「セグロアシナガバチ」と「キアシナガバチ」、どちらも人家の軒下などでよく見かける、お馴染みのアシナガバチですね。
どちらも黄色と黒の縞模様で、脚をだらりと垂らして飛ぶ姿はそっくりですが、実は「体の色」と「大きさ」に明確な違いがあります。
最も簡単な答えは、セグロアシナガバチが名前の通り「背中(胸部)が真っ黒」で比較的小型なのに対し、キアシナガバチは「脚が黄色」で、アシナガバチの中では大型の種であるということです。
どちらもスズメバチに比べればおとなしいとはいえ、毒針を持つ危険な昆虫です。この記事を読めば、両者の正確な見分け方から、巣の特徴、安全な対処法までスッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 見た目(色):セグロアシナガバチは背中(胸部)が真っ黒です。キアシナガバチは脚が全体的に黄色く、胸部にも黄色の模様があります。
- 見た目(サイズ):キアシナガバチ(約21〜26mm)の方が、セグロアシナガバチ(約14〜18mm)より一回り大きいです。
- 危険性:どちらも毒性は強いですが、スズメバチよりはおとなしいです。巣を直接刺激しない限り襲われることは稀です。
| 項目 | セグロアシナガバチ | キアシナガバチ |
|---|---|---|
| 分類 | ハチ目 スズメバチ科 アシナガバチ亜科 | ハチ目 スズメバチ科 アシナガバチ亜科 |
| サイズ(体長) | 小型(約14〜18mm) | 大型(約21〜26mm) |
| 体色(胸部・背中) | 全体が黒色(和名の由来) | 黒地に黄色の模様(縦縞など)がある |
| 体色(脚) | 黒褐色 | 全体が黄色(和名の由来) |
| 巣の形状 | シャワーヘッド状(巣穴が剥き出し) | シャワーヘッド状(巣穴が剥き出し) |
| 営巣場所 | 開放空間(軒下、ベランダ、木の枝など) | 開放空間(軒下、ベランダ、木の枝など) |
| 攻撃性 | 比較的おとなしい(巣の刺激で攻撃) | 比較的おとなしい(巣の刺激で攻撃) |
| 危険性 | 毒性あり。アナフィラキシーショックに注意。 | 毒性あり。アナフィラキシーショックに注意。 |
| 食性(幼虫の餌) | 芋虫・毛虫(蝶や蛾の幼虫)が中心 | 芋虫・毛虫(蝶や蛾の幼虫)が中心 |
形態・見た目とサイズの違い
見分けるポイントは「背中」と「脚」の色、そして「大きさ」です。セグロアシナガバチは背中が真っ黒で脚も黒っぽく、体は小さめです。キアシナガバチは脚が鮮やかな黄色で、背中にも黄色い模様があり、体は大きめです。
軒先にハチが飛んできたら、慌てずにその色と大きさを観察してみてください。
セグロアシナガバチ(背黒脚長蜂)は、その名の通り、胸部(背中)が光沢のある黒一色であることが最大の特徴です。体長は約14〜18mmと、アシナガバチの中では比較的小型な部類に入ります。脚や腹部にも黄色い模様はありますが、全体的に黒っぽい印象が強いハチです。
キアシナガバチ(黄脚長蜂)も、名前が体を表しています。こちらは脚が根元から先まで鮮やかな黄色であることが特徴です。体長は約21〜26mmと、アシナガバチの中では最大級の大きさで、セグロアシナガバチよりも明らかに一回り大きく感じられます。また、背中(胸部)も真っ黒ではなく、黒地に2本の黄色い縦縞模様が入っています。腹部の黄色い縞模様も、セグロアシナガバチより鮮やかで太い傾向があります。
つまり、「黒っぽくて小さいのがセグロ」「黄色っぽくて大きいのがキアシ」と覚えておけば、おおよそ見分けることができます。
行動・生態・ライフサイクルの違い
生態やライフサイクルは両種とも非常によく似ています。どちらも春に女王蜂が単独で巣作りを始め、夏に働き蜂が増え、秋に巣が最大になります。幼虫の餌として芋虫や毛虫を狩るため、益虫としての一面も持っています。
見た目や大きさは異なりますが、生態やライフサイクルは「アシナガバチ」として共通する点が多いです。
どちらの種も、冬を越した新女王蜂が1匹で春(4月〜5月頃)に巣作りを開始します。夏にかけて働き蜂が羽化すると巣は急速に大きくなり、秋(9月〜10月)に最も活動が活発になります。その後、新女王蜂とオス蜂が生まれて交尾し、新女王蜂だけが越冬に入ります。働き蜂や古い女王蜂は冬の寒さで死に絶え、巣は1年限りで使い捨てられます。
食性も共通しており、成虫は花の蜜や樹液を好みますが、幼虫の餌として蝶や蛾の幼虫(芋虫・毛虫)を盛んに狩ります。このため、庭木や農作物の害虫を駆除してくれる益虫としての側面も持っています。
