「自宅警備員」と「ニート」の違い!ネットスラングと社会用語?

「自宅警備員」と「ニート」。

どちらも「働かずに家にいる人」を指す言葉として、ネットや会話で耳にすることがありますよね。

「どっちも同じ意味じゃないの?」「自宅警備員って冗談?」と、その違いが曖昧な方も多いでしょう。実はこの二つ、言葉が生まれた背景(公的機関かネットか)と、言葉が持つ「深刻さ」や「ユーモア」の度合いが全く異なります。

この記事を読めば、「ニート」の公的な定義と、「自宅警備員」というネットスラングの核心的な違いから、正しい使い分けまでスッキリ理解できますよ。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「自宅警備員」と「ニート」の最も重要な違い

【要点】

最大の違いは、「ニート」が公的な定義(15~34歳で非労働・非就学・非訓練)を持つ社会用語であるのに対し、「自宅警備員」はそれを揶揄(やゆ)するインターネットスラングである点です。「ニート」は深刻な文脈で、「自宅警備員」は冗談や自虐の文脈で使われます。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目ニート(NEET)自宅警備員
言葉の分類社会政策用語・一般名詞インターネットスラング
語源・由来イギリスの労働政策用語
Not in Education, Employment, or Training」の略
ネット掲示板などでの隠語・冗談
(「自宅」を「警備」する人)
定義15~34歳で、就業・就学・職業訓練のいずれもしていない者。特になし(ニートや引きこもり状態をユーモラスに表現した言葉)
ニュアンス社会問題、統計、客観的な状態。
(文脈により侮辱的にもなる)
自虐冗談、ユーモア、皮肉。
(「仕事は?」→「自宅警備員です」)
主な使用場面ニュース、行政文書、真剣な議論ネット掲示板、SNS、親しい友人との会話

一番大切なポイントは、「ニート」は厚生労働省なども用いる公的な定義を持つ言葉であるのに対し、「自宅警備員」はその状態を「家を守る仕事」と皮肉っぽく表現したネットスラングだということですね。

なぜ違う?言葉の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「ニート(NEET)」は、イギリスで生まれた「Not in Education, Employment, or Training」の頭文字を取った言葉です。一方、「自宅警備員」は、無職で家にずっといる状態を「自宅を警備する立派な仕事」とユーモラスに言い換えた、日本独自のネットスラングです。

この二つの言葉は、生まれ方が全く違います。語源を知ると、その深刻度の違いもはっきりしますよ。

「ニート(NEET)」の語源:イギリスの社会政策用語

「ニート」は、見た目の通りアルファベットの略語です。

これは、1990年代末にイギリスの労働政策において使われ始めた言葉で、「Not in Education, Employment, or Training」の頭文字をとったものです。

日本語に直訳すると「教育も受けておらず、雇用されてもおらず、職業訓練も受けていない(状態)」となります。

日本では、厚生労働省などがこの定義を用い、主に15歳から34歳までの若年無業者を指す言葉として定着しています。このように、元々は社会的な課題を分析するための真面目な「用語」だったんですね。

「自宅警備員」の語源:インターネットスラングのユーモア

一方、「自宅警備員」は、2000年代以降の日本のインターネット文化、特に2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)などで生まれたスラング(俗語)です。

ニートや引きこもりなどで働かずにずっと家にいる状態を、そのまま「無職」や「ニート」と呼ぶと深刻すぎたり、角が立ったりします。

そこで、ネットユーザーたちはユーモアを交え、「(家族が外出している間)家を守っている」→「それはまるで『自宅』を『警備』する『』のようだ」と、あたかもそれが一つの「職業」であるかのように表現し始めたのです。

これは、当事者による自虐的なジョークとして、あるいは第三者による皮肉を込めた揶揄(やゆ)として広まりました。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「ニート」は、「ニート対策は社会的な課題だ」のように、客観的・社会的な文脈で使います。「自宅警備員」は、「俺の仕事は自宅警備員(笑)」のように、冗談や自虐としてカジュアルな文脈で使います。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。「真面目な用語」と「冗談のスラング」という違いを意識してみましょう。

「ニート」を使うシーン(社会問題・定義として)

