抹茶と煎茶、どちらも日本の食卓に欠かせない緑茶ですが、この二つが全くの別物であることをご存知ですか?
「抹茶は粉で、煎茶は茶葉でしょ?」——確かにその通りですが、実はその見た目の違いが生まれるまでに、畑での「栽培方法」から「製造工程」に至るまで、根本的な違いがあるんです。
抹茶の濃厚な旨味と、煎茶の爽やかな渋み。この味の違いは、日光の当て方によって生まれています。
この記事を読めば、抹茶がなぜ高価なのか、煎茶がなぜ日常的なのか、その理由から淹れ方、栄養価の違いまでスッキリと理解できます。もう緑茶選びで迷うことはありませんよ。
まずは、両者の決定的な違いを一覧表で比較してみましょう。
結論|抹茶と煎茶の違いを一言でまとめる
「抹茶」と「煎茶」の最大の違いは、①栽培方法、②製造工程、③飲み方の3点です。「抹茶」は、日光を遮って(覆下栽培)育てた茶葉を、揉まずに乾燥させた「碾茶(てんちゃ)」を石臼で挽いた「粉末」を、お湯に溶かして(点てて)飲みます。一方、「煎茶」は日光を浴びせて(露天栽培)育てた茶葉を、蒸して揉みながら乾燥させた「茶葉」を、急須でお湯を注いで(淹れて)飲みます。
この違いが、抹茶の「濃厚な旨味」と、煎茶の「爽やかな渋み」という、対照的な味わいを生み出しているのです。
| 項目 | 抹茶(まっちゃ) | 煎茶(せんちゃ) |
|---|---|---|
| 栽培方法 | 覆下(おおいした)栽培(日光を遮る) | 露天(ろてん)栽培(日光を浴びる) |
| 原材料 | 碾茶(てんちゃ) | 煎茶(茶葉) |
| 製造工程 | 蒸す → 揉まずに乾燥 → 石臼で挽く | 蒸す → 揉みながら乾燥 |
| 形状 | 微細な粉末 | 針状の茶葉 |
| 飲み方 | お湯に溶かして「点(た)てる」(茶葉ごと飲む) | 急須で「淹(い)れる」(浸出液を飲む) |
| 味の特徴 | 濃厚な旨味、まろやかな苦味、甘み | 爽やかな渋み、旨味とのバランス |
| 香り | 覆い香(海苔や青のりのような独特な香り) | 清々しい若葉のような香り |
| 色(液体) | 不透明で鮮やかな濃い緑色(翡翠色) | 透明感のある黄緑色 |
| 主な用途 | 茶道、抹茶ラテ、スイーツ | 日常の飲用、食後のお茶 |
抹茶と煎茶の定義・原材料・製造工程の違い
煎茶は日光を浴びせる「露天栽培」で育てられ、カテキン(渋み)が生成されます。製造工程では茶葉を「揉む」のが特徴です。抹茶の原料(碾茶)は、日光を遮る「覆下栽培」で育てられ、テアニン(旨味)が豊富に残ります。製造工程では茶葉を「揉まずに」乾燥させ、石臼で挽いて粉末にします。
両者の違いは、畑での育て方から始まっています。
「抹茶」とは?|碾茶(てんちゃ)を粉末にしたもの
抹茶は、ただの粉末緑茶ではありません。その原料となる「碾茶(てんちゃ)」は、特別な栽培方法で育てられます。
茶摘みの最低でも20日ほど前から、茶園全体をヨシズやワラ(現代では黒い化学繊維の布=寒冷紗)で覆い、日光を意図的に遮断します。これを「覆下栽培(おおいしたさいばい)」と呼びます。
光を制限された茶葉は、光合成をしようと葉緑素を増やし、鮮やかな濃い緑色になります。さらに、旨味成分である「テアニン」が、渋み成分である「カテキン」に変化するのを防ぐことができます。
こうして育てられた旨味たっぷりの茶葉を蒸して発酵を止め、「揉まずに」そのまま乾燥させます。その後、茎や葉脈を丁寧に取り除き、葉肉の部分だけにしたものが「碾茶」です。
この碾茶を、石臼を使って非常に細かく挽き、微細な粉末状にしたものこそが「抹茶」なのです。
「煎茶」とは?|茶葉を蒸して揉んだもの
煎茶は、日本で最も一般的に飲まれている緑茶です。
抹茶とは対照的に、茶葉は収穫まで太陽の光をたっぷりと浴びる「露天栽培」で育てられます。
日光を浴びることで光合成が活発に行われ、茶葉の中の旨味成分(テアニン)が、緑茶特有の爽やかな渋み成分である「カテキン」に変化していきます。
