ガサエビとガスエビの違いとは?呼び名が違う「幻のエビ」の謎

「ガサエビ」と「ガスエビ」。

どちらも日本海側で愛される絶品エビですが、名前が似ているせいで「どっちがどっち?」「そもそも同じもの?」と混乱してしまいますよね。

結論から言うと、多くの場合、「ガサエビ」と「ガスエビ」は同じエビ(または非常に近縁な種)を指す、地域ごとの「呼び名(方言)」の違いです。

その正体は、主に「クロザコエビ」や「トゲザコエビ」といった種類のエビたち。見た目はゴツゴツしていて茶色く、鮮度が命ゆえに産地以外では滅多にお目にかかれないことから「幻のエビ」とも呼ばれます。

この記事では、なぜ呼び名が違うのか、その驚きの語源や、ややこしい別種との見分け方、そして「甘エビを超える」とまで言われるその味の秘密まで、スッキリと解説します!

【3秒で押さえる要点】

  • 呼び名の違い:ガサエビ」は主に福井県や山形県庄内地方など。「ガスエビ」は主に石川県や富山県 での呼び名です。
  • 驚きの語源:「ガスエビ」は、鮮度が落ちやすく価値が低かったため「カスエビ」と呼ばれたのが訛ったという説が有力です。
  • 共通する味:どちらも(正体が同じエビなので)非常に濃厚な甘みと旨味を持ち、「甘エビより旨い」と地元で絶賛されます。

結論:ひと目でわかる「ガサエビ」と「ガスエビ」の主な違い

「ガサエビ」と「ガスエビ」の呼び名と正体
項目 ガサエビ ガスエビ
主な呼び名の地域 福井県、山形県庄内地方、秋田県にかほ市など 石川県(金沢など)、富山県など
主な正式名称(標準和名) クロザコエビ、トゲザコエビ(トゲクロザコエビ) クロザコエビ、トゲザコエビ
語源の説 見た目がガサガサしているから(諸説あり) 鮮度が落ちやすく価値が低かったため「カスエビ」と呼ばれた説が有力
その他の呼び名 ドロエビ(新潟、兵庫)、モサエビ(鳥取)、ツチエビ(京都)、ガラエビ(山形、鳥取、福井) など多数
共通の特徴 見た目は茶色くゴツゴツしている。鮮度が落ちやすく産地消費が主(幻のエビ)。味は濃厚で甘エビより甘いと評される。

ガサエビ・ガスエビの正体とは?(形態・見た目)

【要点】

「ガサエビ」「ガスエビ」と呼ばれるエビの多くは、正式名称(標準和名)を「クロザコエビ」や「トゲザコエビ」といいます。殻が茶色っぽくゴツゴツしており、見た目の悪さから「ドロエビ」 や「カスエビ」 といった不名誉な名がついたとされます。

僕たちが「ガサエビ」や「ガスエビ」として認識しているエビの正体は、そのほとんどがエビジャコ科に属する「クロザコエビ」や、その近縁種である「トゲザコエビ」です。

石川県などでは、この2種を区別して、比較的大ぶりでプリプリした「クロザコエビ」を「白ガスエビ」、漁獲量が多く一般的な「トゲザコエビ」を「黒ガスエビ」と呼び分けることもあるようです。

これらのエビに共通するのは、正直に言って「見た目があまり良くない」こと。
私たちがよく知る甘エビ(ホッコクアカエビ)が鮮やかなピンク色でツルッとしているのに対し、ガサエビ・ガスエビは茶褐色で、殻もゴツゴツ、ガサガサしています。

この見た目の悪さこそが、彼らの不遇な名前の由来となりました。
特に「ガスエビ」は、地元で「カスエビ」と呼ばれていたものが訛ったとされ、兵庫県の但馬地方や新潟県糸魚川では「ドロエビ」、京都府舞鶴では「ツチエビ」 と呼ばれるなど、その呼び名は見た目や生息環境(泥底)に由来するものが多く見られます。

ガサエビ・ガスエビの生態と生息域(幻のエビの理由)

【要点】

ガサエビ・ガスエビ(クロザコエビなど)は、北海道西岸から山陰までの日本海側、水深150〜400mほどの泥底に生息しています。水揚げ量が少ないことに加え、とにかく鮮度が落ちるのが早いため、産地以外にほとんど流通しない「幻のエビ」となっています。

彼らが「幻のエビ」と呼ばれるのには、2つの大きな理由があります。

1つ目は、漁獲量が少ないこと。
ガサエビ・ガスエビの正体であるクロザコエビやトゲザコエビは、北海道西岸から鳥取県・島根県に至るまでの日本海沿岸、水深150〜400mほどの深い海の泥底に生息しています。底引き網漁などで他の魚介類と一緒に獲れますが(混獲)、その量自体が甘エビなどに比べて多くありません。

