「チョヌン」と「ナヌン」、韓国ドラマやK-POPが好きな方なら一度は耳にしたことがある言葉ですよね。
どちらも日本語で「私は」という意味ですが、この二つを使い間違えると、相手に失礼な印象を与えたり、逆に距離感が縮まらなかったりすることをご存知でしょうか?
この記事を読めば、相手との関係性に応じた正しい使い分けが分かり、韓国語のニュアンスをより深く理解できるようになります。
それでは、まず二つの言葉の決定的な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「チョヌン」と「ナヌン」の最も重要な違い
基本的には目上の人や公的な場では「チョヌン」、友人や年下には「ナヌン」と覚えるのが簡単です。「チョヌン」は自分を低める謙譲語、「ナヌン」は対等以下の相手に使う平語(パンマル)です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | チョヌン (저는) | ナヌン (나는) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | わたくしは(謙譲語・丁寧語) | わたしは/俺は/僕は(平語) |
| 対象 | 目上の人、初対面、公的な場 | 友人、年下、家族、独り言 |
| ニュアンス | 相手を敬い、自分を一歩下げる | 親しみや対等な関係、あるいはぞんざい |
| 日本語のイメージ | わたくしは | わたしは、おれは、ぼくは |
一番大切なポイントは、迷ったら「チョヌン」を選んでおけば、まず失礼にはならないということですね。
韓国は年齢や上下関係を非常に重んじる文化ですので、初対面や目上の人に対しては、必ず「チョヌン」を使うのがマナーと言えるでしょう。
なぜ違う?韓国語の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「チョヌン」は「チョ(わたくし)」+「ヌン(は)」、「ナヌン」は「ナ(わたし)」+「ヌン(は)」で構成されています。根本にある「チョ(低称)」と「ナ(等称・卑称)」という自称詞のランクの違いが、使い分けの決定打となります。
なぜこの二つの言葉に明確な上下関係の違いが生まれるのか、言葉の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「チョヌン」の成り立ち:「チョ」が表す“へりくだり”の心
「チョヌン(저는)」は、代名詞の「チョ(저)」と助詞の「ヌン(는)」が組み合わさった言葉です。
この「チョ(저)」という言葉には、「わたくし」という意味があり、自分を相手より低く位置づける「謙譲」のニュアンスが含まれています。
つまり、「チョヌン」とは「わたくしめは」と相手を立てて自分を低める姿勢を表している、と考えると分かりやすいですね。
「ナヌン」の成り立ち:「ナ」が表す“ありのまま”の自分
一方、「ナヌン(나는)」は、代名詞の「ナ(나)」と助詞の「ヌン(는)」から成ります。
「ナ(나)」は、最も一般的な「わたし」を表す言葉ですが、これには敬意や謙譲のニュアンスは含まれません。
日本語で言う「俺」や「僕」、あるいは親しい間柄での「私」に近い感覚でしょう。
このことから、「ナヌン」には、飾らない素の自分、あるいは対等な立場で自分を指し示すというニュアンスが含まれるんですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
自己紹介やビジネスの場では「チョヌン」を使い、ドラマの主人公の独白や親友との会話では「ナヌン」を使うのが基本です。相手との距離感やTPOに合わせて、この二つを瞬時に切り替えることが韓国語会話の肝となります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネス・フォーマルシーンでの使い分け
相手が目上の人やお客様である場合、あるいは改まった場では「チョヌン」一択ですよ。
【OK例文:チョヌン】
- はじめまして。チョヌン、田中と申します。(初対面の挨拶)
- チョヌン、日本から来ました。(出身を丁寧に伝える)
- 社長、チョヌンそうは思いません。(上司への意見)
このように、相手への敬意を示すべき場面では、必ず「チョヌン」を使います。
日常会話・カジュアルシーンでの使い分け
友人や年下、あるいは独り言の場合は「ナヌン」が自然です。
【OK例文:ナヌン】
- ナヌン、キムチチゲが好きだよ。(友達とのランチで)
- ねえ、ナヌンこれがやりたいな。(恋人への甘えた会話)
- ナヌン、絶対に夢を叶えるぞ!(日記や独り言)
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じますが、人間関係にヒビが入るかもしれないNG例を見てみましょう。
- 【NG】(先生に対して)ナヌン、宿題を忘れました。
- 【OK】(先生に対して)チョヌン、宿題を忘れました。
先生に対して「ナヌン」を使うと、まるで友達口調で「俺、宿題忘れたわ」と言っているようなもので、非常に失礼に当たります。
- 【NG】(親友に対して)チョヌン、とても悲しいです。
- 【OK】(親友に対して)ナヌン、とても悲しいよ。
逆に、親友に「チョヌン」を使うと、「わたくしは悲しいです」と他人行儀な壁を作っているように感じられ、相手を寂しくさせるかもしれませんね。
【応用編】似ている言葉「チェガ」「ネガ」との違いは?
