「ラマ」と「アルパカ」、どちらも南米アンデス山脈の高原に住む、もふもふとした愛らしい動物です。動物園や牧場で出会うと、そのそっくりな姿に「どっちがどっち?」と悩んでしまいますよね。
実はこの二種、生物学的には「ラクダ科」の仲間ですが、その大きさ、耳の形、そして人間による家畜化の目的が全く異なります。
最大の違いは、ラマは「荷運び用」の家畜、アルパカは「毛刈り用」の家畜として改良されてきた点です。この記事を読めば、その決定的な見分け方から、それぞれの祖先である野生種との関係まで、スッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 耳の形:ラマは「バナナのような湾曲した長い耳」。アルパカは「短くまっすぐな尖った耳」。
- サイズ:ラマは大型(体重100kg超)。アルパカは中型(体重50kg前後)で、ラマの半分ほどの大きさです。
- 用途と毛質:ラマは「荷運び用」で毛はごわごわ。アルパカは「毛刈り用」で、非常に柔らかく高品質な毛(アルパカウール)を持っています。
| 項目 | ラマ(Llama) | アルパカ(Alpaca) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | ラクダ科 ラマ属 | ラクダ科 ビクーニャ属(旧ラマ属) |
| 野生の原種 | グアナコ | ビクーニャ(諸説あり) |
| サイズ(体高) | 1.0〜1.3m(頭までは1.8m超) | 0.8〜1.0m |
| サイズ(体重) | 大型(約110〜180kg) | 中型(約50〜80kg) |
| 耳の形 | バナナ型(長く湾曲) | まっすぐ短い(槍型) |
| 毛質 | 硬くごわごわ(外側の毛) | 柔らかくてもふもふ(高品質な繊維) |
| 性格・行動特性 | 独立心が強い、堂々としている、警戒心が強い、荷物の護衛に使うことも。 | 臆病、温和、好奇心旺盛、常に群れで行動する。 |
| 主な家畜化の目的 | 荷運び(駄獣)、肉、毛皮 | 毛(アルパカウール)の採取、肉 |
| 唾吐きの傾向 | 威嚇や序列争いで積極的に吐く。 | 温和だが、嫌な時や仲間同士の喧嘩で吐く。 |
形態・見た目とサイズの違い
最大の見分け方は「耳」です。ラマの耳は長く、内側にカーブした「バナナ型」をしています。対してアルパカの耳は短く、まっすぐ尖った「槍型」です。体格もラマがアルパカの倍近く大きく、毛質もアルパカの方が圧倒的に柔らかく密集しています。
動物園や牧場でこの二種を見分けるとき、最も確実なポイントは「耳の形」です。
ラマの耳は長く、先端が内側に向かって湾曲しています。その形から「バナナ耳」と呼ばれることもあります。
一方、アルパカの耳は短く、まっすぐピンと立っており、先端が尖っています。
次に「体の大きさ」です。ラマは家畜化されたラクダ科動物の中で最も大きく、大人の男性の身長を超えるほどの高さになり、体重も100kgを優に超えます。アルパカはそれよりもずっと小さく、体重はラマの半分ほどしかありません。並んでいれば、その体格差は一目瞭然です。
「毛質」も全く異なります。アルパカは、高級衣料品(アルパカウール)のために品種改良されてきただけあり、全身が非常に柔らかく、密度の高い「もふもふ」の毛で覆われています。
ラマの毛は、外側の毛(ガードヘア)が太く硬いため、アルパカのような柔らかさはなく、「ごわごわ」とした印象を受けます。
行動・生態・ライフサイクルの違い
性格は、ラマの方が独立心が強く堂々としています。アルパカは非常に臆病で、常に群れで行動します。どちらも威嚇のために「唾を吐く」習性がありますが、ラマの方がより積極的に唾を吐く傾向にあります。
家畜化された目的の違いが、性格の違いにも表れています。
荷運び(駄獣)として改良されたラマは、比較的独立心が強く、堂々とした性格をしています。重い荷物を背負って長距離を移動する忍耐力を持ち、時にはヒツジやアルパカの群れを捕食者から守る「ガード・ラマ」として使われるほど、警戒心と防衛本能も持ち合わせています。
毛の採取のために改良されたアルパカは、非常に臆病で温和な性格です。常に集団で行動し、群れから離れることを極端に嫌います。好奇心旺盛な一面もありますが、基本的には非常にデリケートな動物です。
そして、彼らの最大の特徴ともいえるのが「唾吐き」です。
