日本の里山や水辺で素早く走り抜ける「イタチ」。
実は日本には、古来から生息する「ニホンイタチ」と、大陸から持ち込まれた「チョウセンイタチ(シベリアイタチ)」の2種類が生息していることをご存知でしょうか?
どちらもそっくりなイタチ科の動物ですが、体の大きさや尻尾の長さ、そして法律上の扱いが異なります。
特に重要なのは、ニホンイタチのメスは法律で捕獲が禁止されているのに対し、チョウセンイタチはオス・メスともに狩猟獣である(※)という点です。この記事を読めば、この2種類のイタチの決定的な見分け方から、生態、法規制の違いまでスッキリと理解できます。(※地域の条例や最新の法律により変更がある場合があるため、捕獲の際は必ず自治体にご確認ください)
【3秒で押さえる要点】
- 尻尾の長さ:チョウセンイタチは「尻尾が長い」(頭胴長の半分以上)。ニホンイタチは「尻尾が短い」(頭胴長の半分以下)。
- サイズ:チョウセンイタチの方が全体的に「大きい」です。特にメス同士で比べると差が顕著です。
- 法律(メス):ニホンイタチのメスは「捕獲禁止(非狩猟獣)」。チョウセンイタチのメスは「狩猟獣」(平成29年時点)。
| 項目 | ニホンイタチ(Japanese Weasel) | チョウセンイタチ(Siberian Weasel) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | 食肉目 イタチ科 イタチ属 | 食肉目 イタチ科 イタチ属 |
| 日本での分布 | 本州、四国、九州(在来種) (北海道、沖縄の一部に移入) |
西日本を中心に分布(外来種または国内移入種) |
| サイズ(頭胴長) | オス:27〜37cm メス:16〜25cm |
(一回り大きい) オス:28〜39cm メス:25〜31cm |
| サイズ(尾長) | オス:12〜16cm メス:7〜9cm |
(明らかに長い) オス:16〜21cm メス:13〜16cm |
| 尻尾の比率 | 短い(頭胴長の半分以下) | 長い(頭胴長の半分以上) |
| 毛色 | 茶褐色〜赤褐色 | やや褐色がかった山吹色 |
| 法規制(メス) | 捕獲禁止(非狩猟獣) | 狩猟獣(捕獲可) (※平成29年時点) |
| 法規制(オス) | 狩猟獣(捕獲可) | 狩猟獣(捕獲可) |
形態・見た目とサイズの違い
最大の見分け方は「尻尾の長さの比率」です。尻尾の長さが胴体(頭胴長)の半分より長ければチョウセンイタチ、短ければニホンイタチと判断できます。また、チョウセンイタチの方が全体的に大きく、毛色も明るい山吹色に近い傾向があります。
ぱっと見では非常によく似ている両者ですが、体のサイズと尻尾に明確な違いがあります。
まず、チョウセンイタチの方がニホンイタチよりも全体的に一回り大きいです。特にメス同士で比べるとその差は顕著で、ニホンイタチのメスは体長16cm〜と非常に小さいのに対し、チョウセンイタチのメスは25cm〜と、ニホンイタチのオスに匹敵するほどの大きさがあります。
そして、最も確実な見分け方が「尻尾の長さの比率」です。環境省の資料でも識別のポイントとして挙げられています。
- チョウセンイタチ:尻尾の長さが、頭胴長(頭から尻尾の付け根まで)の半分以上あります。
- ニホンイタチ:尻尾の長さが、頭胴長の半分以下と、明らかに短いです。
もしイタチを見かけて、「なんだか尻尾がやけに長いな」と感じたら、それはチョウセンイタチである可能性が高いです。
毛色にも傾向があり、ニホンイタチが濃い茶褐色(赤褐色)であるのに対し、チョウセンイタチはそれよりもやや明るい「山吹色」に近い毛色をしていることが多いです。
行動・生態・ライフサイクルの違い
