ボノボとチンパンジーの違いとは?最もヒトに近い類人猿を比較

「ボノボ」と「チンパンジー」。

どちらも類人猿であり、現生の動物の中で私たちヒトに最も近縁な存在です。しかし、外見こそそっくりですが、その社会性や性質は驚くほど対照的です。

最大の違いは、チンパンジーが「攻撃的」でオス優位の社会を築くのに対し、ボノボは「平和的」でメスが優位な社会を築く点にあります。

この記事を読めば、チンパンジーの権力闘争と、ボノボの平和的な問題解決、その驚くべき生態の違いから、生息地、そして彼らが置かれている保護の現状までスッキリと理解できます。

【3秒で押さえる要点】

  • 社会性:チンパンジーはオス優位で権力闘争や集団間の殺し合いが起こる攻撃的な社会。ボノボはメスが優位または中心的で、争いがほとんどない平和的な社会を築く。
  • 見た目:非常に似ているが、ボノボの方が体型が細い。また、ボノボは頭毛が中央で分かれ、顔が黒い。
  • 生息地:アフリカ大陸で、コンゴ川によって完全に分断されている。両者が野生で出会うことはない。
「ボノボ」と「チンパンジー」の主な違い
項目 ボノボ(*Pan paniscus*) チンパンジー(*Pan troglodytes*)
分類・系統 霊長目 ヒト科 チンパンジー属 霊長目 ヒト科 チンパンジー属
社会構造 メスが優位または中心的。メス同士の連帯が強い。 オスが優位の父権社会。オス間の順位争いが厳しい。
性質・攻撃性 平和的。殺し合いは稀。集団間で出会っても混ざり合う。 攻撃的。オスによるメスへの攻撃、子殺し、共食い、集団間の殺し合い(戦争)が起こる。
見た目 体型が細い。四肢が長い。顔の皮膚が黒い。頭毛が中央で分かれる。 ボノボよりがっしりしている。顔の皮膚は成長とともに肌色から黒っぽくなる。
サイズ(体重例) オス:約42-46kg、メス:約25-48kg オス:約40-60kg、メス:約32-47kg
生息地 アフリカ・コンゴ民主共和国のコンゴ川左岸(南側)のみ。 アフリカ・コンゴ川右岸(北側)から西アフリカまで広範囲。
水への反応 水を恐れず、川に入って食物を探すこともある。 水を怖がり、浅い川でも浸かるのを嫌がる。
道具の使用 野生では限定的。 野生でも多様な道具(アリ塚の枝、石など)を使用する。
法規制 絶滅危惧種。ワシントン条約附属書Ⅰ類。 絶滅危惧種。ワシントン条約附属書Ⅰ類。

形態・見た目とサイズの違い

【要点】

ボノボとチンパンジーは外見が非常に似ていますが、ボノボの方が全体的に体型がスリムで、四肢が長いのが特徴です。また、ボノボは頭の毛が中央で左右に分かれ(センター分け)、顔の皮膚が黒い点で区別できます。

ボノボとチンパンジーは、一見すると見分けるのが難しいほどそっくりです。実際、ボノボは発見当初、「ピグミーチンパンジー(小型のチンパンジー)」と呼ばれていました。しかし、形態にはいくつかの明確な違いがあります。

最も分かりやすい違いは、体型です。
ボノボは、チンパンジーと比較して体型が細く、スレンダーです。四肢、特に脚が相対的に長いのも特徴です。
一方、チンパンジーは、よりがっしりとした筋肉質な体つきをしています。

顔つきにも違いがあります。
ボノボは、顔の皮膚が生まれつき黒いです。また、頭頂部の体毛が中央部で左右に分かれる、いわゆる「センター分け」の髪型をしている個体が多いのも特徴です。
チンパンジーは、生まれた時は顔が肌色で、年齢とともに黒っぽくなっていきます。

サイズについては、ボノボの方がやや小さい傾向にありますが、体重はオス同士・メス同士で大きく重なる部分もあります。ボノボはオス(約42-46kg)とメス(約25-48kg)の体格差が比較的小さいのに対し、チンパンジーはオス(約40-60kg)の方がメス(約32-47kg)よりも明らかに大きい傾向があります。

行動・生態・ライフサイクルの違い

【要点】

最大の違いは社会性です。チンパンジーはオスが力で支配する「父権社会」で、順位争いや子殺し、集団間の戦争など攻撃性が非常に高いです。一方、ボノボはメスが中心となる「母権(的)社会」で、メス同士が連帯し、争いを避ける平和的な社会を築きます。

もし見た目が「そっくり」だとしても、彼らの社会と行動は「全く異なる」と言っても過言ではありません。この違いこそが、ボノボとチンパンジーを分ける最大の特徴です。

チンパンジーの社会(攻撃性とオス優位)
チンパンジーの社会は、オスが力でメスを制圧する「父権社会」です。オス同士は厳しい順位争いを繰り広げ、集団を統率します。
彼らの社会では攻撃性が際立っており、オスが発情したメスを巡って激しく争うだけでなく、オスによる子殺しや共食い、集団内での殺し合い、さらには別の集団を襲撃する「戦争」のような行動まで観察されています。メスはオスに従属的で、発情期には最上位のオスからの交尾を拒否できません。

