あぐーとアグーの違い!ひらがなとカタカナで意味が違う?

沖縄の高級豚肉として知られる「あぐー」と「アグー」。

どちらも同じ沖縄の黒豚を指す言葉だと思っていませんか?実はこの2つ、似ているようで明確な定義の違いがあります

最も簡単な答えは、「あぐー」はJAおきなわ(沖縄県農業協同組合)が管理する特定のブランド豚の「登録商標(ブランド名)」であるのに対し、「アグー」は沖縄に古くから存在する「在来豚(豚の品種・系統)」そのものを指す、より広い言葉だということです。

この記事を読めば、ひらがなとカタカナの使い分けの理由、それぞれの血統の定義、そして消費者として知っておきたい肉質や味の違いまで、スッキリと理解できます。あなたが食べているのは、どちらの「アグー」でしょうか?

まずは、両者の決定的な違いを比較表で押さえましょう。

【3秒で押さえる要点】

  • 定義の違い:「あぐー」はJAおきなわの登録商標(ブランド名)。「アグー」は沖縄の在来豚(品種・系統名)。
  • 血統の定義:「あぐー」は、在来豚アグーの血統を50%以上有する豚肉(交配種)。「アグー」は沖縄在来豚そのもの(原種)か、その血を引く豚の総称。
  • 流通:私たちが普段「アグー豚」として食べているものの多くは、JAおきなわの「あぐー」ブランド豚か、それに類するアグーの血を引く交配豚です。
「あぐー」と「アグー」の主な違い
項目 あぐー(ひらがな) アグー(カタカナ)
分類・定義 ブランド名(登録商標 沖縄の在来豚(品種・系統名)
血統(定義) 沖縄在来豚アグー(オス)と西洋種(メス)の交配種で、アグーの血統が50%以上のもの。 沖縄在来豚そのもの(原種)。または、その血を引く豚の総称として使われる場合もある。
商標管理者 JAおきなわ(沖縄県農業協同組合) (品種名のため特定の管理者はいない)
主な目的 食肉(ブランド豚肉)としての流通・販売 品種(遺伝資源)としての保存・研究、または交配の親
肉質の特徴 霜降り割合が高く、脂に甘みと旨味が多い。コレステロール値が低い。 (原種は小型で発育が遅く、食肉流通量は極めて少ない)

定義とブランドの違い(商標と血統)

【要点】

最も決定的な違いは、「あぐー」がJAおきなわの登録商標であるのに対し、「アグー」は豚の品種名であるという点です。「あぐー」ブランドとして認定されるには、アグー(原種)の血統を50%以上持つことなど、厳格な基準を満たす必要があります。

この2つの言葉の違いを理解する上で最も重要なのが、「あぐー」(ひらがな)はブランド名であり、「アグー」(カタカナ)は品種名であるという点です。

JAおきなわの公式サイトによると、「あぐー」はJAおきなわの登録商標です。つまり、特定の基準を満たした豚肉だけが名乗ることを許される「ブランド名」なのです。その基準とは、「沖縄在来豚アグー(オス)と西洋種の豚(メス)を交配させた豚肉で、在来豚アグーの血統が50%以上(アグーF1)」であることと定義されています。

一方の「アグー」(カタカナ)は、沖縄県が公表している情報によれば、沖縄に古くから飼育されてきた在来豚(品種・系統)そのものを指します。つまり、ブランド名ではなく、牛でいう「黒毛和種」や、犬でいう「柴犬」のような、生物学的な品種・系統名なのです。

私たちがスーパーや飲食店で目にする「あぐー豚」は、その多くがJAおきなわの商標である「あぐー」か、あるいはJAおきなわ以外が生産・販売する「アグーの血を引く豚肉(例:琉球在来豚アグーなど)」であり、純粋な在来豚「アグー」(原種)そのものではありません。原種の「アグー」は発育が遅く小型であるため、食肉としての生産性は低く、主に品種保存や交配用の親として飼育されています。

見た目(原種)と肉質(ブランド豚)の違い

【要点】

在来豚「アグー」(原種)の見た目は、毛が黒く、背中がくぼみ、顔が長く、小型です。私たちが食べるブランド豚「あぐー」の肉質は、霜降りの割合が高く、脂に甘みがあり、コレステロール値が低いのが特徴です。

2つの違いは、生きた豚(原種)の「見た目」と、食肉(ブランド豚)の「肉質」という点にも表れます。

まず、品種としての在来豚「アグー」の見た目です。沖縄県の資料によると、在来豚「アグー」は、毛が黒く(黒毛)、耳が垂れ、顔が長く、背中がくぼんでいるのが大きな特徴です。また、一般的な西洋種の豚(体重110kg程度)と比べて非常に小型で、成豚でも体重が60kg程度にしかならないとされています。

