分けられています。飼い主の好みによって多様なサイズが存在するのも、ピットブルとの大きな違いです。

性格・行動特性としつけやすさの違い

【要点】

両者とも飼い主には非常に忠実ですが、ルーツの違いが性格に表れます。ピットブルは闘犬の歴史から闘争心や興奮性が高く、専門的な訓練が必須の上級者向けです。アメリカンブリーは、その闘争心を意図的に抑え、家庭犬(伴侶犬)として穏やかに作出されています。

両者の最大の違いは、この「性格」にあると言っても過言ではありません。

ピットブル(アメリカン・ピット・ブル・テリア)は、そのルーツから非常に強い闘争心と興奮性を持つ個体が多いとされています。飼い主や家族には信じられないほど愛情深く、忠実で、喜ばせることに熱心です。しかし、一度興奮状態(特に他の動物に対して)になると、戦闘態勢に入るまでが速く、制御が困難になる場合があります。そのため、幼少期からの徹底した社会化訓練と、犬の力を制御できる経験豊富な飼い主が不可欠な、飼育難易度が極めて高い(超上級者向け)犬種です。

アメリカンブリーは、まさにそのピットブルの強い気性を改良するために誕生しました。作出の過程でブルドッグなどの穏やかな犬種の血が加えられ、闘争心を抑え、より穏やかで、愛情深く、家族に従順な性格になるよう意図されています。見た目の威圧感とは裏腹に、人懐っこくフレンドリーで、子供ともうまくやっていける個体が多いとされます。

しかし、アメリカンブリーも元はピットブルの血を引いています。賢いですが頑固な一面も持ち合わせているため、しつけは根気強く行う必要があります。ピットブルに比べれば格段に家庭犬向きですが、その強靭な顎の力は健在であり、決して初心者の方が飼いやすい犬種ではないため、「中〜上級者向け」の犬種であることに変わりはありません。

寿命・健康リスク・病気の違い

【要点】

平均寿命はピットブルが12〜16年、アメリカンブリーが8〜14年と、ブリーの方が短い傾向です。ピットブルは皮膚疾患、アメリカンブリーは極端な体型ゆえの関節疾患や呼吸器系の問題、眼疾患に特に注意が必要です。

ピットブル(アメリカン・ピット・ブル・テリア)の平均寿命は12〜16年と、中型犬として比較的長寿です。闘犬として使われていた歴史から痛みに強いとされ、頑健な犬種ですが、「アレルギー性皮膚炎」などの皮膚疾患や、「股関節形成不全」には注意が必要です。

アメリカンブリーの平均寿命は8〜14年程度と報告されており、ピットブルよりも短い傾向にあります。これは、彼らの特徴である筋肉質でずんぐりした体型や、ブルドッグの血(短頭種)に由来する健康リスクが原因と考えられます。特に以下の疾患に注意が必要です。

  • 皮膚病(アレルギーなど):皮膚のシワなどに汚れが溜まりやすく、アレルギー性皮膚炎や皮膚炎を起こしやすいです。
  • 呼吸器系疾患(熱中症):ブルドッグの血を引くため、鼻が短い個体は「短頭種」としての弱点を持ち、呼吸器が弱く、特に熱中症になりやすい傾向があります。
  • 眼疾患:ブルドッグの血統から、「白内障」や「緑内障」を発症するリスクがあると言われています。
  • 関節疾患:重い体重を支えるため、「股関節形成不全」や「肘関節形成不全」のリスクも常に伴います。

「アメリカンブリー」と「ピットブル」の共通点

【要点】

最大の共通点は、どちらもアメリカン・ピット・ブル・テリアの血を引く「ブル・アンド・テリア」タイプであることです。そのため、非常に筋肉質で力が強く、飼い主に対しては驚くほど忠実で愛情深い性格を持つ点も共通しています。

これほど明確な違いがある一方で、両者が混同されるのには理由があります。それは、アメリカンブリーがピットブルをベースに作出された犬種であるため、多くの共通点を持っているからです。

