「梅の木にウグイス」—春の訪れを告げる美しい光景ですね。
しかし、もしあなたが「梅の木に止まっている、緑色のきれいな声で鳴く鳥」をウグイスだと思っていたら、それはほぼ間違いなく「メジロ」です。
「え?じゃあウグイスは?」
実は、ウグイスはもっと地味な茶色い鳥で、声はすれども姿は見せず、梅の木よりも笹薮(ささやぶ)を好みます。
この記事を読めば、日本で最も混同されがちなこの2種類の鳥、「メジロ」と「ウグイス」の決定的な違いが、見た目から鳴き声、法律上の扱いまでスッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 見た目(色):メジロは鮮やかな黄緑色で、目の周りが白いです。ウグイスは地味な茶褐色(ウグイス色)です。
- 行動(場所と鳴き声):メジロは「チーチー」と鳴きながら花の蜜を吸いに梅や桜に来ます。ウグイスは「ホーホケキョ」と鳴きますが、笹薮に隠れて姿を見せません。
- 法律:どちらも野生動物であり、個人が許可なく捕獲・飼育することは法律で固く禁止されています。
| 項目 | メジロ | ウグイス |
|---|---|---|
| 分類・系統 | スズメ目 メジロ科 | スズメ目 ウグイス科 |
| サイズ(全長) | 約12cm(スズメより小さい) | オス:約16cm / メス:約14cm(スズメと同じくらい) |
| 見た目(色) | 鮮やかな黄緑色(オリーブグリーン) | 地味な茶褐色(オリーブ褐色) |
| 最大の特徴 | 目の周りの白い輪(アイリング) | 藪(やぶ)に隠れて姿が見えにくい |
| 鳴き声(さえずり) | 「チー、チー、チーチュルチー」 | 「ホーホケキョ」(オス) |
| 鳴き声(地鳴き) | 「チー、チー」 | 「チャッ、チャッ」(笹鳴き) |
| 主な食べ物 | 花の蜜、果実、昆虫 | 昆虫、クモ類 |
| よく見る場所 | 梅や桜の木、庭木、森林 | 笹薮(ささやぶ)、低木の茂み |
| 法規制(日本) | 許可なく捕獲・飼育は原則禁止(鳥獣保護管理法) | |
形態・見た目とサイズの違い
最大の違いは「色」と「目の周り」です。メジロは鮮やかな黄緑色で、目の周りにくっきりとした白い輪(アイリング)があります。ウグイスは、いわゆる「ウグイス色」とは程遠い、地味な茶褐色の鳥です。
この2種を混同してしまう最大の原因は、「ウグイス色」という言葉の誤解にあります。
私たちが一般的に「ウグイス色」としてイメージするのは、メジロのような明るい黄緑色かもしれません。しかし、本来の「ウグイス色(鶯色)」とは、ウグイスの背中のような、くすんだオリーブ色(茶色みがかった緑褐色)を指します。
メジロ(Zosterops japonicus)
メジロは、その名の通り、目の周りにある白い輪(アイリング)が最大の特徴です。体色は背中が鮮やかな黄緑色(オリーブグリーン)で、喉元は黄色、お腹は白っぽい色をしています。全長は約12cmと、スズメ(約14.5cm)よりも一回り小さいです。その愛らしい姿と色合いから、多くの人にとって「春の鳥」のイメージそのものかもしれません。
ウグイス(Horornis diphone)
一方のウグイスは、非常に地味な見た目をしています。体全体が茶褐色やオリーブ褐色で、メジロのような鮮やかな緑色ではありません。お腹側はやや白っぽいですが、全体的に「保護色」であり、笹薮などに紛れると見つけるのが非常に困難です。
サイズは全長約14cm(メス)〜16cm(オス)と、スズメとほぼ同じか、オスは少し大きい程度です。目の周りには白い輪はなく、代わりに薄い眉斑(びはん=眉毛のような模様)がありますが、メジロほど目立ちません。
行動・生態・ライフサイクルの違い
「梅の木にウグイス」は多くの場合、勘違いです。梅や桜の花の蜜を吸いに群れで来るのは「チーチー」と鳴くメジロです。「ホーホケキョ」と鳴くウグイスは、昆虫食で警戒心が強く、藪の中に隠れています。
見た目以上に、彼らの行動と生態は全く異なります。特に「鳴き声」と「食べ物」に注目すれば、その違いは明らかです。
メジロの生態
メジロは花の蜜や果実が大好きです。春になると、梅や桜、椿(つばき)の花が咲く木に、数羽から十数羽の群れでやってきます。彼らは「チー、チー」と細く可愛らしい声で鳴き交わしながら、器用に花の蜜を吸っています。私たちが見かける「梅の木にいる緑色の鳥」の正体は、このメジロなのです。
ウグイスの生態
ウグイスの主食は昆虫やクモ類です。花の蜜を吸うことはほとんどありません。
そして、ウグイスは非常に警戒心が強く、開けた場所に出てくることは滅多にありません。彼らの主な生息場所は、人目につかない笹薮や低い木の茂みの中です。
