「ペルノ」と「アブサン」、どちらも独特のハーブの香りが特徴的なお酒ですよね。
特にアブサンは「禁断の酒」「悪魔の酒」といった異名を持ち、ゴッホやピカソなどの芸術家たちに愛された歴史もあって、ミステリアスなイメージがあります。
「ペルノもアブサンの一種?」と混同されがちですが、実はこの二つ、「お酒のカテゴリー」と「特定のブランド名」という大きな違いがあり、さらにその中身も異なります。
「アブサン」は、ニガヨモギの使用が必須の「スピリッツ(蒸留酒)」の種類です。一方、「ペルノ」はブランド名であり、私たちがよく目にする緑色の「ペルノ」は、アブサンが禁止されていた時代にその代替品として造られた「アニスリキュール(パスティス)」なのです。
この記事を読めば、その複雑な歴史的背景から、味、成分、飲み方の決定的な違いまで、スッキリと理解できますよ。
結論|ペルノとアブサンの違いを一言でまとめる
「アブサン」と「ペルノ」の違いは、「種類」と「ブランド」の違いです。アブサンは、ニガヨモギ、アニス、フェンネルなどを主原料とするスピリッツ(蒸留酒)の“種類”を指します。一方、ペルノは“ブランド名”です。一般的に「ペルノ」と呼ばれる商品は、アブサンが禁止された後に代替品として造られた、ニガヨモギを含まないアニスリキュール(パスティス)を指すことが多いです。
ただし、話が少しややこしいのは、アブサンが解禁された現代において、「ペルノ」ブランドがニガヨモギを使った「ペルノ・アブサン」も復活させている点です。
この記事では、主に私たちが最もよく目にする「ペルノ・アニス(パスティス)」と、「アブサン(というお酒のカテゴリー)」の違いについて比較していきます。
決定的な違い:「アブサン」は“種類”、「ペルノ」は“ブランド”
アブサンは、ジンやラム、ウォッカと同じ「スピリッツ」のカテゴリー(種類)の一つです。ペルノは、そのスピリッツを製造するメーカー(ブランド)の一つです。この関係は、「スピリッツ」と「ビーフィーター(ジン)」や「バカルディ(ラム)」の関係と似ています。
アブサン(Absinthe)とは?(ニガヨモギが必須の蒸留酒)
アブサンは、19世紀のヨーロッパ、特にフランスで大流行したスピリッツ(蒸留酒)です。</p
その製造には、アニス、フェンネル、そして最も重要な「ニガヨモギ(Wormwood)」の使用が必須とされています。このニガヨモギに含まれる「ツヨン(Thujone)」という成分が、幻覚作用や向精神作用を引き起こす「アブサン中毒」の原因と(当時は誤って)信じられたため、1910年代にヨーロッパ各国で製造・販売が禁止されました。
20世紀末以降、ツヨンの人体への影響は限定的であるとの研究結果を受け、EU諸国やアメリカなどでツヨンの残存規定値を設けた上で解禁され、再び造られるようになりました。
ペルノ(Pernod)とは?(アニスリキュールと復活したアブサン)
「ペルノ」は、フランスの酒造メーカー「ペルノ・リカール社」が製造するブランド名です。</p
元々、ペルノ社はアブサンの大手メーカー(Pernod Fils)でした。しかし、1915年にフランスでアブサンが禁止されると、同社はアブサンの主成分であったニガヨモギを抜き、代わりにスターアニス(八角)などを主体とした、アブサンの代替品となるアニス風味のリキュールを開発しました。
これが、現在私たちが「ペルノ」としてよく知る、緑がかった黄色いリキュール(アルコール度数40%)です。これは厳密にはアブサンではなく、「パスティス」と呼ばれるアニスリキュールの一種です。
そして、アブサンが解禁された後、ペルノ社はかつてのオリジナルレシピを基にした、ニガヨモギ入りの本物の「ペルノ・アブサン」(アルコール度数68%)も復活させました。
つまり、「ペルノ」ブランドには「①アブサンの代替品(パスティス)」と「②復活したアブサン」の2種類が存在するのです。
【比較】ペルノ(アニス)とアブサンの違い
