「ビションフリーゼ」と「マルチーズ」、どちらも真っ白で愛くるしい小型犬の代表格ですが、実は毛質と骨格、そして性格が全く異なる犬種です。
最も簡単な答えは、ビションフリーゼは「アフロ」のような巻き毛のダブルコート、マルチーズは「絹糸」のような直毛(ストレート)のシングルコートだということ。
この毛質の違いが、お手入れの方法や見た目の印象を大きく左右します。また、ビションフリーゼの方がマルチーズよりも一回り大きく、がっしりとした骨格をしています。この記事を読めば、単純な見た目の見分け方から、それぞれの歴史的背景、飼育上の重要な注意点までスッキリと理解できます。
まずは、両者の決定的な違いを比較表で押さえましょう。
| 項目 | ビションフリーゼ(Bichon Frise) | マルチーズ(Maltese) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | 小型犬(フランス・ベルギー原産) | 小型犬(中央地中海沿岸地域原産) |
| サイズ(体高) | 25〜29cm | オス:21〜25cm、メス:20〜23cm |
| サイズ(体重) | 約5kg(個体差あり、3〜10kgの範囲も) | 3〜4kg |
| 被毛(毛質) | ダブルコート(巻き毛)。「パウダーパフ」状。 | シングルコート(直毛)。絹糸状で非常に長い。 |
| 行動・性質 | 陽気で活発、社交的。誰にでもフレンドリーだが、わがままな面も。 | 穏やかで愛情深い。飼い主に従順で賢いが、警戒心や気の強い一面も。 |
| 飼育難易度 | 普通〜やや高い。しつけは入りやすいが、トリミングが必須。 | 普通。しつけは入りやすいが、毎日の毛のお手入れと涙やけケアが必須。 |
| 寿命 | 12〜15年 | 約13.6歳 |
| かかりやすい病気 | 膝蓋骨脱臼(パテラ)、皮膚疾患、白内障、歯周病 | 僧帽弁閉鎖不全症(心臓病)、膝蓋骨脱臼(パテラ)、流涙症(涙やけ)、外耳炎 |
| 毛色 | ホワイト(純白)のみ。 | ピュア・ホワイトのみ。 |
【3秒で押さえる要点】
- 毛質:ビションフリーゼは巻き毛のダブルコート(アフロヘア)。マルチーズは直毛のシングルコート(絹糸)。
- 性格:ビションフリーゼは陽気で誰にでもフレンドリー。マルチーズは穏やかで飼い主に一途な甘えん坊だが、警戒心も持つ。
- 体格:どちらも小型犬だが、ビションフリーゼの方が一回り大きく、骨格ががっしりしている。
見た目とサイズの違い
最大の違いは毛質です。ビションフリーゼは綿あめのような巻き毛(フリーゼ)のダブルコートで、アフロヘアが作れます。マルチーズは絹糸のようなストレートのシングルコートで、地面に届くほど長く伸びます。また、ビションフリーゼの方がマルチーズより一回り大きく、骨格がしっかりしています。
街中で見かけたとき、この2種を見分ける最大のポイントは「毛質」と「カットスタイル」、そして「体格」です。
ビションフリーゼの毛質は、ダブルコート(上毛と下毛の二重構造)で、コークスクリュー(コルク栓抜き)状のゆるい巻き毛が特徴です。その名の「フリーゼ」はフランス語で「巻き毛」を意味します。この豊かな下毛(アンダーコート)があるおかげで、毛が立ち上がり、あの有名な「パウダーパフ」や「アフロヘア」と呼ばれる丸いカットスタイルが可能になります。
一方、マルチーズの毛質は、シングルコート(下毛がない)で、絹糸のように光沢のあるストレートヘアです。巻き毛のビションフリーゼとは異なり、毛は重力に従ってまっすぐ地面に向かって伸びます。フルコートにすると、その白い被毛が地面に届くほど長くなり、非常に優美な印象を与えます。
サイズ感も異なります。ジャパンケネルクラブ(JKC)の犬種標準によれば、マルチーズの体高は20〜25cm、体重3〜4kgなのに対し、ビションフリーゼは体高25〜29cm、体重約5kgと、ビションフリーゼの方がマルチーズよりも一回り大きく、骨格もがっしりしています。
性格・行動特性としつけやすさの違い
性格は対照的です。ビションフリーゼは非常に陽気で社交的、誰にでもフレンドリーで「みんな大好き」タイプです。マルチーズは飼い主に深く愛情を注ぐ甘えん坊ですが、見知らぬ人には警戒心を見せる「飼い主一筋」タイプです。
見た目の白さとは裏腹に、その性格はかなり異なります。
ビションフリーゼは、非常に陽気で活発、社交的な性格をしています。JKCの犬種標準でも「神経質でも、しばしば吠えることもなく、知らない人や犬に対しても大変社交的である」と記載されているほど、人見知りや犬見知りが少なく、誰にでもフレンドリーに接することができます。その明るさから、初めて会う人や他の犬ともすぐに仲良くなれる傾向があります。
