「へべす」と「かぼす」、どちらも緑色で酸っぱそうな柑橘類ですよね。
見た目がよく似ているため、違いが分かりにくいと感じる方も多いでしょう。
「へべす」は宮崎県原産で皮が薄くまろやかな酸味、「かぼす」は大分県が主産地で皮が厚く独特の芳醇な香りを持つ香酸柑橘です。
この記事を読めば、それぞれの定義、見た目や味の違い、栄養価、そして料理での最適な使い分けまで、明確に理解できます。
それでは、二つの魅力的な柑橘の違いを詳しく見ていきましょう。
結論｜「へべす」と「かぼす」の決定的な違いとは？
「へべす」と「かぼす」の最大の違いは、「皮の薄さと種」「酸味の質」「主な産地」にあります。「へべす」は皮が薄く種がほとんどなく、酸味がまろやかで、宮崎県が主な産地です。一方、「かぼす」は皮が厚めで、独特の芳醇な香りとしっかりした酸味を持ち、大分県が全国生産量のほとんどを占めます。
どちらも「香酸柑橘（こうさんかんきつ）」と呼ばれる、香りや酸味を楽しむための柑橘類です。
すだちやゆずとも仲間ですが、へべすとかぼすは特に見た目が似ているため混同されがちですね。
しかし、その出自や特徴には明確な違いがあり、地元での使われ方にも差があります。
「へべす」と「かぼす」とは？それぞれの定義と特徴
「へべす」は宮崎県日向市で偶然発見された固有種で、「平兵衛酢」と書きます。一方、「かぼす」は大分県で古くから栽培されてきた在来種で、「香母酢」と書きます。どちらもその土地の食文化と深く結びついて発展してきました。
へべす（平兵衛酢）とは？
へべす（平兵衛酢）は、宮崎県日向市が原産の香酸柑橘です。
その歴史は江戸時代末期に遡ると言われています。
日向市の長曽我部平兵衛（ちょうそかべ へいべえ）という方が山中で自生しているのを発見し、自宅で栽培を始めたのがきっかけとされています。
この「平兵衛」さんの名前から、「平兵衛酢（へいべえす）」と呼ばれるようになり、それが詰まって「へべす」という愛称で親しまれるようになりました。
宮崎県外ではあまり流通していなかったため「幻の柑橘」と呼ばれることもありましたが、近年その美味しさから注目を集めています。
かぼす（香母酢）とは？
かぼす（香母酢）は、大分県を代表する香酸柑橘です。
その歴史はへべすよりも古く、江戸時代に京都から苗木が持ち込まれたのが始まりとされています。
大分県の気候風土が栽培に適していたことから広く普及し、現在では全国生産量の9割以上を大分県が占める「県の特産品」となっています。
名前の由来は諸説ありますが、一説には、古い文献に「カボス（蚊いぶし）」という記述があり、蚊除けの燻し（いぶし）に使われていたから、とも言われています。
「へべす」と「かぼす」の見た目・香り・味の違いを徹底比較
「へべす」は皮が薄く、種が非常に少ないのが特徴です。香りは爽やかで、酸味は主張しすぎずまろやかです。一方、「かぼす」は皮が比較的厚く、ゴツゴツした表面で、種はへべすより多めです。香りは独特の芳醇さがあり、酸味はしっかりとしています。
一覧表で見る「へべす」と「かぼす」の違い
まずは、両者の違いを表で簡潔に比較してみましょう。
見た目は似ていますが、細部に多くの違いがあることが分かりますね。
| 項目 | へべす（平兵衛酢） | かぼす（香母酢） |
|---|---|---|
| 見た目（サイズ） | やや小さめ（ゴルフボール大） | やや大きめ（テニスボール大） |
| 皮 | 非常に薄い・表面は滑らか | 比較的厚い・表面はゴツゴツ |
| 種 | 非常に少ない（ほぼ無し） | へべすに比べると多い |
| 香り | 爽やかで軽快な香り | 独特の芳醇で深い香り |
| 酸味 | まろやかで上品な酸味 | しっかりとした強い酸味 |
| 主な産地 | 宮崎県（特に日向市） | 大分県（全国シェア9割以上） |
| 旬の時期（露地物） | 8月下旬～10月頃 | 9月～11月頃 |
見た目の違い（サイズ・皮の厚さ・種）
へべすとかぼすを並べてみると、大きさの違いが分かります。
かぼすはテニスボールほどの大玉のものが多いのに対し、へべすはゴルフボールより一回り大きいくらいのサイズ感が主流です。
最も分かりやすい違いは皮の厚さでしょう。
へべすは皮が非常に薄く、手でも簡単に絞ることができます。果汁がたっぷり含まれているのも特徴です。また、断面を見ると分かりますが、種がほとんどありません。
一方、かぼすは皮が比較的厚く、表面もゴツゴツとしています。種もへべすに比べると多く含まれていますね。
香りと酸味の違い
香りも両者の個性が表れるポイントです。
