「コラトゥーラ」と「ナンプラー」、どちらも魚から作られる調味料ですが、レシピで見かけたときに「これって同じもの?代用できるの?」と迷ったことはありませんか。
結論から言うと、両者は「魚醤(ぎょしょう)」という同じカテゴリーに属しますが、産地、風味、使い方が大きく異なります。
この記事を読めば、それぞれの特性を正しく理解し、パスタにはどちらを使うべきか、炒め物にはどちらが合うのか、自信を持って使い分けられるようになります。
それでは、まずはその核心的な違いから詳しく見ていきましょう。
結論|コラトゥーラとナンプラーの違いを一言でまとめる
コラトゥーラはイタリア産のカタクチイワシを熟成させた魚醤で、臭みが少なく洗練された旨味が特徴です。一方、ナンプラーはタイ産の魚醤で、独特の発酵臭と強い塩気があり、加熱調理やエスニック料理の味付けに適しています。
最初にズバリと言ってしまいますね。
「コラトゥーラ」はイタリアの洗練された旨味調味料、「ナンプラー」はタイの力強い風味付け調味料です。
どちらもカタクチイワシ(アンチョビ)と塩を原料としていますが、熟成の方法や期間、そして目指している「味のゴール」が違うのです。
コラトゥーラは、まるで出汁醤油のようにまろやかで、生でかけても魚臭さをあまり感じさせません。
対してナンプラーは、蓋を開けた瞬間に広がる独特の香りがあり、加熱することで旨味が爆発するタイプです。
価格面でも大きな差があり、コラトゥーラは手間暇かけた高級品、ナンプラーは日常使いの調味料という位置づけが多いですね。
以下の表に、それぞれの特徴を整理しました。
| 項目 | コラトゥーラ(Colatura) | ナンプラー(Nam Pla) |
|---|---|---|
| 産地 | イタリア(主にカンパニア州) | タイ |
| 主な原材料 | カタクチイワシ、塩 | カタクチイワシ等の魚、塩、砂糖 |
| 味・香り | 塩角が取れてまろやか、臭み少 | 塩味が鋭い、独特の発酵臭あり |
| 主な用途 | パスタの仕上げ、カルパッチョ | 炒め物、スープ、カレー、タレ |
| 価格帯 | 高価(100mlで数千円〜) | 安価(数百円〜) |
原材料と製造・発酵工程の違い|イタリアの伝統 vs タイの食文化
コラトゥーラは内臓を取り除いたカタクチイワシを木樽で長期間熟成させ、その滴り落ちるエキスを採取します。ナンプラーは魚を丸ごと塩漬けにして発酵させ、砂糖などを加えて味を調整することが一般的です。
同じ「魚と塩」から作られるのに、なぜここまで風味が違うのでしょうか。
その秘密は、製造工程と熟成の哲学にあります。
コラトゥーラの製造プロセスと熟成期間
コラトゥーラ(正式には「コラトゥーラ・ディ・アリーチ」)は、イタリアのアマルフィ海岸にある小さな村、チェターラの名産品です。
製造工程は非常に繊細です。
まず、新鮮なカタクチイワシの頭と内臓を丁寧に取り除きます。
ここが大きなポイントですね。
内臓を取ることで、魚醤特有の生臭さや雑味を極限まで抑えているのです。
その後、塩と交互に木樽(チェストナッツやオークなど)に重ね、重石をして数ヶ月から数年(長いものでは3年以上)じっくりと熟成させます。
熟成後、樽の底に穴を開け、一滴ずつポタポタと抽出される琥珀色の液体、これが「コラトゥーラ(濾過された液)」なのです。
手間と時間を惜しまず、純粋な旨味だけを抽出するのがイタリア流と言えるでしょう。
ナンプラーの製造プロセスと特徴
一方、タイのナンプラーは、よりダイナミックな製法で作られます。
基本的にはカタクチイワシなどの小魚を丸ごと(内臓も含めて)大量の塩と一緒にタンクや甕(かめ)に漬け込みます。
内臓が含まれることで、酵素の働きが活発になり、発酵が早く進みます。
これがナンプラー独特の、あのパンチのある香りの源となっているんですね。
約1年ほど発酵させた後、上澄み液を濾過します。
商品によっては、発酵を促進したり味を整えたりするために、砂糖やアミノ酸液などが添加されることもあります。
内臓ごとの発酵による複雑な風味と、日常的に使える生産効率を重視しているのがナンプラーの特徴です。
味・香り・色・濃度の違い|洗練された旨味とエスニックな香り
コラトゥーラは琥珀色で透明度が高く、醤油に近い旨味と穏やかな塩気があります。ナンプラーは茶褐色で、塩味が強く、独特の魚の香りが際立ちます。
実際にキッチンで使う際、僕たちが一番気になるのは「味と香り」ですよね。
