「コリアンダー」と「パクチー」、この二つの食材の違いについて、はっきりと説明できますか?
カレーのスパイスコーナーには「コリアンダー」が並び、エスニック料理店では「パクチー」が山盛りで出てきますよね。
実は、コリアンダーとパクチーは、植物学的には全く同じ植物(学名:Coriandrum sativum)を指しています。
最大の違いは「言語」であり、それによって「どの部位を指すか」のニュアンスが異なる点にあります。
この記事では、コリアンダーとパクチーの呼び名の違いから、部位ごとの味、栄養、そして決定的な料理での使い分けまで、詳しく解説していきます。
この違いを理解すれば、スパイス売り場やレストランで迷うことはもうありません。
結論|コリアンダーとパクチーの違いとは?
コリアンダーとパクチーは、どちらもセリ科の植物「Coriandrum sativum」を指す、同じ植物です。最大の違いは言語であり、「コリアンダー」は英語名、「パクチー」はタイ語名です。一般的に、日本では「コリアンダー」が主に乾燥させた「種子(スパイス)」を指し、「パクチー」が「葉や茎(生鮮ハーブ)」を指すという使い分けがされています。
ややこしく感じるかもしれませんが、ポイントは「同じ植物を、どの国の言葉で呼ぶか」ただそれだけなんです。
そして、国によってその植物の「どの部分を主に利用してきたか」が異なるため、言葉が指し示すニュアンスが変わってきたんですね。
まずは、それぞれの言葉の定義を見ていきましょう。
| 項目 | コリアンダー (Coriander) | パクチー (Phakchi) |
|---|---|---|
| 言語 | 英語 | タイ語 |
| 植物分類 | 同じ植物(セリ科トラノオジラミ属) | |
| 日本での主な使われ方 | 乾燥させた「種子」(スパイス)を指すことが多い。 | 生の「葉・茎」(ハーブ・野菜)を指すことが多い。 |
| 主な香り | (種子)甘くスパイシー、柑橘系 | (葉)独特の強い芳香(カメムシソウとも) |
| 主な用途 | カレー、煮込み、ピクルス、ソーセージ | トムヤムクン、フォー、生春巻き、サラダ |
コリアンダーとパクチーは「同じ植物」
「コリアンダー」は英語、「パクチー」はタイ語、「香菜(シャンツァイ)」は中国語で、すべて同じセリ科の植物を指します。日本では、タイ料理の普及とともに「パクチー」という呼び名が定着しました。
この植物は、世界中で古くから利用されており、地域ごとに異なる名前で呼ばれています。
コリアンダー(Coriander)とは?
「コリアンダー」は、この植物の英語名です。
欧米やインドなどでは、主に種子を乾燥させてスパイスとして利用する食文化が発展しました。そのため、英語圏で「コリアンダー」と言うと、多くの場合、カレー粉の主原料にもなる茶色い丸い「種子(コリアンダーシード)」を指します。
もちろん、葉の部分も「コリアンダーリーフ(Coriander leaf)」や、スペイン語由来の「シラントロ(Cilantro)」と呼んで食用にしますが、単に「コリアンダー」と言った場合は種子を指すのが一般的です。
パクチー(Phakchi)とは?
