エンマコオロギとコオロギの違いとは?鳴き声と大きさで見分ける

秋の夜長、どこからともなく聞こえてくる「コロコロコロ……」という虫の音。

「ああ、コオロギが鳴いてるな」と秋の訪れを感じる瞬間ですが、その声の主、本当に全部「コオロギ」でひとまとめにして良いのでしょうか?実は、その中でもひときわ大きく力強い声で鳴く、コオロギ界の王様とも言える「エンマコオロギ」が存在します

「エンマコオロギ」はコオロギの一種ですが、私たちが普段なんとなくイメージする他の小型なコオロギ(例えばツヅレサセコオロギなど)とは、体の大きさと顔つき、そして鳴き声の力強さが全く異なります。最も簡単な答えは、エンマコオロギは日本最大級のコオロギであり、オスの顔が「閻魔(えんま)大王」のように厳ついこと。

この記事を読めば、鳴き声での聞き分け方から、なぜエンマと呼ばれるのか、その生態の違いまでスッキリと理解できますよ。

【3秒で押さえる要点】

  • 大きさ:エンマコオロギは体長3cmを超える日本最大級のコオロギ。他の多くのコオロギ(例:ツヅレサセコオロギ、約1cm)より圧倒的に大きいです。
  • 顔つき:エンマコオロギのオスは頭部が大きく発達し、厳つい「閻魔顔」をしていますが、他のコオロギはそこまで頭部が発達しません。
  • 鳴き声:エンマコオロギは「コロコロコロリー」と大きく力強く鳴きます。他のコオロギは「リッリッリッ」や「チョンチョン」など、より繊細な声で鳴く種が多いです。
「エンマコオロギ」と「(一般的な)コオロギ」の主な違い
項目 エンマコオロギ コオロギ
分類・系統 直翅目 コオロギ科 エンマコオロギ属 直翅目 コオロギ科(種による)
サイズ(体長) 25〜33mm程度(大型) 種による(ツヅレサセコオロギは10mm程度)
形態的特徴(顔) オスは頭部が大きく発達し、厳つい(閻魔顔) 小型で、頭部は体幅より小さいことが多い
形態的特徴(体色) 黒褐色〜黒色で光沢がある 種により様々(黒褐色、茶褐色など)
鳴き声(オス) コロコロコロコロリー」または「キリキリリー」と大きく力強い 種による。「リッリッリッ」「チョンチョンチョン」など
行動・生態 雑食性。オスは縄張り意識が強い。 雑食性。種による。
人との関わり 秋の鳴く虫の代表格。飼育・観賞用。 秋の鳴く虫。種によっては不快害虫扱い。

形態・見た目とサイズの違い

【要点】

最大の違いは大きさと顔です。エンマコオロギは体長30mmを超える日本最大級のコオロギです。特にオスの頭部は大きく張り出し、厳つい「閻魔大王」のような顔つきになります。対して、一般的に「コオロギ」と呼ばれる他の種(ツヅレサセコオロギなど)は体長10mm程度と小型で、顔つきもエンマコオロギほど厳つくありません。

秋の夜に鳴いている虫を捕まえてみたとき、その大きさに驚いた経験はありませんか?もしそれが体長3cm近くある立派なコオロギだったら、それは「エンマコオロギ」である可能性が非常に高いです。

エンマコオロギは、日本に生息するコオロギの中でも最大級の種です。体は黒褐色で光沢があり、がっしりとしています。一方、私たちが「コオロギ」と聞いてイメージする他の多くの種、例えば都市部でもよく見られるツヅレサセコオロギやミツカドコオロギは、体長1cm〜1.5cm程度と、エンマコオロギに比べると非常に小型です。

そして、エンマコオロギを特徴づけるのが、その「顔」です。特にオスのエンマコオロギは、頭部が横に大きく張り出し、その厳つい顔つきが地獄の「閻魔大王」に似ていることから、この名前が付けられました。この発達した頭部は、オス同士が縄張り争いをする際の武器(威嚇)になると言われています。他の小型コオロギたちの顔は、体幅に比べて小さく、エンマコオロギのような威圧感はありません。

行動・生態・ライフサイクルの違い

【要点】

鳴き声が決定的に違います。エンマコオロギのオスは「コロコロコロリー」または「キリキリリー」と、非常に大きく力強い声で鳴き、縄張りを主張します。一方、他のコオロギ類、例えばツヅレサセコオロギは「リッリッリッ」、ミツカドコオロギは「チョンチョンチョン」と、種によって全く異なるリズムと音量で鳴きます。