ニュースや行政の資料、または真剣な会話で、その「状態」を客観的に指すときに使います。

【OK例文:ニート】

  • 厚生労働省は、ニートの若者に対する就労支援を強化している。
  • 彼は大学卒業後、3年間ニートの状態が続いている。
  • (友人との真剣な会話で)「このままニートを続けていても、将来が不安じゃないか?」
  • 日本のニート人口は、景気によって増減する傾向がある。

「自宅警備員」を使うシーン(自虐・冗談として)

インターネット上や、親しい友人との間で、冗談めかして(あるいは自虐的に)使います。

【OK例文:自宅警備員】

  • (SNSのプロフィール欄に)「職業:自宅警備員(正社員)」
  • 友人「最近、仕事何してるの?」
    僕「(笑いながら)自宅警備員だよ。家の平和を守ってる」
  • 「一日中ゲームして動画見て、完璧な自宅警備員ムーブだったわ」
  • 親に「働け」と言われたが、「今日も自宅警備で忙しい」と返しておいた。

これはNG!間違えやすい使い方

この二つの言葉の「深刻さ」や「TPO」を間違えると、とんでもなく空気が読めない人になってしまいます。

  • 【NG】(就職相談窓口で、職員に対して真顔で)
    「私の職業は、自宅警備員です」

公的な場や真剣な相談の場で使う言葉ではありません。相手は冗談なのか本気なのか分からず困惑してしまいます。この場合は「現在、仕事に就いていません」や「ニートの状態です」と客観的な事実を伝えるべきです。

  • 【NG】(友人が冗談で「俺、自宅警備員だわw」と言ったのに対し、真顔で)
    「お前、ニートなんだな。社会問題だよ」

→相手がユーモア(自宅警備員)で逃げ道を作っているのに、深刻な用語(ニート)で切り返すと、会話が成り立ちません。ユーモアにはユーモアで返すか、真剣な話がしたいなら「本当に悩んでる?」と切り口を変えるべきですね。

【応用編】似ている言葉「引きこもり」との違いは?

【要点】

「ニート」と「自宅警備員」は「働いていない/学んでいない」という<状態>を指します。一方、「引きこもり」は「家族以外との社会的な交流を避けて、6ヶ月以上ほぼ自宅に留まっている」という<現象>を指します。ニートでも外出する人はいますし、引きこもりでも在宅ワークをしている人は(定義上)ニートではありません。

「ニート」や「自宅警備員」と混同されやすい言葉に「引きこもり」があります。この3つは似ているようで、定義が全く異なります。

  • ニート/自宅警備員
    <状態>を指す言葉。「教育・雇用・訓練」のいずれにも所属していない状態。外に出かけて友人と遊んだり、買い物に行ったりしていても、この条件に当てはまればニートです。
  • 引きこもり
    <現象>を指す言葉。厚生労働省の定義によれば、「さまざまな要因の結果として、社会参加(通学、就職など)を回避しており、原則6か月以上にわたり、おおむね家庭に留まり続ける状態」を指します。

つまり、「ニートであり、かつ引きこもりである」人もいれば、「ニートだが、毎日外出はしている(引きこもりではない)」人もいます。

逆に、学校や会社に所属(在籍)はしているものの、不登校や出社拒否で6ヶ月以上家にいる場合は「引きこもり」ですが、「ニート(=所属していない)」の定義からは外れます。

「自宅警備員」と「ニート」の違いを社会文化史的に解説

【要点】

「ニート」は、1990年代末のイギリスで労働政策の対象として定義された「社会問題」としての若者を指す言葉です。一方、「自宅警備員」は、2000年代以降の日本で、そうした深刻な状況をインターネット文化特有の「ユーモア」や「皮肉」でコーティングし、当事者(あるいは傍観者)が精神的な防衛や娯楽のために生み出したスラングです。

少し専門的な視点になりますが、この二つの言葉は、社会が「働かない若者」をどう捉えてきたかの違いを反映しています。

ニート(NEET)」という言葉は、1990年代末のイギリスで生まれました。これは、若者の失業率が深刻化する中で、従来の「失業者(=働く意思はある人)」とは異なる、「働く意思すら見せない若者」という新しい層を行政が把握し、対策を講じるために作られた「政策的なカテゴリー」でした。日本でも2000年代にこの言葉が輸入され、同様に社会問題として深刻に議論されるようになりました。

