「獣(けもの)」と「動物(どうぶつ)」、どちらも生き物を指す言葉ですが、この二つには明確な違いがあります。
結論から言うと、「動物」は生物学的な分類(動物界)の総称であるのに対し、「獣(けもの)」は主に「全身が毛で覆われた、四本足の哺乳動物」を指す、より範囲の狭い言葉です。
つまり、すべての「獣」は「動物」ですが、すべての「動物」が「獣」ではありません。例えば、鳥類、魚類、昆虫、爬虫類などは「動物」ですが、「獣」とは呼ばれません。
この記事では、この二つの言葉が持つニュアンスの違い、歴史的背景、そして「けだもの」との違いまで、詳しく解説していきます。
【3秒で押さえる要点】
- 動物(どうぶつ):生物界の大きな分類。人間、鳥、魚、虫、そして「獣」も含む総称です。
- 獣(けもの):主に四本足で、毛が全身にある哺乳動物を指します。特に野生のものを指すことが多いです。
- ニュアンス:「獣」には、「野性的」「荒々しい」「本能的」といったイメージや、人間的な理性を欠いた存在としての意味合いが伴うことがあります。
| 項目 | 獣(けもの) | 動物(どうぶつ) |
|---|---|---|
| 言葉の範囲 | 狭い(主に四足の哺乳類) | 非常に広い(生物界の分類。哺乳類、鳥類、魚類、昆虫など全て) |
| 主な対象 | クマ、シカ、イノシシ、キツネ、オオカミ、ライオンなど(野生の四足哺乳類) | 犬、猫、鳥、魚、昆虫、人間など、動物界の全生物 |
| 主なニュアンス | 野性的、荒々しい、本能的、毛深い | 中立的、学術的、生物全般 |
| 類義語 | けだもの、野獣、四つ足 | 生き物、生物、アニマル |
| 文化的側面 | 「けものへん(犭)」の漢字(犬、猫、狐、狼など)に使われる。 | 生物学、動物学、動物園など学術的な用語として使われる。 |
| 対義語的な概念 | 人間(理性的存在として対比される) | 植物、菌類、原生生物など(生物界の他の分類) |
最大の違い:「獣(けもの)」は「動物」の一部を指す言葉
「動物」は、生物を大きく分けたときの「動物界」に属する全ての生き物を指す科学的な総称です。一方、「獣」は、その「動物」の中でも、主に「四本足で毛むくじゃらの哺乳動物」を指す、より限定的な言葉です。
この二つの言葉の最大の違いは、その「範囲」です。
「動物(どうぶつ)」とは
生物学上、植物や菌類、細菌などと区別される大きなカテゴリー(動物界)の総称です。私たち人間(ヒト)も動物に含まれますし、鳥、魚、昆虫、爬虫類、両生類、そしてもちろん哺乳類もすべて「動物」です。非常に広範囲で、中立的・学術的な言葉です。
「獣(けもの)」とは
「動物」という大きな枠組みの中の、特定の特徴を持つグループを指す言葉です。多くの辞書によると、その特徴は「全身が毛で覆われている」「四本足である」「哺乳動物である」と定義されています。
そのため、鳥類(羽毛)、魚類(鱗)、昆虫(外骨格)は「動物」ですが、「獣」とは呼びません。
クジラは哺乳類ですが、四本足で陸を歩かないため、「獣」に含めるかどうかは辞書によっても見解が分かれることがありますが、一般的には陸生の四足歩行動物を指すイメージが強い言葉です。
言葉のニュアンスと「獣(けもの)」が持つイメージ
「動物」は客観的・中立的な言葉ですが、「獣(けもの)」には「野性的」「荒々しい」「本能むきだし」といった、人間の理性と対比されるような強いニュアンスが伴います。また、人間的な情味がない人をののしる言葉(けだもの)としても使われます。
「動物」という言葉は、生物の分類として客観的・中立的に使われるのが基本です。「動物園」「動物病院」「動物愛護」など、特定の感情を込めずに使われます。
一方、「獣(けもの)」という言葉には、単なる分類を超えた強い「イメージ」や「ニュアンス」が伴います。
- 野性味と荒々しさ:「獣」は特に「野獣(やじゅう)」という言葉があるように、家畜化されていない、ありのままの自然界の姿を連想させます。
- 本能的な存在:人間の持つ「理性」や「知性」と対比して、「食欲」や「闘争本能」といった本能で動く存在、という意味合いで使われることがあります。
- 人間性の欠如(けだもの):さらに意味が強まると、「けだもの(獣)」となり、人間的な情味や理性を失った残忍な人をののしる言葉としても使われます。
このように、「獣」は、人間の文明や理性とは異なる、原始的で力強い生命力を感じさせる言葉なのです。
「獣」と「動物」の使い分け
客観的・学術的な文脈や、ペットを含む一般的な生き物全般を指す場合は「動物」を使います。一方、文学的な表現、野性味や本能を強調したい場合、または狩猟の対象を指す場合には「獣」が使われることがあります。
このニュアンスの違いから、私たちは日常や文脈に応じてこの二つの言葉を使い分けています。
「動物」を使う主な場面
- 学術・教育:「動物学」「動物園」「動物病院」「ペットの動物」など、客観的・中立的に生物種を指す場合。
- 広範囲:「動物愛護」のように、哺乳類だけでなく鳥類や爬虫類なども含めて広く生き物全般を指す場合。
- ペット:犬や猫を「獣」と呼ぶことは稀で、通常は「動物」や「ペット」と呼びます。
「獣(けもの)」を使う主な場面
- 文学・物語的表現:「森の獣たち」「獣道(けものみち)」など、情景や野性的なイメージを喚起させたい場合。
- 狩猟の対象:シカやイノシシなど、狩猟の対象となる大型の野生哺乳類を指す場合(例:鳥獣被害)。
- 本能の比喩:「獣のような目つき」「内なる獣が目覚める」など、人間の理性が失われ本能がむき出しになる様子を表現する場合。
文化的・歴史的背景(けものへんと語源)
