スペシャルティコーヒーの世界に足を踏み入れると、必ず出会う二つの名前、「イルガチェフェ」と「モカ」。
どちらもフルーティーで高品質なイメージがありますが、この二つの関係性を正しく説明するのは意外と難しいですよね。
イルガチェフェとモカの最も重要な違いは、「イルガチェフェ」がエチオピアにあるコーヒーの特定の「生産地区名」であるのに対し、「モカ」はイエメンの港の名前に由来する、エチオピア産とイエメン産のコーヒー豆を指す「広義のブランド名(流通名)」である、という点です。
つまり、「イルガチェフェ」は「モカ」という大きなブランドの中の一つ、という親子のような関係なのです。
この記事を読めば、二つの言葉の正確な定義、味や香りの違い、そして「モカ・イルガチェフェ」のように併記される理由まで、スッキリと理解できます。
それでは、この奥深いモカコーヒーの世界を一緒に見ていきましょう。
結論|イルガチェフェとモカの最も重要な違い
イルガチェフェとモカの違いは、「特定の産地名」か「広範な流通名(ブランド名)」かの違いです。
イルガチェフェは、エチオピア南部のシダモ地方にある非常に小さな「地区(ウォレダ)」の名前です。
一方、モカは、かつてイエメンの「モカ港」から出荷されていた高品質なコーヒー豆(主にエチオピア産とイエメン産)の総称として使われる、より広い概念のブランド名です。
イルガチェフェとモカの定義と分類
イルガチェフェは「エチオピア・モカ」の中でも最高品質とされる地域ブランドの一つです。モカは、歴史的に「イエメン産」と「エチオピア産」の二大ブランドを指し、それぞれ異なる風味の個性を持っています。
まず、それぞれの言葉が何を指しているのか、その定義をはっきりさせましょう。
イルガチェフェ (Yirgacheffe) とは?
イルガチェフェ(イェガチョフ、イルガチェフとも表記されます)は、エチオピア連邦民主共和国の南部、シダモ地方の中にあるごく限られた「地区(ウォレダ)」の名前です。
この地域は標高が非常に高く(約1,800〜2,200m)、昼夜の寒暖差が大きいことから、非常に品質の高いコーヒー豆が生産されることで世界的に有名です。
その独特な風味から、「エチオピア・モカ」の中でも最高級品の一つとして、独立したブランド名で取引されています。
モカ (Mocha / Moka) とは?
モカは、もともとアラビア半島の国、イエメンにある「モカ港」の名前に由来しています。
15世紀から18世紀頃、モカ港は世界で初めてコーヒー豆が(合法的に)輸出された港として栄えました。当時、この港からは対岸のエチオピアで生産されたコーヒー豆も集められ、一緒に出荷されていました。
この歴史的背景から、コーヒーの世界では、モカ港から出荷されていた以下の二つを総称して「モカコーヒー」と呼ぶようになりました。
- エチオピア・モカ(イルガチェフェ、シダモ、ハラーなど)
- イエメン・モカ(マタリ、バニー・マタルなど)
(補足)カフェモカとの違い
ここで非常に重要な注意点です。
カフェで提供される、チョコレートシロップとミルクが入った甘いドリンク「カフェモカ」は、コーヒー豆の「モカ」とは全くの別物です。
「カフェモカ」は、イエメン産モカコーヒーが持つ独特の「チョコレートのような風味(モカ・フレーバー)」にちなんで名付けられたアレンジドリンクなのです。混同しないようにしましょう。
決定的な違い|「特定の地区名」と「広範なブランド名」
