一言でいえば、北海道犬は勇敢で屈強な「中型犬」の猟犬、柴犬は機敏でマイペースな「小型犬」の猟犬です。
北海道犬は柴犬よりもひと回りもふた回りも大きく、体重は2倍以上になることも。その性格は、ヒグマにも立ち向かったと言われるほどの勇敢さと、飼い主(リーダー)ただ一人に尽くす深い忠誠心を持っています。一方、柴犬は日本犬で最も体が小さいですが、独立心が強く、ベタベタしない「ツンデレ」な性格が魅力です。
この記事を読めば、北海道犬と柴犬の見た目の見分け方はもちろん、そのルーツに根差した性格や飼いやすさの違い、しつけのポイントまで、スッキリと理解できます。あなたが将来のパートナーとして迎えるなら、どちらの犬種がライフスタイルに合っているでしょうか?
結論:ひと目でわかる「北海道犬」と「柴犬」の主な違い一覧
まずは、両者の決定的な違いを比較表で押さえましょう。
| 項目 | 北海道犬(Hokkaido) | 柴犬(Shiba Inu) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | 日本犬・中型犬 | 日本犬・小型犬 |
| サイズ(体高) | オス:48.5〜51.5cm メス:45.5〜48.5cm | オス:38〜41cm メス:35〜38cm |
| サイズ(体重) | オス:約20〜30kg メス:約15〜25kg | オス:約9〜11kg メス:約7〜9kg |
| 行動・性質 | 飼い主(リーダー)に非常に忠実。勇敢で忍耐強い。警戒心が極めて強く、家族以外には懐かない。 | 飼い主に忠実だが、クールでマイペース。独立心が強く、頑固。見知らぬ人とは距離を置く「柴距離」。 |
| 飼育難易度 | 非常に高い(上級者向け)。強い警戒心と力を制御する専門的訓練・社会化が必須。 | 高い(中級者向け)。頑固さの理解と根気強いしつけが必要。 |
| 特徴的な違い | 舌に「舌斑(ぜっぱん)」という黒い模様がある個体が多い。 | 舌斑は基本的にない。 |
| 寿命 | 13〜15年程度 | 13〜15年程度 |
| かかりやすい病気 | 皮膚疾患、白内障、肥満 | アレルギー性皮膚炎(アトピーなど)、皮膚疾患 |
| 天然記念物指定 | 1937年(昭和12年) | 1936年(昭和11年) |
【3秒で押さえる要点】
- 大きさ:北海道犬は「中型犬」で柴犬よりひと回り大きくガッシリしています。柴犬は日本犬唯一の「小型犬」です。
- 性格:北海道犬はヒグマにも向かう勇敢な猟犬気質で、リーダーと認めた飼い主に絶対的に忠実です。柴犬はより独立心が強く「ツンデレ」な性格です。
- 見分け方:北海道犬は舌に舌斑(ぜっぱん)という黒いシミがあることが多いですが、柴犬にはありません。
見た目とサイズの違い
最大の違いはサイズです。公益社団法人日本犬保存会は、北海道犬を「中型犬」、柴犬を「小型犬」に分類しています。北海道犬は柴犬よりひと回り大きく、体重は2倍以上になることも。また、北海道犬は舌に「舌斑(ぜっぱん)」という黒い模様を持つ個体が多いのも、柴犬にはない大きな特徴です。
散歩中に出会ったとき、この2種を見分ける最も確実なポイントは、やはり「大きさ」です。
公益社団法人日本犬保存会が定める「日本犬標準」では、日本犬をサイズによって大型・中型・小型の3型に分類しています。この分類において、北海道犬は「中型犬」、柴犬は「小型犬」に明確に区分されています。
具体的には、柴犬のオスが体高38〜41cm、体重10kg前後なのに対し、北海道犬のオスは体高48.5〜51.5cm、体重20kg以上になります。並べてみると、北海道犬は柴犬よりも明らかに体格が大きく、筋肉質でがっしりとした印象を与えます。
もう一つの決定的な見分け方が、北海道犬の多くは舌に「舌斑(ぜっぱん)」と呼ばれる青黒いシミのような模様を持っていますが、柴犬にはこの特徴は基本的に見られません。もし口の中を見ることができれば、一目瞭然です。