「パクチー」は、この植物のタイ語名(ผักชี)です。
タイやベトナムなどの東南アジアでは、種子よりも生の葉や茎、さらには根っこまでをハーブ・香味野菜として多用する食文化が発展しました。
日本でも、1990年代以降のエスニック料理ブーム、特にタイ料理が人気になったことで、生の葉を指す言葉として「パクチー」という呼び名が急速に広まり、定着しました。
香菜(シャンツァイ)など他の呼び名
他にも様々な呼び名があります。
- 香菜(シャンツァイ):中国語名です。中華料理店などで見かけることがあります。
- コエンドロ:ポルトガル語由来の古い呼び名です。
- カメムシソウ:和名の一つで、その独特の香りに由来しています。
これらすべてが、同じ植物を指していると知っておくと混乱が少ないですね。
決定的な違いは「使う部位」と「香り」
同じ植物ですが、部位によって香りの成分が全く異なります。葉や茎(パクチー)は「アルデヒド類」による独特の青臭い香り(カメムシソウ様)が特徴です。一方、種子(コリアンダーシード)は「リナロール」という成分が主で、甘くスパイシーな柑橘系の香りがします。
「同じ植物なら、葉も種も同じ匂いがするの?」と思うかもしれませんが、ここがこの植物の面白いところです。
葉と種子では、香りの主成分が全く異なります。
葉・茎(パクチー/コリアンダーリーフ)の味・香り
私たちが「パクチー」と聞いてイメージする、あの独特で強烈な香り。
これは主に「アルデヒド類」という揮発性の成分によるものです。この成分が、一部のカメムシが発する匂いと共通するため、「カメムシソウ」と呼ばれることもあります。
この香りは非常に個性的で、「好き」か「嫌い」かがはっきり分かれる原因となっています。遺伝子によって、この香りを「石鹸のよう」と感じる人もいるそうです。
味自体に強いクセはありませんが、この香りが口全体に広がるため、料理のアクセントとして非常に強力な存在感を放ちます。
種子(コリアンダーシード)の味・香り
一方、「コリアンダーシード」として使われる種子は、葉とは全く異なる香りを持っています。
主成分は「リナロール」というアルコール類で、柑橘類(特にオレンジの皮)を思わせる、甘くスパイシーで爽やかな香りがします。
葉(パクチー)が苦手な人でも、種子(コリアンダー)の香りは全く問題なく、むしろ「良い香り」と感じることがほとんどです。
ホール(粒のまま)とパウダー(粉末)があり、ホールは加熱することで香りが立ち、パウダーはカレー粉のベースとして多用されます。
根(パクチーの根)の味・香り
タイ料理などでは、パクチーの「根」も捨てずに使います。
根の部分は、葉よりもさらに香りが強く、凝縮されています。生のままでは硬くて食べられませんが、叩き潰してニンニクや唐辛子と一緒に炒めたり、煮込み料理の出汁(ブーケガルニのように)として使ったりすると、料理全体に深い香りを移すことができます。
コリアンダー(パクチー)の栄養と成分
生の葉(パクチー)は、抗酸化作用のあるβ-カロテン(ビタミンA)やビタミンC、E、Kを豊富に含む緑黄色野菜です。一方、乾燥させた種子(コリアンダーシード)は、食物繊維や鉄分、マグネシウムなどのミネラルを比較的多く含みます。
利用する部位が異なるため、摂取できる栄養素も異なります。
葉(パクチー)の主な栄養素
生のパクチー(葉)は、栄養価の高い緑黄色野菜に分類されます。
- β-カロテン:体内でビタミンAに変換され、皮膚や粘膜の健康維持、抗酸化作用が期待できます。
- ビタミンC:コラーゲンの生成を助け、抗酸化作用があります。
- ビタミンE:強い抗酸化作用を持つビタミンです。
- ビタミンK:骨の健康維持や血液凝固に関わるビタミンです。
ただし、薬味として少量使うことが多いので、これらの栄養素を大量に摂取するのは難しいかもしれませんね。
種子(コリアンダーシード)の主な栄養素
スパイスとして使われるコリアンダーシードも、栄養を含んでいます。
