「多謝」と「謝謝」の違いは感謝の度合い?シーン別使い方比較

「謝謝(シェイシェイ)」と「多謝(ドゥオシェ / ドーチェ)」。

どちらも中国語の「ありがとう」として聞いたことがあるかもしれませんね。

「どちらも同じ『ありがとう』でしょ?」と思いがちですが、実はこの二つ、使う「言語(地域)」と「感謝の度合い」が全く異なります。間違った場面で使うと、相手に違和感を与えてしまうこともあります。

この記事を読めば、二つの「ありがとう」の核心的な違いから、北京・上海・台湾・香港といった地域別の正しい使い分けまでスッキリ理解でき、もう迷うことはありません。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「多謝」と「謝謝」の最も重要な違い

【要点】

基本的には、「謝謝(Xièxie)」は中国標準語(北京語)の一般的な「ありがとう」です。一方、「多謝(Do1 ze6)」は広東語(香港・マカオなど)での日常的な「ありがとう」を指します。標準語で「多謝(Duōxiè)」と言うと、「誠にありがとうございます」という非常に堅苦しい感謝になります。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目謝謝(xièxie)多謝(duōxiè / do1 ze6)
主な言語中国標準語(普通話)広東語 / 標準語(書き言葉)
主な使用地域中国本土全般、台湾、シンガポールなど香港マカオ、広東省など
ニュアンス日常的で一般的な「ありがとう」【標準語】非常に丁寧(誠に感謝します)
【広東語】日常的(ありがとう)
フォーマル度中立(カジュアル~丁寧)【標準語】非常に高い
【広東語】中立
日本語訳ありがとう、どうも(標準語)誠にありがとうございます
(広東語)ありがとう、おおきに

一番大切なポイントは、私たちが「中国語」として学ぶ標準語では「謝謝」が日常的な感謝であり、「多謝」は香港映画などで聞かれる広東語の日常的な感謝である、という点ですね。

なぜ違う?言語と丁寧さ(語源)からイメージを掴む

【要点】

「謝謝」は「謝る(感謝する)」という字を重ねて柔らかくした、標準語の基本の感謝です。「多謝」は「多い感謝」を意味し、標準語では堅い表現ですが、広東語圏ではこれが日常の「ありがとう」として定着しています。

なぜこの二つの言葉に違いが生まれたのか、それぞれの成り立ちと使われる言語からイメージを掴んでいきましょう。

「謝謝(Xièxie)」の核心:標準語(北京語)の「ありがとう」

「謝謝(xièxie)」は、中国の公用語である「標準語(普通話)」、いわゆる北京語をベースとした中国語で最も一般的に使われる「ありがとう」です。

「謝」という漢字一文字だけでも「感謝する」という意味がありますが、中国語では動詞や形容詞を重ねることで、動作を軽くしたり、語調を和らげたりする習慣があります。

「謝謝」と重ねることで、「感謝!感謝!」という堅苦しい感じではなく、「どうも、ありがとう」という柔らかく日常的なニュアンスになっています。中国本土、台湾、シンガポールなど、標準語が通じる大部分の地域で使われる、基本の「ありがとう」ですね。

「多謝(Duōxiè / Do1 ze6)」の核心:標準語(丁寧)と広東語(日常)

「多謝」は「多い」+「感謝」という漢字の組み合わせです。この言葉は、使われる言語によって意味合いが大きく変わるのが特徴です。

1.標準語(北京語)での「多謝(Duōxiè)」
標準語で「多謝」と言うと、「多大なる感謝」という意味になり、非常にフォーマルで堅い表現になります。日本語の「誠にありがとうございます」「厚く御礼申し上げます」といったニュアンスです。
日常会話で店員さんに「多謝」と言うことはまずありません。主に式典のスピーチや、ビジネス文書、目上の人への手紙などで使われる書き言葉的な表現です。

2.広東語での「多謝(Do1 ze6)」
一方、香港、マカオ、広東省などで話される広東語では、この「多謝(Do1 ze6 ※発音はドーチェに近い)」が、標準語の「謝謝」に相当する日常的な「ありがとう」として使われます。

お店で物を受け取るときも、人に親切にされたときも、広東語話者はごく自然に「多謝」を使います。つまり、広東語圏では「多謝」が標準的な「ありがとう」なんですね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

北京や台湾のコンビニでは「謝謝(シェイシェイ)」、香港のコンビニでは「多謝(ドーチェ)」が日常的な「ありがとう」です。標準語(北京語)のスピーチで「多謝(ドゥオシェ)」と言うと、「誠にありがとうございます」という強い感謝になります。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

