「簿価」と「時価」、資産の価値を表すときによく耳にする言葉ですが、その金額が大きく異なることは珍しくありません。
この2つの決定的な違いは、「過去に記録された帳簿上の金額」か、「現在市場で取引される金額」かという時間の視点にあります。
この記事を読めば、決算書の数字を正しく読み解く力や、不動産・株式投資で損をしないための判断基準が身につき、ビジネスや資産運用の場面でもう迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「簿価」と「時価」の最も重要な違い
「簿価」は取得時の価格に基づき帳簿に記録された計算上の価値であり、過去のコストを反映します。一方、「時価」は現時点で売買した場合の市場価格であり、常に変動する現在の価値を表します。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 簿価 (Book Value) | 時価 (Market Value) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 会計帳簿に記載されている資産・負債の金額 | 現時点での市場における取引価格 |
| 基準となる時点 | 過去(取得時) | 現在 |
| 変動の性質 | 原則として固定(減価償却等で規則的に減少) | 市場の需給により常に変動する |
| 重視される場面 | 決算処理、税務申告、社内管理 | 売却時、M&A、資産の再評価 |
| メリット | 客観的な証拠(領収書等)があり確実性が高い | 今の本当の価値を把握できる |
簡単に言えば、あなたが買ったパソコンのレシートにある金額から、使った年数分だけ価値を引いた計算上の数字が「簿価」です。
一方で、そのパソコンを今すぐフリマアプリで売ろうとしたときに、実際に買い手がつく値段が「時価」ですね。
つまり、「帳簿上の理論値」が簿価、「現実の取引価格」が時価と考えると分かりやすいでしょう。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「簿価」は「帳簿価額」の略で、記録された書物上の数値を指します。「時価」は「時の価格」であり、その時々のタイミングによって変わる価値を表しています。
なぜこの二つの言葉に性質の違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「簿価」の成り立ち:「帳簿」に記録された固定的なイメージ
「簿価」は正式には「帳簿価額(ちょうぼかがく)」と言います。
「簿」は「帳簿」、つまり記録台帳のことですね。
一度帳簿にペンで書き込まれた数字は、勝手に書き換わったりしません。
このことから、「簿価」には過去の事実(いくらで買ったか)に基づいた、動かない記録というイメージがあります。
もちろん、減価償却などで計算上減らしていくことはありますが、それはあくまで事前のルールに従った「予定通りの変化」です。
「時価」の成り立ち:「時」とともに移ろう流動的なイメージ
一方、「時価」は文字通り「時の価格」です。
「時」は常に流れ、変化し続けるものです。
お寿司屋さんの「時価」を思い浮かべてみてください。
その日の漁獲量や季節によって、値段は毎日変わりますよね。
このことから、「時価」にはその瞬間の状況によって決まる、常に変動するライブな価格というニュアンスが含まれているのです。
具体的な例文で使い方をマスターする
決算や税務処理など会計上の話では「簿価」、売却や資産価値の査定など実需の場面では「時価」を使います。簿価と時価の差額が「含み益(損)」となります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
経理や経営企画、資産運用の現場では頻出の使い分けです。
【OK例文:簿価】
- 社用車の簿価は、減価償却が進んで今は1円になっている。
- 固定資産の簿価をもとに、減損処理の必要性を検討する。
- この土地は30年前に取得したため、簿価が非常に低い。
【OK例文:時価】
- 保有している上場株式を、期末の時価で評価替えする。
- 本社ビルの時価を鑑定士に依頼して算出した。
- 簿価と時価の差額が、莫大な含み益となっている。
日常会話での使い分け
個人の資産管理や買い物の場面でも使われます。
【OK例文:簿価】
- 家計簿につけている購入金額(簿価)で見ると、随分高い買い物をしたなと思う。
- (投資の話で)平均取得単価(簿価)を下げるために、ナンピン買いをした。
【OK例文:時価】
- 実家の土地の時価を調べたら、思ったより値上がりしていた。
- 高級時計は時価が下がりにくいので、資産価値が高い。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることもありますが、文脈として不自然な表現です。
- 【NG】この土地を今すぐ売りたいので、不動産屋に簿価を聞いた。
- 【OK】この土地を今すぐ売りたいので、不動産屋に時価(査定額)を聞いた。
売る値段は「現在」の価値で決まるので、過去の記録である「簿価」を聞くのは間違いです。
- 【NG】決算書を作るために、工場の機械の時価を毎日チェックしている。
- 【OK】決算書を作るために、工場の機械の簿価(減価償却後の価額)を計算した。
通常の決算では、固定資産はいちいち時価評価せず、簿価を基準に計算するのが一般的です。
【応用編】似ている言葉「実勢価格」「公示地価」との違いは?