私たちがよく知る「ペルノ(アニス)」と「アブサン」を比較します。ペルノはスターアニスが主原料で「甘く強烈なアニスの香り」が特徴です。アブサンはニガヨモギが必須で「ハーブの複雑で苦味もある香り」が特徴です。
ここでは、最も一般的な「①ペルノ・アニス(パスティス)」と、「アブサン(カテゴリー)」を比較します。
| 項目 | ペルノ(アニス / パスティス) | アブサン(一般的な定義) |
|---|---|---|
| 分類 | リキュール(混成酒) | スピリッツ(蒸留酒) |
| 主原料 | スターアニス(八角)、フェンネルなど | ニガヨモギ、アニス、フェンネルなど |
| ニガヨモギ(ツヨン) | 含まない | 必須(ツヨン残存量に規制あり) |
| 味わい | 甘みが強く、ストレートなアニス(リコリス)の風味 | 甘みは控えめ、ハーブが複雑に香る、独特の苦味 |
| 色 | 透明な黄緑色 | 透明な緑色、または無色透明(Blanche) |
| 飲み方 | 水割り(白濁する) | 加水(砂糖を溶かす儀式、白濁する) |
主原料と成分(ツヨン)の違い
最大の違いは「ニガヨモギ(ツヨン)」の有無です。
アブサンは、ニガヨモギの苦味と香りがその個性を定義づけています。幻覚作用の原因とされた成分「ツヨン」もこのニガヨモギに由来します(現在はEU基準などで厳しく規制されています)。
ペルノ(アニス)は、アブサンの代替品として造られたため、ニガヨモギは一切使用していません。香りの中心は「スターアニス(八角)」です。そのため、ツヨンは含まれておらず、安心して飲めます。
味・香り・色の違い
アブサンは、アニスやフェンネルの甘い香りに加え、ニガヨモギ由来の複雑なハーブ香と、独特の心地よい苦味が特徴です。色は、ハーブを浸漬させることで付く自然な「緑色」(クロロフィル由来)が伝統的ですが、無色透明な「ブランシュ(Blanche)」タイプもあります。
ペルノ(アニス)は、甘みが強く、スターアニスの風味がガツンと前に出た、比較的ストレートな味わいです。アブサンのような複雑なハーブ感や苦味はほとんどありません。色は透明な「黄緑色」をしています。
アルコール度数と価格の違い
ペルノ(アニス)は40%と、一般的なスピリッツ(ジンやウォッカ)と同程度です。一方、アブサンは50%~75%と非常にアルコール度数が高く、加水して飲むことが前提となっています。
アルコール度数:
この差は決定的です。ペルノ(アニス)は40%ですが、アブサンは非常に度数が高く、中には80%を超えるものもあります。これは、アブサンが「加水(水で割る)」ことを前提に造られているためです。
価格:
アブサンは、使用するハーブの種類の多さや、製造の複雑さ、アルコール度数の高さから、ペルノ(アニス)に比べて高価になる傾向があります。
飲み方の違い(「アブサンの儀式」と「ペルノ・ウォーター」)
飲み方も異なります。ペルノ(アニス)は、氷を入れたグラスに注ぎ、単に冷たい水で割る(1:5程度)のが一般的です。一方、アブサンは「アブサンスプーン」に「角砂糖」を乗せ、その上から冷たい水を一滴ずつ垂らして砂糖を溶かしながら飲む「アブサンの儀式」という伝統的なスタイルがあります。
どちらも水(氷)を加えると、アニスに含まれる「アネトール」という油性成分が水に溶けきれなくなり、液体が白く濁る「ウーゾー(ouzo)効果」または「ルーシュ(louche)」と呼ばれる現象が起きます。この点は共通しています。
しかし、そのプロセスが異なります。
ペルノ(アニス):
「ペルノ・ウォーター」と呼ばれ、グラスにペルノを注ぎ、氷と冷たい水(ペルノ1に対し水5が目安)を加えて白濁させ、シンプルに飲みます。
アブサン:
アルコール度数が非常に高く、苦味もあるため、「アブサンの儀式」と呼ばれる伝統的な飲み方があります。
- グラスにアブサンを注ぎます。