どの都市(どの言語)で話しているかを意識すると、使い分けは簡単ですよ。

「謝謝(Xièxie)」を使うシーン(標準語での日常的な感謝)

中国本土(北京、上海など)や台湾、シンガポールでの日常会話で使います。

【OK例文:謝謝(標準語)】

  • (北京のカフェで)
    店員「您的咖啡(ご注文のコーヒーです)」
    客「謝謝(ありがとう)」
  • (台湾で道を譲ってもらって)
    謝謝你(ありがとうね)」
  • (ビジネスメールで)
    謝謝您的回覆(ご返信ありがとうございます)」

「多謝(Duōxiè / Do1 ze6)」を使うシーン(標準語での深い感謝・広東語での日常感謝)

標準語での「堅い感謝」と、広東語での「日常の感謝」の二つの場面があります。

【OK例文:多謝(標準語・フォーマル)】

  • (スピーチの締めで)
    多謝各位的支持(皆様のご支持、誠にありがとうございます)」
  • (非常に高価な贈り物をもらって)
    多謝多謝!(本当に、本当にありがとうございます!)」

【OK例文:多謝(広東語・日常)】

  • (香港のコンビニで)
    店員「(商品を渡しながら)」
    客「多謝(ドーチェ / ありがとう)」
  • (友人にプレゼントを渡して)
    多謝晒!(ドーチェサイ! / 本当にありがとう!)」

これはNG!間違えやすい使い方

言語圏を間違えると、相手に違和感を与えてしまいます。

  • 【NG】(北京のタクシーを降りるときに)「多謝!
  • 【OK】(北京のタクシーを降りるときに)「謝謝!

→北京は標準語圏です。タクシーを降りる程度の日常的な感謝で「多謝(誠に感謝します!)」と言うと、非常に大げさで堅苦しく聞こえてしまい、運転手さんは「?」となるかもしれません。

  • 【NG】(香港の食堂で水を持ってきてもらい)「謝謝
  • 【OK】(香港の食堂で水を持ってきてもらい)「多謝

→香港は広東語圏です。「謝謝(シェイシェイ)」と言っても意味は通じますが、明らかに「この人は地元の人じゃないな(観光客か標準語話者だな)」と分かります。地元に溶け込むなら「多謝(ドーチェ)」が自然ですね。

【応用編】似ている言葉「感謝(Gǎnxiè)」との違いは?

【要点】

「感謝(Gǎnxiè)」は、日本語の「感謝」と同様、よりフォーマルな書き言葉です。「ありがとう」と単体で使うよりも、「非常に感謝しています(非常感謝您)」のように文章の中で使われることが多いのが特徴です。

「謝謝」や「多謝」と似た言葉に「感謝(Gǎnxiè / Gám ze6)」があります。これも押さえておくと、言葉の理解がさらに深まりますよ。

「感謝」は、標準語でも広東語でも使われますが、主に書き言葉や非常にフォーマルなスピーチで使われる、堅い表現です。

日本語の「感謝」とほぼ同じ感覚で、「ありがとうございます」と口頭で言う代わりに「感謝します」とはあまり言わないですよね。

「謝謝」や「多謝」のように「感謝!」と単体で使うことは少なく、「非常感謝您(Fēicháng gǎnxiè nín / 非常に感謝しております)」のように、文章の中で動詞として使われるのが一般的です。ビジネスメールや公式な場での謝意表明に適しています。

「多謝」と「謝謝」の違いを言語文化の視点から解説

【要点】

中国語は、北京語をベースにした「標準語(普通話)」と、香港・マカオ・広東省などで使われる「広東語(粵語)」のように、地域によって主要言語が大きく異なります。「謝謝」は標準語の日常感謝、「多謝」は広東語の日常感謝であり、どちらが正しいというわけではなく、使う地域が違うのです。

少し専門的な視点になりますが、中国の言語文化から見ると、この二つの言葉の違いは「どちらが正しいか」ではなく「どの言語体系に属しているか」の違いです。

中国は非常に広大で、地域ごとに全く異なる「方言」が存在しますが、これらは私たちが想像する日本語の方言(例:大阪弁、博多弁)とは異なり、もはや外国語に近いレベルで文法も発音も異なる「地域言語」です。

謝謝」は、その広大な中国全土の共通語として定められた「標準語(普通話)」の言葉です。学校教育やテレビ放送はこの標準語で行われるため、基本的にどこでも通じます。

一方、「多謝」は、香港、マカオ、広東省、そして世界中の中華街などで強力な影響力を持つ「広東語(粵語)」の言葉です。広東語圏の人々は、日常生活では広東語を話し、標準語は第二言語(あるいは外国語)のような感覚で使い分けます。