- 食物繊維:特にパウダー状のものは、少量でも食物繊維の補給になります。
- ミネラル:鉄分、マグネシウム、カルシウムなどを含みます。
また、コリアンダーシードの香り成分(リナロールなど)には、食欲増進や消化促進の働きがあるとも言われています。
料理での使い方・調理法の違い
使い方は明確に異なります。葉・茎(パクチー)は、その強い香りを活かすため、加熱しすぎず、料理の仕上げや薬味として使うのが基本です。一方、種子(コリアンダーシード)は、加熱することで香りが引き立つため、カレーや煮込み料理の「下ごしらえ」や「調理中」に使います。
香りが全く異なるため、料理での役割も正反対と言えます。
葉・茎(パクチー)のおすすめの使い方
「生の香り」と「彩り」を活かすのがパクチー(葉)の使い方です。
熱に弱く、加熱しすぎると独特の香りが飛んでしまうため、料理の仕上げやトッピングとして使うのが最適です。
- 薬味として:トムヤムクン、フォー、ラーメン、スープなどに山盛りに乗せる。
- サラダとして:パクチーサラダとして、他の野菜と一緒にドレッシングで和える。
- 和え物:生春巻きの具材や、ヤムウンセン(タイ風春雨サラダ)に。
- ソースとして:刻んでナンプラーやレモン汁と混ぜてタレにする。
種子(コリアンダーシード)のおすすめの使い方
「加熱によるスパイシーな香り」を引き出すのがコリアンダーシード(種子)の使い方です。
料理の初期段階や調理中に使い、食材に香りを移します。
- カレーのベース:ほぼ全てのカレー粉の主原料です。クミンなど他のスパイスと油で炒めて香りを立てます(テンパリング)。
- 煮込み料理:ポトフやシチュー、スープなどにホール(粒)のまま加えると、爽やかな香りが移ります。
- ピクルス:ピクルス液にホールで加えると、香りがアクセントになります。
- 肉料理の下ごしらえ:ソーセージやハンバーグの練り込み、鶏肉のソテーの香り付けに。
根(パクチーの根)のおすすめの使い方
「香りのベース」として使います。
- スープの出汁:鶏ガラスープなどを取る際に、香味野菜として加える。
- 炒め物の香り付け:細かく刻むか叩き潰し、ニンニクと一緒に油で炒めてペースト状にし、炒め物のベースにする。
旬・保存方法・価格の違い
パクチー(葉)は涼しい気候を好み、旬は春(3〜6月)と秋(9〜11月)ですが、ハウス栽培により通年流通します。一方、コリアンダーシード(種子)は乾燥スパイスのため、通年安定して流通しています。
旬の時期と主な産地
パクチー(葉)は、暑すぎず寒すぎない気候を好むため、露地栽培の旬は春(3月〜6月頃)と秋(9月〜11月頃)です。夏場は暑さで育ちにくく、冬場は寒さで成長が止まります。
ただし、現在はハウス栽培が主流となっており、一年中スーパーで購入することができます。主な産地は、静岡県、福岡県、茨城県、千葉県などです。
コリアンダーシード(種子)は、乾燥させたスパイスとして流通しているため、特定の旬はありません。一年中安定した品質と価格で手に入ります。主な産地はインド、モロッコ、カナダなどです。
正しい保存方法
パクチー(葉)はデリケートで傷みやすいハーブです。
- パクチー(葉):乾燥と多湿の両方に弱いです。軽く湿らせたキッチンペーパーで根元を包み、全体をポリ袋に入れて、冷蔵庫の野菜室に「立てて」保存するのが長持ちのコツです。コップの水に挿しておく方法もありますが、水は毎日替えましょう。
- コリアンダーシード(種子):スパイス全般と同様、湿気と光、熱を避けることが重要です。密閉できる容器に入れ、冷暗所(常温)で保存します。パウダー状のものは特に香りが飛びやすいため、早めに使い切るのがおすすめです。
価格の傾向
パクチー(葉)は生鮮野菜として、コリアンダーシード(種子)は乾燥スパイスとして価格が設定されています。
パクチー(葉)は、一束(袋)100円〜300円程度で販売されることが多いですが、天候不順などで供給が不安定になると価格が高騰することもあります。