「私が」と言いたい場合、「チョヌン(私は)」の変化形ではなく、専用の変則活用形を使います。丁寧な「私が」は「チェガ」、フランクな「私が」は「ネガ」となります。これらは「チョヌン」「ナヌン」と対になる重要なセットです。
「チョヌン」「ナヌン」と合わせて覚えておきたいのが、「私が」と言いたいときの表現です。
日本語では「私」+「が」となりますが、韓国語では形が少し変わるので注意が必要ですよ。
- チョヌン(私は)に対応するのが チェガ(私が)
- ナヌン(私は)に対応するのが ネガ(私が)
「チョガ」や「ナガ」とは言わないのがポイントです。
例えば、会議で「私がやります!」と立候補するときは「チェガ ハゲッスムニダ(私がやります)」と言います。
友達同士で「僕がやるよ」と言うときは「ネガ ハルケ(僕がやるよ)」となりますね。
この「ネガ」は、ドラマなどで「お前が」という意味の「ニガ」と発音が似ていて聞き取りにくいことがありますが、文脈で判断するのがコツでしょう。
「チョヌン」と「ナヌン」の違いを学術的に解説
韓国語の敬語体系は「相対敬語」であり、聞き手との上下関係によって一人称すら変化させます。社会言語学の視点では、自分を低める「チョ(謙譲)」の使用は、儒教文化に基づく長幼の序や社会的地位の差を言語的に体現する重要なプロトコルと言えます。
少し専門的な視点から、この二つの言葉の背景を掘り下げてみましょう。
韓国語は、日本語以上に「敬語」が発達している言語だと言われますが、その特徴の一つが、話し相手によって自分の呼び方まで変えるという徹底ぶりです。
言語学的には、これを「自称詞の使い分け」と呼びます。
日本語でも「私(わたくし)」と「私(わたし)」の使い分けはありますが、韓国語の「チョ(저)」と「ナ(나)」の境界線は、年齢や社会的地位によって、より厳格に引かれています。
これは、韓国社会に根付く儒教の影響が色濃く反映されていると言えるでしょう。
「長幼の序(年長者と年少者の間には順序がある)」という考え方が、言語構造の中に組み込まれているため、年上に対して「ナ(나)」を使うことは、単なる言葉の誤りではなく、社会的なマナー違反、あるいは教養の欠如とみなされるリスクがあるのです。
また、韓国語には「ウリ(私たち)」という共同体意識を表す言葉が多用されますが、個人の一人称である「チョヌン」「ナヌン」の使い分けは、その集団の中での自分の立ち位置(序列)を確認する作業とも言えますね。
異文化コミュニケーションの観点からも、この一人称の選択は、相手への敬意(ポライトネス)を表現する最初のステップとして極めて重要な意味を持っています。
推しの言葉を聞き間違えて赤面した僕の体験談
僕も韓国語を勉強し始めたばかりの頃、この「チョヌン」と「ナヌン」で恥ずかしい勘違いをした経験があります。
当時、大好きなK-POPアイドルのライブ配信を夢中で見ていました。画面の向こうの彼は、ファンに向かって満面の笑みで「ナヌン、ヨロブヌル サランヘヨ!(僕はみんなを愛してるよ!)」と叫んでいました。
僕はその「ナヌン(僕は)」という響きに、「あ、彼は僕たちファンを友達みたいに親しく思ってくれているんだ!」と舞い上がり、感動していたんです。
後日、韓国語教室の先生にその話をしたところ、先生は苦笑いしながらこう教えてくれました。
「そうですね、確かに親愛の情もありますが、アイドルがファンに向けて話すときは、年下のファンも多いので、親しみを込めてあえて『ナヌン(僕・俺)』を使うことが多いんですよ。でも、もし彼が授賞式のスピーチや先輩歌手との対談なら、必ず『チョヌン(わたくしは)』を使っているはずです」
試しに過去の授賞式の動画を見てみると、彼は確かに神妙な面持ちで「チョヌン…」と話し始めていました。
僕は「ナヌン」という言葉だけで、勝手に「友達感覚」を抱いていましたが、それはTPOに合わせた彼の「演出」であり「使い分け」だったのだと気づきました。
この経験から、言葉一つで相手との距離感をコントロールできる韓国語の奥深さを学びました。それ以来、ドラマや推しの言葉を聞くときは、「今、どっちの一人称を使っているかな?」と耳を澄ませる癖がついたように思います。
「チョヌン」と「ナヌン」に関するよくある質問
Q. 年上の友達にはどっちを使えばいい?
A. これが一番悩みますよね。基本的には、どれだけ親しくても年上なら「チョヌン」を使うのが無難です。ただ、「もう敬語はやめて楽に話そうよ(言葉をタメ口にしよう)」という合意(「マルノッキ」と言います)ができれば、「ナヌン」に切り替えてもOKです。相手との関係性と合意形成がポイントですよ。
Q. 歌詞でよく「ナ(나)」が出てくるのはなぜ?
A. 歌詞や詩、日記などの独白(モノローグ)では、聞き手を特定しないため、基本形である「ナ(나)」を使うのが一般的だからです。この場合、ぞんざいな意味ではなく、客観的な「自分」を表現しています。K-POPの歌詞で「ナヌン」が多いのはそのためですね。
Q. 自分の親に対しては「チョヌン」?「ナヌン」?
A. 昔の厳格な家庭や、かなり改まった場では親に対しても「チョヌン」を使うことがありましたが、現代の一般的な家庭では、子供は親に対して「ナヌン」を使います。親子の親密な情愛が優先されるからでしょう。
「チョヌン」と「ナヌン」の違いのまとめ
「チョヌン」と「ナヌン」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は相手で使い分け:目上・初対面なら「チョヌン」、友人・年下なら「ナヌン」。
- 迷ったら「チョヌン」:丁寧語の「チョヌン」を使っておけば、礼儀正しい人という印象を与えられる。
- 「が」の形もセットで:「チェガ(私が・丁寧)」と「ネガ(私が・フランク)」も合わせて覚える。
言葉の背景にある「相手を敬う心」と「親しみを込める心」を理解すると、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、シチュエーションに合った一人称を選んでいきましょう。
言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、日常会話の外来語の違いをまとめたページもぜひご覧ください。韓国語だけでなく、様々な言葉のニュアンスの違いを発見できるはずです。
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