世界中で愛される家庭犬の代表格、「ラブラドール・レトリバー」。
その賢さと温厚さで人気の犬種ですが、実は「アメリカンタイプ」と「イングリッシュ(ブリティッシュ)タイプ」という2つの系統(スタイル)が存在することをご存知ですか?
「同じラブラドールでしょ?」と思うかもしれませんが、実はこの2タイプ、見た目の体型も、そして何より性格(気質)やエネルギーレベルが大きく異なります。
結論から言うと、「アメリカンラブラドール」は運動能力と作業意欲を追求した「フィールド(作業犬)タイプ」で、「イングリッシュラブラドール」はドッグショーの基準(スタンダード)を重視した「ショータイプ」であり、より穏やかな家庭犬向きの性質を持つ傾向があります。
この記事では、この2つのタイプのラブラドールの決定的な違いと、あなたのライフスタイルに合うのはどちらか、詳しく解説していきます!
【3秒で押さえる要点】
- 系統の違い:アメリカンは「フィールド(作業犬)系」。イングリッシュは「ショー(展示会)系」。
- 見た目:アメリカンはスリムで筋肉質、足が長いアスリート体型。イングリッシュはがっしり骨太で胴が短め、頭部が大きい「ずんぐりむっくり」体型。
- 性格:アメリカンは非常にエネルギッシュで作業意欲が爆発的。イングリッシュは比較的穏やかで落ち着きがあり、家庭犬向きとされます。
| 項目 | アメリカンラブラドール(フィールドタイプ) | イングリッシュラブラドール(ショータイプ) |
|---|---|---|
| 主な系統 | フィールド(作業犬)系 | ショー(展示会)系 |
| 体型 | スリム、筋肉質、細マッチョ | がっしり、骨太、ずんぐり |
| 体格 | 足が長く、胴が長め、マズル(鼻)も長い | 足が短め、胴が短い(短胴)、マズルが太く短い |
| 頭部 | 比較的小さめ、シャープ | 大きめ、幅が広い |
| 尾(オッターテイル) | 細めの傾向 | 太くたくましい傾向 |
| 性格・気質 | 非常に活発、エネルギッシュ、作業意欲が極めて高い | 穏やか、落ち着きがある、温厚 |
| 運動量 | 極めて多い(知的作業も必須) | 多い(大型犬として十分な量が必要) |
| 飼育難易度 | 非常に高い(上級者・プロ向け) | 高い(大型犬の飼育経験者向け) |
| 適した飼い主 | ドッグスポーツや狩猟をしたい人、プロの訓練士 | 一般家庭犬として迎えたい人 |
最大の違い:「作業犬(アメリカ)」か「ショードッグ(イギリス)」か
最大の違いは「作出(改良)の目的」です。アメリカンは「フィールドトライアル(狩猟競技)」で勝つための作業能力を追求した系統です。イングリッシュは「ドッグショー」の基準(犬種標準)に沿った外見の美しさと、家庭犬としての穏やかさを追求した系統です。
「アメリカン」と「イングリッシュ」という呼び名は、正式な犬種名ではありません。どちらも犬種としては「ラブラドール・レトリバー」ただ一つです。
この違いは、それぞれの国(地域)で、ラブラドールという犬種に「何を求めて改良(ブリーディング)してきたか」という目的の違いによって生まれた「スタイル(系統)」の違いなのです。
アメリカンラブラドール(フィールドタイプ)
アメリカでは、ラブラドール本来の役割である「レトリバー(獲物の回収犬)」としての能力を競う「フィールドトライアル(狩猟競技)」が非常に盛んです。
アメリカンタイプは、この競技で勝つために、より速く、よりエネルギッシュに、より高い作業意欲を持つようにと、「作業能力」を最重要視して選択的に繁殖されてきた系統です。
イングリッシュラブラドール(ショータイプ)
イギリス(およびヨーロッパやオーストラリア、日本など)では、その犬種の理想的な姿(スタンダード)を評価する「ドッグショー」が主流です。
イングリッシュタイプは、ドッグショーのスタンダード(犬種標準)に、より忠実な「外見の美しさ」と、ショー会場や家庭で落ち着いていられる「穏やかな気質」を重視して繁殖されてきた系統です。
見た目とサイズの違い(スリム vs がっしり)
アメリカンは「細マッチョ」なアスリート体型で、足が長く、マズルも細長いのが特徴です。イングリッシュは「ずんぐりむっくり」した体型で、骨太でがっしりし、頭部が大きくマズルが太く短いのが特徴です。
