コウモリラン(ビカクシダ)の中でも、その育てやすさや姿の美しさから人気の「アルシコルネ」と「ネザーランド」。
どちらも板付け(着生)させると格好良いですが、実は「アルシコルネ」はアフリカ原産の原種、「ネザーランド」はビフルカツムという別種から選抜された園芸品種であり、葉の形、質感、そして育てやすさに違いがあります。
最も簡単な答えは、「アルシコルネ」は胞子葉(鹿の角のような葉)が細長く分岐し、乾燥すると白っぽくなる特徴があるのに対し、「ネザーランド」は胞子葉の幅が広く分岐が少なく、常に青々としたライムグリーンをしているということです。
この記事を読めば、この2つの人気ビカクシダの見分け方から、それぞれの栽培特性、管理のコツまでスッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 出自:アルシコルネはアフリカ原産の「原種」。ネザーランドは「ビフルカツム」から選抜された「園芸品種」。
- 胞子葉:アルシコルネは細長く分岐が多く、白っぽくなりやすい。ネザーランドは幅広で分岐が少なく、色は明るいライムグリーン。
- 育てやすさ:どちらも強健ですが、ネザーランドの方が耐寒性・成長速度ともに優れ、より「最強の入門種」と呼ばれます。
| 項目 | アルシコルネ(P. alcicorne) | ネザーランド(P. bifurcatum ‘Netherlands’) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | 原種(アフリカ原産) | 園芸品種(ビフルカツムの選抜) |
| 貯水葉 | 上部がギザギザと深く切れ込みやすい。 | 丸みを帯び、切れ込みが少ない傾向。 |
| 胞子葉(鹿角状の葉) | 細長く、分岐が多い。星状毛(白い毛)が多く、白っぽく(銀白色に)なりやすい。 | 幅広で、分岐が少ない。葉の色が明るいライムグリーン傾向。 |
| 全体のサイズ感 | 中型〜大型 | 大型化しやすい |
| 成長速度 | 速い | 非常に速い |
| 耐寒性 | 強い(ビフルカツムよりはやや弱い傾向) | 極めて強い(ビカクシダ最強クラス) |
| 子株 | よく吹く(出やすい) | 非常によく吹く(出やすい) |
| 流通量 | やや少ない(専門店中心) | 非常に多い(一般園芸店でも入手可) |
形態・見た目とサイズの違い
見分けるポイントは「胞子葉」です。アルシコルネは細長く、分岐が多く、表面の星状毛(白い毛)によって白っぽく(銀白色に)見えやすいです。一方、ネザーランドは葉の幅が広く、分岐が少なく、色は明るいライムグリーンです。
この2種は、コウモリラン(ビカクシダ)として同じような育て方をされますが、その見た目には明確な違いがあります。
アルシコルネ (P. alcicorne) は、アフリカ大陸やマダガスカル島が原産の原種です。その最大の特徴は、鹿の角に例えられる「胞子葉」にあります。胞子葉は細長く伸び、先が何度も細かく分岐する傾向があります。また、葉の表面には「星状毛(せいじょうもう)」と呼ばれる白い毛が密生しており、特に乾燥気味に育てると、葉全体が白っぽく、銀白色を帯びた美しい姿になります。
株元に張り付く「貯水葉」は、上部のフチがギザギザと王冠のように深く切れ込みやすいのも特徴です。
一方、ネザーランド (P. bifurcatum ‘Netherlands’) は、オーストラリアなどを原産とする「ビフルカツム」という別の原種から選抜された園芸品種です。
アルシコルネと比較すると、胞子葉の幅が広く、分岐(枝分かれ)が少ないのが特徴です。星状毛はアルシコルネほど密ではなく、葉の色は明るいライムグリーンをしています。貯水葉のフチも、アルシコルネほどギザギザにならず、丸みを帯びた形状を保ちやすい傾向があります。
栽培特性・成長の違い
どちらも成長は速いですが、ネザーランドはビカクシダ全種の中でもトップクラスの成長速度を誇ります。アルシコルネも子株をよく出しますが、ネザーランドはさらに旺盛に子株を吹く傾向があります。
どちらの品種も成長は速い部類に入りますが、そのスピードには差があります。
アルシコルネは、原種の中では比較的強健で成長も速く、子株もよく吹く(=増えやすい)ため、育てやすい品種とされています。
