「褒める」と「誉める」、どちらの漢字を使えばいいか迷った経験はありませんか?どちらも「ほめる」と読みますが、実はニュアンスや使う場面に違いがあるんです。
この記事を読めば、「褒める」と「誉める」の核心的な意味の違いから、具体的な使い分け、さらには言葉の専門家視点での解説までスッキリ理解でき、もう迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「褒める」と「誉める」の最も重要な違い
基本的には具体的な行動や個人的な評価には「褒める」、公的な功績や名誉をたたえる場合は「誉める」と使い分けます。ただし、現代では「褒める」が一般的に使われ、常用漢字としてもこちらが基本です。迷ったら「褒める」を使えばまず間違いありません。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 褒める | 誉める |
---|---|---|
中心的な意味 | 人の行為や能力、性質などを高く評価して言う。 | 人や物事の良さをたたえ、名誉や評判を高める。 |
対象 | 具体的な行動、成果、能力、人格、持ち物など(個人的・日常的) | 業績、功績、人柄、美点など(公的・名誉に関わること) |
ニュアンス | 評価する、称賛する(日常的、個人的) | たたえる、賞賛する、名誉を高める(公的、改まった場面、書き言葉) |
現代での使われ方 | 一般的によく使われる。常用漢字。 | やや硬い表現。書き言葉や公的な場面で使われる。「誉」の訓読み「ほ(める)」は常用漢字表の付表に記載。 |
一番大切なポイントは、迷ったら「褒める」を選んでおけば、まず問題ないということですね。
「褒める」は常用漢字であり、日常会話からビジネスシーンまで幅広く使われています。一方、「誉める」は少し硬い印象を与え、使う場面が限られる傾向にあります。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「褒める」の「褒」は、ゆったりした衣服のように相手を受け入れ評価するイメージです。一方、「誉める」の「誉(譽)」は、多くの人が共に(與)言葉(言)でたたえる、公の場で賞賛するイメージを持つと分かりやすいでしょう。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
言葉の背景を知ると、単なる暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになるので、ぜひイメージを掴んでみてください。
「褒める」の成り立ち:「衣+保」が示す個人的な評価
「褒」という漢字は、「衣」へんに「保」と書きますね。
「保」には「たもつ」「まもる」といった意味があります。「ゆったりとした大きな衣(ころも)で人を包み込むように受け入れ、その良さを認める」といったイメージから、「ほめる」という意味になったという説があります。
個人的に相手の良い点を見つけ、それを評価して伝える、そんな温かいニュアンスが感じられますね。
つまり、「褒める」とは具体的な行動や性質に対して、個人的に高く評価するというイメージで捉えると分かりやすいでしょう。
「誉める」の成り立ち:「與+言」が示す公的な賞賛
一方、「誉」は旧字体では「譽」と書き、「與(与)」と「言」から成り立っています。
「與(与)」には「ともに」「仲間」といった意味があり、「言」は「言葉」です。つまり、元々は「多くの人が集まって、共に言葉でたたえる」様子を表していました。
公の場で功績や名誉を称え、その評判を高めるといったニュアンスが含まれていますね。「栄誉」や「名誉」といった言葉にも「誉」が使われていることからも、そのイメージが掴みやすいでしょう。
このことから、「誉める」には、社会的な功績や名誉を公にたたえ、称賛するというニュアンスが含まれるんですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
部下の企画書を評価するのは「褒める」、社会的な功績をたたえるのは「誉める」と使い分けるのが基本です。日常会話では基本的に「褒める」を使います。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。どんな場面でどちらを使うのがより自然か、感覚を掴んでみてください。
ビジネスシーンでの使い分け
評価の対象が具体的か、公的なものかを意識すると、使い分けは簡単ですよ。
【OK例文:褒める】
- 部下が提出した企画書の出来栄えを褒めた。
- プロジェクト成功に貢献したチームメンバーの努力を褒める。
- 彼のプレゼンテーション能力は褒めるに値する。
- 納期を前倒しで完了させた部下を褒め称えた。(称賛の意を強める場合)
【OK例文:誉める】