春に「ホーホケキョ、ケキョケキョ…」という美しいさえずり(谷渡り)を聞かせてくれますが、これはオスが縄張りを主張するために鳴いている声。声はすれども姿は見えず、というのがウグイスの基本スタイルです。秋から冬にかけては「チャッ、チャッ」という地鳴き(笹鳴き)をします。
つまり、「ホーホケキョ」という声が聞こえる藪の近くで、梅の蜜を吸う緑色のメジロを見て、「ウグイスが鳴きながら蜜を吸っている」と勘違いしてしまったのが、「梅にウグイス」という美しい誤解の真相だと考えられています。
生息域・分布・環境適応の違い
メジロは人里近くの公園や庭木にもよく現れる、適応力の高い鳥です。一方、ウグイスは笹薮や低木の茂みを好み、人前に姿を現すことは少ないシャイな鳥です。
生息する「場所」の好みも、両者を見分けるヒントになります。
メジロは非常に適応力が高く、平地から山地の森林、雑木林、そして都市部の公園や庭先まで、広い範囲に生息しています。特に花の咲く季節には、人家の庭木(梅、桜、金柑など)にも頻繁に訪れるため、私たちにとって非常に身近な鳥と言えます。
一方、ウグイスは、その生態(昆虫食、低い場所での採食)から、「笹薮(ささやぶ)」や「低木の茂み」がある環境を強く好みます。平地から高山帯まで広く分布していますが、メジロのように開けた場所や庭先に積極的に出てくることは少なく、常に藪の中に隠れています。
ウグイスを観察したいと思ったら、梅の木の上を探すのではなく、声が聞こえる藪の中を根気よく探す必要があります。
危険性・衛生・法規制の違い
どちらも野生動物であり、「鳥獣保護管理法」によって無許可での捕獲・飼育(ヒナの保護を含む)は厳しく禁止されています。メジロはかつて愛玩用に飼育が許可されていましたが、現在は違法です。
メジロもウグイスも、人間に直接的な危害を加えるような危険な鳥ではありません。しかし、彼らは野生動物であり、法律によって厳しく守られています。
メジロ、ウグイスを含む全ての野生鳥獣は、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」の対象です。
これは環境省の管轄下にあり、都道府県知事の許可なく、彼らを捕獲すること、飼育すること、卵やヒナを採取することは、原則として固く禁止されています。
かつてメジロは、その美しい姿と鳴き声から愛玩鳥として非常に人気があり、一定の条件下で飼育が許可されていた時代もありました。しかし、法改正により、現在ではメジロを許可なく飼育することは違法となっています(※既に適法に飼養登録されている個体を除く)。
もし、あなたが巣から落ちたメジロやウグイスのヒナを見つけても、可哀想だからといって家に連れて帰ってはいけません。それは「保護」ではなく「誘拐」にあたる可能性があります。多くの場合、親鳥が近くで見守っています。触らずに、その場を離れるのが最善の対処です。どうしても心配な場合は、各都道府県の鳥獣保護担当部署に連絡し、指示を仰いでください。
文化・歴史・人との関わりの違い
ウグイスは「春告鳥(はるつげどり)」として和歌の世界で古くから愛され、「日本三鳴鳥」の一つです。「ウグイス色」は本来、メジロの緑色ではなく、ウグイスの羽の地味な茶褐色を指します。メジロは「メジロ押し」という言葉の語源になっています。
メジロとウグイスは、その性質の違いから、日本の文化や言葉の中で異なる形で親しまれてきました。
ウグイス
ウグイスは、その美しい鳴き声から「春告鳥(はるつげどり)」と呼ばれ、古くは『万葉集』の時代から、春の訪れを象徴する鳥として多くの和歌や俳句に詠まれてきました。その鳴き声は「ホーホケキョ(法、法華経)」と聞きなされ、オオルリ、コマドリと共に「日本三鳴鳥」の一つに数えられています。
しかし皮肉なことに、文化的に非常に有名である一方、その地味な姿はあまり知られず、前述の通り「ウグイス色」という言葉だけが、メジロの鮮やかな緑色と混同されて広まってしまいました。
メジロ
メジロは、その見た目の特徴や行動から言葉が生まれています。
目の周りの白い輪は、そのまま「目白」という和名の由来となりました。
また、メジロは寒くなると、群れで枝にびっしりと並び、互いに体を押し付け合って暖を取る習性があります。この愛らしい姿から、「人が混み合って押し合う様子」を「メジロ押し」と呼ぶようになりました。
「メジロ」と「ウグイス」の共通点
どちらもスズメ目の小鳥であり、日本全国で広く見られる身近な野生動物です。また、どちらも鳥獣保護管理法によって守られており、許可なく飼育することはできません。
