「ブリティッシュフォールド」と「ブリティッシュショートヘア」、どちらも丸い顔とがっしりした体型が愛らしく、非常に人気の高い猫種です。
見た目がよく似ていますが、最も決定的な違いは「耳の形」です。そして、その耳の形を生み出す遺伝子が、性格や飼育上の重大な注意点にも深く関わっています。
ブリティッシュショートヘア(以下「ブリショ」)は「立ち耳」ですが、ブリティッシュフォールド(以下「ブリフォ」)は「折れ耳」を持っています。
この記事を読めば、単純な見た目の見分け方から、それぞれの性格、かかりやすい病気、そして「ブリティッシュフォールド」という猫種の成り立ちまで、スッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 耳の違い:ブリティッシュショートヘアは「立ち耳」、ブリティッシュフォールドは「折れ耳」です。これが最大の見分け方です。
- 性格の違い:ブリショは穏やかで自立心の高い「静かな同居人」タイプ。ブリフォはブリショの穏やかさに加え、より人懐っこく甘えん坊な「犬のような猫」タイプが多い傾向にあります。
- 健康リスク:ブリフォの折れ耳は遺伝性疾患(骨軟骨異形成症)の症状であり、生涯にわたる関節の痛みや変形のリスクを伴います。飼育にはこの病気への深い理解と覚悟が必須です。
| 項目 | ブリティッシュフォールド(俗称・交配種) | ブリティッシュショートヘア(純血種) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | ブリティッシュショートヘアとスコティッシュフォールド等の交配種、またはスコティッシュフォールドの俗称 | イギリス原産の猫種・中型〜大型 |
| 最大の特徴(耳) | 折れ耳(フォールド) | 立ち耳(スタンダード) |
| サイズ(体重) | 3〜6kg程度(個体差あり) | 3〜7kg程度(オスはより大きい傾向) |
| 体型 | セミコビー(がっしり・丸い) | セミコビー(がっしり・丸い) |
| 性格・行動特性 | 穏やか、非常に人懐っこい、甘えん坊、遊び好き | 穏やか、自立心旺盛、賢い、物静か、クール |
| 飼育難易度 | 非常に高い(遺伝病の理解必須) | 普通(猫の飼育経験者向け) |
| 運動量 | 普通〜やや多い(遊び好き) | 普通(落ち着いている) |
| 寿命 | 12〜15年(遺伝病の進行度による) | 14〜20年 |
| 特有の健康リスク | 骨軟骨異形成症(遺伝病)、外耳炎 | 肥大型心筋症、多発性嚢胞腎(PKD) |
| 公認団体(例:CFA) | 「ブリティッシュフォールド」という猫種は非公認 | 公認 |
見た目とサイズの違い
最大の違いは耳です。ブリティッシュショートヘアは硬く立った「立ち耳」、ブリティッシュフォールドは前に垂れた「折れ耳」です。体型や丸い顔立ちは非常に似ていますが、ブリフォは折れ耳の遺伝子の影響で、手足や尻尾がブリショに比べて短く、太く変形している場合があります。
この2種を見分けるのは、実はとても簡単です。最大の違いは「耳」、これに尽きます。
ブリティッシュショートヘア(ブリショ)は、ピンと立った「立ち耳(スタンダード)」を持っています。耳はやや小さめで、先端が丸みを帯びており、顔の丸い輪郭と調和しています。
一方、ブリティッシュフォールド(ブリフォ)は、その名の通り「折れた耳(フォールド)」が特徴です。耳が頭に沿うように前に垂れており、これにより顔全体がより丸く、フクロウのようにも見える独特の愛嬌を生み出しています。
体型や顔の形はどうでしょうか?