2つ目は、これが決定的な理由ですが、圧倒的に鮮度が落ちやすい(足が早い)ことです。
水揚げされてから短時間で頭が黒く変色しやすく、味も落ちてしまいます。この流通の難しさから、水揚げされてもすぐに地元の市場や料理店で消費されてしまい、都市部のスーパーマーケットなどに出回ることはほとんどありませんでした。

まさに、産地でしか味わえない「幻のエビ」だったわけです。

食材としての味・食感・価格の違い

【要点】

見た目や名前とは裏腹に、その味は「甘エビを超える」と評されるほど絶品です。非常に濃厚な甘みと旨味、そして弾けるようなプリプリの食感が特徴。かつては「カス」扱いでしたが、近年はその美味しさが知れ渡り、甘エビより高級なエビとして扱われています。

「カスエビ」だなんて、ひどい名前を付けられたガサエビ・ガスエビ。しかし、その名前とは正反対に、味はまさに「極上」です。

地元の人々や食通の間では、「甘エビよりも甘い」「甘エビを凌ぐうまさ」とまで言われ、その濃厚な甘みと旨味、そして弾けるようなプリプリとした食感は、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。

最も美味しい食べ方は、なんといっても刺身。新鮮でなければ刺身にはできませんが、産地で味わうそれは格別です。
もちろん、塩焼きにしても香ばしく、唐揚げ天ぷら味噌汁 にしても、殻から良い出汁が出て絶品です。

かつては鮮度の問題や見た目の悪さから「カス」として安価に扱われていましたが、近年は冷凍技術や輸送技術が発達。その類まれなる美味しさが広く知られるようになり、今では甘エビよりも高値で取引される高級エビの仲間入りを果たしています。

危険性・衛生上の違い(鮮度とアレルギー)

【要点】

ガサエビ・ガスエビに特有の毒はありませんが、他の甲殻類と同様に食物アレルギーの原因となることがあります。また、非常に鮮度が落ちやすいため、特に生食(刺身)の場合は、信頼できる店舗で新鮮なものを消費することが重要です。

ガサエビ・ガスエビ(クロザコエビなど)には、フグ毒や貝毒のような特有の毒素はありません。
しかし、安全に楽しむためには2つの点に注意が必要です。

1つ目は、食物アレルギーです。
エビは、特定原材料に指定されているアレルゲンの一つです。ガサエビ・ガスエビも例外ではなく、甲殻類アレルギーを持つ人は食べられません。アレルギー体質の人は十分に注意してください。

2つ目は、やはり鮮度です。
前述の通り、このエビは「幻」と呼ばれるほど鮮度が落ちるのが早いのが特徴です。特に生食(刺身)で食べる場合は、水揚げされたばかりの新鮮なものに限られます。産地以外で刺身用のものを手に入れるのは困難ですが、もし出会えた場合は、購入後すぐに消費するようにしましょう。
頭が黒ずんできたり、身が溶け始めているようなものは、生食を避け、必ず加熱調理(塩焼き、唐揚げ、味噌汁など)してください。

文化・歴史の違い:「ガサエビ」と「ガスエビ」呼び名の謎

【要点】

「ガサエビ」と「ガスエビ」は、主に日本海側で使われる地方名(方言)です。「ガサエビ」は福井県や山形県、「ガスエビ」は石川県や富山県 で主に使われます。「ガスエビ」の語源は「カスエビ」が有力で、かつての市場での評価を反映しています。

この記事の核心である「ガサエビ」と「ガスエビ」の呼び名の違いについて、もう少し深く掘り下げてみましょう。

検索結果や専門サイトの情報を総合すると、これらの呼び名は明確に地域によって分かれていることがわかります。

  • ガサエビ:福井県、山形県庄内地方、秋田県にかほ市など。
  • ガスエビ:石川県(金沢など)、富山県 など。

さらに、このエビ(クロザコエビやトゲザコエビ)は、行く先々で全く違う名前で呼ばれています。

  • モサエビ、ホンモサ:鳥取県
  • ドロエビ:新潟県糸魚川市、兵庫県但馬地方
  • ツチエビ:京都府舞鶴市
  • ガラエビ:山形県、鳥取県、福井県

まさに「名は体を表す」とは逆で、名前が多すぎて混乱してしまいますね。
「ガサエビ」の語源は、見た目がガサガサしているから、あるいはシャコ(こちらもガサエビと呼ばれることがある)と混同されたなど諸説ありますが、はっきりしません。

一方で、「ガスエビ」の語源は、金沢の料理旅館などの情報によると、非常に興味深い説が語られています。
それは、かつて漁師や仲卸の間で、鮮度が落ちやすく見栄えも悪いこのエビは、高値が付く甘エビと比べて数段落ちる「カスエビ」と呼ばれており、それが訛って「ガスエビ」になったというものです。

