モグラとネズミの違いとは?生態・見た目・法律を徹底比較

畑や庭を荒らす「モグラ」と、家屋に侵入する「ネズミ」。

どちらも小型の哺乳類で、なんとなく「害獣」というイメージがあるため混同されがちですが、実は生物学的に全く異なるグループの生き物です。

最大の違いは、モグラが一生のほとんどを土の中で過ごす「モグラ目(食虫目)」であるのに対し、ネズミは地上や家屋で生活する「ネズミ目(齧歯目)」である点です。この生態の違いが、彼らの見た目や被害の(げっ歯もく)特徴、さらには法律上の扱いにまで決定的な差を生んでいます。

この記事を読めば、その簡単な見分け方から、それぞれの生態、そして意外と知られていない法規制(モグラは許可なく捕獲できません!)まで、スッキリと理解できます。

【3秒で押さえる要点】

  • 分類:モグラは「モグラ目」(食虫目)でミミズが好物。ネズミは「ネズミ目」齧歯目)で穀物が好物。全く別の生き物です。
  • 見た目:モグラは土を掘る巨大な前足を持ち、目は退化。ネズミは物をかじる鋭い前歯が発達し、目や耳が大きい
  • 法律:ネズミ(イエネズミ類)は衛生害獣として駆除対象ですが、モグラは「鳥獣保護管理法」の対象動物であり、許可なく捕獲・殺傷することは禁止されています。
「モグラ」と「ネズミ」の主な違い
項目 モグラ(Mole) ネズミ(Rat / Mouse)
分類・系統 モグラ目食虫目) モグラ科 ネズミ目齧歯目) ネズミ科 など
サイズ(代表例) 体長:約12cm~19cm(アズマモグラなど) 体長:約6cm~26cm(ハツカネズミ、クマネズミなど)
形態的特徴 シャベル状に発達した巨大な前足。退化した小さな目。耳介(耳たぶ)がない。筒状の体型。 一生伸び続ける鋭い門歯(前歯)。発達した目・耳介・ヒゲ。物をつかめる小さな前足。長い尻尾。
食性 肉食性(食虫性)(ミミズ、昆虫の幼虫、ナメクジなど) 雑食性(穀物、種子、果実、食品残渣、昆虫、石鹸など)
主な生息場所 ほぼ一生を土の中(地下トンネル)で過ごす。 地上、家屋(天井裏、壁内)、下水道、倉庫、森林など。
主な被害 農業被害(トンネルによる農作物の根切り、土手や畦の破壊)。衛生害獣ではない。 衛生被害(病原菌の媒介)、食害、電線や配管をかじる物理的被害。
法規制 鳥獣保護管理法の対象動物(※狩猟鳥獣ではないが、有害鳥獣駆除の対象にはなる)。許可なく捕獲・殺傷は禁止 イエネズミ類(ドブネズミ等)は法の対象外(駆除対象)

形態・見た目とサイズの違い

【要点】

最大の違いは「前足」と「感覚器」です。モグラは土を掘るためにシャベルのように巨大化した前足を持ち、目は退化して非常に小さいです。一方、ネズミは物をかじる鋭い前歯(門歯)が特徴で、暗闇で活動するために目や耳、ヒゲが発達しています。

モグラとネズミの見た目は、彼らの全く異なる生活スタイルを反映しています。

モグラは、「土の中での生活」に極端に特化した姿をしています。
最大の特徴は、手のひらが外側を向いた、シャベルのように巨大で頑丈な前足です。これで強力な力で土を掘り進めます。体型は空気抵抗(土の抵抗)を減らすための筒状で、フワフワしたビロードのような毛並みをしています。
光のない土中で生活するため、目は退化して非常に小さいか、皮膚に埋もれています。また、土が入らないよう耳介(耳たぶ)もありません。