顔つきや被毛にも微妙な違いがあります。どちらも寒さに強いダブルコートの被毛を持ちますが、北海道犬は極寒の地で鍛えられただけあり、より密生しています。毛色は柴犬の「赤(茶色)」が北海道犬でも大半を占めますが、北海道犬は柴犬では珍しい「白」や「灰色」の個体も一般的です。顔つきは、柴犬がキリっとした「キツネ顔」や愛嬌のある「たぬき顔」を持つのに対し、北海道犬はもう少し素朴で、顔が丸みを帯び、耳が柴犬より短め(あるいは厚め)に見える傾向があります。
性格・行動特性としつけやすさの違い
どちらも飼い主に忠実で頑固ですが、忠誠心の示し方が異なります。北海道犬は飼い主(リーダー)ただ一人に絶対的に従順ですが、その分、他者への警戒心が極めて強く、専門的な訓練が必須です。柴犬はより独立心が強く、クールでマイペース(ツンデレ)な性格です。
北海道犬と柴犬は、どちらも日本犬らしい「忠誠心」と「頑固さ」を強く持っていますが、その性質の現れ方は大きく異なります。
北海道犬の忠誠心は、まさに「絶対的」です。アイヌ民族と共にヒグマなどの大型獣を狩ってきた歴史から、リーダーと認めた飼い主ただ一人に対して、命がけで尽くす従順さを持っています。その反面、家族以外の人や他の犬に対しては、非常に強い警戒心と防衛本能を見せます。気性も荒い一面があり、その力強さも相まって、飼育には幼犬期からの徹底した服従訓練と社会化が不可欠です。甘やかして育てると、飼い主ですら制御が難しくなる可能性があり、飼育難易度は「上級者向け」と言わざるを得ません。
一方、柴犬の忠誠心は、もう少しクールです。飼い主に忠実ではあるものの、北海道犬のようにベッタリと甘えることは少なく、独立心が強いためマイペースな行動を好みます。いわゆる「ツンデレ」で、ベタベタされるよりも自分の空間を大切にする「柴距離」という言葉があるほどです。
しつけの面では、どちらも頑固ですが、北海道犬の方が難易度は格段に上です。北海道犬は豊富な運動量を必要とし、運動不足はストレスによる問題行動に直結します。毎朝晩、それぞれ1時間程度の散歩やランニングが求められることもあります。柴犬も運動は必要ですが、北海道犬ほどの運動量は要求されません。
寿命・健康リスク・病気の違い
平均寿命はどちらも13〜15年程度と比較的丈夫な犬種です。ただし、柴犬はアレルギー性皮膚炎(アトピー)に特にかかりやすいことで有名です。北海道犬は皮膚疾患のほか、白内障や、粗食に耐えられる反面、肥満になりやすい点に注意が必要です。
平均寿命に関しては、北海道犬が13〜15年前後、柴犬も13〜15年程度と、中型犬と小型犬という違いはありますが、どちらも日本犬らしく比較的丈夫で長寿な傾向にあります。
かかりやすい病気には、それぞれ特有の傾向が見られます。
柴犬で圧倒的に多い悩みは、「アレルギー性皮膚炎(アトピー)」です。遺伝的に皮膚のバリア機能が弱い個体が多く、アレルゲンによって強いかゆみや脱毛を引き起こしやすいとされています。食事管理やスキンケアが欠かせない場合があります。
北海道犬も皮膚疾患には注意が必要ですが、柴犬のアトピーとは少し異なります。また、遺伝的な眼疾患として「白内障」にも注意が必要です。北海道犬は粗食にも耐えられる頑丈な体質を持っていますが、その反面、家庭犬として栄養価の高いフードを与えすぎると肥満になりやすい傾向があります。肥満は万病の元となるため、運動量に見合った食事管理が重要です。
「北海道犬」と「柴犬」の共通点
サイズや気質は異なりますが、どちらも国の天然記念物に指定された日本犬です。オオカミに近い「スピッツタイプ」の原始的な気質(立ち耳、巻尾、ダブルコート、忠誠心、頑固さ)を色濃く残している点が共通しています。
これほど多くの違いがある北海道犬と柴犬ですが、もちろん「日本犬」としてのルーツを共有しています。