一方、「自宅警備員」は、そうした深刻な社会問題を背景にしつつも、全く異なる文脈、すなわち日本のインターネット掲示板文化から生まれました。

ネット文化には、深刻な現実を「ネタ」や「冗談」として消費し、笑いに変えることで精神的なダメージを和らげる(あるいは単に楽しむ)という側面があります。

「ニート」という言葉が持つ「社会のお荷物」「怠け者」といった重すぎるレッテルを、当事者や傍観者がそのまま受け止めるのは辛い。そこで、「いや、俺は無職じゃない。『自宅警備員』という『仕事』をしているんだ」とユーモラスに言い換えることで、プライドを保ったり、深刻な現実を一時的に笑い飛ばしたりする文化的・精神的な防衛機制として、このスラングは機能したのです。

僕が「自宅警備員」を本物の職業だと勘違いした体験談

僕がまだインターネットに疎かった頃、「自宅警備員」という言葉を初めてネットニュースのコメント欄で見かけました。

「俺の職業は自宅警備員だ」「今日も一日、自宅警備お疲れ様でした」といった書き込みを見て、僕は本気で「そういう新しい職業があるんだ」と思い込んでしまったんです。

「自宅警備員って、具体的に何するんだろう?」「在宅でセキュリティシステムの監視でもするのかな?」「給料いいのかな?」と、数日間本気で考えていました(笑)。

その後、友人にその話をしたところ、「お前それ、本気で言ってる?(笑)」と大笑いされました。

自宅警備員って、要するにニートとか引きこもりのことだよ! 家から出ないで家を守ってる(?)っていうネットの冗談!」

僕は顔から火が出るほど恥ずかしかったですね。言葉の表面だけ(自宅+警備員)を真に受けてしまい、その裏にある文脈(スラング、ユーモア、自虐)を全く理解できていませんでした。

この経験から、特にネット発祥の言葉は、辞書的な意味だけでなく、それが生まれたコミュニティの文化やニュアンスを理解しないと、全く逆の意味で捉えてしまう危険があるのだと痛感しました。

「自宅警備員」と「ニート」に関するよくある質問

ここでは、「自宅警備員」と「ニート」について、皆さんが疑問に思いがちな点にお答えしますね。

質問1:「自宅警備員」は職業欄に書けますか?

回答:書けません(笑)。公的な書類や履歴書の職業欄に「自宅警備員」と書いた場合、それは「無職」または「(冗談で)無職」と申告したことになります。ユーモアが通じない場面では、単に「非常識な人」だと思われてしまうので、絶対にやめましょう。

質問2:35歳以上でも「ニート」や「自宅警備員」と呼びますか?

回答:まず「ニート」ですが、厚生労働省などの公的な定義では15歳から34歳までです。35歳以上44歳までの同様の状態の人は「中年無業者」と分類されることがあります。
一方、「自宅警備員」はスラングなので年齢制限はありません。50歳でも60歳でも、働かずに家にいれば「自宅警備員」と自称・他称されることがあります。

質問3:「自宅警備員」は「ニート」よりマシな言い方ですか?

回答:一概には言えません。本人や親しい友人が冗談や自虐で使う分には、「ニート」と呼ぶより角が立たず、場が和むかもしれません。しかし、赤の他人が深刻な状態の人に対して「自宅警備員さん(笑)」のように使うのは、「ニート」と呼ぶ以上に相手を侮辱し、馬鹿にした表現になり得ます。使い手の意図と関係性次第ですね。

「自宅警備員」と「ニート」の違いのまとめ

「自宅警備員」と「ニート」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 生まれが違う:「ニート」はイギリスの社会政策用語。「自宅警備員」は日本のネットスラング
  2. 定義が違う:「ニート」は「15~34歳で非労働・非就学・非訓練」という明確な定義がある。「自宅警備員」に明確な定義はない。
  3. 深刻さが違う:「ニート」は社会問題として深刻な文脈で使われることが多い。
  4. ユーモアが違う:「自宅警備員」は「無職」の状態を「警備」という仕事に見立てた、ユーモア・自虐・皮肉の表現。
  5. 「引きこもり」とも違う:「ニート」は<状態>、「引きこもり」は<現象>を指す言葉。

どちらも「働いていない」という点は共通ですが、片や公的な社会用語、片やネットの冗談、という大きな違いがありました。

言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、スラング・俗語の違いをまとめたページもぜひご覧ください。