「珍島犬(チンドケン)」と「柴犬(しばいぬ)」。どちらもアジア原産のスピッツ系犬種で、立ち耳・巻尾の精悍な姿がよく似ています。
しかし、この2犬種、実はサイズ、そして何よりも「飼い主への忠誠心の質」と「飼育難易度」が全く異なります。
最も簡単な答えは、珍島犬は柴犬よりも一回り大きな中型犬であり、「一生一主」と呼ばれるほど最初の飼い主に絶対的な忠誠を誓う一方、柴犬は日本犬唯一の小型犬で、忠実ながらもクールでマイペースな性格を持つということです。
この性質の違いが、飼いやすさや必要な訓練レベルに決定的な差を生んでいます。この記事を読めば、単純な見た目の見分け方から、それぞれの歴史的背景、飼育上の重大な注意点までスッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 大きさ:珍島犬は「中型犬」。柴犬は「小型犬」で、珍島犬の半分程度の体重です。
- 性格:珍島犬は「絶対的な忠誠心」と「強い警戒心・排他性」を持つ超上級者向け。柴犬は「クールな忠誠心」と「頑固さ」を持つ中級者向けの犬種です。
- 出自:珍島犬は韓国の天然記念物、柴犬は日本の天然記念物です。
| 項目 | 珍島犬(Jindo) | 柴犬(Shiba Inu) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | スピッツ・タイプ(中型犬) | 日本犬・小型犬 |
| 原産国 | 大韓民国(珍島) | 日本 |
| サイズ(体高) | オス:50〜55cm | オス:38〜41cm |
| サイズ(体重) | オス:18〜23kg | 7〜11kg |
| 毛色 | 黄毛(赤)、白毛が主。黒、虎毛、狼灰色なども。 | 赤、黒、白、胡麻 |
| 行動・性質 | 最初の飼い主に絶対的に忠実(一生一主)。警戒心・防衛本能が極めて強い。鋭敏、勇敢、猟犬本能が強い。 | 飼い主に忠実だが、クールでマイペース。独立心が強く、頑固。見知らぬ人とは距離を置く。 |
| 飼育難易度 | 極めて高い(プロ・超上級者向け)。専門的な社会化・服従訓練が必須。 | 高い(中級者向け)。頑固さの理解と根気強いしつけが必要。 |
| 運動量 | 非常に多い(猟犬レベル) | 多い |
| 寿命 | 12〜15年程度 | 13〜15年 |
| 天然記念物指定 | 1962年(韓国) | 1936年(日本) |
見た目とサイズの違い
最大の違いはサイズです。珍島犬は柴犬の約2倍の体重を持つ中型犬です。柴犬は日本犬唯一の小型犬に分類されます。顔つきも、珍島犬はより精悍で狼に近い野性的な印象を与え、柴犬はキツネ顔やたぬき顔など愛嬌のあるタイプがいます。
この2犬種を見分ける最も簡単な方法は、その「大きさ」です。
公益社団法人日本犬保存会が柴犬を「小型犬」に分類しているのに対し、珍島犬は国際畜犬連盟(FCI)において中型犬のスピッツ・タイプに分類されています。
オスの平均体重で比較すると、柴犬が7〜11kgなのに対し、珍島犬は18〜23kgと、柴犬の2倍以上の体重になります。並んでいれば、その体格差は明らかです。
顔つきにも違いが表れます。柴犬は、キリっとした印象の「キツネ顔」と、丸みがあり愛嬌のある「たぬき顔」のタイプが知られています。一方、珍島犬は、よりシャープで精悍、狼を彷彿とさせる野性的な顔つきをしています。
毛色は、柴犬が赤(茶色)、黒、白、胡麻と多様であるのに対し、珍島犬は黄毛(赤毛)と白毛が最も代表的です。
性格・行動特性としつけやすさの違い
性格は全く異なります。珍島犬は「一生一主」と呼ばれるほど、最初に心を許した飼い主一人に絶対的な忠誠を捧げます。その反面、家族以外には強い警戒心と排他性(攻撃性)を示し、飼育難易度は極めて高いです。柴犬も忠実ですが、よりクールでマイペースであり、中級者向けとされています 。
もし柴犬を「飼い主に忠実」と表現するなら、珍島犬のそれは「絶対的忠誠」と呼ぶべき、全く質の異なるものです。
珍島犬は、韓国原産の猟犬であり、その忠誠心は伝説的です。特に「一度主人と認めれば、生涯その主人にのみ尽くす」という「一生一主」の気質で知られています。この強すぎる忠誠心は、裏を返せば、飼い主(家族)以外には一切心を許さない強い警戒心と排他性を意味します。
見知らぬ人や他の動物が縄張り(家)に入ってくることを極端に嫌い、防衛本能から強い攻撃性を示すことがあります。この鋭敏さと猟犬としての高い運動能力をコントロールするには、幼犬期からの徹底した社会化訓練と、犬の扱いに熟練した飼い主の絶対的なリーダーシップが不可欠です。飼育難易度はプロレベル(超上級者向け)と言っても過言ではありません。