ボノボの社会(平和性とメス優位)
ボノボの社会は、チンパンジーとは正反対です。彼らは「平和的」であることを特徴とし、メスが中心的役割を担う社会を築きます。
チンパンジー社会で見られるような、オスによる子殺しや集団間の殺し合いといった深刻な攻撃行動は、ボノボではほとんど報告されていません。
ボノボの社会では、メスたちが連帯し、オスに対して優位性を示すことさえあります。オスがメスに交尾を強要することはできず、最終的な選択権はメスにあります。

この平和性を支える理由の一つが、性行動のあり方です。チンパンジーのメスが発情する期間は生涯の5%ほどと短く、オス同士の熾烈な争奪戦の原因となります。一方、ボノボのメスは発情していない期間でも性皮を膨張させることができ(ニセ発情)、性交渉が可能な期間がチンパンジーの8倍から10倍も長いとされています。性行動が緊張緩和やコミュニケーションの手段として広く行われるため、オスが攻撃性を発揮する理由が少ないのです。

また、チンパンジーは多様な道具(アリ釣りの枝や木の実を割る石)を使うことが知られていますが、野生のボノボでは道具の使用は限定的です。

生息域・分布・環境適応の違い

【要点】

両種の生息地は、アフリカ大陸のコンゴ川によって地理的に完全に隔離されています。チンパンジーはコンゴ川の北側(右岸)から西アフリカにかけて広範囲に分布する一方、ボノボはコンゴ川の南側(左岸)の特定の熱帯雨林にしか生息していません。

ボノボとチンパンジーは、野生では決して出会うことはありません。なぜなら、彼らの生息域は、アフリカ大陸を流れるコンゴ川によって地理的に完全に分断されているからです。約200万年前にコンゴ川が形成されたことで、共通の祖先が二つの異なる環境に分けられたと考えられています。

チンパンジーは、コンゴ川の北側(右岸)に生息し、そこから西アフリカのセネガルに至るまで、サバンナや森林地帯に広範囲に分布しています。

ボノボは、コンゴ川の南側(左岸)、コンゴ民主共和国の特定の熱帯雨林(ワンバ村など)にのみ生息しています。チンパンジーに比べて非常に限定された地域にしかいません。

この生息地の違いは、水への適応にも影響を与えています。
チンパンジーは水を極度に恐れ、浅い川であっても水に浸かることを嫌がります。
しかし、ボノボは水を恐れず、自ら川に入ってヤゴや川虫などの水生昆虫を食べる行動も観察されています。

危険性・衛生・法規制の違い

【要点】

ボノボもチンパンジーも、人間にとって非常に危険な大型類人猿であり、動物愛護管理法上の「特定動物」に指定されています。また、両種ともに「絶滅危惧種」であり、ワシントン条約附属書Ⅰ類で国際的な商業取引が固く禁止されています。

動物園などで見ると知的な彼らですが、ボノボもチンパンジーも非常に力が強く、人間にとって極めて危険な動物です。

日本では「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」において、両種ともに「特定動物」に指定されています。これは、人の生命や身体に害を加えるおそれがある動物として、愛玩目的での飼育や保管が原則として禁止されていることを意味します。動物園や研究施設など、特別な許可を得た施設でしか飼育することはできません。

法規制の面では、両者は同じく深刻な状況にあります。
ボノボもチンパンジーも、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「絶滅危惧種」(Endangered)に分類されています。生息地の森林伐採、密猟(ブッシュミート問題)、感染症などによって、その個体数は減少し続けています。

このため、両種ともに「ワシントン条約(CITES)」の附属書Ⅰ類に掲載されており、学術研究目的などの例外を除き、国際的な商業取引は一切禁止されています。

文化・歴史・人との関わりの違い

【要点】

チンパンジーは古くから知られ、その攻撃性や知能が研究されてきました。一方、ボノボは1929年に新種として記載された「最後の類人猿」であり、その平和的な社会性が注目されています。日本ではボノボは動物園では見られず、研究施設にのみ存在します。

チンパンジーは、その高い知能やヒトとの類似性から古くから研究対象とされてきました。特にオス同士の権力闘争や道具の使用は、人間社会の進化を考える上で重要な比較対象とされてきました。

一方、ボノボは、1929年になってようやくチンパンジーとは別種として記載された、比較的新しい類人猿です。「最後の類人猿」とも呼ばれています。

ボノボの発見は、人類の進化に対する見方にも影響を与えました。チンパンジーの攻撃的な側面だけがヒトの祖先像とされてきたのに対し、ボノボの平和的でメスが中心となる社会、そして性行動による緊張緩和といった性質は、ヒトの「もう一つの可能性」を示すものとして大きな注目を集めています。