「実勢価格」は実際に取引が成立する価格で、時価とほぼ同義ですが、より「成約実績」のニュアンスが強いです。「公示地価」は公的機関が公表する基準価格で、時価の目安にはなりますが、実際の取引価格とは異なる場合があります。
不動産や土地の話になると、「時価」に似た言葉がたくさん出てきて混乱しますよね。
これらも整理しておきましょう。
実勢価格(Actual Market Price)
「実勢価格」は、実際に市場で取引が行われた価格のことです。
「時価」とほぼ同じ意味で使われますが、時価が「評価額」としての側面(鑑定評価など)も含むのに対し、実勢価格は「実際にこの値段で売れた」という実績ベースの価格を指すことが多いです。
公示地価(Official Land Price)
「公示地価」は、国土交通省が毎年公表する土地の標準的な価格です。
これは「公的な目安」であり、実際の取引価格(時価・実勢価格)とはズレが生じることがあります。
一般的に、実勢価格(時価)は、公示地価の1.1〜1.2倍程度になることが多いと言われています。
土地の「簿価」は買った時の値段、「時価」は今売れる値段、「公示地価」は国が決めた基準値、と区別しましょう。
「簿価」と「時価」の違いを学術的に解説(会計基準の視点)
会計学には、資産を取得原価で評価する「取得原価主義」と、期末の時価で評価する「時価主義」があります。伝統的には確実性の高い簿価(取得原価)が重視されてきましたが、近年は投資家への情報開示として、金融商品などを中心に時価評価(時価会計)の範囲が拡大しています。
もう少し専門的な視点から、この違いを掘り下げてみましょう。
会計の世界では、資産をいくらで評価するかという「評価基準」が非常に重要なテーマです。
伝統的な会計では、「取得原価主義」が採用されてきました。
これは、「実際に支払った金額(簿価)」で資産を計上する方法です。
なぜなら、簿価には領収書や契約書という「客観的な証拠」があり、粉飾決算などを防ぐのに適しているからです。
しかし、バブル崩壊後の金融危機などで、「簿価では優良企業に見えるが、実は持っている資産の価値が暴落していて倒産寸前」というケースが多発しました。
そこで導入が進んだのが「時価会計(時価主義)」です。
これは、株式やデリバティブなどの金融商品は、買った値段(簿価)ではなく、決算時の市場価格(時価)で評価し直して、その差額(含み益・含み損)をその期の利益や損失に反映させようという考え方です。
つまり、「過去のコスト(簿価)」から「現在の実態(時価)」へと、重視される価値基準がシフトしてきているのが、現代の会計トレンドなんですね。
詳しくは金融庁のウェブサイトなどで、企業会計基準に関する資料を確認してみるのも良いでしょう。
株式投資で「簿価」と「時価」のギャップに苦しんだ体験談
僕が株式投資を始めたばかりの頃、この「簿価」と「時価」の違いに、精神的に追い詰められた経験があります。
アベノミクス初期の頃、あるIT企業の株を100万円で購入しました。これが僕にとっての「簿価」です。
その後、株価は順調に上昇し、一時は時価150万円になりました。「50万円の含み益だ!」と有頂天になり、頭の中ではその50万円で何を買おうかと皮算用をしていました。
しかし、ある悪材料が出て株価は急落。あっという間に時価は80万円まで下がってしまいました。
この時、僕の証券口座の画面には、残酷な数字が並んでいました。
「取得単価(簿価):100万円」「現在値(時価):80万円」「評価損益:-20万円」
僕の頭を支配していたのは、「100万円で買った」という簿価への執着でした。
「簿価に戻るまでは売れない」「損をしたくない」という心理(サンクコスト効果)が働き、損切りすることができなかったのです。
プロの投資家の先輩に相談したところ、こう言われました。
「君がいくらで買ったか(簿価)なんて、市場には何の関係もないんだよ。重要なのは、今の時価である80万円に、それ以上の価値があると思うかどうかだ。もし80万円の価値もないと思うなら、今すぐ売って現金化すべきだよ」
ハッとしました。僕は「過去の自分(簿価)」に縛られて、「現在の価値(時価)」を冷静に見ることができていなかったんです。
結局、その株はさらに下がり続け、時価50万円になったところで泣く泣く手放しました。
この痛い経験から、「簿価はただの記録、時価こそが現実」という教訓を骨の髄まで学びました。ビジネスでも投資でも、過去のコストに囚われず、常に「今の価値」で判断することの重要性を痛感しています。
「簿価」と「時価」に関するよくある質問
簿価と時価、どちらが大切ですか?
目的によります。税金を計算したり、過去の投資成果を測るなら「簿価」が基準になります。しかし、今いくらで売れるかを知りたい場合や、資産の健全性をチェックするなら「時価」が重要です。両方把握しておくことが大切ですね。
なぜ決算書には時価ではなく簿価が載っているのですか?
時価は常に変動し、評価が難しい(主観が入る)場合があるためです。客観的で確実な証拠がある「簿価」で記録することで、会計の信頼性を保つことができます。ただし、有価証券などは時価評価して記載することもあります。
「簿価単価」とは何ですか?
株式投資などで、平均して1株あたりいくらで買ったかを示す金額です。例えば、1000円で100株、2000円で100株買った場合、合計30万円で200株なので、簿価単価は1500円になります。
「簿価」と「時価」の違いのまとめ
「簿価」と「時価」の違い、スッキリ整理できたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 時間の違い:「簿価」は過去(取得時)の価格、「時価」は現在(評価時)の価格。
- 性質の違い:「簿価」は帳簿上の固定的な記録、「時価」は市場で変動する流動的な価値。
- 使い分け:事務処理や管理には「簿価」、売買や実力評価には「時価」。
- 会計トレンド:確実な「簿価」から、実態を表す「時価」重視へシフトしている分野もある。
「簿価」は過去の積み重ね、「時価」は今の実力。
この二つの視点を持っておけば、会社の数字を見る目も、自分の資産を守る判断力も、確実にレベルアップするはずです。
これからは自信を持って、数字の裏にある意味を読み解いていきましょう。さらに詳しいビジネス用語については、業界用語の違いまとめページもぜひ参考にしてみてください。
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