一方、ネズミは、「地上や家屋での生活」に適応した姿です。
彼らはネズミ目(齧歯目)の最大の特徴である、一生伸び続ける鋭い門歯(前歯)を持っています。これで硬い穀物の殻を割ったり、時には電線や壁をかじったりします。
夜間や暗い場所で活動するために、目は大きく発達しており、耳介も大きく、ヒゲなどの感覚器も鋭敏です。前足はモグラのように巨大ではなく、物をつかんだり、器用に食べ物を持ったりするために使われます。また、多くのネズミは体長と同じくらいの長い尻尾を持ち、バランスを取るのに役立てています。

行動・生態・ライフサイクルの違い

【要点】

決定的な違いは「食性」です。モグラはミミズや昆虫の幼虫を食べる「肉食性(食虫性)」です。一方、ネズミは穀物や人間の食べ残しなど何でも食べる「雑食性」です。モグラは農作物を直接食べませんが、ネズミは直接食べます。

見た目以上に決定的に異なるのが、彼らの「食べ物」と「生活スタイル」です。

モグラは、その名の通り「モグラ目(食虫目)」に分類され、完全な肉食性です。彼らが土を掘り進めるのは、巣を作るためだけでなく、主な獲物であるミミズや昆虫の幼虫(コガネムシの幼虫など)、ナメクジを探すためです。モグラは農作物の根そのものを食べることはありません(ただし、トンネルを掘る際に根を傷つけることはあります)。一生のほとんどを地下のトンネルで単独で過ごし、非常に大食漢で、数時間獲物を食べないと餓死してしまうほど代謝が活発です。

一方、ネズミは「ネズミ目(齧歯目)」で、基本的には雑食性です。農林水産省の資料などによると、ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミなどの「イエネズミ」は、穀物や野菜、果物はもちろん、人間の食品残渣、石鹸、電線、時には昆虫や小動物まで、あらゆるものを食べます。
彼らは繁殖力が非常に強いことでも知られ、特にクマネズミやドブネズミは年に何度も出産し、あっという間に数を増やします。人間の家屋や下水道を巧みに利用し、群れで生活することが多いです。

生息域・分布・環境適応の違い

【要点】

モグラは畑や田んぼ、ゴルフ場、庭など、ミミズや昆虫が豊富な柔らかい土壌がある場所ならどこにでも生息します。一方、ネズミは森林から都市部まであらゆる環境に適応し、特に家屋、下水道、倉庫など人間の生活圏に深く侵入して生活します。

モグラは、日本全国(北海道の一部を除く)の「土がある場所」に広く分布しています。彼らにとって重要なのは、トンネルが掘れる柔らかさの土壌と、エサとなるミミズや昆虫が豊富にいることです。そのため、畑、田んぼの畦(あぜ)、牧草地、ゴルフ場、公園、そして一般家庭の庭など、人間の生活圏のすぐそばの地中に生息しています。

一方、ネズミ(特にイエネズミ類)の生息域は、「人間の生活圏そのもの」と言えます。
彼らは人間の活動に強く依存しており、食料と隠れ家を求めて家屋、倉庫、飲食店、下水道、農地など、あらゆる場所に侵入します。農林水産省も、都市部から農村部まで、ネズミによる被害が全国的に発生していることを報告しています。
特にクマネズミは垂直移動が得意で、電線を伝ってビルの高層階に侵入し、天井裏や壁の中を活動拠点にします。ドブネズミは泳ぎが得意で、下水道や湿った床下を好みます。

危険性・衛生・法規制の違い

【要点】

ネズミはペストやサルモネラ症など様々な病原菌を媒介する「衛生害獣」であり、駆除対象です。モグラも「農業害獣」としての一面を持ちますが、ネズミのような直接的な衛生被害は少ないです。しかし、モグラは「鳥獣保護管理法」の対象動物であり、許可なく捕獲することは禁止されています。