- 国の天然記念物:どちらも、日本の在来犬種としてその価値を認められ、国の天然記念物に指定されています(柴犬:1936年、北海道犬:1937年)。
- 原始的な気質(スピッツタイプ):洋犬のように人為的な改良を強く受けておらず、オオカミに近い原始的な犬(スピッツタイプ)の気質を強く残しています。具体的には、独立心、警戒心、縄張り意識の強さが挙げられます。
- 忠誠心と頑固さ:どちらも一度認めた飼い主(リーダー)には非常に忠実ですが、同時に自分の意志をしっかり持つ頑固な一面も共通しています。
- 外見的特徴:ピンと立った「立ち耳」、クルリと巻いた「巻尾」、そして寒さに強い二重構造の被毛「ダブルコート」は、日本犬に共通する外見的な特徴です。
歴史・ルーツと性質の関係
天然記念物の指定は、柴犬(1936年)の方が北海道犬(1937年)よりわずかに早かったです。北海道犬はアイヌ民族と共にヒグマなどの大型獣を狩ってきた歴史が、その勇敢さと強い警戒心に繋がっています。柴犬は縄文時代から小動物の猟犬として活躍してきた歴史が、その機敏さと独立心に関係しています。
「秋田犬」が1931年に日本犬として最初に天然記念物に指定されたのは有名な話ですが、では北海道犬と柴犬はどちらが先だったのでしょうか?
答えは「柴犬」です。柴犬は1936年(昭和11年)12月16日に、北海道犬は翌1937年(昭和12年)12月21日に指定されました。
この背景には、それぞれの犬種が歩んできた歴史が深く関係しています。
北海道犬は、その名の通り北海道の先住民族であるアイヌ民族と共に生きてきた犬で、古くは「アイヌ犬」と呼ばれていました。アイヌの人々は北海道犬を「セタ(Seta)」と呼び、ヒグマやエゾシカといった大型獣の猟犬として非常に大切にしてきました。ヒグマにも臆さず立ち向かう勇敢さと忍耐強さ、そして飼い主への絶対的な忠誠心は、この過酷な狩猟の歴史の中で培われたものです。
一方、柴犬は、縄文時代の遺跡からも骨が出土するほど古くから本州の山岳地帯に存在し、主に鳥やウサギなどの小動物を狩る猟犬として人々と暮らしてきました。その機敏さと状況判断能力、そして獲物を求めて単独行動も辞さない独立心の強さは、この小動物ハンターとしての歴史に由来しています。
どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ
北海道犬は、中型犬の飼育経験があり、犬の強い警戒心と力を制御でき、毎日の豊富な運動と訓練に時間を割ける「上級者」向けです。柴犬は、アパートなどでも飼育可能ですが、その頑固さと向き合い、抜け毛のケアをしっかり行える「忍耐強い」人に向いています。
見た目の好みだけで迎えると、後で必ず苦労するのが日本犬です。あなたのライフスタイルや覚悟が、どちらの犬種と合っているか、冷静に判断しましょう。
【北海道犬がおすすめな人】
- 犬の飼育経験、特に中型犬以上の訓練経験が豊富な「上級者」
- 北海道犬の強い警戒心と防衛本能を理解し、制御できる自信と体力がある
- 毎日の十分な運動(朝晩各1時間程度の散歩や運動)に時間を割ける
- 子犬の頃から専門家を交え、根気強く社会化・服従訓練を行える
- 家族にだけ忠実で、他人には懐かない「番犬」としての性質を求めている
- 広い飼育スペース(一軒家や、自由に走り回れる庭)を確保できる
初めて犬を飼う人、体力に自信のない人、集合住宅に住む人、しつけに時間を割けない人には、北海道犬の飼育は極めて困難です。
【柴犬がおすすめな人】
- 犬の頑固さ(柴距離)を理解し、根気強く向き合える
- 小型犬とはいえ、猟犬由来の運動量を毎日満たしてあげられる
- アパートやマンションなどの集合住宅でも飼育可能(ただし無駄吠え対策は必要)
- ベタベタ甘えるタイプではなく、クールで自立したパートナーを求めている
- アレルギー性皮膚炎の可能性を理解し、ケアや食事管理を行える
- ダブルコート特有の大量の抜け毛の掃除を覚悟できる