収穫された茶葉は、すぐに「蒸し」て発酵を止めます。そして、その後の工程が抹茶と決定的に異なります。煎茶は、茶葉を何度も「揉みながら」乾燥させていくのです。
この「揉む」工程(精揉)によって、茶葉の組織が破壊され、お湯を注いだ時にお茶の成分が溶け出しやすくなります。そして、あの美しい針のような茶葉の形に仕上がります。
決定的な違い①:栽培方法(覆下栽培 vs 露天栽培)
栽培方法の違いが、味の方向性を決定づけています。
- 抹茶(覆下栽培):日光を遮る → テアニン(旨味)がカテキン(渋み)に変化するのを防ぐ → 旨味が強い
- 煎茶(露天栽培):日光を浴びる → テアニンがカテキンに変化する → 渋みが強い
決定的な違い②:製造工程(揉む vs 揉まずに挽く)
製造工程の違いが、飲み方を決定づけています。
- 抹茶(揉まずに挽く):茶葉を揉まないため、成分が溶け出しにくい。だから粉末にして、お湯に「溶かして」茶葉ごと飲む。
- 煎茶(揉んで乾燥):茶葉を揉んでいるため、成分が溶け出しやすい。だから急須で「淹れて」浸出液だけを飲む。
味・香り・カフェイン・色の違い
抹茶は「覆い香」と呼ばれる海苔のような独特の香りと、テアニン由来の強い旨味・甘みが特徴です。色は不透明な濃い緑色。煎茶は「爽やかな若葉の香り」と、カテキン由来の心地よい渋みが特徴で、色は透明な黄緑色です。栄養面では、茶葉をまるごと飲む抹茶の方が、カフェインや食物繊維などの総摂取量は多くなります。
味と香りの比較|濃厚な旨味 vs 爽やかな渋み
抹茶の最大の魅力は、その「濃厚な旨味」と「まろやかな甘み」です。これは覆下栽培によって豊富に残されたアミノ酸(テアニン)によるものです。苦味も感じられますが、角が取れたまろやかな苦味です。
香りも独特で、「覆い香(おおいか)」と呼ばれる、青のりや海苔にも似た、甘く芳醇な香りがします。
煎茶の魅力は、「爽やかな渋み」と「旨味」の絶妙なバランスです。露天栽培で生まれたカテキンによる心地よい渋みが、口の中をさっぱりとさせます。香りは清々しい若葉のようで、リフレッシュに最適です。
色の比較|不透明な濃緑 vs 透明な黄緑
抹茶は、粉末(茶葉そのもの)をお湯に溶かして撹拌するため、液体は不透明で、鮮やかな濃い緑色(翡翠色)をしています。上質なものほど色が鮮やかです。
煎茶は、茶葉から成分を浸出した液体を飲むため、透明感のある明るい黄緑色をしています。(ただし、茶葉を細かく砕いて強く蒸した「深蒸し煎茶」の場合は、粉が混じって濃い緑色になることもあります。)
カフェインと栄養成分の違い|茶葉ごと摂取 vs 浸出液
ここも大きな違いです。
抹茶は、石臼で挽いた茶葉をまるごと飲み干します。そのため、茶葉に含まれる栄養素を100%摂取できるのが強みです。お湯に溶け出しにくい食物繊維、ビタミンA(βカロテン)、ビタミンEなども、すべて体に取り入れることができます。
煎茶は、急須で淹れた「浸出液」を飲みます。そのため、摂取できるのはお湯に溶け出す成分が中心です。カテキンやカフェイン、旨味成分のテアニン、そして熱に強いビタミンCなどが豊富に含まれます。逆に、食物繊維やビタミンAなどは、茶殻(ちゃがら)の方に残ってしまいます。
カフェインの含有量自体は、茶葉100gあたりで比較すると、覆下栽培で育てられる抹茶(碾茶)の方が多い傾向にあります。抹茶は茶葉ごと飲むため、1杯あたりのカフェイン摂取量も抹茶の方が多くなるのが一般的です。
飲み方・淹れ方・シーン別の楽しみ方
両者は飲み方が根本的に異なります。抹茶は茶碗に粉末を入れ、お湯を注ぎ、茶筅(ちゃせん)で撹拌して「点(た)てる」ことで泡立て、茶葉ごと飲みます。煎茶は急須に茶葉を入れ、お湯を注いで成分を浸出し、その液体だけを「淹(い)れる」ことで飲みます。
抹茶の飲み方|茶筅で「点てる」
抹茶は「淹れる」とは言わず、「点てる(たてる)」と表現します。