姿も生態も全く異なるメジロとウグイスですが、もちろん共通点もあります。
- 分類:どちらも「スズメ目」に属する小鳥の仲間です。(※科は異なります)
- 分布:どちらも日本全国に広く分布しており、私たちにとって身近な鳥であることに変わりありません。
- 法的保護:どちらも「鳥獣保護管理法」によって保護されている野生動物であり、許可なく捕獲・飼育してはならない点は共通しています。
- 誤解されやすい:「梅にウグイス」の勘違いのように、両者はセットで誤解されやすいという、文化的な共通点(?)もあります。
春の日の勘違い、梅の木にいたのは誰?(体験談)
僕の家の庭には、ささやかな梅の木があります。数年前の早春、まだ肌寒い日に、その梅の花が咲き始めたのを見つけました。
すると、どこからともなく「チー、チー、チー!」という甲高い、しかし可愛らしい鳴き声が聞こえてきました。目を凝らすと、鮮やかな緑色をした小さな鳥が数羽、群れでやってきて、せわしなく花から花へと飛び移り、蜜を吸っているではありませんか。
「おお、ウグイスだ!春だなぁ」
僕はすっかり感動して、その光景を眺めていました。「ホーホケキョ」とは鳴かないんだな、くらいにしか思っていませんでした。
その話を野鳥に詳しい友人に自慢げにしたところ、彼は笑いながらこう言いました。
「それ、たぶんメジロだよ。ウグイスは緑色じゃなくて茶色だし、花の蜜じゃなくて虫を食べるから、梅の花には来ないんだ」
僕は衝撃を受けました。「え、じゃあウグイス色って緑じゃないの?」「梅にウグイスって嘘なの?」と。
その友人が言うには、本物のウグイスは「ホーホケキョ」と鳴くけど、警戒心が強すぎて滅多に姿を見せない「シャイな隠遁者(いんとんしゃ)」のような鳥なのだそうです。
あの時の驚きと、少し恥ずかしい勘違いは忘れられません。僕が春の訪れだと思っていたあの美しい光景は、主役がウグイスではなくメジロだったのです。それ以来、僕は「チーチー」と聞こえればメジロを探し、「ホーホケキョ」と聞こえれば藪の中の「見えない主」に耳を澄ませるようになりました。
「メジロ」と「ウグイス」に関するよくある質問
Q: 梅の木で「ホーホケキョ」と鳴く緑色の鳥はいないのですか?
A: その2つの特徴(「ホーホケキョ」と鳴くことと、緑色であること)が同じ個体で揃うことは、まずありません。「ホーホケキョ」と鳴くのは茶色いウグイスで、梅の木に来る緑色の鳥は「チーチー」と鳴くメジロです。声と姿が別々の場所で起こっているのを、一羽の鳥が行っていると勘違いしやすいのです。
Q: ウグイス色って、本当は何色なんですか?
A: 本来の「ウグイス色(鶯色)」は、ウグイスの背中の色、つまり「オリーブ色を帯びた茶褐色(くすんだ黄緑色)」を指します。しかし、江戸時代頃から、より鮮やかなメジロの緑色と混同されるようになり、現在では一般的にメジロの体色のような鮮やかな黄緑色を「ウグイス色」と呼ぶことが多くなっています。
Q: メジロやウグイスは飼ってもいいですか?
A: 法律(鳥獣保護管理法)で禁止されています。どちらも野生動物であり、環境省の管轄下で保護されています。過去に飼育が許可されていたメジロも、現在は無許可での捕獲・飼育は違法です。ヒナを拾うことも原則禁止されています。
Q: 「メジロ押し」ってどういう意味ですか?
A: メジロが寒い時期に、枝の上で群れになって体をぎゅうぎゅうに押し付け合って並ぶ習性のことです。その姿から転じて、人々が混雑して押し合うように並んでいる様子を「メジロ押し」と呼ぶようになりました。
「メジロ」と「ウグイス」の違いのまとめ
長年にわたる「春の勘違い」は解けましたでしょうか。メジロとウグイスは、見た目も生態も全く異なる鳥です。
- 色の違い:メジロは鮮やかな黄緑色で目の周りが白い。ウグイスは地味な茶褐色。
- 行動の違い:メジロは「チーチー」と鳴き、群れで花の蜜を吸いに来る(梅や桜に来る)。ウグイスは「ホーホケキョ」と鳴き、藪の中に隠れて昆虫を食べる。
- 言葉の誤解:「ウグイス色」は本来ウグイスの茶褐色だが、メジロの緑色と混同されている。「梅にウグイス」も、実際は「梅にメジロ」の光景を見ている可能性が極めて高い。
- 法律(最重要):どちらも鳥獣保護管理法で守られた野生動物であり、許可なく捕獲・飼育することは固く禁止されています。
これからは、春に梅の木で「チーチー」と鳴く緑色の鳥を見たら「あ、メジロだ!」と自信を持って見分けられますね。そして、「ホーホケキョ」という声が聞こえたら、藪の中にいる「声の主」の姿を探してみてください。
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