どちらも飛ぶときには、特徴的な長い後ろ脚をだらりと垂らして飛ぶため、スズメバチとは簡単に見分けがつきます。
生息域・分布・環境適応(巣)の違い
どちらも人家の軒下やベランダ、木の枝など「開放空間」に、巣穴が剥き出しの「シャワーヘッド状」の巣を作ります。キアシナガバチの方がやや都市部への適応力が高く、巣の規模も大きくなる傾向があります。
巣の形状や作る場所も、アシナガバチとして共通しています。スズメバチのような球状の巣ではなく、六角形の巣穴(育房)が剥き出しになった、シャワーヘッドや蓮の実のような形の巣を作ります。
営巣場所も、雨風をしのげる「開放空間」を好み、人家の軒下、ベランダの天井、エアコンの室外機、生け垣の中、木の枝など、人目につきやすい場所によく巣を作ります。
分布域は、セグロアシナガバチは本州、四国、九州に、キアシナガバチは北海道南部から九州までと、どちらも日本全国(沖縄を除く)で広く見られます。どちらも都市部の環境によく適応していますが、特にキアシナガバチは都市部での個体数が多く、巣もセグロアシナガバチより大きくなる(働き蜂の数が多くなる)傾向があると言われています。
危険性・衛生・法規制の違い
どちらも強力な毒針を持っており、危険性は同等です。スズメバチに比べて攻撃性は低いものの、巣を刺激すると集団で防衛行動をとり、人を刺します。刺されると激しく痛み、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性があり、注意が必要です。
「セグロとキアシ、どっちが危険?」と聞かれれば、答えは「どちらも同じくらい危険」です。
どちらもスズメバチ科に属し、強力な毒を持っています。刺された時の痛みは非常に強く、アナフィラキシーショック(アレルギー反応によるショック症状)を引き起こす危険性も、スズメバチと変わりありません。
ただし、生態面で触れたように、両種ともスズメバチに比べれば性格は比較的おとなしいです。巣に直接振動を与えたり、ハチを手で払ったりしない限り、人間が近くを通っただけですぐに襲ってくることは稀です。
しかし、ひとたび巣が危険にさらされたと判断すれば、集団で防衛行動に移ります。特に巣が大きくなる夏から秋にかけては働き蜂の数も多く、非常に危険です。家の軒下やベランダなど、生活動線上に巣を作られた場合は、小さいうちであっても専門の駆除業者に相談するのが最も安全です。厚生労働省なども、ハチ刺されによる労働災害について注意喚起を行っています。
文化・歴史・人との関わりの違い
アシナガバチ類は、スズメバチほどの恐怖の対象ではなく、むしろ害虫を食べる益虫として認識されてきました。特にセグロアシナガバチやキアシナガバチは人家の近くに巣を作るため、良くも悪くも人間にとって最も身近なハチの一つと言えます。
セグロアシナガバチもキアシナガバチも、人家の軒下という人間に非常に近い場所を選んで巣を作るため、古くから日本人にとって最も身近なハチでした。
スズメバチのように山奥で恐れられる存在とは異なり、彼らは「家の守り神」のように扱われることもありました。前述の通り、畑や庭の害虫である芋虫や毛虫を熱心に狩ってくれるため、農家などからは益虫として、ある程度共存が図られてきた歴史があります。
とはいえ、刺されれば激しく痛むため、不用意に近づいてはいけない存在であることにも変わりありません。「軒下のハチの巣」は、夏の風物詩であると同時に、危険と隣り合わせの緊張感を人々に与えてきました。
「セグロアシナガバチ」と「キアシナガバチ」の共通点
両種は同じ「アシナガバチ亜科」の非常に近縁な仲間です。脚をだらりと垂らして飛ぶ姿、開放空間にシャワーヘッド状の巣を作ること、芋虫を狩る益虫であること、そして1年で巣が解散するライフサイクルなど、多くの生態的特徴を共有しています。
見た目の色やサイズこそ違いますが、両者は同じアシナガバチの仲間として多くの共通点を持っています。
- 分類:どちらもハチ目スズメバチ科アシナガバチ亜科に属する近縁な種です。
- 飛翔姿勢:どちらも長い後ろ脚をだらりと垂らして飛びます。
- 巣の形状:どちらも巣穴が剥き出しのシャワーヘッド状(蓮の実状)の巣を作ります。
- 営巣場所:どちらも軒下や木の枝などの開放空間を好みます。
- 生態:どちらも社会性昆虫であり、幼虫の餌として芋虫などを狩る益虫です。
- ライフサイクル:どちらも巣は1年限りで、新女王蜂のみが越冬します。
- 危険性:どちらも毒針を持ち、刺されるとアナフィラキシーショックの危険があります。
体験談:ベランダに来たのはどっちだ?