- 篩(ふるい)でダマをなくした抹茶(粉末)を茶杓(ちゃしゃく)で茶碗に入れます。
- 少量のお湯(80℃程度)で抹茶を溶き、ペースト状に練ります。
- 残りのお湯を静かに注ぎます。
- 茶筅(ちゃせん)という竹製の泡立て器のような道具を使い、手首を素早く前後に振って撹拌し、きめ細かく泡立てます。
- 泡が立ったら、茶碗ごと持ち、茶葉の粉末が沈まないうちにすべて飲み干します。
煎茶の飲み方|急須で「淹れる」
煎茶は「点てる」とは言わず、「淹れる(いれる)」と表現します。
- 急須に茶葉を入れます。
- お湯(70℃〜80℃程度)を急須に注ぎます。(熱湯すぎると渋みが出すぎるため、少し冷まします)
- 約1分間(深蒸し煎茶なら30秒程度)待ち、茶葉が開いて成分が浸出するのを待ちます。
- 複数の湯呑みに注ぐ場合は、味が均一になるように少しずつ注ぎ分ける「廻し注ぎ(まわしつぎ)」をします。
- 最後の一滴まで絞り切ることで、二煎目も美味しく淹れられます。
文化・歴史・茶道との関わり
「抹茶」は鎌倉時代に禅宗と共に伝わり、武家社会や茶の湯(茶道)の儀式的な飲み物として発展しました。「煎茶」は江戸時代に、それまでの抹茶とは異なる手軽な淹れ方(淹茶法)として発明され、庶民の日常的な飲み物として日本全国に普及しました。
抹茶と茶道(点茶法)の歴史
抹茶の飲み方(粉末にお湯を注ぎ、撹拌する「点茶法」)は、鎌倉時代初期に栄西禅師(えいさいぜんじ)が中国(宋)から持ち帰ったとされています。
当時は主に禅宗の寺院で、修行中の眠気覚まし(カフェイン効果)として飲まれる薬のような存在でした。その後、室町時代になると武家社会に取り入れられ、千利休によって「茶道(茶の湯)」として大成されます。
抹茶は、精神性を伴う儀式的な飲み物、非日常の特別な飲み物として、日本の文化に深く根付いていきました。
煎茶と日常(淹茶法)の歴史
一方、煎茶の歴史は抹茶に比べて新しく、江戸時代中期(18世紀)に始まります。
京都の永谷宗円(ながたにそうえん)が、それまでの茶葉(主に抹茶の原料である碾茶や、品質の低い番茶)とは全く異なる、茶葉を蒸して揉みながら乾燥させる「蒸し製煎茶」の製法を発明しました。
この茶葉を急須で手軽に淹れる「淹茶法(せんちゃほう)」は、抹茶の儀式的な作法を窮屈と感じていた文人たちの間で人気を博し、やがて日本全国の庶民の「日常の飲み物」として爆発的に普及しました。
体験談|茶道体験で知った抹茶の奥深い「旨味」
僕が抹茶と煎茶の違いを本当に理解したのは、数年前に京都でふらりと立ち寄った茶道体験でのことでした。
それまでの僕にとって「抹茶」とは、抹茶アイスや抹茶ラテの味。「苦くて甘いもの」という程度の認識でした。煎茶との違いも、「粉か葉っぱか」くらいにしか思っていませんでした。
体験では、まず自分で茶筅を使って抹茶を「点てる」ところから教わりました。ぎこちない手つきで泡立てた抹茶を一口飲んで、僕は衝撃を受けました。
「……苦くない。いや、苦いけど、それ以上に『旨味』がすごい!」
僕が知っていた抹茶スイーツの甘さとは全く違う、出汁(だし)にも似た濃厚な旨味(テアニン)と、鼻に抜ける海苔のような芳醇な香り(覆い香)。そして、その後に続くまろやかな苦味。これが本物の抹茶の味かと感動しました。
その夜、旅館で夕食後に出された一杯の「煎茶」を飲んで、僕は再びハッとしました。
昼間に飲んだ抹茶が「舌にまとわりつくような濃厚な旨味」だったのに対し、その煎茶は「口の中をさっぱりと洗い流してくれる、爽やかな渋み」が主役でした。脂っこい食事の後だったこともあり、その清涼感がたまらなく美味しく感じられたのです。
この時、僕は「抹茶は特別な時間にじっくり味わうご馳走であり、煎茶は日常に寄り添い、食事を引き立てるパートナーなのだ」と、体験として両者の違いを理解しました。
抹茶と煎茶に関するよくある質問
抹茶と煎茶について、よくある疑問にお答えしますね。
質問1:「玉露(ぎょくろ)」や「かぶせ茶」は何が違うのですか?