京都大学野生動物研究センターをはじめとする日本の研究チームは、コンゴ民主共和国のワンバ村などで40年以上にわたり、ボノボの貴重な研究と保護活動を続けています。

なお、日本ではチンパンジーは多くの動物園で見ることができますが、ボノボは動物園では飼育されておらず、研究施設にいるのみです。

「ボノボ」と「チンパンジー」の共通点

【要点】

最大の共通点は、両種ともにヒト科チンパンジー属に属する、現生動物の中で最もヒトに近い近縁種であることです。遺伝的にも非常に近く、高い知能を持ち、複雑な社会集団を形成して生活します。

これほど社会性が対照的なボノボとチンパンジーですが、彼らは生物学的に最も近い「兄弟」のような存在です。

  1. ヒトとの近縁性:最大の共通点は、ボノボとチンパンジーの2種が、現生の動物の中で最もヒト(ホモ・サピエンス)に近い近縁種であることです。
  2. 生物学的分類:どちらも同じ「ヒト科 チンパンジー属(*Pan*)」に属します。チンパンジーが *Pan troglodytes*、ボノボが *Pan paniscus* という学名です。
  3. 高い知能:両種ともに非常に高い知能を持つことが知られています。
  4. 複雑な社会:どちらも単独ではなく、複数のオスとメスからなる複雑な社会集団(複雄複雌群)を形成して生活します。
  5. 保護の必要性:両種ともに絶滅の危機に瀕しており、国際的に厳重な保護の対象となっています。

「平和」と「権力」、鏡のような二種

僕は、ボノボとチンパンジーの違いを知った時、まるで人間の二面性を見ているようで、強い衝撃を受けました。

チンパンジーの社会は、力による支配、権力闘争、そして時には残酷なまでの攻撃性(子殺しや戦争)に満ちています。それはまるで、人間の歴史の暗部、すなわち権力欲や排他性を映し出しているかのようです。彼らの社会を知ることは、ヒトがなぜ争うのかを考えるヒントになるかもしれません。

一方で、ボノボの社会は、メスが中心となり、争いを避け、性的な行動で緊張を緩和させるという、信じられないほど平和的なシステムで成り立っています。特に、異なる集団が出会っても争うどころか混ざり合うという生態は、チンパンジーの「戦争」とは真逆です。

ヒトに最も近いこの二種が、なぜこれほど対照的な社会を築いたのか。コンゴ川という地理的な障壁が、彼らの運命を分けたのかもしれません。私たちは、攻撃的なチンパンジーの側面と、平和的なボノボの側面、その両方を併せ持つ存在なのでしょう。動物園でチンパンジーの力強い姿を見る時、そして(日本では難しいですが)映像でボノボの穏やかな社会を見る時、私たちは自分たちの「進化の隣人」を通して、自分自身を見つめ直すことになるのです。

「ボノボ」と「チンパンジー」に関するよくある質問

Q: ボノボとチンパンジーは、どちらがヒトに近いのですか?

A: どちらも等しくヒトに近縁です。遺伝的・系統的に、ボノボとチンパンジーの2種が、現生動物の中で最もヒトに近いとされています。ヒトとチンパンジー・ボノボの共通祖先が分かれた後、チンパンジーとボノボが分かれたと考えられています。

Q: ボノボは本当に「セックス」で問題を解決するのですか?

A: はい、そのように知られています。ボノボの社会では、性行動が緊張緩和や仲間同士の絆を深めるためのコミュニケーション手段として、非常に頻繁に行われます。食べ物を巡る争いなどが起きそうになると、性的な行動をとることで争いを回避することが観察されています。メス同士で性器をこすりつけあう「ホカホカ」と呼ばれる行動も有名です。

Q: ボノボは日本で見られますか?

A: 動物園では見ることができません。日本では、京都大学野生動物研究センター(熊本サンクチュアリ)など、ごく一部の研究施設でのみ飼育・研究されています。

Q: チンパンジーは道具を使うのに、なぜボノボは使わないのですか?

A: チンパンジーは野生でアリ釣りの枝や木の実を割る石など多様な道具を使いますが、ボノボの野生下での道具使用は限定的です。これは、両者の生息環境の違い(例:ボノボの生息地には道具が必要な硬い木の実が少ないなど)や、社会性の違い(例:チンパンジーはオスが道具使用を学習・伝達する文化を持つ)などが影響している可能性が考えられています。

「ボノボ」と「チンパンジー」の違いのまとめ

ヒトに最も近い親戚であるボノボとチンパンジー。彼らの違いは、単なる見た目の差ではなく、社会のあり方そのものでした。

  1. 社会構造:チンパンジーはオス優位で攻撃的。ボノボはメス優位で平和的
  2. 見た目:ボノボはチンパンジーよりスリムで、頭毛がセンター分け、顔が黒い。
  3. 生息地:アフリカのコンゴ川を挟んで北(チンパンジー)と南(ボノボ)に完全に分かれている。
  4. 攻撃性:チンパンジーは子殺しや集団間の戦争がある。ボノボにはそれがない。
  5. 規制:両種とも絶滅危惧種であり、特定動物として飼育は原則禁止されています。

チンパンジーの力の社会と、ボノボの融和の社会。この対照的な二種を知ることは、私たち哺乳類、そしてヒトという種の社会性を見つめ直す、貴重な鏡となるでしょう。

参考文献(公的一次情報)