一方、柴犬も飼い主には忠実ですが、その表現はよりクールでマイペースです。「ツンデレ」と表現されるように、ベタベタすることを好まない独立心も持っています。もちろん柴犬も頑固で警戒心は持ちますが、珍島犬の持つ排他性や攻撃性に比べれば、一般家庭での飼育に順応しやすいレベルです。
寿命・健康リスク・病気の違い
平均寿命は柴犬が13〜15年、珍島犬が12〜15年程度と大きな差はありません。どちらも遺伝的に丈夫な犬種とされていますが、柴犬はアレルギー性皮膚炎、珍島犬は甲状腺機能低下症や股関節形成不全などに注意が必要です。
寿命に関しては、柴犬が13〜15年、珍島犬が12〜15年程度と、中型犬・小型犬として平均的な長さです。
どちらも厳しい環境で生き抜いてきた歴史を持つため、比較的丈夫な犬種とされています。
ただし、それぞれに注意すべき疾患があります。
柴犬で最も多く見られる悩みの一つが「アレルギー性皮膚炎」です。アトピーや食物アレルギーにより、強いかゆみや脱毛が出やすい傾向があります。
珍島犬は、柴犬に比べると皮膚疾患は少ないとされますが、中型犬に共通する「股関節形成不全」や、遺伝的な疾患として「甲状腺機能低下症」などが報告されています。これは中年期以降に発症しやすく、元気消失や脱毛、肥満などの症状を引き起こすため、定期的な健康診断が推奨されます。
「珍島犬」と「柴犬」の共通点
どちらもアジア原産のスピッツ・タイプであり、オオカミに近い原始的な犬の特性を色濃く残しています。立ち耳、巻尾、ダブルコートの被毛、飼い主への忠誠心、そして頑固で独立心が強い点が共通しています。
サイズや性質は大きく異なりますが、アジアの土着犬として多くの共通点を持っています。
- スピッツ・タイプ(原始的な犬):どちらもオオカミに近い「スピッツ・タイプ」に分類されます。洋犬のように誰にでも愛想を振りまくタイプではなく、独立心、警戒心、縄張り意識といった原始的な気質を強く残しています。
- 外見的特徴:立ち耳、巻尾(または差し尾)、そして寒さに強いダブルコートの被毛は、両犬種に共通する特徴です。
- 忠誠心と頑固さ:どちらも一度認めた飼い主には非常に忠実ですが、同時に自分の意志をしっかり持つ頑固な一面も共通しています。
- 天然記念物:柴犬は日本の国の天然記念物、珍島犬は韓国の天然記念物第53号として、どちらも国宝級の犬種として保護されています。
歴史・ルーツと性質の関係
柴犬は縄文時代から日本に存在し、小動物の猟犬として活躍してきた歴史が、その機敏さと独立心に繋がっています。珍島犬は韓国の珍島(チンド)という島で、狼との交配説もあるほど古い起源を持ち、厳しい環境下で猟犬・番犬として純血性が保たれてきました。この閉鎖的な環境と役割が、その強烈な忠誠心と防衛本能を育んだとされます。
両犬種の決定的な性質の違いは、その歴史的背景にあります。
柴犬は、縄文時代の遺跡からも骨が出土するほど古くから日本に存在し、主に鳥やウサギなどの小動物を狩る猟犬として人々と暮らしてきました。この小動物ハンターとしての歴史が、柴犬の機敏さや独立心、頑固さにつながっているのです。
一方、珍島犬は、朝鮮半島の南西端にある「珍島(チンド)」という島が原産です。その起源は非常に古いとされ、一説には狼との交配があったとも言われています。島という閉鎖的な環境で、シカやイノシシなどの大型獣の猟犬、そして家を守る番犬として、厳しい環境を生き抜いてきました。
この過酷な環境と役割が、飼い主家族だけを絶対的に守り、それ以外を徹底的に排除する、珍島犬の強烈な忠誠心、防衛本能、そして驚異的な帰巣本能(数ヶ月かけて数百キロ離れた元の飼い主の元へ帰ったという実話が有名です)を育んだと考えられています。
どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ
珍島犬は、その特性を熟知し、制御できるプロの訓練士や、同犬種の飼育経験が豊富な超上級者でなければ、一般家庭での飼育は不可能に近いです。柴犬も頑固で初心者には難しいですが、その性質を理解し根気強く向き合える人であれば、家庭犬として迎えることが可能です。
見た目の格好良さだけで選んではいけないのが、この2犬種です。特に珍島犬の飼育には、絶対的な覚悟が必要です。
【珍島犬がおすすめな人】
- 犬の(特に原始的な犬種の)飼育・訓練経験が極めて豊富な「超上級者」である
- 体重20kgを超える犬を力と精神力で制御できる体力とリーダーシップがある
