「ラサアプソ」と「シーズー」、どちらも長くて美しい被毛を持ち、愛らしい顔つきで非常に似ていますが、実はそのルーツと本来の役割、そして性格が大きく異なる犬種です。
最も簡単な答えは、ラサアプソはチベットの寺院を守ってきた「聖なる犬(番犬)」、シーズーは中国の宮廷で「愛玩犬」として寵愛されてきた犬だということ。
この歴史的な背景の違いが、彼らの性質、特に家族以外の人への接し方に大きな違いを生んでいます。
この記事を読めば、単純な見た目の見分け方から、それぞれの犬種が持つ深い歴史、飼育上の重要な注意点までスッキリと理解できます。あなたが将来家族に迎えるのは、賢く独立心旺盛なラサアプソでしょうか?それとも、陽気で人懐っこいシーズーでしょうか?
まずは、両者の決定的な違いを比較表で押さえましょう。
| 項目 | ラサアプソ(Lhasa Apso) | シーズー(Shih Tzu) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | チベット原産・小型犬(愛玩犬グループ) | チベット・中国原産・小型犬(愛玩犬グループ) |
| サイズ(体高) | オス:約25cm(メスはやや小さい) | 20〜28cm |
| サイズ(体重) | 6〜8kg | 4〜7.2kg |
| 行動・性質 | 賢く、独立心旺盛。飼い主には忠実だが、警戒心が強く、見知らぬ人には距離を置く。頑固な一面も。 | 非常に陽気で人懐っこい。愛情深く、誰にでも友好的。頑固だが、遊び好き。 |
| 飼育難易度 | 普通〜やや高い。警戒心の強さを理解し、社会化としつけが必要。 | 普通。頑固さへの理解と、被毛の毎日のお手入れが必須。 |
| 寿命 | 12〜15年 | 10〜16年 |
| かかりやすい病気 | 進行性網膜萎縮症(PRA)、腎臓疾患、皮膚疾患 | 短頭種気道症候群(呼吸器系)、眼疾患(乾性角結膜炎、白内障)、皮膚疾患 |
| お手入れ | 毎日必須(長く美しい被毛を保つため) | 毎日必須(特に目の周りや被毛のお手入れ) |
【3秒で押さえる要点】
- 性格:ラサアプソは「番犬」気質で警戒心が強く賢いです。シーズーは「愛玩犬」気質で陽気で誰にでも人懐っこいです。
- 見た目:ラサアプソは鼻筋が通っています。シーズーは鼻が短く、目が大きく丸い「短頭種」です。
- 歴史:ラサアプソはチベットの「聖犬」として寺院で飼われていました。シーズーは中国宮廷でラサアプソとペキニーズなどを交配して生まれた犬種とされています。
見た目とサイズの違い
最大の違いは顔、特に「鼻」です。シーズーは鼻が短い「ペチャ顔(短頭種)」ですが、ラサアプソはシーズーに比べると鼻筋が通っています。どちらも小型犬ですが、ラサアプソの方がややがっしりしている傾向があります。
ドッグランなどで出会ったとき、この2種を見分ける最大のポイントは「顔つき」、特に「鼻の長さ」です。
シーズーは、パグやペキニーズと同じ「短頭種」に分類され、鼻が短く、目が大きく丸いのが特徴です。その表情は「菊の花(クリサンセマム)」に例えられるように、華やかで愛嬌たっぷりです。
一方のラサアプソは、シーズーと比べると明らかに鼻筋が通っています。目はアーモンド形で、シーズーほど大きくはありません。顔全体が豊かな毛で覆われていますが、その奥には賢く落ち着いた表情が隠れています。
サイズはどちらも小型犬に分類されますが、ラサアプソの方が体重が重く、ややがっしりとした体格をしていることが多いです。ジャパンケネルクラブ(JKC)の犬種標準によると、ラサアプソの体高はオスで約25cm、体重は6〜8kgが理想とされています。対してシーズーは、体高20〜28cm、体重4〜7.2kgとされており、個体差はありますが、シーズーの方がやや小柄な傾向があります。
どちらも長く美しいダブルコートの被毛に覆われていますが、これも飼育上のお手入れでは大きなポイントになります。
性格・行動特性としつけやすさの違い
性格は対照的です。ラサアプソは賢く独立心が強い「番犬」タイプで、家族以外には警戒心を見せます。シーズーは天真爛漫な「愛玩犬」タイプで、誰にでもフレンドリーです。どちらも頑固な一面があり、しつけには根気が必要です。
見た目は似ていても、その性質はルーツを反映して大きく異なります。
ラサアプソは、チベットの寺院で「聖なる犬」として、侵入者を吠えて知らせる番犬の役割を担ってきました。そのため、非常に賢く、状況判断力に優れていますが、警戒心が強く、見知らぬ人には簡単には心を許しません。飼い主や家族には深い愛情と忠誠心を示しますが、ベタベタと甘えるタイプではなく、独立心が旺盛です。
一方のシーズーは、中国の宮廷で人々に愛される「愛玩犬」として生きてきました。その歴史から、非常に陽気で、人懐っこく、誰にでも友好的です。「飼い主だけに忠実」というよりは、「人間みんな大好き!」といった天真爛漫さを持っています。