イルガチェフェは「エチオピア・シダモ・イルガチェフェ」という住所のようにピンポイントの「地区名」です。モカは「イエメン産」と「エチオピア産」という二つの国のコーヒーを包含する広義のブランド名です。
イルガチェフェ:エチオピアの特定の「地区」
イルガチェフェは、産地が非常に限定されています。「エチオピア」という国の中の、「シダモ」という地方の中の、さらに小さな「イルガチェフェ」という地区、というピンポイントな地名です。
この地域で生産され、定められた品質基準(特にウォッシュト精製による独特の風味)を満たしたものだけが「イルガチェフェ」を名乗ることができます。
モカ:イエメンの「港」に由来する広義の名称
モカは、特定の品種や味を指す言葉ではなく、「イエメン産コーヒー」と「エチオピア産コーヒー」の総称として使われる、非常に広い範囲をカバーするブランド名です。
同じ「モカ」という名前がついていても、エチオピア産の「モカ・イルガチェフェ」と、イエメン産の「モカ・マタリ」では、風味の傾向が全く異なります。
イルガチェフェは「モカ・ブランド」の一部であり、その中でも特に有名な地域ブランドの一つ、という関係性ですね。
味・香り・風味の特徴の違い
イルガチェフェは、その精製方法(ウォッシュト)により、まるで紅茶やレモンのような華やかな香りと、明るくきれいな酸味が特徴です。一方、モカ(特にイエメン・モカ)は、伝統的な精製方法(ナチュラル)により、ワインやスパイス、チョコレートにも似た、複雑で濃厚な甘みと独特の風味が特徴です。
「モカ」という名前で一括りにされがちですが、産地や精製方法によって風味は大きく異なります。
イルガチェフェの風味:華やかな酸味とフローラルな香り
イルガチェフェ産のコーヒーは、伝統的に「ウォッシュト(水洗式)」という精製方法で処理されることが多いです。これは、収穫したコーヒーチェリーの果肉を水で洗い流してから乾燥させる方法で、雑味が取り除かれ、豆本来のクリーンな風味が引き立ちます。
レモンティーやベルガモット、ジャスミンなどに例えられる非常に華やかでフローラルな香りと、明るくきれいな酸味が最大の特徴です。「これが本当にコーヒー?」と驚く人も多い、個性的な味わいです。
モカの風味:産地で異なる(イエメン・モカ、エチオピア・モカ)
「モカ」と聞いて多くの人が連想する、いわゆる「モカ・フレーバー」(チョコレートやカカオのような風味)は、特にイエメン産のモカ(モカ・マタリなど)や、エチオピアのハラー地区のモカに強く見られます。
これらは伝統的な「ナチュラル(乾燥式)」で精製されることが多く、コーヒーチェリーの果肉ごと乾燥させるため、熟した果実のような濃厚な甘み、ワインやスパイスにも似た複雑で独特な香りが生まれます。
このように、同じ「モカ」ブランドでも、産地や精製方法によって風味は全く異なるのです。
比較一覧表|イルガチェフェとモカの違い
| 項目 | イルガチェフェ | モカ(広義) |
|---|---|---|
| 分類 | 特定地区名(地名) | 広義のブランド名(港由来) |
| 主な産地 | エチオピア南部の特定地区 | エチオピア全般、イエメン全般 |
| 含まれる関係 | モカの一部(モカ・イルガチェフェ) | イルガチェフェを含む |
| 主な風味 (イルガチェフェ) | 華やか、フローラル、紅茶、 レモンのような酸味 | 産地により多様 (上記イルガチェフェの風味や、 下記イエメン・モカの風味など) |
| 主な風味 (イエメン・モカ) | (該当しない) | 濃厚な甘み、スパイシー、 ワイン、チョコレート感 |
なぜ「モカ・イルガチェフェ」と呼ばれるのか?