- 穴の開いた平たい「アブサンスプーン」をグラスの縁に渡します。
- スプーンの上に「角砂糖」を1個乗せます。
- その角砂糖の上から、噴水型の給水器(アブサン・ファウンテン)やカラフェで、氷で冷やした水を一滴ずつゆっくりと垂らしていきます。
- 水がアブサンに落ちると、白濁(ルーシュ)が始まります。
- 砂糖が全て溶けたら軽くかき混ぜて完成です。
このゆっくりと時間をかけて白濁していく様子や、砂糖が苦味を和らげるプロセス自体が、アブサンを飲む楽しみの一つとされています。
体験談|パリのカフェで飲んだ「ペルノ」の衝撃
僕がまだ学生だった頃、初めてパリのカフェを訪れた時の話です。隣の席に座った年配のムッシュが、昼間から鮮やかな黄緑色のお酒を水で割って、白く濁らせながらゆっくりと飲んでいました。
「あれが、ゴッホが飲んでいたアブサンか!」
僕は早合点し、憧れの「禁断の酒」を体験しようと、ギャルソン(店員)に「彼と同じもの(Le même)」と注文しました。出てきたのは、まぎれもなく「ペルノ(Pernod)」のボトルと氷入りの水差しでした。
期待に胸を膨らませ、水で割って白濁させて一口。…「甘い!そして、八角(中華料理のスパイス)の匂いがすごい!」
僕が想像していた「危険なハーブの味」とは程遠く、強烈なアニス(リコリス)の甘い香りが口いっぱいに広がりました。それが「ペルノ・アニス(パスティス)」であり、アブサンの代替品としてフランスのカフェ文化に根付いたお酒だと知ったのは、随分と後のことでした。
数年後、プラハのバーで本物の「アブサン」(もちろんニガヨモギ入り)を角砂糖の儀式で飲みました。その味はペルノとは全く別物で、ハーブの香りが何層にも重なり、奥深い苦味がありました。この体験で、アブサンの「オリジナル」と、ペルノという「偉大な代替品」の違いを、舌で理解することができました。
ペルノとアブサンに関するよくある質問
結局、「ペルノ」にはニガヨモギ(ツヨン)は入っていないのですか?
はい、私たちが一般的に「ペルノ」と呼ぶ黄緑色のアニスリキュール(アルコール40%)には、ニガヨモギ(ツヨン)は含まれていません。ただし、同ブランドが復活させた「ペルノ・アブサン」(アルコール68%)という別の商品には、ニガヨモギが含まれています。
ペルノ(アニス)はなぜ水を入れると白く濁るのですか?
これは「ルーシュ効果(ウーゾー効果)」と呼ばれる現象です。ペルノに含まれるアニスやフェンネルの香り成分(アネトール)はアルコールには溶けますが、水には溶けにくい性質があります。そのため、アルコール度数が下がると、溶けきれなくなった油性成分が乳化して白く濁って見えるのです。アブサンも同様に白濁します。
パスティスとアブサンの違いは何ですか?
パスティス(Pastis)は、アブサンが禁止された後に南フランス(特にマルセイユ)で生まれたリキュールで、ニガヨモギを含まないアニスリキュールの総称です。「ペルノ」や「リカール(Ricard)」が最も有名なブランドです。つまり、「ペルノ(アニス)」はパスティスの一種です。
まとめ|ペルノとアブサン、どちらを選ぶべきか?
ペルノとアブサンの違い、スッキリ整理できたでしょうか。
どちらもアニス系のハーブの香りが特徴ですが、その中身は全く異なります。
アニスやリコリスの甘い香りが好きで、アルコール度数40%程度で気軽に(水割りで)楽しみたい時は「ペルノ(アニス)」。
ニガヨモギを含む複雑なハーブの香り、独特の苦味、そしてアルコール度数50%以上の強烈な個性を、角砂糖を使った「儀式」と共にじっくりと楽しみたい時は「アブサン」。
このように覚えておけば、気分やシーンに合わせて最適なお酒を選べますよ。
どちらも奥深い飲み物・ドリンクの世界です。ぜひ様々なアルコール類を試して、お気に入りを見つけてください。
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