体験談:ソフトバンクのお父さんの「威厳」と柴犬の「意地」
僕は犬が好きで、散歩中の様々な犬に出会いますが、北海道犬(の血を引く犬)と柴犬とでは、感じる「圧」が全く違います。
柴犬の魅力は、その小さな体に宿る「意地」や「頑固さ」ですよね。散歩中に「絶対テコでも動かない!」と踏ん張る、「拒否柴」の姿は微笑ましくもありますが、飼い主さんとの静かな攻防戦は、彼らの「精神的な強さ」を感じさせます。
一方、以前ドッグランで出会った北海道犬は、まさに「ソフトバンクのお父さん」の風格そのものでした。彼は他の犬がどれだけ騒いでも一切動じず、ただ遠くの山を見つめて「どっしり」と座っていました。その姿は、柴犬の頑固さとは異質の、「威厳」と「物理的な存在感」に満ちていました。
飼い主さんには忠実そうでしたが、僕のような初対面の人間には全く興味を示さず、かといって威嚇するでもなく、ただ「そこにいる」のです。その静かな佇まいは、「もしこの犬が本気になったら、人間の力では到底かなわない」と直感させる、まさにアイヌの猟犬の末裔たる“魂の強さ”でした。
柴犬の魅力が「人間の理解を超える小さな意地」にあるとすれば、北海道犬の魅力は「人間の力を超えた大きな忠誠心」にあるのかもしれない、と感じた体験です。
「北海道犬」と「柴犬」に関するよくある質問
Q: ソフトバンクのCMのお父さん(カイくん)は、北海道犬ですか?
A: はい、CMで「お父さん」を演じていたカイくん(およびその子供たち)は「北海道犬」です。北海道犬の知名度を全国区にした、まさにスター犬ですね。
Q: 北海道犬は「アイヌ犬」と同じ犬ですか?
A: はい、基本的には同じ犬種を指します。もともとはアイヌ民族に飼育されていたことから「アイヌ犬」と呼ばれていましたが、1937年(昭和12年)に国の天然記念物に指定される際に「北海道犬(ほっかいどうけん)」という名称が正式に定められました。
Q: 天然記念物なのに、ペットとして飼ってもいいのですか?
A: はい、飼うことができます。天然記念物の指定は、その「種(しゅ)」全体を保護し、その優れた特性を後世に残すためのものです。そのため、日本犬保存会などの団体によって種の保存と繁殖活動が管理されており、ペットとして飼育することが禁止されているわけではありません。
Q: 初めて犬を飼うなら、どちらがおすすめですか?
A: どちらも日本犬特有の頑固さがあり、初心者には簡単な犬種ではありません。しかし、どちらかを選ぶならば「柴犬」の方がまだ現実的です。北海道犬は、その大きさと力、強い警戒心と防衛本能から、犬の飼育・訓練経験が豊富な「上級者向けの犬種」であり、初心者が飼育するのは非常に困難です。
「北海道犬」と「柴犬」の違いのまとめ
北海道犬と柴犬、どちらも日本の誇る素晴らしい犬種ですが、その違いは想像以上に大きいことがお分かりいただけたかと思います。
- サイズが決定的に違う:北海道犬は日本犬の「中型犬」、柴犬は唯一の「小型犬」。
- 性格と役割が違う:北海道犬はリーダーにのみ尽くす「忠実で勇敢な猟犬」。柴犬は自立心が強くクールな「マイペースな伴侶」。
- 飼育難易度が違う:北海道犬は制御と訓練に専門知識が必要な「上級者向け」。柴犬も頑固だが、まだ一般家庭で飼育しやすい。
- 見分け方のコツ:北海道犬は「舌斑(ぜっぱん)」がある個体が多いが、柴犬にはない。
もし家族として迎えることを検討するなら、その犬種の歴史や特性、そして何より自分のライフスタイルや技量で、その犬を生涯幸せにできるかを最優先に考えてくださいね。日本犬の魅力や、他のペット・飼育に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- 公益社団法人 日本犬保存会(https://www.nihonken-hozonkai.or.jp/) – 日本犬標準の分類・天然記念物指定について