「キング・チャールズ・スパニエル」と「キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル」(通称キャバリア)、名前がそっくりで混乱しがちですが、実はこの2犬種、根本的な顔つき(マズルの長さ)と性格が全く異なる別の犬種です。
最も簡単な答えは、「キング・チャールズ・スパニエル」は短頭種でペチャっとした顔、「キャバリア」はマズル(鼻先)が長く、より活発だということです。
この違いが、飼育上の注意点や必要な運動量に大きな差を生んでいます。この記事を読めば、名前の混乱から解放され、それぞれの魅力、飼育上の重要な注意点までスッキリと理解できます。あなたが家族に迎えるなら、おっとりとしたキング・チャールズ?それとも天真爛漫なキャバリアでしょうか?
まずは、両者の決定的な違いを比較表で押さえましょう。
【3秒で押さえる要点】
- 顔つき:キング・チャールズは「短頭種(ペチャ顔)」。キャバリアはマズルが長い。
- 性格:キング・チャールズは穏やかでおっとり。キャバリアはより活発で天真爛漫。
- 歴史:どちらも英国王室由来ですが、キャバリアはキング・チャールズの古いタイプを復元するために後(20世紀)に作出された新しい犬種です。
| 項目 | キング・チャールズ・スパニエル(King Charles Spaniel) | キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(Cavalier King Charles Spaniel) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | トイ・スパニエル(短頭種) | トイ・スパニエル |
| サイズ(体重) | 3.6〜6.3kg | 5.4〜8kg |
| マズル(鼻) | 非常に短い(短頭種)。鼻は上向き。 | 適度な長さ(約3.8cm)があり、先細り。 |
| 頭蓋骨 | ドーム型(丸い) | ストップ(両目の間のくぼみ)が浅く、ほぼ平ら。 |
| 行動・性質 | 穏やか、おっとり、愛情深い。比較的静か。 | 非常に友好的、活発、遊び好き、天真爛漫。 |
| 必要な運動量 | 少ない(室内遊びや短い散歩で満足) | 中程度(毎日の散歩や遊びが不可欠) |
| 飼育難易度 | 高い(短頭種のケア必須)。暑さ寒さに弱く、呼吸器・眼の注意が必要。 | 比較的易しい(初心者向け)。ただし遺伝病(心臓)の理解は必須。 |
| 寿命 | 10〜12年 | 9〜14年 |
| かかりやすい病気 | 短頭種気道症候群、眼疾患(乾性角結膜炎など)、水頭症、僧帽弁閉鎖不全症 | 僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)、脊髄空洞症、外耳炎 |
見た目とサイズの違い
最大の違いは顔です。キング・チャールズ・スパニエルはマズルが非常に短い「短頭種(ペチャ顔)」で、丸いドーム型の頭をしています。一方、キャバリアはマズルが長く、顔つきはよりスパニエルらしい外見です。体格はキャバリアの方がわずかに大きくなります。
この2犬種を見分ける最も確実な方法は、「マズルの長さ」を見ることです。
キング・チャールズ・スパニエル(King Charles Spaniel)は、ジャパンケネルクラブ(JKC)の分類でも「イングリッシュ・トイ・スパニエル」と呼ばれることがあり、その名の通りトイ・グループに属します。最大の特徴は、パグやシーズーのように鼻が潰れた典型的な短頭種(ペチャ顔)であることです。頭蓋骨は大きく丸みを帯びたドーム型で、目は大きく丸く、鼻は非常に短く上を向いています。
一方、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(Cavalier King Charles Spaniel)、通称「キャバリア」は、キング・チャールズ・スパニエルとは対照的に、マズルがはっきりと長く、その長さは約3.8cmが理想とされています。頭頂部は平らで、キング・チャールズのようなドーム型ではありません。このマズルの長さが、両者を区別する決定的なポイントです。
サイズ(体重)を比較すると、キング・チャールズが3.6〜6.3kgなのに対し、キャバリアは5.4〜8kgと、キャバリアの方が一回り大きい傾向があります。
毛色については、両者ともによく似た4つのカラーパターン(ブラック&タン、ルビー、ブレンハイム、トライカラー)が認められています。
性格・行動特性としつけやすさの違い
キング・チャールズ・スパニエルは、短頭種特有のおっとりとした性格で、比較的物静かです。キャバリアは、その天真爛漫な明るさと社交性で知られ、非常に活発で遊び好きです。どちらも攻撃性は低く、しつけはしやすい犬種です。
見た目の違いは、そのまま性格や行動特性にも反映されています。
キング・チャールズ・スパニエルは、その短頭種の体格もあってか、穏やかで物静か、おっとりとした性格の子が多いと言われています。愛情深く、飼い主に対しては忠実ですが、キャバリアほどの激しい遊びを要求することは少なく、室内でのんびりと過ごすことを好む傾向があります。
対してキャバリアは、「天真爛漫」という言葉がぴったりの、非常に明るく社交的な性格です。人間も他の犬も大好きで、誰にでも愛想を振りまく「究極の愛玩犬」とも言われます。スパニエルらしい活発さも持ち合わせており、ボール遊びや散歩が大好きです。