しつけの面では、賢く飲み込みが早いため、トレーニングはしやすい犬種です。ただし、甘やかしすぎると自分が中心でないと気が済まない、わがままな一面が出ることもあります。
一方、マルチーズは、その愛玩犬の歴史を色濃く反映し、飼い主や家族に対して非常に愛情深く、従順で、甘え上手な性格です。飼い主に褒められることを喜ぶため、しつけはしやすい犬種とされています。
しかし、ビションフリーゼが「誰にでもフレンドリー」なのに対し、マルチーズは警戒心が強く、見知らぬ人には吠えたり、攻撃的になったりする「気の強い」一面も持ち合わせています。甘やかしすぎると、その傾向が強く出ることがあるため、子犬の頃からの根気よいしつけが重要です。
寿命・健康リスク・病気の違い
平均寿命はどちらも12〜15年前後と長寿です。ビションフリーゼは小型犬に多い「膝蓋骨脱臼(パテラ)」や皮膚疾患に注意が必要です。マルチーズは高齢になると「僧帽弁閉鎖不全症」という心臓病のリスクが高く、また「流涙症(涙やけ)」のケアが欠かせません。
平均寿命は、ビションフリーゼが12〜15年、マルチーズが約13.6歳 と、どちらも小型犬らしく長生きする犬種です。
しかし、かかりやすい病気にはそれぞれの特徴が表れます。
ビションフリーゼは、小型犬全般に言えることですが、「膝蓋骨脱臼(パテラ)」という膝のお皿がずれてしまう病気に注意が必要です。また、豊かな被毛が蒸れやすいため、「アレルギー性皮膚炎」などの皮膚疾患にもかかりやすい傾向があります。さらに、「白内障」 や「歯周病」 のリスクも指摘されています。
マルチーズで特に注意したいのは、高齢期に発症しやすい「僧帽弁閉鎖不全症」という心臓病です。これは小型犬に多い病気で、定期的な健康診断が欠かせません。また、マルチーズは「流涙症(涙やけ)」を起こしやすく、目の周りの毛が赤茶色に変色してしまうことが多いため、こまめなお手入れが必要です。パテラ や、垂れ耳のため「外耳炎」 にもなりやすい犬種です。
「ビションフリーゼ」と「マルチーズ」の共通点
どちらもヨーロッパの地中海沿岸地域をルーツに持つ「ビション系」の犬種であり、毛色が純白で、小型の愛玩犬(コンパニオンドッグ)であるという点が共通しています。
多くの違いがある両者ですが、もちろん共通点もたくさん持っています。
- 毛色が純白:どちらも犬種標準で毛色は「純白(ピュア・ホワイト)」と定められています。ビションフリーゼは子犬期に僅かなベージュが入ることも許容されますが、基本は白です。
- ビション系のルーツ:ビションフリーゼの起源はマルチーズなどの白い小型犬とバルビー(大型犬)を掛け合わせた犬種とされ、マルチーズもビション系(ビション・フリーゼ、ボロニーズ、ハバニーズなど)の一群に属すると考えられています。
- 愛玩犬(コンパニオンドッグ):どちらもJKCの分類でグループ9(愛玩犬)に属し、古くから人々に愛されるコンパニオン・ドッグとしての歴史を持ちます。
- 垂れ耳:どちらも耳は垂れており、豊かな毛で覆われています。
歴史・ルーツと性質の関係
マルチーズは地中海沿岸地域(マルタ島説は否定されている)を原産とする非常に古い愛玩犬です。ビションフリーゼは、その系統の犬がルネサンス期にフランスへ渡り、その陽気な性格から貴族や大道芸のパートナーとして人気を博した歴史を持ちます。
どちらもヨーロッパの貴族に愛された歴史を持ちますが、その経緯は少し異なります。
マルチーズの歴史は非常に古く、原産国は中央地中海沿岸地域とされています。犬種名はマルタ島に由来するという意味ではないとJKCは明記していますが、古くから地中海の船乗りたちと共に暮らし、港町で愛玩犬として飼育されていたと考えられています。その歴史は生粋の「愛玩犬」です。
ビションフリーゼの起源は、一説によるとマルチーズなどの白い小型犬と「バルビー」という大型犬を掛け合わせた系統とされています。この系統の犬がルネサンス時代にイタリアからフランスに持ち込まれ、貴族の寵愛を受けました。しかし、フランス革命などで宮廷から市井に出た後は、その賢さと陽気さから、大道芸人のパートナーとしても活躍したというユニークな歴史を持っています。
この「大道芸でも活躍した」という歴史が、ビションフリーゼの陽気で社交的な性格を、「宮廷で寵愛され続けた」という歴史が、マルチーズの穏やかで飼い主に従順な性格を形作ったのかもしれません。
どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ
ビションフリーゼは、活発で遊び好き、他の犬や人とも積極的に交流させたい「社交的な飼い主」に向いています。マルチーズは、家で穏やかに過ごし、愛犬と深くスキンシップを取りたい「一途な愛情を注ぎたい飼い主」に向いています。
どちらも魅力的な白い小型犬ですが、あなたのライフスタイルや性格に合うのはどちらでしょうか?