これはラマもアルパカも、さらには原種のグアナコやビクーニャも行うラクダ科共通の習性です。しかし、その頻度には差があります。
ラマは、序列争いや威嚇のために、他の個体や人間に対しても比較的積極的に唾を吐きます。一方、アルパカは非常に温和なため、人間に対して唾を吐くことは稀です。主に、仲間同士の餌の取り合いや、妊娠中のメスがオスを拒絶する際などに使われます。この唾は、胃の内容物(反芻した草など)が混じるため、非常に強烈な臭いがします。
生息域・分布・環境適応の違い
どちらも南米大陸のアンデス山脈、標高3,500〜5,000メートルの高地が原産です。現在は家畜として、ペルー、ボリビア、チリなどを中心に飼育されているほか、世界中の動物園や牧場でも見られます。
ラマもアルパカも、その起源は南米大陸のアンデス山脈の高原地帯にあります。
彼らは、標高3,500メートルを超えるような、酸素が薄く、昼夜の寒暖差が激しい厳しい高地環境に適応して生きてきました。
現在もペルー、ボリビア、アルゼンチン北部、チリなどのアンデス地域で、伝統的な家畜として大規模に飼育されています。
彼らの原種である野生種のグアナコとビクーニャも、同じアンデス高地に生息しています。グアナコは比較的広範囲に適応していますが、ビクーニャはより高地に特化した生態を持つとされています。
現在では、その愛らしさや毛の価値から、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、そして日本など、世界中の動物園や観光牧場で飼育されています。
危険性・衛生・法規制の違い
どちらも家畜であり、日本国内での飼育に特別な許可(特定動物指定など)は必要ありません。ただし、威嚇で吐く唾は非常に臭く、目に入ると危険な場合もあるため、不用意に近づいたり、驚かせたりしてはいけません。
ラマもアルパカも、法律上は「家畜」として扱われます。
動物愛護管理法が定める「特定動物(人間に危害を加える可能性のある危険な動物)」には指定されていないため、日本国内で飼育すること自体に特別な許可は必要ありません。
しかし、家畜とはいえ、不用意に接するのは危険です。
最大の危険は、前述の「唾吐き」です。彼らの唾(胃の内容物)は強烈な悪臭を放ち、服につくと簡単には匂いが取れません。また、もし目に入った場合は、炎症を起こす可能性もあるため、すぐに洗い流す必要があります。
アルパカは温和ですが、嫌がっているのに無理に触ろうとしたり、目をじっと見つめたり、餌やりをじらしたりすると唾を吐かれる可能性があります。ラマはアルパカよりも警戒心が強いため、より注意が必要です。
また、輸入する際には、農林水産省動物検疫所の厳格な検疫(家畜伝染病予防法に基づく検査など)を受ける必要があります。
文化・歴史・人との関わりの違い
両者の違いは、家畜化の歴史そのものです。ラマは野生種「グアナコ」を家畜化し、主に「荷運び(駄獣)」として改良されました。アルパカは野生種「ビクーニャ」を家畜化し、主に「毛の採取」のために改良されたとされています。
ラマとアルパカは、インカ帝国が栄える以前の古代アンデス文明から人間と共生してきた、非常に歴史の古い家畜です。しかし、その家畜化の目的は明確に異なっていました。
ラマ(Llama)
ラマは、野生種の「グアナコ」を家畜化したものと考えられています。グアナコは体力があり、高地を移動する能力に長けていたため、人間は彼らを「荷運び(駄獣)」として改良しました。
車輪を持たなかったアンデス文明において、ラマのキャラバンは物資を運ぶ唯一の輸送手段であり、社会基盤を支える極めて重要な存在でした。また、肉や毛皮も余すところなく利用されました。
アルパカ(Alpaca)
アルパカは、野生種の「ビクーニャ」を家畜化したものとされています(以前はグアナコ由来とも言われていましたが、近年の遺伝子研究などでビクーニャ説が有力です)。
ビクーニャは、ラクダ科の中で最も小さく、非常に細く上質な毛を持っています。古代アンデスの人々は、この貴重な毛(繊維)を得るためにビクーニャを家畜化し、より多くの毛が取れるように品種改良を重ねた結果、現在のアルパカが誕生したと考えられています。
つまり、ラマは「力仕事」担当、アルパカは「アパレル(繊維)」担当として、全く異なるキャリアを歩んできたのです。
「ラマ」と「アルパカ」の共通点
最大の共通点は、どちらも「ラクダ科」の動物であることです。アジアやアフリカのコブがあるラクダとは近縁種にあたります。どちらも南米アンデス高地原産で、反芻(はんすう)をし、群れで生活する家畜である点も共通しています。