数年前の初夏、アパートのベランダにあるエアコンの室外機の下に、見慣れないものがあるのに気づきました。直径5cmほどの、灰色のシャワーヘッドのようなものです。そう、アシナガバチの巣でした。
「うわ、スズメバチだったらどうしよう!」と一瞬パニックになりましたが、飛んでいるハチを窓越しにじっと観察しました。脚をだらーんと垂らしています。「よし、アシナガバチだ」と一安心。
さらに観察すると、体は結構大きく、脚が鮮やかな黄色に見えました。「これは…キアシナガバチだな」と特定できました。スズメバチよりはおとなしいとはいえ、洗濯物を干す場所のすぐ近くです。どうしたものかと悩みましたが、まだ女王蜂が1匹で巣作りをしている段階でした。
益虫としての一面も知っていた ので悩みましたが、家族の安全を考え、日が暮れてハチが巣に戻ったのを見計ら(もちろん国立科学博物館のデータベースなどで生態は確認済みです)、ハチ専用の殺虫スプレーで(申し訳ない気持ちで)駆除しました。
あの時、もし背中が真っ黒で小型の「セグロアシナガバチ」だったとしても、同じ決断をしたと思います。益虫とはいえ、生活圏での共存は難しいと実感した体験です。
「セグロアシナガバチ」と「キアシナガバチ」に関するよくある質問
Q: セグロアシナガバチとキアシナガバチ、どっちが危険ですか?
A: 危険性(毒の強さ、刺された時の痛み)は、ほぼ同じだと考えてください。どちらのハチも毒性は強く、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。キアシナガバチの方が巣が大きくなる傾向があるため、巣を刺激した場合の集団攻撃の危険性は高いかもしれません。
Q: 見分けが難しいです。簡単な方法はありますか?
A: 一番簡単なのは、「背中(胸部)が真っ黒か?」で見分ける方法です。真っ黒で、体が比較的小さければ「セグロアシナガバチ」。背中にも黄色い模様があり、脚が鮮やかな黄色で、体が大きければ「キアシナガバチ」です。
Q: 巣は自分で駆除しても大丈夫ですか?
A: 春先の女王蜂1匹だけの小さな巣であれば、市販のハチ専用スプレーで夜間に駆除することも可能です。しかし、働き蜂が羽化して巣が大きくなり始めたら(夏の時期など)、非常に危険です。アシナガバチでも集団に襲われると命に関わりますので、絶対に無理をせず、専門の駆除業者に依頼してください。
Q: スズメバチとの一番の違いは何ですか?
A: 「巣の形」と「飛ぶ姿」です。スズメバチの巣は球状で外皮に覆われています。アシナガバチは巣穴が剥き出しです。また、アシナガバチは脚をだらりと垂らして飛びますが、スズメバチは脚をたたんで高速で飛びます。
「セグロアシナガバチ」と「キアシナガバチ」の違いのまとめ
人家の近くでよく見かけるセグロアシナガバチとキアシナガバチ。どちらも危険な毒針を持ちますが、その見た目には明確な違いがあります。
- セグロアシナガバチ:背中が黒く、体は小型(14〜18mm)。
- キアシナガバチ:脚が黄色く、体は大型(21〜26mm)。背中にも黄色い模様あり。
- 共通点:どちらも益虫であり、スズメバチよりはおとなしい。巣はシャワーヘッド状で開放空間に作る。
- 危険性:どちらも巣を刺激すれば集団で刺し、アナフィラキシーショックの危険がある。
どちらのハチも、見かけたからといってすぐにパニックになる必要はありませんが、巣には絶対に近づかない、刺激しないことが鉄則です。危険な「生物その他」の仲間たちの違いを正しく理解し、安全な距離を保つことが大切ですね。
参考文献(公的一次情報)
- 厚生労働省「健康・医療」 – ハチ刺され事故の予防や対処法に関する情報
- 国立科学博物館「かはく」 – 昆虫の分類や生態に関する情報
- 環境省「自然環境・生物多様性」 – 日本の昆虫の生態情報について