エンマコオロギと他のコオロギ類を見分ける(聞き分ける)最大のポイントは、その鳴き声です。

エンマコオロギのオスの鳴き声は、「コロコロコロコロリー……」と長く響く、非常に大きく力強いものです。時には「キリキリキリ……」と聞こえることもあります。これは主に縄張りを主張するための鳴き声(本鳴き)で、その音圧は他のコオロギを圧倒します。

対して、他のコオロギたちは、種によって全く異なるメロディーを持っています。
例えば、ツヅレサセコオロギは「リッリッリッリッ……」と単調なリズムを刻み、ミツカドコオロギは「チョン、チョン、チョン」と短く区切って鳴きます。私たちが「コオロギの声」としてイメージする音色は、実は多種多様なコオロギたちの合唱なのです。

生態やライフサイクルについては、多くのコオロギ科で共通点が見られます。エンマコオロギも他の多くのコオロギも、植物の葉や昆虫の死骸などを食べる雑食性です。また、秋に成虫が産卵し、卵の状態で冬を越し、翌年の初夏に孵化し、夏から秋にかけて成虫になるという年1回の発生パターン(ライフサイクル)をとる種が多いです。

生息域・分布・環境適応の違い

【要点】

どちらも草地や畑、河川敷など、人間の生活圏に近い場所に生息しています。エンマコオロギは比較的開けた草地を好み、日当たりの良い場所で見られます。他の小型コオロギ類も同様の環境を好みますが、種によってより湿った場所や茂みの奥深くを好むなどの違いがあります。

エンマコオロギは、北海道から九州まで日本全国に広く分布しており、私たちにとって非常に身近な昆虫です。彼らが好むのは、河川敷や公園の芝生、畑のあぜ道、日当たりの良い草地など、比較的開けた環境です。

「コオロギ」と総称される他の小型種たちも、同様に人家周辺の草地や茂みに生息しています。例えば、ツヅレサセコオロギは都市部の公園や植え込みなどでもよく見られますし、ミツカドコオロギはやや湿った草地を好む傾向があります。

エンマコオロギも他のコオロギも、人間の生活圏の環境(里山や都市近郊)にうまく適応して生息していると言えます。彼らの鳴き声が聞こえる場所は、まだ豊かな草地環境が残っている証拠とも言えるでしょう。

危険性・衛生・人との関わりの違い

【要点】

エンマコオロギも他のコオロギも、人間に害を与える毒などは一切持っていません。農業害虫とされることも稀で、基本的には無害です。ただし、まれに家屋内に侵入し、その鳴き声が騒音と感じられたり、不快害虫として扱われたりすることがあります。

エンマコオロギも、その他のコオロギも、人間に直接的な危害を加えることはありません。彼らは毒を持たず、人を刺したり咬んだりすることもありません(エンマコオロギは顎の力が強いので、無理に掴むと稀に咬まれることもありますが、毒はありません)。

また、農作物を深刻に食害する「農業害虫」として扱われることも稀で、基本的には人間にとって無害な昆虫です。

ただし、秋が深まり寒くなってくると、暖かい場所を求めて家屋内に侵入してくることがあります。特にエンマコオロギは体が大きい上に鳴き声も非常に大きいため、家の中で鳴かれると「騒音」と感じてしまう人もいるかもしれません。その見た目や存在感から、衛生上の害はなくても「不快害虫」として扱われてしまうこともあります。

文化・歴史・人との関わりの違い

【要点】

「コオロギ」は古くから日本の秋の風物詩として、文学や和歌で「キリギリス(蟋蟀)」として詠まれてきました。エンマコオロギはその中でも特に大きく立派な姿と鳴き声から、飼育・観賞の対象として人気があります。その厳つい顔つきが「閻魔大王」に例えられたことが名前の由来です。

日本では、秋に鳴く虫の音(ね)を鑑賞する文化が古くからあります。平安時代の文学作品などで「キリギリス(蟋蟀)」と書かれているのは、実は現在のキリギリスではなく、コオロギ類のことを指していたと言われています。

その中でも、エンマコオロギはひときわ大きく美しい鳴き声を出すことから、江戸時代などには飼育・観賞の対象として人気がありました。その堂々たる体格と、オスの頭部が大きく張り出した厳つい顔つきを、仏教における地獄の王「閻魔大王」になぞらえたのが、「エンマコオロギ」という和名の由来です。

一方、「コオロギ」という言葉は、特定の種を指すというよりは、エンマコオロギも含めたコオロギ科の昆虫全体の総称として、あるいはエンマコオロギ以外の小型な種を指す言葉として、文化的に広く使われてきました。秋の情緒を象徴する存在として、どちらも日本人に深く親しまれてきた昆虫です。