実は、耳以外の部分は非常によく似ています。どちらも「セミコビー」と呼ばれる、肩幅と腰幅が広く、胸に厚みのあるがっしりとした体型です。体重も3〜7kg程度と、猫の中では中型〜大型の部類に入ります。
顔立ちも共通点が多く、両者とも丸い顔、丸い目、そして「ブリティッシュスマイル」とも呼ばれる、ふっくらとした頬(マズル)を持っています。
ただし、見逃しがちな違いとして、ブリフォ(折れ耳)は、折れ耳の原因となる遺伝子(後述)の影響で、骨格に異常が出やすい傾向があります。そのため、ブリショに比べて手足や尻尾が短く、太く、ゴツゴツと変形している場合があり、歩き方に違和感が見られることもあります。
性格・行動特性としつけやすさの違い
どちらも非常に穏やかで賢いですが、人との距離感に違いがあります。ブリティッシュショートヘアは自立心が高くクールで、「静かな同居人」タイプ。ブリティッシュフォールドは、スコティッシュフォールドの血を引くため、非常に人懐っこく「犬のように甘えん坊」な子が多い傾向にあります。
見た目はそっくりな2種ですが、性格、特に飼い主との距離感には面白い違いがあります。
ブリティッシュショートヘア(ブリショ)は、「静かなる同居人」と評されるほど、穏やかで自立心旺盛、そして物静かな猫種です。賢く、あまり鳴き声を上げず、状況をよく観察しています。飼い主のことは大好きですが、四六時中ベタベタと甘えることは好まず、少し離れた場所で静かに寄り添うような、クールな愛情表現をします。過度な抱っこや構いすぎを嫌う傾向があるため、猫とも適度な距離感を保ちたい人に向いています。
一方、ブリティッシュフォールド(ブリフォ)は、ブリショの穏やかな気質を受け継ぎつつも、交配相手であるスコティッシュフォールドの「人懐っこさ」を強く受け継いでいます。そのため、非常に甘えん坊で、飼い主の後をついて回ったり、積極的に膝に乗ってきたりと、「犬のようだ」と表現されるほどの愛情深さを示します。
遊び好きな側面もブリフォの方が強い傾向にあり、猫と積極的にコミュニケーションを取りたい人にとっては、最高のパートナーになるでしょう。
しつけやすさの面では、どちらも非常に賢いため、トイレや爪とぎの場所はすぐに覚えます。攻撃性も低く、非常に飼いやすい猫種と言えます。
寿命・健康リスク・病気の違い
ブリティッシュフォールド(折れ耳)は、「骨軟骨異形成症」という遺伝病を100%発症します。関節の痛みや変形が必ず起こるため、生涯にわたるケアが必須です。ブリティッシュショートヘアは比較的丈夫ですが、心臓病(肥大型心筋症)に注意が必要です。
ここが、この2種を比較する上で最も重要なポイントです。
ブリティッシュショートヘア(ブリショ)は、比較的丈夫で長生きな猫種とされ、平均寿命は14〜20年ほどです。ただし、純血種特有のリスクとして、心臓の筋肉が厚くなる「肥大型心筋症」や、腎臓に嚢胞(のうほう)ができる「多発性嚢胞腎(PKD)」の好発猫種とされています。
一方、ブリティッシュフォールド(ブリフォ)の「折れ耳」は、単なる見た目の特徴ではありません。
これは「骨軟骨異形成症(こつなんこついけいせいしょう)」という遺伝性疾患の症状そのものなのです。折れ耳を生み出す遺伝子は、耳の軟骨だけでなく、全身の骨や軟骨の形成に異常をきたします。
折れ耳の個体は、程度の差こそあれ100%この遺伝病を発症するとされており、多くの場合、若いうちから手足の関節に痛みや骨の変形(骨瘤)が生じます。歩き方がぎこちなくなったり、高い所に登れなくなったり、痛みのために触られるのを嫌がるようになることもあります。
ブリフォの平均寿命は12〜15年とされていますが、この病気は完治せず、生涯にわたって痛みの管理やサプリメント、場合によっては外科手術が必要になる可能性があり、飼い主にはそのリスクを生涯背負う覚悟が求められます。
「ブリティッシュフォールド」と「ブリティッシュショートヘア」の共通点
両者は多くの共通点を持ちます。がっしりとした丸い体型、大きな丸い目、そして穏やかで賢い性格は、ブリティッシュ系の猫に共通する大きな魅力です。