コリアンダーシードは、スパイスの小瓶であれば数百円程度で購入でき、比較的安価で長持ちします。
体験談|カレー作りで知った「葉」と「種」の大きな違い
僕がこの二つの違いを強烈に体験したのは、本格的なスパイスカレー作りに挑戦した時でした。
レシピには「コリアンダーパウダー 小さじ2」と書いてあります。当時の僕は「コリアンダー=パクチー」としか知らなかったので、スーパーで買ってきたパクチー(葉)をみじん切りにして、カレーを煮込む鍋に投入したんです。
結果は、もう想像がつきますよね。
煮込まれた鍋からは、僕が期待していたスパイシーなカレーの香りではなく、パクチーの独特な青臭い香りがムワッと立ち上りました。味も、カレーの風味とパクチーの生煮えの香りが喧嘩してしまい、お世辞にも美味しいとは言えない仕上がりになってしまいました。
「何かが違う…」と調べて、初めて「カレーに使うのはコリアンダーの『種』だ!」と知りました。
後日、コリアンダーシード(パウダー)を買ってきて、玉ねぎやクミンと一緒に油で炒めて(テンパリングして)から煮込むと、あの求めていた「カレーらしい」甘くスパイシーな香りがキッチンに広がりました。
「同じ植物なのに、葉と種でこんなにも香りが違うのか!」と衝撃を受けると同時に、葉(パクチー)は「仕上げ」に、種(コリアンダー)は「ベース」に使うという、使い分けの重要性を痛感した体験です。
コリアンダーとパクチーに関するFAQ(よくある質問)
コリアンダーとパクチーについて、よくある疑問にお答えしますね。
結局、コリアンダーとパクチーは同じものですか?
はい、植物学的には「同じ植物」です。
コリアンダーは英語名、パクチーはタイ語名という「呼び名の違い」です。日本では、エスニック料理の普及により、生の葉や茎を「パクチー」、乾燥させた種子(スパイス)を「コリアンダー(シード)」と呼ぶ使い分けが一般的になっています。
パクチーの独特な匂いが「カメムシの匂い」と言われるのはなぜですか?
それは、パクチーの葉に含まれる「アルデヒド類」という香り成分が、カメムシが危険を感じた時に出す匂いの成分と似ているためです。
このため、和名でも「カメムシソウ」と呼ばれることがあります。この香りの感じ方には遺伝的な個人差があるとも言われています。
パクチー(葉)が苦手でも、コリアンダー(種子)は食べられますか?
はい、食べられる可能性は非常に高いです。
前述の通り、葉(パクチー)と種子(コリアンダーシード)は香りの主成分が全く異なります。葉の独特な香りが苦手な方でも、種子の甘くスパイシーな香りは「良い香り」と感じることがほとんどです。カレーやソーセージに入っているコリアンダーシードを知らずに食べているケースも多いですよ。
まとめ|コリアンダーとパクチーは同じ植物。部位で使い分けよう
コリアンダーとパクチーの違い、もう完璧に使い分けられそうですね。
最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。
- 同じ植物である:どちらも学名 Coriandrum sativum というセリ科の植物。
- 言語が違う:コリアンダーは英語、パクチーはタイ語、香菜(シャンツァイ)は中国語。
- 部位と香りが違う:
- パクチー(葉):独特の強い芳香。生のハーブとして薬味やサラダに使う。
- コリアンダー(種子):甘くスパイシーな柑橘系の香り。スパイスとしてカレーや煮込みのベースに使う。
この使い分けさえ覚えておけば、料理の幅がぐっと広がります。
エスニック料理の仕上げには「パクチー」を添え、本格的なカレーや煮込み料理には「コリアンダーシード」を加えてみる。ぜひ、この奥深いハーブ&スパイスを使いこなしてみてください。
食の世界には、このように似ているようで異なる食材・素材の違いがたくさんあります。それぞれの個性を知って、日々の食卓をもっと楽しんでいきましょう。