作出の目的が違うため、その体型は対照的です。
アメリカン(フィールドタイプ)は、まさに「アスリート」です。
- 体型:スレンダーで筋肉質。細マッチョと表現されます。
- 体格:足が長く、長距離を速く走るのに適しています。
- 頭部:頭蓋骨(ヘッド)は比較的小さく、マズル(鼻先から口元)も細長い傾向があります。
イングリッシュ(ショータイプ)は、どっしりとした「ショーマン」です。
- 体型:骨太でがっしりしており、胸が深く、全体的に丸みを帯びて「ずんぐりむっくり」した印象を与えます。
- 体格:胴が短く(短胴)、足もやや短めに見えます。
- 頭部:頭蓋骨(ヘッド)が大きく幅広で、マズルも太く短いのが特徴です。
ラブラドールの特徴である「オッターテイル(カワウソのような太い尾)」も、イングリッシュタイプの方がより顕著に見られる傾向があります。
性格・行動特性としつけやすさの違い(活発 vs 穏やか)
気質(エネルギーレベル)が最大の違いです。アメリカンは「超」がつくほどエネルギッシュで、常に仕事を求める作業犬気質です。イングリッシュは比較的穏やかで落ち着きがあり、人懐っこく温厚なため、家庭犬として飼育しやすいとされます。
飼い主にとって最も重要な違いが、この「性格(気質)」です。
アメリカン(フィールドタイプ)の性格
作業犬として特化しているため、そのエネルギーレベルは一般家庭犬の比ではありません。
- 非常にエネルギッシュ:常に動いていることを好み、じっとしているのが苦手です。
- 作業意欲が爆発的:飼い主(ハンドラー)からの指示を待ち望み、ボール投げや訓練を際限なく要求します。
- 感受性が高い:訓練性能が高い反面、非常に敏感で神経質な一面も持ち合わせています。
この有り余るエネルギーと作業意欲を満たせない場合、深刻な問題行動(破壊行動、無駄吠え、自傷行為など)につながる可能性が非常に高いです。
イングリッシュ(ショータイプ)の性格
ショータイプは、家庭犬としての適性を重視されてきたため、比較的穏やかです。
- 穏やかで落ち着きがある:アメリカンタイプに比べ、感情の起伏が少なく、落ち着いた行動が取れます。
- 温厚で人懐っこい:ラブラドール本来の、人や他の犬に対する友好的な性格がより強く出ます。
ただし、「穏やか」とは言っても、あくまでアメリカンタイプと比較しての話です。ラブラドール・レトリバーは本来大型犬の鳥猟犬(ガンドッグ)であり、イングリッシュタイプであっても毎日1〜2時間の十分な運動は絶対に必要です。
寿命・健康リスク・病気の違い
寿命や基本的な健康リスクは、どちらのタイプも「ラブラドール・レトリバー」として共通です。平均寿命は10〜14年程度。遺伝的に「股関節形成不全」や「肘関節形成不全」のリスクが高く、また「肥満」にも細心の注意が必要です。
アメリカンタイプとイングリッシュタイプで、寿命や特定の病気のリスクに明確な統計的差異があるという公式なデータは多くありません。どちらも「ラブラドール・レトリバー」として共通の健康リスクを持っています。
- 平均寿命:10〜14年程度とされています。
- 遺伝的疾患:
- 股関節形成不全・肘関節形成不全:大型犬に非常に多い遺伝性の関節疾患です。迎える際には、親犬の遺伝子検査(クリアランス)情報をブリーダーに確認することが非常に重要です。
- 進行性網膜萎縮症(PRA):徐々に視力が失われる眼の遺伝病。
- 注意すべき病気:
- 肥満:ラブラドールは非常に食欲旺盛な犬種であり、肥満になりやすいです。特に、運動量がアメリカンタイプより少ないイングリッシュタイプは、食事管理を徹底しないとすぐに太ってしまいます。
- 胃拡張・胃捻転:胸が深い大型犬に起こりやすい、命に関わる緊急疾患です。食後の急な運動は避ける必要があります。
「アメリカン」と「イングリッシュ」の共通点(ラブラドール・レトリバーとして)
見た目や気質に違いはあっても、JKCなどのケネルクラブでは「ラブラドール・レトリバー」という単一の犬種として扱われます。どちらも非常に賢く、人懐っこく、飼い主に忠実で、水遊びが大好きな「レトリバー(回収犬)」であることに変わりはありません。