【ビションフリーゼがおすすめな人】
- 活発で遊び好き、犬とアクティブに過ごしたい
- ドッグランやカフェなど、他の犬や人が集まる場所に積極的に連れて行きたい
- 明るく陽気な性格の犬に癒されたい
- 毎月のトリミング費用(アフロヘアの維持)を負担できる
- 集合住宅でも飼育しやすい、吠えにくい犬を探している
【マルチーズがおすすめな人】
- 穏やかで、飼い主に一途に甘えてくれる犬を求めている
- 家で比較的静かに、愛犬とのスキンシップを大切に過ごしたい
- 警戒心があるため、番犬としての役割も少し期待する
- 毎日のブラッシングと涙やけのケアを欠かさず行える
- 高齢になってからの心臓病ケアなども含め、生涯大切に飼育できる
僕が出会った「ビション」と「マル」の“毛の感触”の違い(体験談)
僕はドッグカフェでアルバイトをしていた時期があり、たくさんの犬たちと触れ合ってきました。ビションフリーゼとマルチーズ、どちらも常連さんがいましたが、その「毛の感触」は感動するほど違いました。
ビションフリーゼの「マロンくん」の毛は、まさに「低反発クッション」。アフロヘアを撫でると、指が「シュワシュワ…」と沈んでいき、離すとゆっくりと元に戻る、あの弾力!湿度の高い日でも、そのふわふわ感は健在で、綿あめを触っているような不思議な感触でした。
一方、マルチーズの「シルクちゃん」は、その名の通り「冷たい絹」でした。フルコートだったので、抱き上げると毛がサラサラと腕からこぼれ落ちていきます。その毛はひんやりとしていて、夏場に触れると本当に気持ちが良いのです。光に当たると純白の毛がキラキラと輝き、「ああ、これは手入れが大変だ…」と飼い主さんの努力に感動したのを覚えています。
ビションフリーゼが「弾力と温かさ」なら、マルチーズは「流動性と冷たさ」。同じ白でも、全く異なる魅力を持つ毛質です。
「ビションフリーゼ」と「マルチーズ」に関するよくある質問
Q: どちらも毛が白いですが、涙やけはどっちがひどいですか?
A: どちらも涙やけ(流涙症)になる可能性はありますが、一般的にマルチーズの方が涙やけに悩まされることが多い犬種として知られています。ビションフリーゼも顔の毛が多いためケアは必要ですが、マルチーズは特に目の病気にも関連して涙やけが出やすい傾向があります。
Q: 抜け毛はどちらが少ないですか?
A: マルチーズはシングルコート、ビションフリーゼはダブルコート です。一般的に抜け毛が少ないのはシングルコートのマルチーズとされています。ただし、ビションフリーゼも巻き毛のため抜け毛が飛び散りにくい犬種です。どちらも毛が伸び続けるため、抜け毛の多さよりも「毛玉」を防ぐための毎日のブラッシングが必須です。
Q: ビションフリーゼとトイプードル(白)の見分け方は?
A: ビションフリーゼと白いトイプードルも非常に似ていますが、毛質と体格が違います。ビションフリーゼはダブルコートで毛がカール(巻き毛)していますが、トイプードルはシングルコートで毛が強く縮れています(カーリー)。また、ビションフリーゼの方がトイプードルよりも骨格ががっしりしており、体長が体高よりやや長いのが特徴です。
Q: マルチーズとボロニーズの違いは?
A: ボロニーズもビション系でマルチーズに似ていますが、毛質が異なります。マルチーズはストレートヘアですが、ボロニーズは長くフワフワとした巻き毛です。また、マルチーズよりもボロニーズの方がやや体格が大きく、体重も重い傾向があります。
「ビションフリーゼ」と「マルチーズ」の違いのまとめ
ビションフリーゼとマルチーズ、どちらも魅力的な白い犬種ですが、その違いは明確です。
- 毛質が違う:ビションフリーゼは巻き毛のダブルコート。マルチーズは直毛のシングルコート。
- 性格が違う:ビションフリーゼは陽気で社交的。マルチーズは穏やかで飼い主に一途。
- 体格が違う:ビションフリーゼの方がマルチーズより一回り大きく、がっしりしている。
- 歴史が違う:マルチーズは古来からの愛玩犬。ビションフリーゼは大道芸のパートナーとしても活躍した歴史を持つ。
もし家族として迎えることを検討するなら、「毎日のブラッシング」と「定期的なトリミング」の手間を惜しまない覚悟を持った上で、あなたの生活スタイルが「陽気なビション」と「穏やかなマルチーズ」のどちらと合うかを考えて選んでくださいね。ぜひ、他のペット・飼育に関する違いについても、他の記事をご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ(https://www.jkc.or.jp/)