回答:とても良い質問ですね。これらは抹茶と煎茶の「中間に位置するお茶」と考えると分かりやすいです。栽培方法は抹茶と同じ「覆下栽培」(日光を遮る)ですが、製造工程は煎茶と同じ「揉む」工程を経て作られます。つまり、「高級な煎茶」の仲間です。日光を遮る期間が最も長い(20日以上)のが玉露と碾茶(抹茶の原料)、次いで長い(1〜2週間)のがかぶせ茶、全く遮らないのが煎茶です。玉露は抹茶のような強い旨味(テアニン)と、煎茶の風味を併せ持つのが特徴です。
質問2:抹茶ラテは煎茶でも作れますか?
回答:煎茶を粉末にした「粉末緑茶(ふんまつりょくちゃ)」を使えば、緑茶ラテを作ることは可能です。ただし、煎茶は渋み成分のカテキンが多いため、抹茶ラテのような濃厚な旨味や香りは出にくいです。抹茶ラテ特有のまろやかな風味は、ミルクのコクに負けない強い旨味と香りを持つ「抹茶」だからこそ引き立ちます。
質問3:抹茶はカフェインが多いと聞きましたが、煎茶より多いですか?
回答:はい、1杯あたりの「摂取量」で比較すると、抹茶の方が多くなる傾向があります。茶葉そのものに含まれるカフェイン量は、日光を遮って育てる抹茶(碾茶)の方が多いとされています。煎茶はお湯に溶け出したカフェインだけを飲むのに対し、抹茶は茶葉そのものをまるごと飲むため、カフェインの総摂取量も多くなります。
まとめ|抹茶と煎茶、どちらを選ぶべきか?
「抹茶」と「煎茶」、どちらも日本の誇る緑茶ですが、その個性は全く異なることがお分かりいただけたでしょうか。
栽培方法(日光を遮るか、浴びるか)、製造方法(揉むか、挽くか)、そして飲み方(淹れるか、点てるか)という根本的な違いが、味わいの違いを生み出していました。
どちらを選ぶべきか、目的別にまとめます。
- 濃厚な旨味と甘み、まろやかな苦味を楽しみたい時
- 茶葉の栄養(食物繊維なども)を丸ごと摂取したい時
- 抹茶ラテやお菓子作りに使いたい時
→ 抹茶 がおすすめです。
- 爽やかな香りと心地よい渋みでリフレッシュしたい時
- 毎日の食後や仕事の合間に、気軽に飲みたい時
- コストパフォーマンス良く日常的に楽しみたい時
→ 煎茶 がおすすめです。
それぞれの歴史や文化を知ると、いつもの一杯がさらに味わい深く感じられるかもしれませんね。ぜひ、シーンに合わせて使い分けてみてください。
飲み物の違いについてもっと知りたい方は、飲み物・ドリンクの違いカテゴリのまとめ記事もぜひご覧ください。お茶の栄養成分については、厚生労働省の栄養・食生活に関するページなども参考になりますよ。