コウモリラン(ビカクシダ)の中でも特に人気の高い「ビフルカツム」と「ネザーランド」。
どちらも美しい緑の葉を持つ着生シダですが、実は「ビフルカツム」は原種の一つ、「ネザーランド」はそのビフルカツムから選抜された園芸品種であり、葉の形や成長の仕方、育てやすさが異なります。
最も簡単な答えは、「ビフルカツム」は胞子葉(鹿の角のような葉)の先が細かく分岐しやすく個体差が豊か、「ネザーランド」は胞子葉の幅が広く分岐が少なく、より大型化しやすい傾向があるということです。
この記事を読めば、その微妙な見分け方から、それぞれの栽培特性、管理のコツまでスッキリと理解できます。あなたが板付け(着生)させるのは、野趣あふれるビフルカツム?それとも、スタイリッシュなネザーランドでしょうか?
【3秒で押さえる要点】
- 関係性:ビフルカツムは「原種」。ネザーランドはビフルカツムから選抜された「園芸品種」。
- 胞子葉:ビフルカツムは個体差が大きく分岐しやすい。ネザーランドは幅広で分岐が少なく、大型化しやすい。
- 育てやすさ:どちらも非常に強健で育てやすいですが、ネザーランドの方がビフルカツムよりさらに強健で、成長が早い傾向があります。
| 項目 | ビフルカツム(P. bifurcatum) | ネザーランド(P. bifurcatum ‘Netherlands’) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | 原種(ビカクシダの一種) | 園芸品種(ビフルカツムの選抜個体) |
| 貯水葉 | 切れ込みが入りやすく、やや尖る傾向。 | 丸みを帯び、切れ込みが少ない傾向。 |
| 胞子葉(鹿角状の葉) | 個体差が豊か。先が細かく分岐しやすい。葉の色がやや濃い。 | 幅広で、分岐が少ない。葉の色が明るいライムグリーン傾向。 |
| 全体のサイズ感 | 中型〜大型(個体差あり) | 大型化しやすい |
| 成長速度 | 速い | ビフルカツムよりさらに速い傾向 |
| 耐寒性・耐暑性 | 非常に強い(最も強健な原種の一つ) | 極めて強い(ビフルカツムの強健さを選抜) |
| 繁殖 | 胞子、子株(非常に多く出る) | 胞子、子株(非常に多く出る) |
| 流通名 | ビフルカツム、コウモリラン | ネザーランド、ビカクシダ・ネザーランド |
形態・見た目とサイズの違い
見分けるポイントは「胞子葉」と「貯水葉」です。ネザーランドは、ビフルカツムに比べて胞子葉の幅が広く分岐が少なく、色は明るいライムグリーンです。また、貯水葉のフチ(上部)も、ビフルカツムがギザギザと切れ込みやすいのに対し、ネザーランドは丸みを帯びて切れ込みが少ない傾向があります。
この2つは、ネザーランドがビフルカツムの選抜品種であるため、非常によく似ています。しかし、栽培下で比較すると形態にいくつかの傾向的な違いが見られます。
ビフルカツム(原種)は、オーストラリアやニューギニア島などに広く分布する原種で、非常に個体差(バリエーション)が豊かです。一般的に胞子葉(鹿の角のように垂れ下がる葉)は、先に向かって細く、分岐(枝分かれ)が多くなる傾向があります。葉の色もやや濃い緑色です。また、株元に張り付く貯水葉(ちょすいよう)の上部(フチ)は、成長するとギザギザとした深い切れ込みが入りやすいのが特徴です。
一方、ネザーランド(園芸品種)は、オランダでビフルカツムの中から選抜・改良された品種です。ビフルカツムに比べ、胞子葉の幅が広く、分岐が少ないのが最大の特徴です。葉の色も、ビフルカツムより明るいライムグリーンになる傾向があります。
貯水葉のフチも、ビフルカツムほどギザギザにならず、丸みを帯びた形状を保ちやすいため、全体としてスッキリと整った印象を与えます。
サイズ感としては、どちらも大型になりますが、ネザーランドの方がより成長が早く、大きく育ちやすい傾向があります。
栽培特性・成長の違い
どちらもビカクシダの中で最も強健なグループで、初心者にもおすすめです。特にネザーランドは、ビフルカツムの強健さに加え、成長速度がさらに速い傾向があるため、短期間で大きく育てたい人に向いています。