- 毎日の膨大な運動量(猟犬レベル)を満たせる時間と環境がある
- 幼少期からの徹底的な社会化訓練に時間とお金を惜しまない覚悟がある
- 家族以外には懐かないこと、強い排他性・攻撃性が出る可能性を理解し、生涯管理できる
- 広い飼育スペース(一軒家、できれば敷地)を確保できる
初めて犬を飼う人、体力に自信のない人、集合住宅に住む人、多頭飼いをしたい人には、珍島犬の飼育は絶対におすすめできません。
【柴犬がおすすめな人】
- 犬の頑固さ(柴距離)を理解し、根気強く向き合える
- 小型犬とはいえ、猟犬由来の豊富な運動量を毎日満たしてあげられる
- 集合住宅でも飼育可能だが、抜け毛の多さや無駄吠えの対策をしっかり行える
- ベタベタ甘えるタイプではなく、クールで自立したパートナーを求めている
僕が出会った「柴犬」と想像する「珍島犬」の“忠義”の違い(体験談)
僕は犬が好きで、散歩中の様々な犬に出会いますが、柴犬が見せる「忠誠心」と、文献で知る「珍島犬」の忠誠心とでは、感じる「重み」が全く異なります。
柴犬は、その小柄な体で「絶対テコでも動かない!」と踏ん張る、「拒否柴」と呼ばれる散歩中のストライキを見かけることがあります。あれはあれで、飼い主さんとの根比べであり、彼らの「頑固さ」という“精神的な重み”を感じる瞬間です。見ていて微笑ましくも、飼い主さんの苦労が偲ばれます。
一方、僕が文献やドキュメンタリーで知る珍島犬の忠誠心は、全く異質です。遠く離れた場所から何ヶ月もかけて、ボロボロになりながら元の飼い主の元へ帰ってくるという逸話は、微笑ましさを通り越して「壮絶」です。
それは、柴犬のような「気分や好み」に基づく頑固さではなく、「この主人でなければ生きる意味がない」とでも言うような、命がけの選択です。
柴犬の魅力が「人間の理解を超える小さな頑固さ」 にあるとすれば、珍島犬の魅力は「人間の理解を超える絶対的な忠誠心」にあるのかもしれない、と感じています。
「珍島犬」と「柴犬」に関するよくある質問
Q: 珍島犬は日本で飼えますか?
A: 非常に稀ですが、日本にも専門のブリーダーや飼育されている方が存在します。しかし、その絶対数が少ないため、出会うこと自体が困難です。また、飼育するには、その攻撃性や強い本能を制御するための専門知識と環境が必須となります。
Q: 珍島犬と柴犬、どちらが狼に近いですか?
A: どちらも遺伝的に狼に近い原始的な犬種グループに属しますが、珍島犬はその成り立ち(狼との交配説)や、より大型で野性的な気質から、柴犬よりも狼に近いイメージを持たれることが多いです。
Q: 珍島犬は飼い主が変わると懐かないというのは本当ですか?
A: 「一生一主」の気質が非常に強いため、成犬になってから飼い主が変わると、新しい飼い主に心を許すのに非常に長い時間がかかるか、生涯心を許さないケースも多いと言われています。幼犬期に迎えた最初の飼い主を絶対的な主人と見なす傾向が極めて強いです。
Q: 初心者にはどちらがおすすめですか?
A: どちらも日本犬・スピッツ系特有の頑固さがあり、簡単な犬種ではありません。しかし、どちらかを選ぶならば「柴犬」の方がまだ現実的です。珍島犬は、その大きさと力、強烈な防衛本能と排他性から、犬の飼育・訓練経験が豊富な「超上級者向けの犬種」であり、初心者が飼育するのは不可能に近いと言えます。
「珍島犬」と「柴犬」の違いのまとめ
珍島犬と柴犬、どちらもそれぞれの国の誇るべき素晴らしい犬種ですが、その違いは非常に大きいことがお分かりいただけたかと思います。
- サイズが決定的に違う:珍島犬は「中型犬」、柴犬は日本犬唯一の「小型犬」 。
- 忠誠心の質と性格が違う:珍島犬は「絶対的忠誠」と「強い排他性」。柴犬は「クールな忠誠心」と「頑固さ」 。
- 飼育難易度が全く違う:珍島犬は制御困難な「超上級者向け」。柴犬も頑固だが「中級者向け」で一般家庭でも飼育可能。
- 国の象徴が違う:珍島犬は「韓国」の天然記念物。柴犬は「日本」の天然記念物。
もし家族として迎えることを検討するなら、その犬種の歴史や特性、そして何より自分のライフスタイルや技量で、その犬を生涯幸せにできるかを最優先に考えてくださいね。他のペット・飼育に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ(JKC)(https://www.jkc.or.jp/)
- 公益社団法人 日本犬保存会(https://www.nihonken-hozonkai.or.jp/)
- 駐日韓国大使館 韓国文化院(https://www.koreanculture.jp/)