どちらもネズミ類を主食とするどう猛な肉食獣です。生態的な違いは大きくありませんが、体が大きいチョウセンイタチの方が、より大きな獲物を捕食する傾向があり、生態系への影響が懸念されています。
ニホンイタチもチョウセンイタチも、イタチ科の動物として共通した生態を持っています。
どちらも基本的には夜行性ですが、昼間も活動します。食肉目の中でも特にどう猛なハンターであり、主にネズミ類(齧歯類)を主食とします。そのほか、カエル、鳥類、昆虫、ザリガニなども捕食します。
両者の生態に大きな差はありませんが、体の大きいチョウセンイタチの方が、より大きな獲物を捕食したり、ニホンイタチの獲物を奪ったりする可能性が指摘されています。
また、ニホンイタチのメスは体が非常に小さいため、小さなネズミの巣穴にも潜り込むことができ、生態系の中でネズミの数をコントロールする重要な役割を担っていると考えられています。これが、ニホンイタチのメスが法律で保護されている理由の一つです。
生息域・分布・環境適応の違い
ニホンイタチは日本の在来種で、本州、四国、九州に広く分布します。一方、チョウセンイタチは外来種(または国内移入種)とされ、主に西日本を中心に分布を拡大しています。
日本における両者の「立ち位置」は根本的に異なります。
ニホンイタチは、その名の通り古くから日本に生息する「在来種」です。本州、四国、九州、およびその周辺の島々に分布しています(北海道や沖縄の個体群は、ネズミ駆除などの目的で持ち込まれた移入個体群とされています)。
チョウセンイタチは、シベリアや朝鮮半島、中国などが原産の「外来種」です(国内移入種とする見解もあります)。毛皮の生産やネズミ駆除の目的で持ち込まれたものが野生化し、現在は特に西日本を中心に分布域を広げています。
体が大きく繁殖力も強いチョウセンイタチが、在来種であるニホンイタチの生息域を圧迫している可能性が懸念されています。
危険性・衛生・法規制の違い
どちらも「鳥獣保護管理法」の対象ですが、規制内容が異なります。ニホンイタチはメスの捕獲が一年中禁止されています。チョウセンイタチは(平成29年時点で)オス・メスともに狩猟鳥獣とされています。
イタチ類との関わりで最も注意すべき点が「法律」です。
どちらも野生動物であるため、ダニやノミ、感染症を持っている可能性があり、気性も荒いため、素手で触ったり近づいたりするのは危険です。
そして、法的な扱いが異なります。
どちらも「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」の対象です。
しかし、環境省は、この2種(および性別)を明確に区別して規制しています。
- ニホンイタチ:オスは「狩猟鳥獣」です。しかし、メスは「非狩猟獣」とされ、一年を通じて捕獲が禁止されています。これは、前述の通りネズミ駆除の益獣としての側面や、種の保護の観点からです。
- チョウセンイタチ:オス・メスともに「狩猟鳥獣」に指定されています(※平成29年9月よりメスが狩猟鳥獣に追加)。
つまり、もしイタチによる農作物被害や家屋侵入があり、有害鳥獣捕獲の許可を申請する場合でも、それがニホンイタチのメスであれば捕獲はできない(オスは可)、しかしチョウセンイタチであればオスもメスも捕獲が可能、という複雑な状況になっています。
このため、専門家(猟友会や駆除業者)は、捕獲申請や実施の際に、この二種と性別を正確に識別することが求められます。
「ニホンイタチ」と「チョウセンイタチ」の共通点
どちらも「食肉目 イタチ科 イタチ属」に属する非常に近縁な動物です。胴長短足の体型、どう猛な肉食性、肛門腺から強い臭気を出す習性、オスがメスより極端に大きいこと など、多くの生物学的特徴を共有しています。
見分けが難しいだけに、共通点は非常に多いです。
- 分類:どちらも食肉目 イタチ科 イタチ属の動物です。