どちらも「ビフルカツム系」に属するため、ビカクシダ(コウモリラン)の全品種の中でもトップクラスに強健で、育てやすいのが共通点です。
ビフルカツム(原種)は、耐寒性・耐暑性ともに非常に強く、環境適応能力が高いことで知られています。日本でも、暖かい地域であれば屋外で冬越しする事例もあるほどです。子株も非常によく吹き、成長速度も速いため、入門種として最適です。
ネザーランド(園芸品種)は、そのビフルカツムの中から、さらに強健で成長が早く、姿が整いやすい個体を選抜して固定化したものです。そのため、基本的な性質はビフルカツムに準じますが、ビフルカツム以上に成長が旺盛で、管理がしやすいと評価されています。
どちらも水苔やコルク、ヘゴ板などに着生させて育てるのが一般的です。強健とはいえ、着生植物ですので、春から秋の成長期にはたっぷりと水を与え、冬は乾燥気味に管理するのが基本です。
原種と園芸品種・耐性の違い
ビフルカツムは「原種」であり、自生地では様々な環境に適応しているため、個体差(バリエーション)が非常に豊かです。ネザーランドは「園芸品種」であり、ビフルカツムの中から特に強健で成長が早く、観賞価値の高い(葉の幅が広く整った)個体が選抜・固定化されたものです。
両者の最も根本的な違いは、その「出自」です。
ビフルカツムは、自然界に自生している「原種(Wild Species)」です。広大な分布域の中で、気候や環境に合わせて少しずつ姿を変えた個体群(亜種や変種)が多数存在し、それが「個体差の豊かさ」につながっています。園芸の世界では、このビフルカツムをベースに、多くの交配や選抜が行われてきました。
ネザーランドは、そのビフルカツムの中から、オランダの栽培家によって特定の形質(幅広の葉、速い成長、強健さ)を持つ個体が選ばれ、人工的に増やされた「園芸品種(Cultivar)」です。いわば、ビフルカツムの中のエリート選抜個体であり、その形質は安定しています。
耐性については、原種であるビフルカツムが元々持っている強健さを、ネザーランドはさらに強く受け継いでいます。どちらもビカクシダの中では最も耐寒性が高く(最低5℃程度まで耐えるとされますが、安全マージンを見て管理が必要です)、初心者でも安心して育てられる強さを持っています。
取り扱い・管理・繁殖の違い
管理や繁殖方法は基本的に同じです。どちらも非常に子株を吹きやすいため、「株分け」で簡単に増やすことができます。ネザーランドは成長が速い分、水苔の交換や板の付け替え(板増し)の頻度がビフルカツムよりやや早くなる可能性があります。
管理方法や繁殖方法は、両者で大きな違いはありません。
【管理】
どちらも明るい日陰を好み、直射日光は葉焼けの原因になるため避けます。水やりは、水苔が乾いたらたっぷりと与えるのが基本です。ビフルカツムもネザーランドも非常に強健ですが、ネザーランドの方が成長が速い傾向があるため、その分、水や肥料の要求量がわずかに多いかもしれません。
また、成長が速いということは、根(貯水葉)の張りも速いということです。鉢植えの場合は根詰まり、板付けの場合は水苔の劣化や板が手狭になるのが早まる可能性があるため、ネザーランドはビフルカツムより早めの植え替えや「板増し(いたまし)」が必要になる場合があります。
【繁殖】
どちらも「胞子培養」と「株分け」で増やすことができます。
特に、両者とも子株を非常に吹きやすい(=増えやすい)性質を持っています。株元から新しい芽(子株)がたくさん出てくるため、ある程度の大きさになったらカッターナイフなどで親株から切り離し、別の板に着生させることで簡単に増やすことが可能です。
「ビフルカツム」と「ネザーランド」の共通点
どちらもビカクシダ(コウモリラン)のビフルカツム系に属し、非常に強健で育てやすい入門種です。明るい日陰を好み、子株を非常に多く出すため、繁殖させやすい点も共通しています。
園芸品種と原種という違いはありますが、元は同じビフルカツムであるため、多くの共通点を持っています。
- 非常に強健で育てやすい:ビカクシダ全種の中で最も耐寒性・耐暑性が高く、環境適応能力に優れているため、初心者向けの入門種として最適です。