スタイルの違いはあれど、もちろん多くの共通点を持っています。
- 単一の犬種:一般社団法人 ジャパンケネルクラブ(JKC)やアメリカンケネルクラブ(AKC)において、犬種標準(スタンダード)は一つであり、どちらも正式には「ラブラドール・レトリバー」という犬種です。
- 高い知能と忠誠心:どちらのタイプも非常に賢く、飼い主を喜ばせることが大好きで、忠誠心に厚い犬種です。
- 友好的な性格:人や他の犬に対して基本的に友好的であり、攻撃性が低いことも共通しています(ただし、アメリカンタイプは作業への集中力が高すぎることがあります)。
- レトリバーの本能:「回収犬」の本能が強く、物(特にボール)を持ってくる遊びが大好きです。
- 水遊びが大好き:耐水性のあるダブルコートの被毛と水かき(指の間の膜)を持ち、泳ぎが非常に得意です。
歴史・ルーツと系統の違い(なぜ分かれたのか)
ラブラドールの原産はカナダのニューファンドランド島です。その犬が19世紀にイギリスに持ち込まれ、貴族たちによってドッグショー用に改良されたのが「イングリッシュ(ショー)タイプ」の始まりです。一方、アメリカではその狩猟能力が再注目され、「フィールドトライアル」という競技のために作業能力を特化させて改良されたのが「アメリカン(フィールド)タイプ」です。
なぜ同じ犬種で2つのタイプが生まれたのか、その歴史はカナダとイギリス、アメリカにまたがります。
ラブラドール・レトリバーの直接の祖先は、カナダのニューファンドランド島で漁師の手伝いをしていた「セント・ジョンズ・ウォーター・ドッグ」という犬です。
19世紀初頭、この犬がイギリスに持ち込まれ、その優れた回収能力と温厚な性格から、貴族たちの間で鳥猟犬(ガンドッグ)として人気を博しました。
イングリッシュ(ショー)タイプは、このイギリスで発展しました。19世紀末から20世紀初頭にかけてドッグショーが流行すると、ラブラドールもショーの基準(スタンダード)に合わせて、より見た目ががっしりとして美しく、穏やかな性格になるよう改良が進められました。これが現在のショータイプ(イングリッシュタイプ)の主流となりました。
アメリカン(フィールド)タイプは、主にアメリカで発展しました。アメリカではドッグショーよりも、犬の実用的な狩猟能力を競う「フィールドトライアル」が人気を博しました。そこでは、ショータイプのずんぐりした体型よりも、より速く、より機敏に、より長時間獲物を回収できるアスリート能力が求められました。その結果、ショータイプとは外見も気質も異なる、作業能力に特化した系統(アメリカンタイプ)が確立されていったのです。
どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ
一般的なペットとして家庭に迎える場合、イングリッシュ(ショー)タイプの方が、その穏やかな気質から圧倒的におすすめです。アメリカン(フィールド)タイプは、プロの訓練士や、ドッグスポーツ・狩猟に本格的に取り組む人で、その爆発的な運動量を満たせる環境がある人以外は、飼育が非常に困難です。
この2つのタイプのどちらを選ぶかは、飼い主さんのライフスタイルと覚悟によって決まります。
【アメリカンラブラドール(フィールドタイプ)がおすすめな人】
- プロのドッグトレーナー、またはそれに準ずる知識と技術、時間がある人
- 毎日2時間以上の激しい運動+アジリティや狩猟訓練などの「知的作業」を提供できる人
- ドッグスポーツ(アジリティ、フライボールなど)で本気で上位を目指したい人
- 広大な土地やドッグランを所有しており、犬が常に動ける環境がある人
※初心者はもちろん、一般的な飼育経験者が家庭犬として迎えるのは、ほぼ不可能であり、強く推奨されません。
【イングリッシュラブラドール(ショータイプ)がおすすめな人】
- ラブラドールを家庭犬として迎え、穏やかな関係を築きたい人
- 初めて大型犬を飼う人(ただし、大型犬のしつけと運動量をこなす覚悟は必須)
- 毎日1〜2時間程度のしっかりとした散歩や遊びの時間を確保できる人
- ラブラドール特有の「がっしり」「ずんぐり」した愛嬌のある体型が好きな人