へべすは、爽やかでフルーティー、軽快な香りが特徴です。酸味はツンと尖っておらず、非常にまろやかで上品な味わいを持っています。そのため、料理の味を邪魔せず、素材の風味を引き立てるのが得意です。
かぼすは、へべすよりも強く、独特の芳醇な香りを持っています。酸味もへべすよりもしっかりと感じられ、キレがあります。このはっきりとした酸味と香りが、脂っこい料理や味の濃い料理のアクセントとして活躍するわけです。
「すだち」が清々しい香りで、「ゆず」が華やかな香りだとすれば、へべすは「まろやか」、かぼすは「芳醇」と表現するのが近いかもしれませんね。
栄養・成分・健康面の違い
どちらもクエン酸やビタミンCを豊富に含み、疲労回復や風邪予防、美肌効果が期待できます。特にへべすには「ナリルチン」というフラボノイドの一種が、他の柑橘類に比べて多く含まれているとされ、抗アレルギー作用（花粉症緩和など）で注目されています。
へべすもかぼすも、健康維持に役立つ成分が豊富に含まれています。
共通して多く含まれるのはクエン酸とビタミンCです。
クエン酸は、エネルギー代謝を活発にし、疲労回復を助ける効果が期待できます。ビタミンCは、抗酸化作用が高く、免疫力を高めて風邪を予防したり、コラーゲンの生成を助けて肌の健康を保ったりする働きで知られていますね。
特に「へべす」で注目されているのが、「ナリルチン」という成分です。
これはフラボノイド（ポリフェノール）の一種で、近年の研究により、花粉症などのアレルギー症状を緩和する抗アレルギー作用がある可能性が示唆されています。へべすは、このナリルチンがゆずやすだちよりも豊富に含まれているとされ、機能性食材としても研究が進んでいます。
かぼすも、クエン酸やビタミンCのほか、カリウムなども含んでおり、健康的な食生活をサポートしてくれます。
旬・主な産地・価格の違い
へべすは宮崎県がほぼ全ての生産を担い、旬は8月下旬から10月頃です。かぼすは大分県が全国シェア9割以上を占め、旬は9月から11月頃です。価格はどちらも同程度ですが、へべすの方が生産量が少なく、流通が限定的なため、入手しにくい場合があります。
旬の時期と主な産地
産地は、この二つを見分ける最も簡単な方法かもしれません。
「へべす」といえば宮崎県、特に発祥の地である日向市が中心です。生産量のほぼ100%が宮崎県で、まさに「宮崎の宝」と言える柑橘です。
「かぼす」といえば大分県です。全国生産量の9割以上を占める圧倒的なシェアを誇り、大分県の食文化に深く根付いています。
旬の時期（露地栽培）は少しだけずれています。
- へべす：8月下旬から10月頃
- かぼす：9月から11月頃
へべすの方が少し早く旬を迎え、夏の終わりから秋にかけて楽しめます。かぼすは秋が深まる頃に最盛期を迎えますね。ハウス栽培のものはこれより早い時期から出回ります。
価格と入手性の違い
価格帯は、どちらも1玉100円前後で販売されることが多く、大きな差はありません。
ただし、入手性には大きな違いがあります。
かぼすは全国的に流通しており、特に旬の時期には多くのスーパーで見かけることができます。
一方、へべすは生産量が限られており、その多くが宮崎県内や近県で消費されるため、首都圏や他の地域では入手しにくい傾向があります。最近は知名度の向上により、高級スーパーやお取り寄せ（通販）などで見かける機会も増えてきました。
料理での使い方・おすすめの使い分け
へべすのまろやかな酸味は、素材の味を活かす料理（白身魚、うどん、和え物、ドリンク）に最適です。かぼすのしっかりした酸味と香りは、脂っこい料理（焼き魚、唐揚げ、鍋物）のアクセントや、焼酎の風味付けにぴったりです。
へべすとかぼす、それぞれの特徴を活かした使い分けがおすすめです。
へべす（平兵衛酢）のおすすめの使い方
へべすは、そのまろやかさと上品な香りを活かすのがポイントです。
皮が薄く、種も少ないため、果汁をたっぷり絞って使いやすいのが魅力ですね。
- 和え物や酢の物：酸味が立ちすぎず、素材の味と調和します。
- 焼き魚（白身魚）：淡白な白身魚の繊細な旨味を引き立てます。
- うどん・そうめん：宮崎では定番。優しい酸味がだし汁とよく合います。
- ドリンク：焼酎やハイボールに入れると、爽やかながらもツンとしない、まろやかな風味を楽しめます。
- お菓子作り：皮ごと使って、爽やかな香りのスイーツにも。
かぼす（香母酢）のおすすめの使い方
かぼすは、その芳醇な香りとしっかりした酸味で、料理にアクセントを加えるのが得意です。
- 焼き魚（青魚）：サンマやアジなど、脂の乗った青魚の臭みを消し、さっぱりとさせます。
- 揚げ物：唐揚げや天ぷらに絞ると、油っぽさが中和されます。
- 鍋物：大分ではふぐ鍋や水炊きに欠かせません。ポン酢の代わりとして使うと絶品です。