健康リスクや耳の形は対照的ですが、ベースとなっている「ブリティッシュショートヘア」の血が濃いため、共通点も非常に多くあります。
- 丸い顔と体型:「セミコビー」と呼ばれる、骨太で筋肉質、全体的に丸みを帯びた体型は共通しています。大きな丸い目もチャームポイントです。
- 穏やかな性格:どちらも攻撃性が低く、非常に穏やかで賢い猫種です。環境の変化にも比較的強く、落ち着いた性格をしています。
- 密生した被毛:ブリティッシュショートヘアの最大の特徴である、短く密生したビロードのような手触りの被毛は、ブリフォにも受け継がれています(ブリフォには長毛タイプもいます)。
歴史・ルーツと性質の関係
ブリティッシュショートヘアは、ローマ帝国時代にイギリスに持ち込まれた猫が祖先とされる古い猫種です。『不思議の国のアリス』のチェシャ猫のモデルとも言われます。一方、「ブリティッシュフォールド」は公認された猫種名ではなく、スコティッシュフォールドとブリショを交配した猫の俗称、あるいはスコティッシュフォールドの誤認であることがほとんどです。
ブリティッシュショートヘア(ブリショ)のルーツは非常に古く、一説にはローマ帝国がイギリスを統治していた時代に、ネズミ捕りのために持ち込まれたエジプトの猫が祖先とされています。イギリスの厳しい環境に適応し、がっしりとした体型と密な被毛を持つに至りました。1871年のイギリス初のキャットショーにも出展された記録があり、『不思議の国のアリス』に登場する「チェシャ猫」のモデルになったとも言われる、イギリスを代表する猫種です。
では、ブリティッシュフォールド(ブリフォ)はどうでしょうか?
実は、「ブリティッシュフォールド」という猫種は、CFAやTICA、GCCFといった世界の主要な猫血統登録団体では公認されていません。
一般的に「ブリティッシュフォールド」と呼ばれている猫は、以下のどちらかである可能性が極めて高いです。
- スコティッシュフォールド(Scottish Fold)の誤認・俗称
- ブリティッシュショートヘアとスコティッシュフォールドの交配種
「折れ耳」の猫種は、1961年にスコットランドで発見された「スージー」という名の猫を起源とする「スコティッシュフォールド」がオリジナルです。スコティッシュフォールドは、その遺伝病のリスクから、ブリティッシュショートヘアやアメリカンショートヘアなど、他の「立ち耳」の猫種との交配のみが認められてきました。
つまり、「ブリティッシュフォールド」とは、スコティッシュフォールドの交配相手としてブリティッシュショートヘアが使われた結果生まれた「折れ耳のブリティッシュショートヘア風の猫」を指す、ブリーダーやペットショップによる俗称(商品名)に近いものなのです。
どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ
ブリティッシュショートヘアは、穏やかで自立した猫と静かに暮らしたい人向けです。ブリティッシュフォールドは、犬のように甘えん坊な猫を望む人向けですが、遺伝病のリスクを生涯受け入れ、高額な医療費とケアの覚悟がある人のみに限定されます。
見た目の好みだけでなく、その猫の生涯に責任を持つという観点から、どちらを選ぶべきか考えてみましょう。
【ブリティッシュショートヘア(立ち耳)がおすすめな人】
- 穏やかで物静かな猫と、落ち着いた生活を送りたい人
- 猫にベタベタされるより、適度な距離感を保ちたい人
- 比較的、健康で丈夫な猫種を求めている人(ただし肥大型心筋症など純血種リスクはあり)
- 初めて猫を飼う人(ただし、ブラッシングなどのお手入れは必要)
【ブリティッシュフォールド(折れ耳)がおすすめな人】
- 遺伝性疾患(骨軟骨異形成症)について深く理解し、生涯にわたる痛みの管理や高額な医療費の負担を覚悟できる人
- 犬のように人懐っこく、常に甘えてくれる猫を望む人
- 日々の体調変化(歩き方、ジャンプの頻度など)に細かく気づき、ケアできる人
見た目の可愛らしさだけでブリティッシュフォールド(折れ耳)を選ぶことは、絶対におすすめできません。その愛らしさが遺伝病の症状であることを理解し、その痛みに生涯寄り添う覚悟が必要です。