しつけやすさについては、どちらも非常に賢く、飼い主を喜ばせることが大好きな犬種であるため、初心者でも比較的トレーニングしやすいと言えるでしょう。攻撃性も低く、家庭犬として理想的な気質を持っています。ただし、キャバリアの方がより活発な分、多くの運動と遊び(刺激)を必要とします。
寿命・健康リスク・病気の違い
平均寿命はどちらも10年前後ですが、抱えるリスクが異なります。キング・チャールズは「短頭種気道症候群」や眼のトラブルに特に注意が必要です。キャバリアは犬種特有の遺伝病として、心臓の「僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)」が極めて多いため、生涯を通じた定期検診が不可欠です。
平均寿命はキング・チャールズが10〜12年、キャバリアが9〜14年とされていますが、それ以上に重要なのが、それぞれが抱えやすい特有の健康リスクです。
キング・チャールズ・スパニエルは短頭種であるため、「短頭種気道症候群(BOAS)」と呼ばれる呼吸器系の問題(いびき、呼吸困難など)と常に隣り合わせです。また、目が大きいために「乾性角結膜炎(ドライアイ)」や角膜の傷などの眼疾患にもかかりやすい傾向があります。暑さ・寒さにも非常に弱く、温度管理が欠かせません。
一方、キャバリアを飼育する上で絶対に理解しておくべきなのが、心臓病のリスクです。特に「僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)」は、キャバリアにおいて遺伝的に非常にかかりやすい病気として知られており、若齢から発症することも少なくありません。このため、キャバリアは症状がなくとも、定期的な心臓検診(聴診や心臓エコー検査)が生涯を通じて推奨されます。
どちらの犬種も、垂れ耳であることから「外耳炎」にもなりやすいため、こまめな耳掃除が必要です。
「キング・チャールズ・スパニエル」と「キャバリア」の共通点
名前が示す通り、どちらもイギリスのチャールズ2世に溺愛されたスパニエル犬を祖先に持つ、極めて近い血縁関係にあります。垂れ耳で絹のような豊かな被毛を持ち、非常に友好的で攻撃性が低い愛玩犬である点が共通しています。
これほど見た目や性質が異なる2犬種ですが、もちろん名前が似ているのには理由があります。多くの共通点を見ていきましょう。
- 英国王室(チャールズ2世)の寵愛:名前の由来となったイギリス国王チャールズ2世は、このタイプの小型スパニエルを熱狂的に愛し、どこへ行くにも連れて歩いたと記録されています。両犬種とも、その王室の愛玩犬をルーツとしています。
- スパニエル系の外見:どちらも長く豊かな絹糸状の被毛と、大きな垂れ耳を持つ、典型的なスパニエルの特徴を持っています。
- 友好的な気質:攻撃性が低く、非常に愛情深い愛玩犬としての気質は、両犬種に共通する最大の魅力です。
- 毛色:「ブレンハイム(白地に鮮やかな茶色の斑)」「トライカラー(白・黒・茶)」「ルビー(鮮やかな赤茶色)」「ブラック&タン(黒地に茶色の斑)」という4つの毛色がどちらの犬種にも認められています。
歴史・ルーツと性質の関係
元々はチャールズ2世に愛されたマズルの長いスパニエル犬が祖先です。しかし19世紀以降、パグなどとの交配により、より鼻の短いキング・チャールズ・スパニエルが主流となりました。キャバリアは20世紀に入り、「昔のマズルの長いタイプを復元したい」という愛好家たちの手によって、意図的に作出された新しい犬種です。
「どうしてこんなに顔が違うのに、名前がそっくりなの?」という疑問は、両犬種の歴史を知ると解決します。
実は、先に存在したのは「キャバリア」のようなマズルの長いタイプでした。17世紀、チャールズ2世が愛したスパニエルたちは、絵画にも残っている通り、適度にマズルの長い、活発な犬たちだったと考えられています。
しかし時代が下り、19世紀のヴィクトリア朝時代になると、アジアから持ち込まれたパグや狆(ちん)などの短頭種が流行しました。この流行を受け、王室のスパニエルたちも短頭種との交配が進められ、次第に鼻が短く、頭が丸い、現在の「キング・チャールズ・スパニエル」の姿へと変化していったのです。
ところが20世紀に入ると、「チャールズ2世時代の絵画に描かれているような、昔ながらのマズルの長いスパニエルを復元したい!」と考える愛好家たちが現れます。彼らがキング・チャールズ・スパニエルの中からマズルの長い個体を選び出し、他の犬種(パピヨンなども使われた説があります)と交配させて努力した結果、1945年にようやく「キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル」として、キング・チャールズとは別の犬種として公認されたのです。
つまり、キャバリアの方が「復元された古いタイプ」であり、犬種としては「新しい」という、少しややこしい歴史を持っています。キャバリアの活発さは、この復元過程で取り戻されたスパニエル本来の気質と言えるでしょう。
どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ
キング・チャールズ・スパニエルは、室内で静かに過ごすことを好み、短頭種のケア(温度管理・呼吸・眼)を徹底できる人に向いています。キャバリアは、より多くの運動と遊びを必要とし、犬種特有の心臓病への理解と生涯にわたる医療ケアの覚悟がある人に向いています。