見た目や香りの違いを知っておくと、料理の失敗を防げます。
そのまま舐めて比較した味の違い
コラトゥーラを小皿に出してみると、透き通った美しい琥珀色をしています。
少し舐めてみると、まず感じるのは「濃縮された魚の旨味」。
塩気はありますが、熟成によって角が取れており、後味に甘みさえ感じることがあります。
まるで、上質な出汁醤油や、高級なアンチョビを液体にしたような感覚ですね。
一方、ナンプラーは濃い茶褐色で、少し濁りがあるものも。
舐めると、ガツンとした塩辛さが先にきます。
その後に魚の発酵由来の複雑な旨味が追いかけてくる感じです。
「コラトゥーラは旨味優先」「ナンプラーは塩味と香り優先」という印象を持つと分かりやすいでしょう。
加熱した時の香りの変化
香りの立ち方も大きく異なります。
ナンプラーは加熱すると、あの独特の「臭み」が飛び、香ばしい食欲をそそる香りに変化します。
炒め物やスープに入れると、臭さが消えてコクだけが残るマジックのような調味料です。
逆に、コラトゥーラは加熱しすぎると繊細な風味が飛んでしまうことがあります。
もちろんパスタソースのベースとして加熱することもありますが、仕上げに生で回しかけた時の、ふわっと香る磯の香りこそが真骨頂と言えるでしょう。
料理での使い分け・相性の良い食材
コラトゥーラはパスタの仕上げやカルパッチョなど、素材の味を活かす料理に最適です。ナンプラーはガパオライスやカレー、スープなど、火を通す料理やパンチの効いた味付けに向いています。
では、具体的にどのような料理に使えばよいのでしょうか。
それぞれの個性を活かす使い分けを紹介します。
コラトゥーラが輝くイタリアンレシピ
コラトゥーラは、シンプルな料理ほどその力を発揮します。
代表的なのは「コラトゥーラのパスタ(アーリオ・オーリオ)」です。
ニンニクと唐辛子をオリーブオイルで炒め、茹で上がったパスタを絡めた後、火を止めてからコラトゥーラを回しかける。
これだけで、レストラン級の絶品パスタが完成します。
また、白身魚のカルパッチョや、茹で野菜のサラダに、オリーブオイルと合わせてドレッシングとして使うのもおすすめです。
「塩や醤油の代わりに、旨味を足す」という感覚で使うと失敗しませんよ。
ナンプラーが欠かせないエスニック料理
ナンプラーは、やはりタイ料理をはじめとするエスニック料理には欠かせません。
ガパオライス(挽肉のバジル炒め)やパッタイ(タイ風焼きそば)、グリーンカレーなどは、ナンプラーがないと味が決まらないと言っても過言ではないでしょう。
加熱することで香りがマイルドになるため、炒め物の最初の段階で鍋肌からジュッと回し入れたり、煮込み料理の隠し味として使うのがポイントです。
唐揚げの下味や、チャーハンの隠し味として使うのも、プロの料理人がよくやるテクニックですね。
互いに代用する際の注意点とコツ
「コラトゥーラがないからナンプラーで代用したい」というケースもあるでしょう。
結論から言えば、代用は可能です。
ただし、ナンプラーは塩分が強く香りが独特なので、「量を少なめにする」「レモン汁やオリーブオイルで香りを中和する」といった工夫が必要です。
逆に、ナンプラーの代わりにコラトゥーラを使う場合は、塩気が足りなくなる可能性があるので、塩を少し足すと良いでしょう。
ただ、エスニック特有の「あの香り」はコラトゥーラでは出せないので、全く同じ味にはならないことを覚えておいてくださいね。
健康面・塩分・保存性の違い
どちらも塩分濃度が高いため、使いすぎには注意が必要です。アミノ酸などの栄養価は豊富です。保存性は高く、開封後も常温保存が可能ですが、風味を保つためには冷暗所や冷蔵庫での保管が推奨されます。
魚醤は、魚のタンパク質が分解されてできたアミノ酸が豊富に含まれています。
これは「旨味」の正体であると同時に、体に必要な栄養素でもあります。
ただし、製造過程で大量の塩を使うため、塩分濃度は非常に高いです。
一般的な醤油の塩分濃度が約16%なのに対し、魚醤は20%〜25%程度になることもあります。
「体に良さそう」と思ってドバドバ使うのはNGです。
少量で十分な旨味が出るので、結果的に減塩につながるという使い方が賢いですね。
保存に関しては、塩分が高いため腐敗しにくく、常温でも長期保存が可能です。
しかし、酸化によって色が濃くなったり、風味が落ちたりすることがあるため、開封後は冷蔵庫に入れておくと、フレッシュな状態を長く楽しめますよ。