しつけの面では、どちらも「頑固」という共通点があります。ラサアプソはその賢さゆえに「納得しない指示は聞かない」という頑固さを見せることがあり、飼い主との信頼関係と根気強いトレーニングが不可欠です。シーズーも遊び好きでマイペースなため、しつけの際には集中力を維持させる工夫が必要です。どちらも強く叱るしつけは逆効果で、褒めて伸ばすことが重要です。
寿命・健康リスク・病気の違い
平均寿命はどちらも10年を超える長寿な犬種です。ラサアプソは遺伝的な眼疾患や腎臓疾患に注意が必要です。シーズーは「短頭種」特有の呼吸器系の問題や、大きな目ゆえの眼疾患にかかりやすい傾向があります。
犬の寿命は個体差が大きいですが、ラサアプソの平均寿命は12〜15年、シーズーの平均寿命は10〜16年と、どちらも小型犬らしく長生きする傾向にあります。
かかりやすい病気には、それぞれの犬種特性が表れます。
ラサアプソは、遺伝的な疾患として「進行性網膜萎縮症(PRA)」という、徐々に視力が失われる眼の病気や、若いうちから腎臓の機能が低下する「腎臓疾患」が知られています。また、長く密な被毛のため、皮膚疾患にも注意が必要です。
一方、シーズーは短頭種であるため、「短頭種気道症候群」と呼ばれる呼吸器系の問題(いびきや呼吸困難など)に特に注意が必要です。暑さにも非常に弱いため、夏場の温度管理は欠かせません。また、大きくて丸い目が傷つきやすく、「乾性角結膜炎(ドライアイ)」や「白内障」などの眼疾患にもかかりやすい犬種です。
「ラサアプソ」と「シーズー」の共通点
見た目や性格は異なりますが、どちらもチベット原産の犬を祖先に持ち、長く美しい被毛(ダブルコート)を持つ小型犬です。また、頑固でマイペースな一面と、毎日のお手入れが欠かせない点も共通しています。
多くの違いがある両者ですが、もちろん共通点もたくさん持っています。
- 祖先:どちらもチベット原産の犬種をルーツに持っています。シーズーはラサアプソと他の犬種(ペキニーズなど)の交配によって生まれたとされています。
- 美しい被毛:どちらも長く豊かなダブルコート(上毛と下毛の二重構造)の被毛を持っています。このため、どちらも抜け毛はありますが、それ以上に毛玉を防ぐため毎日のブラッシングが不可欠です。
- 小型犬:どちらも小型犬(愛玩犬グループ)に分類されます。
- 頑固さ:どちらも賢いゆえの頑固さ、マイペースさを持ち合わせており、しつけには忍耐強さが必要です。
歴史・ルーツと性質の関係
ラサアプソはチベットの寺院で「悪魔払い」の聖犬として飼われ、番犬の役割を担っていました。シーズーは、そのラサアプソが中国宮廷に献上され、ペキニーズなどと交配されて生まれた「愛玩犬」としての歴史を持ちます。
この2犬種の性質の違いは、その歴史を紐解くと非常にはっきりと理解できます。
ラサアプソは、チベットのラサで何世紀にもわたり、寺院や僧侶の家で飼育されてきた古い犬種です。「アプソ」はチベット語で「ヤギのような」という意味(長く粗い毛)とも、「吠える番犬」という意味とも言われます。彼らは「聖なる犬」として扱われ、悪魔払い(魔除け)の象徴であると同時に、寺院に侵入者が来たことを吠えて知らせる、実用的な番犬としての役割を担っていました。この歴史が、彼らの賢さ、警戒心、独立心の強さを育んだのです。
一方、シーズーの歴史は中国の宮廷で花開きます。「シーズー」とは中国語で「獅子」を意味し、これもまた仏教との関連(文殊菩薩が獅子に乗っている)があるとされます。
その成り立ちは、チベットから中国の皇帝へ献上されたラサアプソなどの犬と、中国原産のペキニーズなどを交配させて生まれたと考えられています。シーズーは、宮廷内で人々を喜ばせる「愛玩犬」として徹底的に寵愛されました。彼らに求められたのは番犬の能力ではなく、愛嬌と美しさだったのです。この歴史が、シーズーの陽気で人懐っこい性格を形成しました。
どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ
ラサアプソは、犬とべったり過ごすより、賢く自立したパートナーを望み、しつけや社会化に時間をかけられる人に向いています。シーズーは、犬と積極的に遊び、誰にでも愛想を振りまく陽気な犬を望み、毎日のお手入れを欠かさない人に向いています。
見た目の好みだけでなく、あなたのライフスタイルや犬に求める関わり方に合うのはどちらか、冷静に判断する必要があります。
【ラサアプソがおすすめな人】
- 犬と常にベタベタするより、自立した賢いパートナーを求めている
- 警戒心が強い犬種であることを理解し、幼犬期からの社会化トレーニングに時間をかけられる
- 頑固な一面を理解し、根気強くポジティブにしつけを続けられる