しかし、ネザーランドの成長速度はそれを凌駕します。ネザーランドは、元々強健で成長が速い「ビフルカツム」の中から、さらにその性質が強い個体を選抜して作られた園芸品種です。そのため、成長速度はビカクシダ全種の中でもトップクラスと言われています。春から秋の成長期には、驚くようなスピードで新しい葉を展開し、子株も非常に旺盛に発生させます。
「とにかく早く大きく、立派な株に育てたい」という方には、ネザーランドの方が満足度が高いかもしれません。
原産地・分布の違い
アルシコルネはアフリカ大陸(マダガスカル、モザンビーク、コモロ諸島など)の広範囲に自生する「原種」です。ネザーランドは特定の自生地を持たない「園芸品種」であり、オランダで作出されました。
両者のバックグラウンドは全く異なります。
アルシコルネは、アフリカ大陸の東海岸(モザンビークなど)や、マダガスカル島、コモロ諸島、セーシェル諸島といったインド洋の島々に広く分布する「原種」です。自生地では、森林の樹木や岩肌に着生して生きています。
一方、ネザーランドは、自然界に自生しているものではありません。オーストラリアなどを原産とする「ビフルカツム(P. bifurcatum)」という原種を基に、オランダの栽培家によって選抜・固定化された「園芸品種」です。
つまり、アルシコルネが「野生種」そのものであるのに対し、ネザーランドは「ビフルカツム種の中のエリート選抜個体」という違いがあります。
栽培難易度・管理方法の違い
どちらも非常に強健で初心者向けですが、ネザーランドの方がより耐寒性が高く、失敗が少ない「最強の入門種」とされます。アルシコルネも十分強いですが、ネザーランド(ビフルカツム系)に比べると、冬場の寒さにはやや弱いため、管理に少しだけ注意が必要です。
コウモリラン(ビカクシダ)は種類によって栽培難易度が大きく異なりますが、この2種はどちらも「育てやすい」グループに属します。
ネザーランドは、その親であるビフルカツムの性質を強く受け継いでおり、ビカクシダ全種の中で最も強健で、耐寒性・耐暑性が高い品種の一つです。成長も非常に速く、少々の管理ミスでは枯れないため、「最強の入門種」とも呼ばれます。
アルシコルネも、原種の中では非常に強健で育てやすい品種です。子株もよく出し、成長も速いです。しかし、耐寒性に関しては、ビフルカツム系(ネザーランド)に比べるとやや劣る(寒さに弱い)傾向があると言われています。ネザーランドが最低5℃程度まで耐えるのに対し、アルシコルネはもう少し高め(8℃〜10℃程度)の温度を保つ方が安全とされます。
どちらも着生植物ですので、水苔やコルク、ヘゴ板などに着生させて育てるのが一般的です。管理方法は基本的に同じで、春から秋は水苔が乾いたらたっぷりと水を与え、冬は乾燥気味に管理します。
園芸上の位置づけ・入手の違い
ネザーランドは最も普及している入門種であり、ホームセンターや一般園芸店でも安価に入手可能です。アルシコルネも人気種ですが、流通量はネザーランドより少なく、ビカクシダ専門店や植物イベントなどで探すのが確実です。
園芸市場での流通量や位置づけにも差があります。
ネザーランドは、その圧倒的な強健さと成長の速さ、そして整った美しさから、「コウモリラン」という名前で流通している最もスタンダードな品種です。大量に生産されており、ホームセンターや一般の園芸店でも、手頃な価格で最も簡単に入手することができます。
アルシコルネも、ビカクシダ愛好家の間では古くから知られる人気の原種です。その白く美しい胞子葉はコレクターも多く、様々な選抜個体(例:「アルシコルネ・アフリカ」など産地別のもの)が存在します。しかし、ネザーランドほど一般的な流通量はなく、入手するにはビカクシダ専門店や、植物イベント、オンラインストアなどを利用するのが確実です。
「アルシコルネ」と「ネザーランド」の共通点
どちらもコウモリラン(ビカクシダ)の仲間であり、鹿の角のような「胞子葉」と、株元に張り付く「貯水葉」という2種類の葉を持つ着生シダです。どちらも強健で成長が速く、子株をよく出すため、栽培しやすい点が共通しています。
出自や形態は異なりますが、同じビカクシダ属として多くの共通点を持っています。
- ビカクシダであること:どちらも「コウモリラン」や「ビカクシダ」と呼ばれる着生シダの仲間です。
- 二型の葉を持つ:鹿の角のような「胞子葉」と、株元を覆う「貯水葉」という、役割の異なる2種類の葉を持ちます。
- 強健で育てやすい:どちらもビカクシダの中では非常に強健で、初心者でも育てやすい品種に分類されます。