歴史・地域・文化的背景の違い|ガルムの末裔と東南アジアの知恵
コラトゥーラは古代ローマ時代の万能調味料「ガルム」の流れを汲む伝統食品です。一方、ナンプラーはメコン川流域の魚食文化から生まれた保存の知恵であり、東南アジア全域で独自の発展を遂げてきました。
この二つの調味料、実は歴史的なルーツも非常に興味深いんです。
コラトゥーラの起源は、古代ローマ時代にまで遡ります。
当時、ローマ人は「ガルム」と呼ばれる魚醤をあらゆる料理に使っていました。
ポンペイの遺跡からもガルムの壺が出土しているほどです。
ローマ帝国の衰退とともにガルムの文化は一度廃れかけましたが、修道院などで細々と受け継がれ、現在のチェターラ村で「コラトゥーラ」として復活・継承されているのです。
まさに「失われた古代の味」の生き残りなんですね。
一方、ナンプラーを含む東南アジアの魚醤文化は、高温多湿な気候の中で、豊富に獲れる淡水魚や小魚を腐らせずに保存するための知恵として生まれました。
ベトナムの「ニョクマム」、フィリピンの「パティス」など、各国で独自の魚醤が発展しています。
こちらは庶民の生活の知恵から生まれた、日常の味としての歴史を持っています。
体験談・実際にペペロンチーノで使い比べてみた印象
コラトゥーラを使ったペペロンチーノは、アンチョビを使ったような深みと上品な香りが広がり、まさにお店の味でした。一方、ナンプラーで作ったバージョンは美味しいものの、どうしても「タイ風焼きそば」のようなニュアンスが出てしまい、イタリアンとは別物になりました。
僕も以前、奮発してコラトゥーラを購入し、いつものペペロンチーノに使ってみたんです。
作り方はシンプル。
オリーブオイルでニンニクを炒め、茹で汁で乳化させたソースにパスタを絡め、火を止めてからコラトゥーラを小さじ1杯。
食べてみて驚きました。
「……これは、お店の味だ!」
普段の塩だけのペペロンチーノとは全く別次元の、奥深いコクと、鼻に抜ける上品な磯の香りがたまらなかったです。
後日、好奇心でナンプラーでも同じように作ってみました。
結果は……「美味しいけど、なんか違う」。
旨味はあるんですが、どうしても後味にエスニックな風味が残り、頭の中で「これはパッタイか?」と錯覚してしまうような味になりました。
やっぱり、「イタリアンにはイタリアの魚醤、タイ料理にはタイの魚醤」という組み合わせには、長い歴史に裏打ちされた必然性があるんだなと痛感しましたね。
でも、この失敗から学んだのは、ナンプラーはレモンやパクチーと合わせると最高に輝くということ。
それぞれの得意分野を理解してあげることが、美味しい料理への近道だと実感した体験でした。
FAQ(よくある質問)
Q. コラトゥーラは開封後どれくらい持ちますか?
A. 塩分濃度が高いため、常温でも腐ることはほとんどありませんが、風味が命の調味料です。酸化を防ぐため、開封後は冷蔵庫で保管し、1年以内を目安に使い切るのがおすすめですよ。
Q. ナンプラーの独特の匂いを消す方法はありますか?
A. 加熱するのが一番です。炒め物やスープの最初に加えて火を通すと、生臭さが消えて旨味に変わります。また、レモン汁やライム、ニンニク、生姜などの香味野菜と合わせると、匂いが気にならなくなります。
Q. 醤油の代わりにコラトゥーラを使ってもいいですか?
A. はい、面白い使い方ができます!卵かけご飯や冷奴に数滴たらすと、醤油とは違った濃厚な旨味が楽しめます。ただし塩分が強いので、醤油よりも少なめに使うのがコツですね。
まとめ|目的別おすすめの使い方
コラトゥーラとナンプラーの違いについて、詳しく見てきました。
最後に、選び方と使い方のポイントをまとめておきますね。
- イタリアンなら:迷わずコラトゥーラを選びましょう。パスタやカルパッチョの仕上げにかけるだけで、プロの味に近づけます。
- エスニックなら:ナンプラーが必須です。炒め物やカレーの隠し味として、加熱して使うことで真価を発揮します。
- 代用するなら:ナンプラーをコラトゥーラ代わりにする時は、量を控えめにし、オリーブオイルなどで香りを調整すると良いでしょう。
「たかが魚醤、されど魚醤」。
一本あるだけで、あなたの料理のレパートリーと味わいの深さが劇的に変わります。
まずは、作りたい料理に合わせて、最適な一本を手に取ってみてください。
他にも、世界各国の調味料やスパイスに関する詳しい情報は、以下の記事でも解説していますので、合わせて参考にしてみてくださいね。