- 体型:胴長短足で、狭い場所に潜り込むのに適した体型をしています。
- 食性:ネズミ類を主食とするどう猛な肉食性(雑食性も含む)です。
- 性的二型:オスがメスよりも著しく大きいという、性的二型(オスとメスの姿が違うこと)が顕著です。
- 臭腺:どちらも肛門腺(臭腺)を持っており、危険が迫ると強い悪臭の分泌液を出します。これが「イタチの最後っ屁」です。
- 法規制(オス):どちらの種のオスも「狩猟鳥獣」に指定されています。
西日本と東日本で見かけた「イタチ」の正体(体験談)
僕は以前、仕事で西日本の農村地帯に滞在していたことがあります。その地域では、イタチによる家禽(かきん)被害が問題になっており、地元の方が捕獲したイタチを見せてもらう機会がありました。
「これがイタチか」と見ていると、地元の方が「こいつは尻尾が長いけえ、チョウセン(チョウセンイタチ)じゃな」と教えてくれました。確かに、胴体と同じくらいあるかと思うほど尻尾が長く、毛色もどこか明るい山吹色 だったのを覚えています。
一方、僕が東日本の実家で時折見かけるイタチは、もっと色が濃い茶色(赤褐色) で、尻尾もあんなに長かった記憶がありません。おそらくあれが在来種のニホンイタチだったのでしょう。
西日本で見たチョウセンイタチの堂々とした体格 と、東日本で見たニホンイタチの俊敏な姿。同じ「イタチ」という名前で呼ばれていても、その背景には在来種と外来種の勢力争いと、複雑な法律の違い が隠されているのだと知りました。
「ニホンイタチ」と「チョウセンイタチ」に関するよくある質問
Q: 結局、どっちが「イタチ」ですか?
A: どちらも「イタチ」です。ニホンイタチは日本の在来種のイタチ、チョウセンイタチ(シベリアイタチ)は大陸由来の外来種(または国内移入種)のイタチです。
Q: なぜニホンイタチのメスだけ捕獲禁止なのですか?
A: ニホンイタチのメスは体が非常に小さく、ネズミの巣穴に入り込んで捕食する能力に長けています。そのため、農作物や家屋を守る「益獣(えきじゅう)」としての側面が評価され、また種の保護の観点から、鳥獣保護管理法において非狩猟獣として一年中保護されています。
Q: チョウセンイタチは害獣なのですか?
A: 外来種であるチョウセンイタチは、体が大きく繁殖力も強いため、在来種のニホンイタチの生息域を脅かす(競合する)存在として懸念されています。また、ニホンイタチと同様に農作物被害や家屋侵入(屋根裏など)も引き起こします。
Q: イイズナやオコジョとの違いは?
A: イイズナやオコジョは、同じイタチ科ですが、イタチ(ニホンイタチ、チョウセンイタチ)よりもさらに小型です。また、イイズナやオコジョは寒冷地に生息し、冬になると毛が真っ白に生え変わるという大きな違いがあります(イタチは白くなりません)。
「ニホンイタチ」と「チョウセンイタチ」の違いのまとめ
ニホンイタチとチョウセンイタチは、非常に近縁ながら、生態系における立場と法律上の扱いが異なる動物です。
- 尻尾の比率が決定打:尻尾が胴体の半分より長ければチョウセンイタチ、短ければニホンイタチです。
- サイズと毛色:チョウセンイタチの方が一回り大きく、毛色が明るい山吹色に近いです。
- 分布:ニホンイタチは在来種。チョウセンイタチは外来種で、主に西日本に分布しています。
- 法律(最重要):どちらも鳥獣保護管理法の対象ですが、ニホンイタチのメスは捕獲が全面禁止されています。
もしイタチによる被害に遭遇した場合は、この二種(特にニホンイタチのメス)の法的な違いから、素人判断での捕獲は非常に危険です。必ず環境省の管轄する法律に基づき、自治体や専門家に相談してください。他の哺乳類の動物たちの違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。