- 焼酎：「かぼすハイボール」など、大分では定番の飲み方。独特の香りが焼酎を引き立てます。
- 味噌汁：皮を少しすりおろして入れると、風味が格段に上がります。
基本的には、素材の味を活かしたい繊細な料理には「へべす」、脂やクセを抑えてさっぱりさせたい料理には「かぼす」と考えると使い分けやすいでしょう。
「へべす」と「かぼす」の保存方法
どちらも乾燥を防ぐことが重要です。ポリ袋やラップで包み、冷蔵庫の野菜室で保存しましょう。へべすは皮が薄いため、かぼすよりも早めに使い切るのがおすすめです。長期保存する場合は、果汁を絞って製氷皿で凍らせると便利です。
へべすもかぼすも、保存の基本は乾燥させないことです。
丸ごとの場合は、ポリ袋に入れるか、一つずつラップで包んで冷蔵庫の野菜室で保存します。これにより、1～2週間程度は新鮮さを保つことができます。
特にへべすは皮が薄くデリケートなため、かぼすに比べて乾燥しやすく、早めに使い切ることをおすすめします。
もし大量に手に入った場合は、冷凍保存が便利です。
果汁を絞って製氷皿で凍らせ、凍ったらフリーザーバッグに移し替えておけば、使いたい分だけ手軽に使えます。また、皮も薄くスライスしたり、すりおろしたりしてラップに包み、冷凍しておくと薬味として重宝しますよ。
体験談｜宮崎と大分で味わう香酸柑橘の魅力
僕も以前、宮崎と大分を旅した際に、この二つの柑橘の明確な違いを体験しました。
宮崎で訪れたうどん屋さんでは、「へべすうどん」を注文しました。
透き通っただし汁に、薄くスライスされたへべすが浮かんでいます。まず香りを嗅ぐと、非常に爽やかで、柑橘特有のツンとした刺激がありませんでした。
だし汁を飲むと、へべすの酸味がだしの旨味と見事に調和していて、酸っぱいというより「まろやか」なんです。皮が薄いので、皮ごと食べても苦味が少なく、全体のバランスを崩さない上品さに驚きました。
一方、大分の居酒屋では、地元の方が「焼酎のかぼす割り」を飲んでいたので、同じものを注文しました。
こちらは、くし切りにしたかぼすを自分で絞り入れます。
絞った瞬間に、へべすとは明らかに違う、濃厚で芳醇な香りが立ち上りました。一口飲むと、キリッとした酸味が焼酎の風味を引き締め、非常にさっぱりとした飲み口になります。脂っこい「とり天」との相性も抜群でしたね。
この体験から、へべすは「調和」、かぼすは「個性」という印象を持ちました。どちらも素晴らしい名脇役ですよね。
「へべす」と「かぼす」に関するよくある質問
Q1. へべす、かぼす、すだちの違いは？
A. 3つとも香酸柑橘ですが、大きさがまず違いますね。かぼすが最も大きく（テニスボール大）、次にへべす（ゴルフボール大）、すだちが最も小さい（ピンポン玉大）です。
へべすは皮が薄く種が少なく、酸味がまろやか。すだちは清々しい香りが強く、かぼすは独特の芳醇な香りを持っています。
Q2. へべすの名前の由来は？
A. 江戸時代末期に宮崎県日向市で発見され、栽培を始めた長曽我部平兵衛（ちょうそかべ へいべえ）さんの名前にちなんで「平兵衛酢（へいべえす）」と呼ばれるようになり、それが詰まって「へべす」となったと言われています。
Q3. かぼすはなぜ大分県の名産なのですか？
A. 江戸時代に京都から苗木を持ち帰った医師が、大分県の竹田市に植えたのが始まりとされています。気候風土が栽培に適しており、県を挙げて生産を奨励したため、現在では全国生産量の9割以上を占める一大産地となりました。
Q4. へべすはどこで買えますか？
A. 旬の時期（8月下旬～10月頃）には、宮崎県内のスーパーや直売所では広く販売されています。県外では、大手百貨店や高級スーパー、または宮崎県のアンテナショップ、インターネット通販などで購入できることが多いですね。
まとめ｜「へべす」と「かぼす」の違いを理解して使い分けよう
「へべす」と「かぼす」の違い、お分かりいただけたでしょうか。
どちらも日本の食文化を豊かにしてきた素晴らしい香酸柑橘です。
皮が薄くまろやかな酸味の「へべす」は、繊細な料理やドリンクに。
香りが良くしっかり酸っぱい「かぼす」は、脂っこい料理や鍋物のアクセントに。
この違いを知れば、料理や飲み物に合わせて、それぞれの魅力を最大限に引き出すことができますね。
もし店頭で見かけることがあれば、ぜひその個性の違いを味わってみてください。香酸柑橘の世界がさらに広がりますよ。
当サイトでは、他にも様々な食材・素材の違いについて詳しく解説しています。食の世界は奥深く、知ることでさらに楽しくなります。ぜひ他の記事もご覧になってみてください。
日本の豊かな食文化については、農林水産省の食育に関するページなども参考になりますよ。