  1. 筋肉質な体型:どちらも非常に筋肉質で、強靭な顎を持つ「ブル・アンド・テリア」系統の犬種です。
  2. 飼い主への忠誠心:どちらも一度認めた飼い主や家族に対しては、非常に忠実で深い愛情を示します。
  3. 高い知性:どちらも賢く、状況判断能力が高いですが、それゆえに頑固な一面も持ち合わせます。
  4. 力強さ:両者とも非常に力が強いため、飼育には万が一の事故を防ぐための絶対的なコントロールとしつけが必須です。
  5. 被毛:どちらも光沢のある硬い短毛(スムースコート)です。

歴史・ルーツと性質の関係

【要点】

ルーツが両者の決定的な違いです。ピットブルは19世紀にイギリスからの移民が持ち込んだ闘犬をルーツとし、運動能力と闘争心が重視されました。アメリカンブリーは1990年代に、そのピットブルから闘争心を抜き、家庭犬としての穏やかさを求めて人為的に作出された新しい犬種です。

ピットブル(アメリカン・ピット・ブル・テリア)は、19世紀にイギリスやアイルランドからの移民がアメリカに持ち込んだ、ブルドッグとテリアを交配させた犬たち(ブル・アンド・テリア)がルーツです。これらは当初、農場での作業(家畜の防衛など)や狩猟、そして不幸なことに「闘犬(ピット・ファイティング)」のために使われてきました。そのため、高い運動能力と闘争心、そしてタフさが選択的に強化されてきた歴史があります。

アメリカンブリーは、このピットブルの歴史とは対照的です。1990年代のアメリカにおいて、「最強の見た目と、最高の家庭犬としての性格」を両立させることを目的に、人為的な作出が開始されました。アメリカン・ピット・ブル・テリアやアメリカン・スタッフォードシャー・テリアを基礎に、ブルドッグやその他のブル系犬種を交配。ピットブルの闘争的な気質を意図的に排除し、穏やかで人懐っこい伴侶犬(コンパニオン・ドッグ)としての性質を固定化することを目指したのです。

2004年にはアメリカン・ブリー・ケネル・クラブ(ABKC)が設立され、新しい犬種としての地位を確立しました。ただし、ジャパンケネルクラブ(JKC)やアメリカンケネルクラブ(AKC)ではまだ公認されていません(ピットブルもAKCやJKCでは未公認です)。

どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ

【要点】

どちらの犬種も、犬の飼育初心者には絶対におすすめできません。ピットブルは、その気性を制御できる専門知識と経験、体力を持つ「超上級者」向けです。アメリカンブリーはピットブルより穏やかですが、それでも力が強く頑固なため「中〜上級者」向けです。

まず大前提として、アメリカンブリーもピットブルも、初めて犬を飼う人には絶対におすすめできません。その強大な力と潜在的な危険性を理解し、生涯にわたり責任を持てる覚悟が必要です。

【ピットブル(アメリカン・ピット・ブル・テリア)がおすすめな人】

  • 犬の飼育、特に大型犬や気性の荒い犬種の訓練経験が豊富な「超上級者」
  • 犬の力を体力で制御でき、万が一の事故を絶対に防げる自信がある人
  • 自治体の「特定犬」規制(檻での飼育、口輪装着義務など)を遵守できる人
  • 毎日の十分な運動と、専門家を交えた服従訓練に時間とお金を割ける人

【アメリカンブリーがおすすめな人】

  • 犬の飼育経験があり、大型犬のしつけに自信がある「中〜上級者」
  • ピットブルほどの闘争性ではなく、より穏やかな伴侶犬を求めている人
  • 見た目の威圧感と、内面の愛情深さとのギャップに魅力を感じる人
  • 関節疾患や皮膚疾患、呼吸器疾患などの健康リスクに対し、十分な医療ケアと金銭的負担を覚悟できる人
  • (自治体によってはピットブル同様の規制対象になる可能性を理解している人)

僕が出会った「ピットブル」と「アメリカンブリー」の“オーラ”の違い

僕が以前、海外のドッグパークで出会った「ピットブル」は、まさにアスリートでした。引き締まった体で、飼い主が投げるフリスビーを驚異的な跳躍力でキャッチしていました。飼い主には忠実でしたが、他の犬が近づくと一瞬で空気が張り詰め、飼い主が即座にリードをつけて制御していたのが印象的でした。