- 子株でよく増える:どちらも株元から子株をよく吹くため、「株分け」による繁殖が非常に容易です。
- 管理方法が同じ:明るい日陰を好み、水苔やコルクに着生させて管理する基本的な栽培方法は全く同じです。
- 美しい胞子葉:どちらも鹿の角のような「胞子葉」と、株元に張り付く「貯水葉」の2種類の葉を持つ、ビカクシダ特有の美しい姿をしています。
僕の温室での「ネザーランド」の成長記録(体験談)
僕は趣味で多くのビカクシダを育てていますが、ビフルカツムとネザーランドの「成長速度」の違いは明確に感じます。
ビフルカツムも十分に成長が速いのですが、ネザーランドはそれを上回るスピードです。春先に小さな株で迎えたネザーランドが、夏を越す頃には一回りも二回りも大きくなり、立派な胞子葉を次々と展開し始めた時は驚きました。
その葉は、確かに原種のビフルカツムのように細かく分岐せず、幅広で堂々としています。葉色も明るいライムグリーンで、室内に飾ると非常に見栄えがします。
一方で、個体差の豊かさという点では原種のビフルカツムに軍配が上がります。僕が育てているビフルカツムの中には、胞子葉が細かく分岐し、まるでレースのように繊細な姿になるものもあります。
ネザーランドの魅力が「安定した美しさと成長力」にあるとすれば、ビフルカツムの魅力は「どんな姿に育つかわからない野性味と個体差」にあるのかもしれない、と感じています。
「ビフルカツム」と「ネザーランド」に関するよくある質問
Q: 「ビフルカツム」と「コウモリラン」は何が違いますか?
A: 「コウモリラン」は、ビカクシダ属(Platycerium)全体の日本での愛称(和名)です。「ビフルカツム」は、そのコウモリラン(ビカクシダ属)に含まれる「品種名(学名)」の一つです。ビフルカツムは最も流通量が多く強健なため、一般的に「コウモリラン」として売られているものの多くが、このビフルカツムか、その園芸品種であるネザーランドです。
Q: どちらも室内で育てられますか?
A: はい、どちらも室内で育てられます。ただし、着生植物であるため、風通しが良く、レースのカーテン越しの光が当たるような「明るい日陰」を好みます。エアコンの風が直接当たる場所は乾燥しすぎるため避けてください。耐寒性はありますが、冬場は室内に取り込むのが安全です。
Q: ネザーランドはビフルカツムより高価ですか?
A: かつては園芸品種であるネザーランドの方が高価な傾向がありましたが、現在ではどちらも大量に生産されており、流通価格に大きな差はほとんどありません。どちらも比較的手頃な価格で入手できる、最も普及したビカクシダです。
Q: 結局、初心者にはどっちがおすすめですか?
A: どちらも「最強の入門種」であり、初心者の方に心からおすすめできます。あえて選ぶなら、「より早く大きく、整った姿に育てたい」ならネザーランド、「個体差や野性味を楽しみたい」ならビフルカツム(原種)を選ぶと良いでしょう。栽培難易度にほとんど差はありません。
「ビフルカツム」と「ネザーランド」の違いのまとめ
ビカクシダ(コウモリラン)の代表格であるビフルカツムとネザーランド。その違いは、原種か園芸品種かという出自の違いにありました。
- 出自が違う:ビフルカツムは「原種」。ネザーランドはビフルカツムから選抜された「園芸品種」。
- 葉の形が違う:ビフルカツムは「分岐が多く、個体差豊か」。ネザーランドは「幅広で、分岐が少なく、整った姿」。
- 成長速度が違う:どちらも速いが、ネザーランドの方がビフルカツムよりさらに速い傾向がある。
- 育てやすさは同じ:どちらも非常に強健で育てやすく、繁殖も容易なため、初心者にも最適。
どちらを選んでも、コウモリラン栽培の楽しさを存分に味わうことができます。あなたの好みで、お部屋のインテリアに合う相棒を選んでみてくださいね。観葉植物や、他のペット・飼育に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- 環境省(https://www.env.go.jp/) – 生物の多様性に関する情報
- 農林水産省(https://www.maff.go.jp/) – 園芸植物の品種登録に関する情報