今やその味の良さから甘エビより高級品として扱われることもある のですから、名前の由来を知ると、その「出世」ぶりに驚かされます。

「ガサエビ(ダイオウキジンエビ)」という別のエビ

【要点】

注意点として、北海道の羅臼など道東で「ガサエビ」と呼ばれるエビは、これまで説明してきたクロザコエビとは全くの別種である「ダイオウキジンエビ」を指すことがあります。こちらは2016年に新種として記載された大型のエビです。

さらにややこしい話ですが、この「ガサエビ」という名前、全く別のエビを指す地域もあるので注意が必要です。

北海道、特に羅臼(らうす)などの道東地域で「ガサエビ」と呼ばれるエビがいます。これは、2016年に新種として記載された「ダイオウキジンエビ(大王鬼神蝦)」というエビの地域名(方言)です。
名前の通りエビジャコ科の中でも圧倒的な大きさを誇り、殻も硬いことから「大王鬼神」の名がついたとされます。

つまり、あなたが福井や山形で「ガサエビ」と言えばクロザコエビ類を指しますが、北海道の羅臼で言えばダイオウキジンエビを指す可能性があるのです。旅先で注文するときは、少し注意が必要かもしれませんね。

僕が出会った「幻のエビ」の衝撃(体験談)

僕も数年前に金沢を旅した際、近江町市場ですし屋のカウンターに座る機会がありました。その日の「おすすめ」として黒板に書かれていたのが「ガスエビ」の三文字。

もちろん、甘エビやノドグロは知っていましたが、「ガスエビ?」と。見た目も決して美しいピンク色ではなく、少し黒ずんだような茶色。正直、最初は「カスエビが語源」という説(その時はまだ知らなかったですが)も頷けるような地味な見た目でした。

しかし、大将に「これぞ地物!」と強く勧められるがままに注文し、一口食べて、文字通り衝撃が走りました。
あ、甘い…!なんだこの濃厚な甘みは!
ねっとりとした甘エビの甘さとは違う、もっと野性的で、旨味が凝縮されたような強い甘みなのです。そして、食感もプリプリと弾けるよう。

あの時の衝撃は忘れられません。「見た目で判断してごめんなさい!」とエビに謝りたくなるほどの美味しさでした。鮮度が命であるがゆえに、あの場所でしか出会えなかった味。まさに「幻のエビ」と呼ばれるにふさわしい体験でした。

「ガサエビ・ガスエビ」に関するよくある質問

Q: ガサエビ・ガスエビの旬はいつですか?

A: 漁獲される地域によりますが、底引き網漁のシーズンと重なるため、主に秋から冬、そして春先(9月〜5月頃)が旬とされています。ただし、金沢などではカニ漁が中心となる冬を避け、4月以降の春からが旬の時期と言われることもあります。

Q: 甘エビ(ホッコクアカエビ)との違いは何ですか?

A: まず分類が異なります(ガサエビはエビジャコ科、甘エビはタラバエビ科)。見た目は、ガサエビが茶色くゴツゴツしているのに対し、甘エビは鮮やかなピンク色で滑らかです。味は、甘エビがとろけるような甘みなのに対し、ガサエビはより濃厚で強い甘みとプリプリした食感が特徴です。

Q: 結局、「ガサエビ」と「ガスエビ」はどっちが正しい名前なんですか?

A: どちらも正しい「地方名(呼び名)」です。生物学的な標準和名(全国共通の正式名称)としては「クロザコエビ」や「トゲザコエビ」などが正しい名前となります。あなたが訪れた地域で呼ばれている名前で呼ぶのが一番良いでしょう。

「ガサエビ」と「ガスエビ」の違いのまとめ

「ガサエビ」と「ガスエビ」、その呼び名の違いは、主に地域(方言)の違いであり、多くは同じ「クロザコエビ」や「トゲザコエビ」を指していました。

  1. 呼び名の違い:「ガサエビ」は福井・山形など、「ガスエビ」は石川・富山などでの呼び名。
  2. 語源の違い:「ガスエビ」は「カスエビ」が訛ったという説が有力。
  3. 共通の正体:多くは「クロザコエビ」「トゲザコエビ」という種。
  4. 共通の特徴:見た目は悪いが、味は「甘エビ以上」と評される絶品エビ。鮮度が落ちやすく、産地以外では珍しい「幻のエビ」。
  5. 別種の存在:北海道の「ガサエビ(ダイオウキジンエビ)」 や、愛知・大分の「ガスエビ(ヒゲナガエビなど)」 のように、全く別種を指す場合もあるため注意。

今ではその美味しさから高級エビとなった彼ら。もし旅先で「ガサエビ」や「ガスエビ」に出会ったら、それは非常に幸運なことです。その見た目に臆することなく、ぜひ「幻の味」を堪能してみてください。

日本には、このように地域ごとに多様な呼び名を持つ魚類や水産物がたくさんいます。その背景を知るのも、食の楽しみの一つですね。
(参考文献:農林水産省水産庁金沢市「53.ガスエビ」石川県漁業協同組合「いしかわのガスエビを食べよう!」