「害獣」というイメージは共通していますが、その内容と法律上の扱いは全く異なります。

ネズミ(イエネズミ類)の危険性は、農作物を食べる「食害」や、電線・ガス管をかじる「物理的被害」だけに留まりません。
最大の脅威は「衛生害獣」としての側面です。厚生労働省も注意喚起している通り、ネズミはペスト菌、サルモネラ菌、レプトスピラ菌など、多くの深刻な病原菌を媒介します。また、ネズミの体に付着したイエダニやノミが人間を刺し、アレルギーや皮膚炎の原因にもなります。
このような理由から、イエネズミ類は「鳥獣保護管理法」の対象外とされており、一般家庭でも(専門業者による)駆除の対象となります。

一方、モグラは、ミミズを食べるために掘ったトンネルが農作物の根を浮き上がらせたり傷つけたりする、あるいは田んぼの畦(あぜ)や土手に穴を開けて弱くする、といった「農業被害(農業害獣」を引き起こします。
しかし、モグラがネズミのように病原菌を積極的に媒介するという報告は少なく、衛生害獣ではありません。むしろ、土を耕したり、害虫(コガネムシなど)の幼虫を食べてくれたりする「益獣」としての側面も持っています。

そして法規制が決定的に違います。モグラは「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法」によって保護されている動物です。
そのため、農林業への被害防止などの正当な理由があり、かつ行政(市町村など)の許可を得なければ、勝手に捕獲・殺傷することは法律で禁止されています。

文化・歴史・人との関わりの違い

【要点】

ネズミは人間の穀物を盗む害獣として古くから忌み嫌われる一方、豊穣の象徴(大黒天の使い)やキャラクター(ミッキーマウスなど)として文化的に非常に身近な存在です。モグラは土の中の見えない存在として、神秘的、あるいは「もぐら叩き」のようにやや滑稽な存在として描かれてきました。

ネズミと人間の関わりは、農耕の歴史と共に始まりました。人間の貯蔵穀物を狙う「害獣」として、またペストなどの疫病を媒介する「不吉な存在」として、世界中で忌み嫌われてきた歴史があります。
しかしその一方で、繁殖力が強いことから「豊穣」や「子孫繁栄」の象徴とされることも多く、日本では大黒天の使いとされたり、十二支の筆頭であったりします。現代ではミッキーマウスや「トムとジェリー」のジェリーなど、キャラクターとしても非常に身近な存在であり、文化的には「害」と「益(親しみ)」の二面性を持っています。

モグラは、その生涯のほとんどを土の中で過ごすため、人間の目に触れる機会が少ない動物でした。そのため、西洋では「盲目」の象徴として使われたり、土の中から突然現れる(土を盛り上げる)姿から、神秘的あるいは少し不気味な存在として描かれることもありました。
日本では、農地を荒らす存在として認識される一方、ゲームセンターの「もぐら叩き」のモチーフとして、どこか滑稽で親しみやすい(?)キャラクターとしても定着しています。

「モグラ」と「ネズミ」の共通点

【要点】

生物学的な共通点は「哺乳類である」という点以外、ほとんどありません。モグラは「モグラ目」、ネズミは「ネズミ目」で、全く異なる系統です。あえて共通点を挙げるなら、どちらも小型の哺乳類で、人間の生活圏(農地や家屋)の近くに出現し、しばしば「害獣」として扱われる点です。

見た目が似ていることから「モグラはネズミの仲間」と思われがちですが、前述の通り、生物分類学上は全く異なる系統の動物です。

  • モグラモグラ目(食虫目):ハリネズミなどに近い。
  • ネズミネズミ目(齧歯目):リスやビーバー、カピバラなどに近い。

彼らの共通点は、生物学的なものよりも、人間との関わり方の中にあります。

  1. 小型の哺乳類であること。
  2. 人間の生活圏(農地や家屋)の近くに生息すること。
  3. 人間の活動(農業や居住)に対して何らかの被害(害)をもたらすことがあると認識されていること。