一方、国内のドッグカフェで出会った「アメリカンブリー(おそらくポケットサイズ)」は、全くの別物でした。筋肉の塊のような体でドスドスと歩き、目が合う人すべてに尻尾を振って愛嬌を振りまいていました。飼い主さんの膝の上で満足そうにいびきをかいている姿は、その強面の見た目とは裏腹に、まさに家庭犬そのものでした。

ピットブルの魅力が「研ぎ澄まされたナイフのような機能美」なら、アメリカンブリーの魅力は「重戦車のような威圧感と、その内側に隠された優しさ」にあるのだと感じた体験です。

「アメリカンブリー」と「ピットブル」に関するよくある質問

Q: ピットブルはみんな危険なのですか?

A: ピットブル(アメリカン・ピット・ブル・テリア)は闘犬の歴史から闘争心が強い傾向があり、残念ながら他の犬種に比べて重大な咬傷事故が多いことも事実です。そのため多くの自治体で「特定犬」に指定されています。しかし、個体差も大きく、飼い主への忠誠心は非常に強い犬種です。問題は犬種ではなく、その特性を理解せずに飼育・管理する人間側にあるとも言えます。専門家による適切な訓練と管理が絶対に必要です。

Q: 「ピットブル」という犬種はいないのですか?

A: 一般的に「ピットブル」と呼ばれる犬は、正式名称「アメリカン・ピット・ブル・テリア(APBT)」を指すことが多いです。しかし、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアなど、見た目が似た他の犬種も「ピットブル・タイプ」として一括りにされることがあり、定義が曖昧な言葉でもあります。

Q: アメリカンブリーも特定犬(危険犬種)になりますか?

A: アメリカンブリーは比較的新しい犬種のため、自治体の条例で名指しで指定されているケースはまだ少ないです。しかし、ピットブルの血を引く犬種であるため、自治体によっては「ピットブルに類する犬」として規制対象と判断される可能性は十分にあります。飼育を検討する場合は、必ずお住まいの自治体の動物愛護センターや保健所に確認してください(例:水戸市では「アメリカン・スタッフォードシャー・テリア(アメリカン・ピットブル・テリア)」が指定されています)。

Q: アメリカンブリーにはなぜサイズが色々あるのですか?

A: アメリカンブリーは作出の歴史が浅く、ブリーダーの理想によって様々なスタイルが追求された結果、サイズや体型にバリエーションが生まれました。アメリカン・ブリー・ケネル・クラブ(ABKC)では、体高によって「ポケット」「スタンダード」「クラシック」「XL」の4つのクラスに分類しています。

「アメリカンブリー」と「ピットブル」の違いのまとめ

「アメリカンブリー」と「ピットブル」、どちらもその力強さには計り知れない魅力がありますが、そのルーツと性質は大きく異なります。

  1. ルーツと目的が違う:ピットブルは闘犬の歴史を持つ運動能力の高い犬。アメリカンブリーはピットブルから闘争心を抑え、家庭犬として穏やかに作出された新しい犬種。
  2. 体型が違う:ピットブルは引き締まったアスリート体型。アメリカンブリーは頭が大きく胸幅が広い、ずんぐりした筋肉質な体型。
  3. 性格が違う:ピットブルは闘争心が強く超上級者向け。アメリカンブリーは穏やかで家庭向きに改良されている(それでも中〜上級者向け)。
  4. 法的扱いが違う:ピットブルは多くの自治体で「特定犬」に指定され、飼育に厳しい規制がある。アメリカンブリーも注意が必要。

どちらの犬種も、その特性を深く理解し、その強大な力を生涯にわたってコントロールできる責任感と経験がなければ、飼育してはいけない犬種です。見た目の格好良さだけで判断せず、自分のライフスタイルと技量を厳しく見極めることが、犬と人間双方の幸せにつながります。他のペット・飼育に関する違いも、ぜひ参考にしてください。