したがって、「謝謝」は標準語圏でのスタンダード、「多謝」は広東語圏でのスタンダードであり、どちらもそれぞれの文化における日常的な感謝の言葉なんですね。

僕が香港で「謝謝」を使いすぎて「多謝」と訂正された体験談

僕が初めて香港に旅行した時の話です。大学で標準語(北京語)を第二外国語として学んでいたので、僕は「謝謝(シェイシェイ)」さえ覚えておけば大丈夫、と自信満々でした。

飲茶(ヤムチャ)のお店でも、コンビニでも、タクシーでも、僕は得意げに「謝謝!」を連発していました。もちろん、意味は完璧に通じますし、店員さんもニコニコしてくれます。

旅行の最終日、旺角(モンコック)の雑多な市場でお土産を買っていた時のことです。店番をしていたおばあちゃんに「謝謝」と言って商品を受け取った瞬間、おばあちゃんはニカッと笑って、僕の腕を軽く叩きながらこう言いました。

「靚仔(レンチャイ=あんちゃん)、香港では『多謝(ドーチェ)』だよ!」

僕は一瞬きょとんとしましたが、すぐに意味を理解して顔が赤くなりました。「謝謝」が標準語で、「多謝」がここの言葉(広東語)なんだ、と。

僕は慌てて「あ、ドーチェ!」と言い直しました。おばあちゃんは「そうそう!」と満足げに頷いてくれました。

あの瞬間、僕は言葉は通じれば良いというものではなく、その土地の文化に寄り添うことがコミュニケーションの第一歩だと痛感しました。「謝謝」は僕を「観光客」や「よそ者」として区別する言葉でしたが、「多謝」はその土地の人と同じ目線に立つための「合言葉」だったんですね。

それ以来、僕は訪れる土地の「ありがとう」をまず覚えるようにしています。

「多謝」と「謝謝」に関するよくある質問

ここでは、「多謝」と「謝謝」について、皆さんが疑問に思いがちな点にお答えしますね。

質問1:台湾で「多謝(ドゥオシェ)」と言ったら通じますか?

回答:通じる可能性はありますが、非常に不自然です。台湾の公用語は標準語(台湾では「国語」と呼ばれます)なので、日常的な感謝は「謝謝(シェイシェイ)」が基本です。台湾で「多謝」と言うと、「誠にありがとうございます」という非常に堅苦しいニュアンスで伝わるか、あるいは広東語話者だと思われるかもしれません。

質問2:香港では「謝謝(シェイシェイ)」は絶対に使ってはいけませんか?

回答:いいえ、そんなことはありません。香港は国際都市であり、標準語話者も多いため、「謝謝」は問題なく通じます。ただ、地元の人々は日常的に「多謝(ドーチェ)」を使っているため、「謝謝」を使うと「この人は広東語が話せないんだな」と認識される、というだけです。失礼にはあたりませんよ。

質問3:広東語では「多謝(ドーチェ)」以外にも「ありがとう」はありますか?

回答:はい、あります!広東語は少し複雑で、感謝する内容によって使い分けます。
・多謝:主にをもらった時、プレゼントや金銭的なサービスを受けた時に使います。
・唔該:主にサービス(行為)を受けた時。例えば、道を譲ってもらった時、ドアを開けてもらった時、注文を取ってもらう時などに使います。「すみません」という意味も持ちます。

「多謝」と「謝謝」の違いのまとめ

「多謝」と「謝謝」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 言語が違う:「謝謝」は標準語(北京語)、「多謝」は広東語での日常的な「ありがとう」。
  2. 丁寧さが違う(標準語の場合):標準語の会話では、「謝謝」が一般的。「多謝」は「誠にありがとうございます」という非常に堅い書き言葉・演説用の言葉になる。
  3. 場所で使い分け:北京や上海、台湾なら「謝謝」、香港やマカオなら「多謝(ドーチェ)」を使うと、より自然なコミュニケーションが取れる。
  4. 広東語はさらに複雑:広東語では、物をもらったら「多謝(ドーチェ)」、サービス(行為)を受けたら「唔該(ムゴイ)」と使い分けるのが一般的。

これで、あなたも中華圏のどこに行っても、自信を持って感謝の気持ちを伝えられるはずです。

言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、スラング・俗語の違いをまとめたページもぜひご覧ください。