(※日本で「ラブラドール」としてペットショップやブリーダーから迎える場合、そのほとんどがイングリッシュ(ショー)タイプです。)
僕が出会った「アメリカン」と「イングリッシュ」の“オーラ”の違い(体験談)
僕は以前、大きなドッグランで両方のタイプに同時に出会ったことがあります。その違いは歴然としていました。
イングリッシュラブラドールの「ラブくん」は、まさに絵に描いたようなラブラドールでした。がっしりした体 で、尻尾(オッターテイル)をブンブン振りながら、他の犬や飼い主さんみんなに「遊んでー!」と挨拶して回る、人懐っこさの塊。見ているだけでこちらも幸せになるような、「陽気」で「穏やか」なオーラ に満ちていました。
一方、アメリカンラブラドールの「ジェットくん」は、全く違いました。ドッグランの隅で、飼い主さんとひたすらボール遊び(訓練)をしています。その体は信じられないほど引き締まった筋肉質で、飼い主さんがボールを投げるその一瞬に全神経を集中させていました。
僕が近づいても一切目もくれず、「仕事の邪魔をするな」と言わんばかりの「アスリートのオーラ」を放っていました。飼い主さんも「この子は遊び=仕事なので…」と苦笑いしていたのが印象的です。
同じ犬種でも、目的が違うとこれほどまでに気質が変わるのかと驚いた体験です。
「アメリカン」と「イングリッシュ」ラブラドールに関するよくある質問
Q: アメリカンとイングリッシュは、正式な犬種名として別なのですか?
A: いいえ、別ではありません。ジャパンケネルクラブ(JKC)やアメリカンケネルクラブ(AKC)などの主要な犬種登録団体では、どちらも「ラブラドール・レトリバー」という一つの犬種として登録されています。あくまでブリーダーや愛好家の間で使われる「タイプ(系統)」の呼び分けです。
Q: 一般的なペットショップにいるのはどっちですか?
A: 日本のペットショップや一般的なブリーダーで「ラブラドール」として販売されている個体のほとんどは「イングリッシュ(ショー)タイプ」です。アメリカン(フィールド)タイプは、狩猟やドッグスポーツを専門とする特定のブリーダーから迎えるのが一般的です。
Q: どっちが飼いやすいですか?
A: 一般家庭犬としては、圧倒的に「イングリッシュ(ショー)タイプ」の方が飼いやすいとされています。その穏やかで落ち着いた気質は、家庭環境によく馴染みます。アメリカンタイプは、その爆発的なエネルギーと作業意欲を満たせる飼い主でない限り、飼育は極めて困難です。
Q: 寿命や病気に違いはありますか?
A: タイプによる明確な寿命や病気の違いを示す公式なデータは多くありません。どちらも「ラブラドール・レトリバー」として、股関節形成不全や肥満などに注意が必要です。
「アメリカン」と「イングリッシュ」ラブラドールの違いのまとめ
「アメリカンラブラドール」と「イングリッシュラブラドール」。その違いは、人間のニーズによって「能力」と「見た目」のどちらを追求したか、というブリーディングの歴史そのものでした。
- 目的の違い:アメリカンは「作業犬(フィールド)系」。イングリッシュは「愛玩犬(ショー)系」。
- 見た目の違い:アメリカンはスリムな「アスリート体型」。イングリッシュはがっしりした「ショー体型」。
- 性格の違い:アメリカンは「超エネルギッシュ」で作業意欲が爆発的。イングリッシュは「比較的穏やか」で家庭犬向き。
- 飼育難易度:イングリッシュも大型犬としての運動・しつけは必須だが、アメリカンはプロレベルの飼い主でなければ飼育困難。
もしこれからラブラドールを家族に迎えたいと考えているなら、ご自身のライフスタイルと、犬にどれだけの運動や訓練を提供できるかを冷静に見極め、どちらのタイプ(多くの場合、イングリッシュタイプ)が適しているか判断してくださいね。他のペット・飼育に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ(JKC)(https://www.jkc.or.jp/) – 犬種標準について
- (参考)環境省「動物の愛護と適切な管理」(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/) – 終生飼養の責任について