僕が出会った「ブリショ」と「ブリフォ」の“距離感”の違い
僕の友人宅には、ブリティッシュショートヘア(立ち耳)がいます。彼はまさに「静かなる同居人」。僕が遊びに行っても、最初は遠くからジーッとこちらを観察し、安全だと判断すると、2メートルほど離れたソファで毛づくろいを始めます。決して膝には乗ってきませんが、僕が部屋を移動すると、必ず同じ部屋の隅に移動してきて、静かに存在しているのです。そのクールな信頼感がたまりません。
一方、別の知人宅で出会ったブリティッシュフォールド(折れ耳)の子は、全く対照的でした。
玄関のドアを開けた瞬間から足元にスリスリ。僕がソファに座ると、待ってましたとばかりに膝に飛び乗り、ゴロゴロと喉を鳴らして離れません。まさに「犬か!」とツッコミたくなるほどの甘えっぷり。
ただ、その子の歩き方は、どことなくぎこちなく、ジャンプも低かったのが印象に残っています。飼い主さんは「この子が痛くないように」と、家中に低いステップを置き、床にはマットを敷き詰めていました。ブリショの魅力が「自立した賢さ」なら、ブリフォの魅力は「すべてを委ねるような人懐っこさ」と、それを支える飼い主さんの深い愛情にあるのだと感じた体験です。
「ブリティッシュフォールド」と「ブリティッシュショートヘア」に関するよくある質問
Q: ブリティッシュフォールドは正式な猫種名ではないのですか?
A: はい、TICAやCFA、GCCFといった世界の主要な猫血統登録団体において、「ブリティッシュフォールド」という猫種は公認されていません。一般的には、スコティッシュフォールド(折れ耳)とブリティッシュショートヘア(立ち耳)の交配種、あるいはスコティッシュフォールド自体の俗称として使われていることが多いです。
Q: 折れ耳の猫は、必ず遺伝病(骨軟骨異形成症)になるのですか?
A: はい。折れ耳であること自体が、骨軟骨異形成症の症状です。折れ耳を生み出す遺伝子を持つ猫は、程度の差はあれ、必ず全身のどこかの骨や軟骨に異常(痛みや変形)が出るとされています。症状が軽く、生涯気づかれにくい個体もいますが、発症リスクは100%と考えるべきです。
Q: ブリティッシュショートヘアは鳴かない猫ですか?
A: 「全く鳴かない」わけではありませんが、他の猫種に比べて鳴き声が小さく、鳴く頻度も少ない傾向にあります。要求があるときだけ、静かに「ニャッ」と鳴く程度の子が多く、その物静かさも大きな魅力の一つです。
Q: 折れ耳同士の交配はなぜダメなのですか?
A: 折れ耳の遺伝子(優性遺伝)を両親から受け継ぐと(ホモ接合)、骨軟骨異形成症が極めて重篤化し、若いうちから歩行困難になるなど、深刻な健康問題を引き起こすためです。そのため、折れ耳の猫(スコティッシュフォールドなど)の繁殖は、必ず立ち耳の猫(ブリティッシュショートヘアなど)と行わなければならないとされています(それでも折れ耳の子猫は遺伝病のリスクを持ちます)。
「ブリティッシュフォールド」と「ブリティッシュショートヘア」の違いのまとめ
ブリティッシュフォールドとブリティッシュショートヘア、どちらも丸顔で愛らしい英国紳士・淑女のような猫ですが、その違いをまとめると以下のようになります。
- 最大の違いは「耳」:ブリショは「立ち耳」、ブリフォは「折れ耳」。
- 性格の違い:ブリショは「自立的でクール」、ブリフォは「犬のように甘えん坊」。
- 健康上の最大の違い:ブリフォ(折れ耳)は「骨軟骨異形成症」という遺伝病のリスクを必ず抱えている。
- ルーツの違い:ブリショは英国原産の古い純血種。ブリフォはスコティッシュフォールドとの交配種を指す俗称であることが多い。
もし家族として迎えることを検討するなら、特にブリティッシュフォールド(折れ耳)に関しては、その愛らしさが遺伝的な疾患と表裏一体であることを深く理解し、生涯にわたるケアの覚悟を持って決断してください。
どちらの猫種も、その特性を理解し、愛情を注げば、かけがえのない家族の一員となってくれるでしょう。他にもたくさんのペット・飼育に関する違いや、猫種の違いについても解説していますので、ぜひご覧ください。