- 長年の功績に対し、会社から彼を表彰し誉めた。
- 社会貢献活動が高く評価され、その功績を誉められた。
- 授賞式で、受賞者の偉業を誉めるスピーチが行われた。
- その企業の技術力は、業界内で高く誉められている。
このように、個々の業務や行動に対する評価は「褒める」、会社全体や社会的な功績に対する賞賛は「誉める」が、よりしっくりくることが多いですね。
日常会話での使い分け
日常会話では、ほとんどの場合「褒める」を使うのが自然です。「誉める」を使うと少し堅苦しく、大げさに聞こえることがあります。
【OK例文:褒める】
- 子供が描いた絵を褒めてあげた。
- 友人が作ってくれた手料理の味を褒めた。
- 新しい髪型が似合っていると彼女を褒めた。
- テストで良い点を取った息子をたくさん褒めた。
【OK例文:誉める】
- 地域の偉人の功績を誉める記念碑が建てられた。(書き言葉や改まった場面)
- 歴史書には、その武将の勇猛さを誉める記述が多い。(書き言葉)
日常的な場面で人や物を評価するときは、基本的に「褒める」と覚えておけば間違いありません。
これはNG!間違えやすい使い方
意味が通じないわけではありませんが、少し不自然に聞こえるかもしれない使い方を見てみましょう。
- 【NG】友人が買った新しいバッグのデザインを誉める。
- 【OK】友人が買った新しいバッグのデザインを褒める。
個人的な持ち物を評価する場合は「褒める」が自然です。「誉める」を使うと、まるでそのバッグが国家的文化財かのような大げさな響きに聞こえるかもしれませんね。
- 【NG】彼の長年の会社への貢献を、社長が朝礼で褒めた。
- 【OK】彼の長年の会社への貢献を、社長が朝礼で誉めた。
公の場での功績に対する称賛なので、「誉めた」の方がより適切でしょう。「褒めた」でも間違いではありませんが、少し軽い印象になる可能性があります。
どちらを使うか迷うグレーゾーンもありますが、基本的には「個人的・具体的か」「公的・名誉的か」で判断すると良いでしょう。
【応用編】似ている言葉「称賛する」「たたえる」との違いは?
「称賛する」は、声に出して明確にほめる行為を指します。「たたえる(称える・讃える)」は、功績や価値を高く評価し、言葉や形にして表すことで、「褒める」「誉める」よりも広い意味合いを持ちます。
「褒める」「誉める」と似た意味を持つ言葉に「称賛(しょうさん)する」や「たたえる」があります。これらの言葉との違いも知っておくと、表現の幅が広がりますよ。
称賛する:人の行為や功績などを、非常に優れていると評価し、言葉に出してほめることを意味します。「褒める」「誉める」よりも、はっきりと声に出して称えるニュアンスが強いですね。例:「彼の勇気ある行動は、多くの人から称賛された。」
たたえる(称える・讃える):人や物事の功績・価値を高く評価し、それを言葉や詩歌、記念碑など、何らかの形で表現することです。「褒める」や「誉める」よりも広い意味で使われます。「称える」は主に言葉で、「讃える」は特に優れたものや神聖なものを賛美する場合や、金品を与えるという意味合いで使われることもあります。例:「偉業を称える。」「健闘を讃える。」
「褒める」「誉める」が評価そのものに重点があるのに対し、「称賛する」はそれを表明する行為、「たたえる」は評価を形にすることまで含む、と考えると整理しやすいかもしれませんね。
「褒める」と「誉める」の違いを言葉の専門家視点で解説
常用漢字表では「褒」も「誉」も掲載されていますが、訓読み「ほ(める)」は「褒」が本則、「誉」は付表に記載されており、使用場面がやや限定的であることを示唆しています。国語辞典でも、「誉める」には「功績・名誉をたたえる」という公的なニュアンスが強調される傾向があります。公用文や報道では「褒める」への統一が進んでいます。
少し専門的な視点から、「褒める」と「誉める」の違いを見てみましょう。言葉の背景にあるルールや慣習を知ることで、より深く理解できます。
まず、常用漢字表での扱いです。これは、日本の公的な文書などで使用する漢字の目安を示すものです。「褒」も「誉」も常用漢字として掲載されています。ただし、「誉」の訓読みである「ほ(める)」は、常用漢字表の「付表」という部分に記載されています。これは、「誉」という漢字自体は常用するものの、「ほめる」という読み方をするのは特定の場面や慣習的な表現に限られる、というニュアンスを含んでいます。
次に、国語辞典の定義を見てみましょう。多くの辞書で、「褒める」は「人の行為や能力などを高く評価して言う」といった一般的な説明がなされています。一方、「誉める」については、「功績や名誉をたたえる」「公の場で称賛する」といった、より公的で改まったニュアンスを強調する説明が多く見られます。やはり、使い分けの意識が存在することがうかがえますね。