- 子株で増えやすい:どちらも株元から子株をよく吹く性質があり、「株分け」で簡単に増やすことができます。
- 管理方法が似ている:明るい日陰と風通しを好み、水苔などで板に着生させて育てる基本的な管理方法は同じです。
僕の温室での「ネザーランド」の成長記録(体験談)
僕は趣味で多くのビカクシダを育てていますが、ビフルカツムとネザーランドの「成長速度」の違いは明確に感じます。
ビフルカツム(原種)も十分に成長が速いのですが、ネザーランドはそれを上回るスピードです。春先に小さな株で迎えたネザーランドが、夏を越す頃には一回りも二回りも大きくなり、立派な胞子葉を次々と展開し始めた時は驚きました。
その葉は、確かに分岐が少なく幅広で、色は明るいライムグリーン。非常に見栄えがします。
一方で、アルシコルネには独特の「野性味」があります。ネザーランドが「整った優等生」だとしたら、アルシコルネは「白銀のハンター」のような鋭さです。特に乾燥期に葉が白く輝く姿は、他の品種にはない魅力があります。
ネザーランドの魅力が「安定した美しさと驚異的な成長力」にあるとすれば、アルシコルネの魅力は「アフリカ原産の野性味と、白銀に輝く葉の鋭さ」にあるのかもしれない、と感じています。
「アルシコルネ」と「ネザーランド」に関するよくある質問
Q: 「ビフルカツム」と「ネザーランド」と「アルシコルネ」の関係は?
A: 「ビフルカツム」と「アルシコルネ」は、どちらも自然界に存在する「原種」です。そして「ネザーランド」は、その「ビフルカツム」という原種から選抜されて作られた「園芸品種」です。アルシコルネとネザーランドは、同じビカクシダ属ですが、元となる原種が異なる、いわば「親戚」のような関係です。
Q: どちらも室内で育てられますか?
A: はい、どちらも室内で育てられます。ただし、着生植物であるため、風通しが良く、レースのカーテン越しの光が当たるような「明るい日陰」を好みます。エアコンの風が直接当たる場所は乾燥しすぎるため避けてください。耐寒性はありますが、アルシコルネはネザーランドより寒さにやや弱い可能性があるため、冬場は室内に取り込み、10℃程度を目安に管理するのが安全です。
Q: アルシコルネの胞子葉が白くなりません。
A: アルシコルネの葉が白くなるのは、表面の星状毛(せいじょうもう)によるものです。この星状毛は、強い日差しや乾燥から葉を守る役割があると考えられています。そのため、日照が不足していたり、湿度が高い環境で育てたりすると、星状毛が少なくなり、緑色が強く出ることがあります。より白く育てたい場合は、日照時間や風通しを少し増やしてみると良いかもしれません(ただし葉焼けには注意してください)。
Q: 初心者にはどっちがおすすめですか?
A: どちらも非常に強健で初心者の方におすすめできます。あえて選ぶなら、耐寒性・成長速度・入手難易度の全てにおいて優れている「ネザーランド」が、最も失敗しにくい「最強の入門種」と言えるでしょう。アルシコルネも育てやすいですが、ネザーランドに比べると流通量が少なく、価格もやや高めになる傾向があります。
「アルシコルネ」と「ネザーランド」の違いのまとめ
コウモリラン(ビカクシダ)の人気種、アルシコルネとネザーランド。その違いは、原種か園芸品種かという出自の違いにありました。
- 出自が違う:アルシコルネは「アフリカ原産の原種」。ネザーランドは「ビフルカツム原種から選抜された園芸品種」。
- 葉の形と色が違う:アルシコルネは「細長く分岐が多く、白っぽい」。ネザーランドは「幅広で分岐が少なく、明るい緑」。
- 貯水葉が違う:アルシコルネは「フチがギザギザ」。ネザーランドは「フチが丸い」。
- 育てやすさが違う:どちらも強健だが、ネザーランドの方が耐寒性がより高く、成長も速い「最強の入門種」。
- 入手しやすさが違う:ネザーランドは一般園芸店でも入手可能。アルシコルネは専門店での扱いが中心。
どちらもビカクシダの魅力を存分に楽しめる素晴らしい品種です。あなたの栽培環境や、好みの姿に合わせて選んでみてくださいね。観葉植物や、他のペット・飼育に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- 環境省(https://www.env.go.jp/) – 生物の多様性、原種に関する情報
- 農林水産省(https://www.maff.go.jp/) – 園芸品種の登録や管理に関する情報