- 毎日のブラッシングと定期的なトリミングの手間を惜しまない
番犬気質があるため、見知らぬ人への警戒吠えなどを防ぐためにも、初心者にはやや難易度が高い犬種です。
【シーズーがおすすめな人】
- 陽気で人懐っこく、誰にでもフレンドリーな犬と暮らしたい
- 犬と積極的に遊んだり、コミュニケーションを取る時間をしっかり確保できる
- 短頭種のリスク(暑さに弱い、呼吸器系)を理解し、室温管理などを徹底できる
- 目の周りのお手入れを含め、毎日の被毛ケアを欠かさず行える
どちらの犬種も、被毛のお手入れには非常に手間がかかることを覚悟しておく必要があります。
僕が出会った「ラサ」と「シー」の“自己紹介”の違い(体験談)
僕が以前、犬のイベントで出会ったラサアプソとシーズーの態度は、まさに彼らの歴史を物語っていて印象的でした。
シーズーの「ココちゃん」は、僕がしゃがむと同時に、全身で喜びを表現しながら駆け寄ってきました。「遊んで!撫でて!」とでも言うように、尻尾を振りながら僕の手をペロペロ。飼い主さんが「もう、誰にでもこうなんです」と笑うほどの、まさに天性のアイドル、陽気な愛玩犬そのものでした。
一方、ラサアプソの「レオくん」は、僕が近づいても一切動じませんでした。飼い主さんの足元で静かに座り、ただじっと僕の顔を観察しているのです。僕が「こんにちは」と手を差し出しても、すぐに匂いを嗅ぎに来るわけではなく、数秒間、僕の目を冷静に見て「この人は大丈夫か?」と値踏みしているようでした。飼い主さんが「この子は大丈夫よ」と声をかけると、ようやくゆっくりと近づいてきましたが、決して興奮はしません。その姿は、まさに賢者のような落ち着きと、聖犬としての威厳を感じさせました。
シーズーが「私を見て!」と自己アピールするなら、ラサアプソは「あなたは何者ですか?」と問いかけてくる。そんな“自己紹介”の違いを感じた体験です。
「ラサアプソ」と「シーズー」に関するよくある質問
Q: ラサアプソとシーズーは、どちらが抜け毛が多いですか?
A: どちらもダブルコートの長毛種なので、抜け毛はあります。ただし、プードルのように毛が抜けにくい犬種ではありません。シーズーの方がやや毛が細く柔らかい傾向があり、ラサアプソは硬めの上毛を持っています。どちらも抜け毛が飛び散るというよりは、毎日のブラッシングでしっかりと死毛を取り除いてあげないと、すぐに毛玉になってしまうため、お手入れは必須です。
Q: どちらもチベットの犬なら、寒さには強いですか?
A: ラサアプソはチベットの厳しい気候に適応してきたため、寒さには比較的強い犬種です。一方、シーズーは中国の宮廷で愛玩犬として過ごしてきた歴史が長く、また短頭種であるため体温調節が苦手です。ラサアプソに比べると、シーズーは寒さにも暑さにも弱いと言えます。どちらも室内飼育が基本です。
Q: ラサアプソの「聖犬」というのはどういう意味ですか?
A: チベット仏教において、ラサアプソは「獅子」の象徴(チベット語で「獅子犬」とも呼ばれる)とされ、悪魔払いや魔除けの力があると信じられてきました。寺院や僧侶の家で神聖な犬として大切にされ、ダライ・ラマから中国皇帝への贈り物としても用いられていた歴史があります。
Q: 初めて犬を飼うなら、どちらがおすすめですか?
A: どちらも頑固な一面があり、お手入れも大変なので、犬の飼育が全く初めての方には簡単な犬種ではありません。しかし、どちらかを選ぶならば「シーズー」の方がまだ飼いやすいと言えます。シーズーの陽気で人懐っこい性格は、初めての人でもコミュニケーションが取りやすいでしょう。ラサアプソの警戒心の強さと独立心は、犬のしつけや社会化の経験がある人に向いています。
「ラサアプソ」と「シーズー」の違いのまとめ
ラサアプソとシーズー、どちらも小型犬ながら長い毛を持つ魅力的な犬種ですが、その違いは非常に大きいことがお分かりいただけたかと思います。
- 鼻の長さが違う:シーズーは鼻が短い「短頭種」、ラサアプソは鼻筋が通っている。
- 性格が対照的:ラサアプソは賢く警戒心が強い「番犬」タイプ。シーズーは陽気で人懐っこい「愛玩犬」タイプ。
- 歴史的役割が違う:ラサアプソはチベット寺院の「聖犬・番犬」。シーズーは中国宮廷の「愛玩犬」。
- 注意すべき病気が違う:ラサアプソは眼や腎臓。シーズーは短頭種特有の呼吸器系や眼のトラブル。
もし家族として迎えることを検討するなら、その犬種の歴史や特性、そして何より「毎日のお手入れ」に時間をかけられるか、あなたのライフスタイルと照らし合わせて考えてくださいね。日本で飼育されている様々な犬種については、他のペット・飼育に関する違いの記事もぜひご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ(https://www.jkc.or.jp/) – 犬種標準等の確認