どちらも素晴らしい家庭犬ですが、その特性を理解し、あなたのライフスタイルに合う方を選ぶ必要があります。
【キング・チャールズ・スパニエルがおすすめな人】
- アパートやマンションなど、集合住宅で静かな犬を飼いたい人
- 短頭種のケア(夏場のエアコン24時間稼働、冬場の寒さ対策、呼吸や眼の日常的なチェック)を徹底できる人
- 激しい運動よりも、室内でのんびりと犬と過ごす時間を大切にしたい人
- おっとりとした、物静かなパートナーを求めている人
短頭種の飼育経験がない初心者は、その特有のケアの多さに戸惑うかもしれません。
【キャバリアがおすすめな人】
- 犬種特有の心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)のリスクを正しく理解し、生涯にわたる定期検診と医療費の準備ができる人
- 毎日の散歩やボール遊びなど、犬とアクティブに触れ合う時間を十分に確保できる人
- 誰にでもフレンドリーな、天真爛漫で社交的な犬を求めている人
- 初めて犬を飼う人で、しつけやすい犬種を探している人(ただし病気の理解は必須)
僕が出会った「キャバリア」の“天真爛漫さ”(体験談)
僕は以前、取材でドッグランを訪れた際、まさに「キャバリア」という犬種の魅力を体現したような子に出会ったことがあります。
その子は、ドッグランの入り口から文字通り「駆け込ん」できました。飼い主さんがリードを外すか外さないかのうちに、すでに尻尾はちぎれんばかり。そして、そこにいた全ての犬、全ての人間に「遊ぼう!」「撫でて!」と猛アタックを開始したのです。
僕の足元にも何の迷いもなく飛び込んできて、靴紐をカミカミしながらひっくり返ってお腹を見せてきました。その姿は、警戒心という言葉を辞書から消し去ったかのような天真爛漫さ。
一方、ドッグランの隅のベンチでは、キング・チャールズ・スパニエル(短頭種の方)が、飼い主さんの膝の上で静かにウトウトしていました。他の犬が騒いでも「我関せず」といった様子で、そのおっとりとした表情は、まさに「動」のキャバリアに対する「静」のキング・チャールズ、といった対比を見せていました。
キャバリアの魅力が「全てを愛する無邪気な活発さ」にあるとすれば、キング・チャールズ・スパニエルの魅力は「飼い主だけを静かに見つめる穏やかな愛情」にあるのかもしれない、と感じた瞬間でした。
「キング・チャールズ・スパニエル」と「キャバリア」に関するよくある質問
Q: 名前の「キャバリア」ってどういう意味ですか?
A: 「キャバリア(Cavalier)」とは、もともとチャールズ1世・2世の時代に王党派(騎士党)を支持した人々を指す言葉です。チャールズ2世と共にいたスパニエルたちを、後世の人々が「キャバリア・スパニエル(騎士党のスパニエル)」と呼んだことに由来すると言われています。
Q: 結局、どっちが「キング・チャールズ・スパニエル」ですか?
A: どちらも正式名称に「キング・チャールズ・スパニエル」が入っているため混乱します。JKC(ジャパンケネルクラブ)の分類では、鼻が短い(短頭種)方を「キング・チャールズ・スパニエル」、鼻が長い方を「キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル」と、明確に別の犬種として登録しています。
Q: 初心者でも飼いやすいのはどちらですか?
A: 性格の友好的さ、しつけやすさという点では「キャバリア」が非常に初心者向きです。しかし、犬種特有の心臓病のリスクが極めて高いため、その医療的ケアを理解し、生涯にわたり責任を持てる覚悟が必須です。一方、キング・チャールズは穏やかですが、短頭種特有のケア(温度管理や呼吸器トラブル)が日常的に必要であり、これも初心者にはハードルが高い側面があります。
「キング・チャールズ・スパニエル」と「キャバリア」の違いのまとめ
名前が似ているキング・チャールズ・スパニエルとキャバリアですが、その違いは「似ている別の犬」ではなく、「全く異なる特徴を持つ犬」であることがお分かりいただけたかと思います。
- 顔が決定的に違う:キング・チャールズは「短頭種(ペチャ顔)」。キャバリアは「マズルが長い」。
- 性格と活発さが違う:キング・チャールズは「穏やか・静か」。キャバリアは「活発・天真爛漫」。
- 健康リスクが違う:キング・チャールズは「短頭種のケア」が必須。キャバリアは「心臓病(MMVD)」の理解が必須。
- 歴史的な経緯が違う:キング・チャールズが主流になった後、古いタイプを復元するためにキャバリアが作出された。
もし家族として迎えることを検討するなら、その犬種の歴史や特性、そして何より自分のライフスタイルや覚悟で、その犬を生涯幸せにできるかを最優先に考えてくださいね。日本犬の魅力や、他のペット・飼育に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。
参考文献
- 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ(JKC)(https://www.jkc.or.jp/)
- 環境省自然環境局「動物の愛護と適切な管理」(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/)