「モカ・イルガチェフェ」という呼び方は、「エチオピア・モカという大きなブランドの中の、イルガチェフェ地区で獲れた豆ですよ」という意味を示しています。産地を明確にするための表記です。
カフェや豆の専門店で「モカ・イルガチェフェ」という表記を見て、混乱したことがあるかもしれません。
これは、歴史的な背景から来ています。
まず、エチオピア産のコーヒーは、かつてイエメンのモカ港から輸出されていたため、大きな分類として「モカ」と呼ばれます(=エチオピア・モカ)。
しかし、エチオピア国内には「イルガチェフェ」「シダモ」「ハラー」など、それぞれ全く異なる風味を持つ有名な産地が多数存在します。
そのため、単に「エチオピア・モカ」と呼ぶだけでは、どんな風味のコーヒーか分かりません。
そこで、「(エチオピア)モカ・ブランドの中の、イルガチェフェ地区の豆です」という意味を明確にするために、「モカ・イルガチェフェ」というように、大分類と小分類を併記する形で呼ばれているのです。
体験談|僕が「モカ」という名前の奥深さに気づいた日
僕もコーヒーを学び始めた頃は、「モカ」=「チョコレートみたいな甘いコーヒー」と単純に思い込んでいました。「カフェモカ」のイメージが強かったからですね。
ある日、行きつけのカフェでマスターに「今日は面白いモカが2種類ありますよ」と勧められました。
一つは「エチオピア モカ・イルガチェフェ」。
もう一つは「イエメン モカ・マタリ」。
飲み比べをさせてもらって、僕は自分の「モカ」に対する認識が完全に間違っていたことに気づきました。
「イルガチェフェ」は、僕が想像していた「モカ」とは全く別物でした。まるでレモンティーか紅茶のような華やかな香りと、突き抜けるように明るい酸味。「これが本当にコーヒー?」と何度もカップの香りを確認したほどです。
一方、「マタリ」は、どっしりとしたコクと、シナモンやワインにも似たスパイシーで独特な甘みがあり、確かにこれが「チョコレートのような風味(モカ・フレーバー)」の由来かと納得できる、複雑で濃厚な味わいでした。
マスターは「どちらも『モカ』と呼ばれる歴史あるコーヒーなんだよ」と教えてくれました。
この体験から、「モカ」という名前一つの中に、イルガチェフェのような「フローラル系」と、マタリのような「スパイシー系」が共存していること、そしてイルガチェフェは「モカ」という大きな物語の中の、特別な「地域ブランド」なのだと深く理解しました。
よくある質問(FAQ)
イルガチェフェはモカの一種ですか?
はい、その通りです。広義の「モカコーヒー」というブランド・流通名の中に含まれる、エチオピア産の特定地域ブランドの一つがイルガチェフェです。
「カフェモカ」と「モカコーヒー」は同じですか?
いいえ、全く別物です。「モカコーヒー」はイエメンやエチオピア産のコーヒー豆のブランド名です。一方、「カフェモカ」はエスプレッソにチョコレートシロップとミルクを加えたアレンジドリンクの名前ですね。
イルガチェフェとモカ、どちらが高級ですか?
どちらも高品質なコーヒー豆の代名詞ですが、価格は品質(グレード)や希少性によって決まります。イルガチェフェもイエメン産のモカも、最高品質のものはスペシャルティコーヒーとして非常に高価で取引されます。一概にどちらが高級とは言えませんね。
まとめ|イルガチェフェとモカ、どちらを選ぶべきか?
イルガチェフェとモカの違い、そしてその深い関係性についてご紹介しました。
「イルガチェフェ」はエチオピアの特定の地区名であり、「モカ」はそのイルガチェフェを含む、エチオピア産とイエメン産のコーヒー豆を指す広義のブランド名です。
コーヒー豆を選ぶ際は、この違いを理解して、好みの風味を探してみてください。
- 「イルガチェフェ」(エチオピア):華やかな香りや、紅茶・レモンのようなクリーンな酸味が好きな方におすすめです。
- 「モカ・マタリ」(イエメン)や「モカ・ハラー」(エチオピア):濃厚な甘みや、スパイシーでチョコレートのような複雑な風味が好きな方におすすめです。
ぜひお店の人に「同じモカでも、イルガチェフェとイエメンのモカはどう違いますか?」と尋ねてみてください。きっと、あなたのコーヒーの世界がさらに広がるはずです。
「違いラボ」では、他にも様々な飲み物・ドリンクの違いについて詳しく解説しています。