また、公用文や新聞などのメディアでは、近年、分かりやすさの観点から、同音異義語の使い分けを整理し、一方の表記に統一する動きがあります。「配布」と「配付」の例が有名ですが、「褒める」と「誉める」に関しても、一般的には「褒める」を使う傾向が強いようです。これは、常用漢字としての一般的な認知度や、日常的な使用頻度を考慮したものと考えられます。
ただし、これは「誉める」が間違いだということではありません。文学作品や、格式を重んじる文章、あるいは意図的に硬い表現を使いたい場合には、「誉める」が効果的に用いられることもあります。
言葉の厳密な意味合いを大切にしつつも、現代の一般的な表記ルールや、文章全体のトーン(文体)に合わせて柔軟に使い分ける視点が大切ですね。公的な指針については、文化庁のウェブサイトなどで国語施策に関する情報を確認するのも良いでしょう。
僕が「誉める」でちょっと背伸びした新人時代の話
僕も新人ライター時代、「褒める」と「誉める」の使い分けで、ちょっと恥ずかしい思いをした経験があるんです。
入社して半年ほど経った頃、ある企業の社内報に掲載する、定年退職される功労者へのインタビュー記事を担当しました。その方は長年会社に貢献され、多くの社員から慕われている素晴らしい方でした。
インタビューを終え、原稿を書き上げる際、僕は少しでもその方の功績を称えたい、そして自分の文章力を示したい、という気持ちから、意識的に「誉める」という言葉を多用したんです。「〇〇部長の長年のご功績を心より誉め申し上げます」「誰もが部長のリーダーシップを誉めていました」といった具合に。
自分では格調高い文章が書けたと満足して、先輩エディターに原稿を提出しました。すると、しばらくして呼ばれ、赤字が入った原稿を渡されました。そこには、「誉める」の部分が軒並み「褒める」に修正されていたのです。
先輩は優しく言いました。「気持ちはすごく伝わる良い記事だよ。ただね、社内報っていう媒体の性格を考えると、『誉める』だと少し硬すぎるかな。読者である社員にとっては、もっと身近な言葉で『褒める』と表現した方が、親しみやすくて、部長の人柄も伝わると思うんだ。『誉める』は、もっと公の表彰式とか、社史みたいな改まった文章で使うイメージかな。」
僕は、ただ難しい言葉を使えば良い文章になるわけではないこと、言葉はTPO(時・場所・場面)に合わせて選ぶことが何よりも大切だということを痛感しました。背伸びして使った「誉める」が、かえって読者との距離を作ってしまう可能性があったんですね。顔が赤くなるのを感じながら、自分の未熟さを反省したのを覚えています。
この経験から、言葉の意味だけでなく、その言葉が持つ「温度感」や「使われる場面」を常に意識するようになりました。あなたも、ぜひ言葉の背景にあるニュアンスを感じながら、使い分けを楽しんでみてください。
「褒める」と「誉める」に関するよくある質問
結局どちらを使えばいいですか?
迷った場合は、常に「褒める」を使用することをおすすめします。「褒める」は常用漢字であり、日常会話からビジネスまで広く使われ、意味も通じやすいためです。公的な功績や名誉を特に強調したい、あるいは硬い文脈で書きたい場合にのみ、「誉める」を検討すると良いでしょう。
子供をしかるときに「褒める」のは変ですか?
いいえ、全く変ではありません。「叱る」の対義語として使われるのは一般的に「褒める」です。「よくできたね」と具体的に行動を評価する場合が多いので、「褒める」が適しています。「子供を誉める」という表現は、日常会話ではあまり使いません。
「誉める」はもう使わない方がいい言葉ですか?
いいえ、決して使わない方がいい言葉ではありません。書き言葉、特に格式のある文章や、歴史的な功績、高い名誉をたたえる文脈では、「誉める」が依然として適切に使われます。ただし、現代の一般的なコミュニケーションにおいては、「褒める」の方が自然で分かりやすい場面が多い、と理解しておくと良いでしょう。
「褒める」と「誉める」の違いのまとめ
「褒める」と「誉める」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は対象とニュアンスで使い分け:「褒める」は具体的・日常的な評価(行動、能力、持ち物など)、「誉める」は公的・名誉的な賞賛(功績、偉業、高い評判など)。
- 迷ったら「褒める」:常用漢字で、現代では最も一般的で広く使われる表現です。
- 漢字のイメージが鍵:「褒」は衣で人を包むように個人的に受け入れ評価するイメージ、「誉(譽)」は皆で共に言葉で公にたたえるイメージ。
- TPOを意識する:「誉める」はやや硬い表現なので、書き言葉や改まった場面に適しています。日常会話では「褒める」が自然です。
言葉の背景にある漢字のイメージや、使われる場面のニュアンスを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。