「獣(けもの)」の語源は、「毛の物(けのもの)」、つまり毛の生えた生き物という説が有力です。漢字の部首である「犭(けものへん)」は「犬」の字が変形したもので、犬や獣などに関する漢字(狼、狐、狸、猿など)に用いられます。
「獣(けもの)」という言葉は、非常に古くから日本語に存在しています。
語源について
「けもの」の語源は、「毛の物(けのもの)」が変化したという説が有力です。文字通り「毛が生えているモノ」という意味で、古事記伝などでも「ケツモノ(毛物)」として言及されています。このことからも、古くから「毛に覆われた動物」という認識があったことがわかります。
けものへん(犭)について
漢字の世界では、「獣」に関連する部首として「犭(けものへん)」があります。これは、動物の「犬」の字が左側に(偏として)使われるときに変形したものです。
「狼(おおかみ)」「狐(きつね)」「狸(たぬき)」「猿(さる)」「猪(いのしし)」など、多くの哺乳動物(特に野生動物)を表す漢字に使われており、日本文化においても「けもの」が特定の動物群を指す概念であったことがうかがえます。
「獣(けもの)」と「動物」の共通点
「獣」は「動物」という大きなカテゴリーに含まれる一部分です。したがって、「獣」も「動物」も、生物であり、生命を持ち、生態系の一員であるという点で共通しています。
違いを強調してきましたが、もちろん共通点もあります。
最大の共通点は、「獣」は「動物」という大きなグループの一部であるということです。
- どちらも生物学的な分類(動物界)に属する。
- どちらも生命を持ち、呼吸し、食事をし、子孫を残す。
- どちらも生態系の中で重要な役割を担っている。
「獣」と呼ぶ対象は、常に「動物」でもあるのです。
「けだもの」や「ケモノ」との違いは?(体験談)
僕は辞書を引くまで、「獣(けもの)」と「獣(けだもの)」はほぼ同じ意味で、単に読み方が違うだけだと思っていました。
しかし、多くの辞書では「けだもの」の方が、「けもの」よりも「人間的な情味のない残忍な行いをする人をののしる」という意味合いが強い、とされています。つまり、「けもの」が野生動物全般を指すのに対し、「けだもの」は、その中でも特に理性を感じさせない側面や、人間を罵倒するニュアンスを強く含む言葉として使い分けられているようです。
さらにややこしいのが、近年のサブカルチャーで使われる「ケモノ」というカタカナ表記です。これは、動物を擬人化したキャラクター(いわゆる「ケモナー」が好む対象)を指す特定のジャンル用語であり、本来の「獣(けもの)」が持つ「野生」や「荒々しさ」とはまた異なる、独自の文化的な意味合いを持っています。
同じ「けもの」という音でも、漢字(獣)、ひらがな(けもの)、カタカナ(ケモノ)で、これほどまでにニュアンスが変わるというのは、日本語の奥深さですね。
「獣」と「動物」に関するよくある質問
Q: 「獣(けもの)」と「動物」の違いを簡単に教えてください。
A: 「動物」は、人間、鳥、魚、虫などを含む生物全体の広い総称です。「獣」は、その動物の中でも、主に「毛が生えた四本足の哺乳動物」(クマ、シカ、キツネなど)を指す狭い範囲の言葉です。
Q: 犬や猫は「獣(けもの)」ですか?
A: 生物学的には「毛が生えた四本足の哺乳動物」なので「獣」の定義に当てはまります。事実、「けものへん(犭)」は「犬」から来ています。しかし、現代の日常会話では、ペットとして身近な犬や猫を「獣」と呼ぶことは少なく、「動物」や「ペット」と呼ぶのが一般的です。「獣」には野生的なニュアンスが強いためです。
Q: 「けもの」と「けだもの」はどう違いますか?
A: どちらも毛が生えた四足動物を指しますが、「けだもの」の方が、より「人間的な情味のない残忍な人」をののしる意味合いが強い傾向があります。ただし、辞書によってはほぼ同義としている場合もあります。
Q: 「けものへん(犭)」がつく動物はすべて「獣」ですか?
A: はい、そのように解釈できます。「けものへん」は犬や獣に関連する漢字に使われる部首であり、「狼(おおかみ)」「狐(きつね)」「狸(たぬき)」「猿(さる)」など、まさに「獣」のイメージに当てはまる動物が多く含まれています。
「獣」と「動物」の違いのまとめ
「獣(けもの)」と「動物」の違いは、その言葉がカバーする「範囲」と「ニュアンス」にありました。
- 範囲の違い:「動物」は人間や昆虫も含む生物界の総称。「獣」は主に四足の毛深い哺乳類を指す。
- ニュアンスの違い:「動物」は中立的・学術的。「獣」は野性的・本能的、あるいは人間性を欠くものへの比喩として使われる。
- 文化的背景:「獣」は「毛の物」が語源とされ、「けものへん(犭)」として漢字文化にも根付いている。
- 使い分け:客観的な説明やペットには「動物」を、文学的表現や野生の荒々しさを表現するには「獣」を使う。
この違いを理解すると、ニュースや文学作品でなぜあえて「獣」という言葉が選ばれたのか、その深い意図が読み取れるようになりますね。他のペット・飼育に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- (参考)環境省「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」(https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort8/) – 鳥獣(鳥類・獣類)の定義について
- (参考)漢字ペディア(公益財団法人 日本漢字能力検定協会)(https://www.kanjipedia.jp/) – 部首「けものへん」について