しかし、その被害の内容(農業被害 vs 衛生被害)と、法律上の扱い(保護対象 vs 駆除対象)は全く異なるため、注意が必要です。

庭で見つけた謎の穴!モグラとネズミの痕跡

数年前、実家の庭の芝生に、見慣れない「土の盛り上がり」が点々と出現したことがありました。

「何だこれ?犬猫のフンでもないし…」

近づいてみると、土がこんもりと盛り上がっているだけで、はっきりとした「穴」が見当たりません。まるで、土の中から誰かが地面を押し上げたようです。これが、僕が初めて見た「モグラ塚(もぐらづか)」でした。モグラは土中を掘り進む際に出た土を、地表に押し上げて塚を作るのです。彼らの痕跡は「盛り土」であって、明確な出入り口の穴ではない(こともある)のです。

一方、以前住んでいた古い木造アパートで見た「ネズミ」の痕跡は全く違いました。
ネズミの痕跡は「穴」そのものです。壁の隅や、台所の流しの下あたりに、直径数センチの穴が開き、その周囲が黒く油で汚れていました。これは「ラットサイン」と呼ばれる、ネズミが体をこすりつけながら何度も通ることでできる汚れです。

モグラは土を「押し上げ」、ネズミは壁や地面に「穴を開けて通り道にする」。この痕跡の違いこそ、彼らの生活スタイルの決定的な違いなのだと実感しました。

「モグラ」と「ネズミ」に関するよくある質問

Q: モグラはネズミの仲間ではないのですか?

A: 違います。モグラは「モグラ目(食虫目)」でミミズや昆虫を食べます。ネズミは「ネズミ目(齧歯目)」で穀物や何でも食べます。生物学的には全く異なるグループの動物です。

Q: モグラは害獣ですか?益獣ですか?

A: 両方の側面があります。土を掘ることで農作物の根を傷つけたり、土手を弱くしたりする「害獣」としての側面があります。一方で、土を耕して柔らかくしたり、害虫の幼虫(コガネムシなど)を食べてくれたりする「益獣」としての側面も持っています。

Q: 家の中にいるのはモグラですか?

A: ほぼ100%「ネズミ」です。モグラは土の中で生活しており、視力もほぼないため、家屋内に侵入することはまずありません。壁の中や天井裏、キッチンで音がする場合は、ネズミ(特にクマネズミやハツカネズミ)の可能性が非常に高いです。

Q: モグラを勝手に捕獲してもいいですか?

A: いけません。モグラは「鳥獣保護管理法」で保護されている動物です。農林業への被害防止といった正当な理由があり、お住まいの自治体(市町村)に申請して許可を得た場合(有害鳥獣駆除)を除き、許可なく捕獲・殺傷することは法律で禁止されています。(イエネズミ類は、この法律の対象外です)。

「モグラ」と「ネズミ」の違いのまとめ

モグラとネズミは、見た目や害獣というイメージこそ似ていますが、全く異なる動物であることがお分かりいただけたかと思います。

  1. 分類と食性:モグラは「モグラ目」の肉食性(食虫性)。ネズミは「ネズミ目」の雑食性
  2. 見た目:モグラは土を掘る巨大な前足退化した目が特徴。ネズミはかじるための鋭い前歯発達した目・耳が特徴。
  3. 法律と被害:ネズミ(イエネズミ)は病原菌を媒介する衛生害獣で駆除対象。モグラは農地に被害を出す農業害獣の一面を持つ一方、鳥獣保護管理法で保護されており、無許可での捕獲は禁止されています。

庭でモグラ塚を見つけたり、家の中で物音を聞いたりした際は、その相手がモグラなのかネズミなのか、今回の違いを参考に見極めて、正しく対処してくださいね。彼らのような哺乳類の生態を知ることは、私たちの生活を守ることにも繋がります。

参考文献(公的一次情報)