一方、私たちが食べるブランド豚「あぐー」は、この在来豚アグー(オス)と、発育が良く体の大きい西洋種(メス、主にランドレース種とデュロック種をかけ合わせた豚)を交配させて生まれます。そのため、見た目(生体)は原種のアグーとは異なり、より大きく、食肉生産に適した体型をしています。

そして、食肉としての「あぐー」の最大の特徴は、その肉質にあります。JAおきなわは、「あぐー」の肉質の特徴として、以下の点を挙げています。

  • 霜降りの割合が高い(肉中に脂肪が細かく入っている)
  • 脂に甘みと旨味がある
  • 一般的な豚肉に比べ、コレステロール値が低い
  • 旨味成分であるグルタミン酸が多く含まれる

在来豚「アグー」が持つ優れた肉質(脂の甘みや旨味)の遺伝子を受け継ぎつつ、西洋種の「発育の良さ」を取り入れたのが、ブランド豚「あぐー」なのです。

アグー豚の歴史と沖縄での飼育

【要点】

沖縄の「アグー」のルーツは、約600年前(14世紀末)に中国から導入された黒豚と考えられています。第二次世界大戦でほぼ絶滅しましたが、戦後、奇跡的に生き残った個体から復活を遂げ、沖縄の貴重な食文化・遺伝資源となっています。

「アグー」が沖縄でどのように飼育されてきたのか、その歴史は非常にドラマチックです。

沖縄県豚肉ポータルサイトによると、沖縄の豚の起源は古く、約600年前の14世紀末頃、当時の琉球王国が中国(明)と交流する中で導入された黒豚がルーツとされています。その後、長い年月をかけて沖縄の風土に適応し、「アグー」として定着していきました。沖縄では古くから豚を余すところなく利用する食文化があり、アグーは人々の暮らしと密接に結びついていました。

しかし、このアグーに最大の危機が訪れます。第二次世界大戦です。激しい地上戦となった沖縄では、食糧難などにより豚の数も激減し、在来豚アグーはほぼ絶滅状態に陥りました。

「このままでは沖縄固有の遺伝資源が失われてしまう」と危機感を抱いた人々が、戦後、奇跡的に生き残っていたアグーを探し出し、保護と増殖に努めました。この地道な努力の結果、アグーは絶滅の危機を脱し、1981年(昭和56年)には「沖縄県在来豚アグー」として県の天然記念物(現在は県の畜産遺伝資源)に指定されるまでに復活を遂げたのです。

現在、私たちが美味しい「あぐー」を食べられるのは、この絶滅の危機からアグーを守り抜いた先人たちの努力の賜物と言えます。

肉質・味・価格の違い(食肉として)

【要点】

ブランド豚「あぐー」は、一般的な豚肉に比べて脂身の融点(溶ける温度)が低く、口に入れるとすぐに溶けて甘みが広がるのが特徴です。コレステロール値が低く、旨味成分が多いため、しつこくなく、豚肉本来の濃い味わいを楽しめます。希少価値が高いため、価格は一般的な豚肉より高価になります。

消費者として最も気になるのは、「あぐー」ブランドの豚肉と、一般的な豚肉との「味」や「価格」の違いでしょう。

味の最大の違いは「脂の質」にあります。JAおきなわによれば、「あぐー」は脂身の融点(脂が溶ける温度)が一般的な豚肉より低く、人肌で溶け出すほどです。そのため、しゃぶしゃぶなどで食べると、脂がしつこくなく、口の中でとろけるような独特の食感と、芳醇な甘みが広がります。

さらに、コレステロール値は外来種に比べて4分の1程度と低く、旨味成分であるグルタミン酸やアミノ酸が豊富に含まれています。これにより、「あぐー」は脂が多い霜降りでありながら、ヘルシーで、豚肉本来の濃い旨味を味わえるのです。

価格については、やはり一般的な豚肉よりも高価になります。これは、在来豚アグーの血統を守りながらの交配や、JAおきなわが定める品質基準(専用飼料の使用など)を守って飼育されるため、生産に手間とコストがかかる希少なブランド豚であるためです。沖縄県外のデパートや専門店、または通販などで購入可能ですが、その価格は品質と希少価値を反映したものとなっています。

「あぐー」と「アグー」の共通点

【要点】

定義や流通形態は異なりますが、「あぐー」(ブランド名)も「アグー」(品種名)も、沖縄の貴重な遺伝資源である在来豚の血を受け継いでいる点で共通しています。どちらも沖縄の食文化と歴史を象徴する存在であり、高級豚肉の代名詞として認識されています。