「エンマコオロギ」と「コオロギ」の共通点

【要点】

エンマコオロギも他のコオロギも、生物学的には「コオロギ科」に属する昆虫の仲間です。オスが前翅(はね)をこすり合わせて鳴くこと、雑食性であること、そして秋の夜長に美しい音色を聞かせる「鳴く虫」の代表である点が共通しています。

これまで違いに焦点を当ててきましたが、エンマコオロギも他のコオロギも、生物学的には非常に近い仲間であり、多くの共通点を持っています。

  1. 分類:どちらも昆虫綱・直翅目(バッタ目)コオロギ科に属する昆虫です。
  2. 発音の仕組み:オスの成虫が、前翅(はね)にある発音器をこすり合わせることで音を出します。これはメスへのアピールや縄張り宣言のためです。
  3. 食性:どちらも植物、昆虫の死骸、動物のフンなど、何でも食べる雑食性です。
  4. 生態的役割:秋の夜に鳴く虫の代表格であり、日本の生態系において重要な役割(他の動物の餌、有機物の分解など)を担っています。

つまり、エンマコオロギは「コオロギの中の特定のスター選手(大型種)」であり、「コオロギ」はそのスター選手も含むチーム全体の総称、あるいはスター選手以外の小型な選手たちを指す言葉、と考えると分かりやすいかもしれません。

僕が聞いた「エンマコオロギ」と「コオロギ」の“音圧”の違い

子供の頃、虫かごにコオロギを捕まえてきて、部屋でその鳴き声を楽しもうとしたことがあります。捕まえたのは、おそらくツヅレサセコオロギなどの小型種だったのでしょう。「リッリッリッ……」という繊細な声は、耳を澄ませば聞こえるものの、少し離れるとか細く、夜の静けさに溶け込んでしまうようでした。

しかし、ある晩、家の網戸に張り付くようにして鳴いている個体がいました。それがエンマコオロギとの出会いです。その鳴き声は、「コロコロコロリー!」と、まるでスピーカーを通したかのように部屋全体に響き渡りました。これは「音色」というより「音圧」です。

小型コオロギの魅力が「風情あるBGM」だとしたら、エンマコオロギの魅力は「単独ライブの迫力」。同じコオロギでも、その存在感と響き渡る音の重みが全く違うことを実感した体験です。

「エンマコオロギ」と「コオロギ」に関するよくある質問

Q: エンマコオロギの名前の由来は何ですか?

A: オスの頭部が大きく張り出し、その厳つく迫力のある顔つきが、地獄の王「閻魔(えんま)大王」に似ていることから名付けられました。

Q: 家にコオロギが入ってきたらどうすればいいですか?

A: コオロギに毒はなく、人間に害は与えません。優しく捕まえて外に逃がしてあげるのが一番です。ただし、鳴き声が気になる場合や、多数侵入して不快な場合は、市販の殺虫剤や侵入防止剤を使用する方法もあります。

Q: コオロギとキリギリスの違いは何ですか?

A: コオロギはコオロギ科、キリギリスはキリギリス科の昆虫です。コオロギは体が黒っぽく、触角が比較的短い(体長程度)ですが、キリギリスは体が緑色で、触角が非常に長い(体長より長い)のが特徴です。また、鳴き声もコオロギが「コロコロ」系なのに対し、キリギリスは「ギーッチョン」と鳴きます。

Q: エンマコオロギは飛べますか?

A: エンマコオロギの翅(はね)は主に鳴くために使われ、飛翔能力はほとんどありません。移動は基本的に歩行やジャンプによります。

「エンマコオロギ」と「コオロギ」の違いのまとめ

エンマコオロギと、その他のコオロギの違い、お分かりいただけたでしょうか。私たちが単に「コオロギ」と呼んでいる世界にも、多様な個性があるのです。

  1. 大きさが違う:エンマコオロギは日本最大級の大型種。他の多くは小型。
  2. 顔つきが違う:エンマコオロギのオスは「閻魔顔」と呼ばれる厳つい頭部を持つ。
  3. 鳴き声が違う:エンマコオロギは「コロコロリー」と大きく力強く鳴く。他の種は「リッリッ」など、より繊細でリズムも異なる。
  4. 共通点:どちらも「コオロギ科」の仲間で、オスが翅をこすり合わせて鳴く。

今度コオロギの音が聞こえてきたら、それが力強い「エンマコオロギ」の声か、それとも繊細な小型種の「コオロギ」の声か、ぜひ耳を澄ませてみてください。他の生物その他の記事でも、身近な生き物の意外な違いを紹介していますよ。

参考文献(公的一次情報)