見た目は異なりますが、生物学的には多くの共通点を持っています。
- ラクダ科の仲間:これが最大の共通点です。コブのあるヒトコブラクダやフタコブラクダと同じラクダ科に属します。南米大陸に生息するラクダ科動物4種(ラマ、アルパカ、グアナコ、ビクーニャ)は、まとめて「ラモイド」と呼ばれることもあります。
- 南米アンデス原産:どちらもアンデス山脈の高地で誕生した家畜です。
- 反芻(はんすう)動物:ウシなどと同じように、複数の胃を持ち(ラクダ科は3室)、一度飲み込んだ草などを口に戻して再び噛む「反芻」を行います。
- 社会性:どちらも単独では生きていけず、常に群れ(ハーレム)を作って生活する社会性の高い動物です。
- 唾吐き:どちらも威嚇や防御、群れの中でのコミュニケーション手段として、胃の内容物を含んだ強烈な臭いの唾を吐きます。
牧場で出会った「バナナ耳」と「もふもふ」(体験談)
先日、家族で高原の牧場に行ったとき、ラマとアルパカがすぐ近くの柵で飼育されていました。
まずアルパカのエリアへ。写真で見ていた通りの「もふもふ感」! 毛が密集していて、まるで羊のようです。顔つきはとても穏やかで、目がくりっとしていて可愛いのですが、耳が短くまっすぐで、ピンと立っているのが印象的でした。臆病なのか、人が近づくとスッと距離を取りますが、餌を持っていると好奇心旺盛に近づいてくる姿がたまりません。
次に隣のラマのエリアへ。まず驚いたのは、その「大きさ」です。アルパカの倍はあろうかという体格で、顔つきもアルパカより面長で、どこか威厳があります。そして何より、耳が本当に「バナナ」のように長くて湾曲していました。
僕が柵に近づきすぎたせいか、一頭のラマがこちらをじっと見つめ、口をもぐもぐさせ始めました。「あ、これが噂の…!」と焦って後ずさりしましたが、幸い唾は飛んできませんでした。荷物を運ぶために改良されたという歴史 を思い出し、その堂々とした佇まいと強い眼差しに、アルパカとは全く違う「働く動物」の貫禄を感じた体験でした。
「ラマ」と「アルパカ」に関するよくある質問
Q: ラマとアルパカはラクダの仲間って本当ですか?
A: はい、本当です。どちらもラクダ科に属しており、アジアやアフリカにいるヒトコブラクダやフタコブラクダの近縁種にあたります。南米大陸に生息するため「新世界ラクダ」と呼ばれることもあります。
Q: 唾はどのくらい臭いのですか?
A: 非常に強烈な臭いがします。彼らの唾は単なる唾液ではなく、3つある胃のうちの第1胃の内容物(反芻した草など)が逆流したものです。そのため、酸っぱく発酵したような、強烈な悪臭を放ちます。
Q: グアナコとビクーニャとは何ですか?
A: それぞれラマとアルパカの原種(祖先)とされる野生動物です。ラマは野生の「グアナコ」を家畜化して荷運び用に改良した種、アルパカは野生の「ビクーニャ」を家畜化して毛刈り用に改良した種とされています。
Q: 日本でもペットとして飼えますか?
A: 法律上(動物愛護管理法など)は特定動物に指定されていないため、許可なしで飼育すること自体は可能です。しかし、彼らは臆病で群れで生活する動物であり、広い飼育スペースと専門的な知識、高地での飼育経験(暑さに非常に弱い)が必要です。一般家庭でのペット飼育は非常に困難であり、牧場や動物園などの専門施設で飼育されるのが一般的です。
「ラマ」と「アルパカ」の違いのまとめ
ラマとアルパカは、同じラクダ科の仲間でありながら、家畜化の目的によって全く異なる進化を遂げた動物です。
- 見た目(耳)の違い:ラマは「バナナ型の長い耳」、アルパカは「まっすぐな短い耳」。
- サイズの違い:ラマは「大型」(110kg〜)、アルパカは「中型」(50kg〜)。
- 毛質の違い:ラマは「ごわごわ」、アルパカは「もふもふ」の高級繊維。
- 用途の違い:ラマは「荷運び用」、アルパカは「毛刈り用」として家畜化されました。
- 性格の違い:ラマは「堂々・警戒心」、アルパカは「臆病・温和」です。
動物園や牧場で彼らに出会ったら、ぜひ「耳の形」と「体の大きさ」に注目してみてください。その違いこそが、アンデスの高地で人間と共に生きてきた、数千年にわたる歴史の証なのです。他の哺乳類の動物たちの違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。