ここまで「あぐー」と「アグー」の違いを強調してきましたが、もちろん両者には切っても切れない強い共通点があります。

  1. 沖縄在来豚の血統:最大の共通点は、どちらも沖縄が誇る在来豚「アグー」の血を受け継いでいることです。「あぐー」ブランド豚は、そのアグーの優れた肉質を後世に伝えるために生み出された豚肉です。
  2. 沖縄の食文化の象徴:どちらの言葉も、沖縄の豊かな豚肉文化を象徴する存在として広く認識されています。
  3. 高級・高品質のイメージ:「あぐー」も「アグー」も、一般的な豚肉とは一線を画す、「霜降り」「脂が甘い」「旨味が濃い」といった高品質・高級な豚肉の代名詞として使われています。

僕が「あぐー」のしゃぶしゃぶに驚愕した夜

僕はこれまで、豚肉の脂身は「しつこいもの」「たくさんは食べられないもの」と勝手に思い込んでいました。正直、沖縄で「あぐーのしゃぶしゃぶ」を勧められた時も、「どうせすぐにお腹いっぱいになるだろう」と高をくくっていたんです。

ところが、最初の一枚を口にした瞬間、その常識は文字通り「溶けて」いきました。

薄紅色の肉をさっと出汁にくぐらせ、口に入れた瞬間……ジュワッ!と溶け出した脂が、まったくしつこくないんです。それどころか、信じられないような「甘み」と「香り」が口いっぱいに広がりました。「これが豚肉の脂?」と、自分の舌を疑うほどの衝撃です。赤身の部分は豚肉の味が濃く、その甘い脂と一体となって、いくらでも食べられてしまう。

「脂が美味しいから、赤身と一緒にいくらでも食べられる」という、まさに未知の体験でした。あれがJAおきなわの定義する「あぐー」だったのか、あるいは他のアグーの血を引く豚だったのか、今となっては定かではありませんが、あの夜に食べた豚肉が、僕の中の「豚肉観」を完全に変えてしまったことだけは間違いありません。

「あぐー」と「アグー」に関するよくある質問

Q: ひらがなとカタカナで、本当に意味が違うのですか?

A: はい、明確に使い分けられています。最も厳密な定義では、ひらがなの「あぐー」はJAおきなわの登録商標(ブランド名)を指し、カタカナの「アグー」は沖縄在来豚という品種(系統名)を指します。ただし、一般の消費者や飲食店では、アグーの血を引く豚肉全般を総称して「アグー豚」とカタカナで表記している場合も多く見られます。

Q: 「あぐー」ブランドの豚肉はどこで買えますか?

A: JAおきなわの「あぐー」ブランド豚は、沖縄県内のJAファーマーズマーケットやAコープ、沖縄県外の一部の百貨店、またはJAおきなわのオンラインショップなどで購入が可能です。購入の際は、JAおきなわが発行する「あぐー」のロゴや証明書があるかを確認するのが確実です。

Q: 「アグー」はペットとして飼えますか?

A: いいえ、「アグー」は家畜(産業動物)であり、ペット(愛玩動物)ではありません。沖縄県の畜産遺伝資源として管理されており、一般の人がペットとして飼育することは想定されていません。カテゴリ名に「ペット・飼育」とありましたが、本記事では食肉用の家畜としての違いを解説しています。

「あぐー」と「アグー」の違いのまとめ

「あぐー」と「アグー」、名前は似ていますが、その背景には明確な定義の違いがありました。

  1. 定義が違う:「あぐー」(ひらがな)はJAおきなわの登録商標(ブランド名)。「アグー」(カタカナ)は沖縄在来豚の品種・系統名。
  2. 統が違う:ブランド豚「あぐー」はアグーの血が50%以上の交配種。在来豚「アグー」は原種。
  3. 歴史が違う:在来豚「アグー」は沖縄で約600年の歴史を持ち、戦時中に絶滅の危機に瀕したが復活を遂げた。
  4. 味が違う:ブランド豚「あぐー」は、原種の特長を受け継ぎ、脂が甘くコレステロールが低いという特徴を持つ。

沖縄旅行で「アグー豚」を食べる際は、「これはJAの『あぐー』かな?それとも別のアグーの血統かな?」と考えながら味わってみるのも面白いかもしれませんね。どちらにせよ、沖縄の歴史と先人たちの努力が詰まった美味しい豚肉であることに違いはありません。他の生物その他に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。

参考文献(公的一次情報)