ラットとマウスの決定的違いは祖先!ドブネズミとハツカネズミ

「ラット」と「マウス」、どちらも「ネズミ」の仲間として一括りにされがちですが、実はこの二つは生物学的な分類(属)も、体のサイズも、そして性格も全く異なる動物です。

実験動物としてのイメージが強いかもしれませんが、近年では「ファンシーラット」「ファンシーマウス」としてペット愛好家からも人気を集めています。しかし、その違いを理解せずに飼い始めると、「こんなはずじゃなかった」と後悔することになりかねません。

この記事を読めば、その決定的な違いから、それぞれのルーツ、ペットとしての飼育のポイントまで、スッキリと理解できます。あなたが将来家族に迎えるのは、犬のように賢いラットでしょうか?それとも、小さく愛らしいマウスでしょうか?

【3秒で押さえる要点】

  • 祖先とサイズ:ラットは「ドブネズミ」由来で大型。マウスは「ハツカネズミ」由来で小型。ラットはマウスの5倍〜10倍の体重になります。
  • 性格:ラットは非常に賢く、人によく懐き(犬や猫のようとも言われる)ます。マウスは臆病で警戒心が強い個体が多いです。
  • 尻尾:ラットは太く、皮膚が目立ちます。マウスは細く、短い毛が生えています。
「ラット」と「マウス」の主な違い
項目 ラット(Rat) マウス(Mouse)
分類・系統 齧歯目 ネズミ科 クマネズミ属
(主にドブネズミが家畜化)
齧歯目 ネズミ科 ハツカネズミ属
(ハツカネズミが家畜化)
サイズ(体重) 大型
オス:450〜600g
メス:350〜450g
小型
オス:30〜80g
メス:25〜60g
サイズ(体長) 約22〜28cm(尾を除く) 約7〜10cm(尾を除く)
尻尾の特徴 太く、長く(約18〜22cm)
うろこ状の皮膚が目立つ
細く、短い(約7〜10cm)
短い毛が生えている
性格・行動特性 非常に賢く、人懐っこい。社会的で仲間と遊ぶ。 臆病で警戒心が強い。慣れる個体もいるが、基本的に臆病。
飼育難易度 比較的容易。知能が高く、コミュニケーションが取りやすい。 やや注意が必要。臆病なためストレスを与えない環境作りが重要。
寿命 約2〜3年 約1.5〜2年
かかりやすい病気 呼吸器疾患(マイコプラズマ)、乳腺腫瘍(特にメス) 呼吸器疾患、皮膚病、腫瘍
実験動物としての用途 生理学、薬理学、毒性試験 遺伝学、遺伝子改変の研究

見た目とサイズの違い

【要点】

ラットとマウスの見た目の違いは、圧倒的な「サイズ感」にあります。ラットはマウスの5倍から10倍の体重があり、ずっしりと大きいです。また、ラットの尻尾は太くて皮膚が目立ちますが、マウスの尻尾は細く、短い毛で覆われています。

ラットとマウスを並べたとき、誰もが見分けに迷うことはないでしょう。その理由は、圧倒的な体の大きさの違いです。

ペットとして飼育されるファンシーラット(ドブネズミが原種) は、大人の手のひらにずっしりと乗る大きさで、体重は大きいオスだと600gを超えることもあります。

一方、ファンシーマウス(ハツカネズミが原種) は非常に小さく、体重は大きくても80g程度。ラットはマウスの平均5倍から10倍もの体重があり、まさに大人と子供ほどの体格差です。

「ネズミの尻尾が苦手」という方がよくイメージする、太くて皮膚が露出したような尻尾は、主にラット(ドブネズミ)のものです。マウスの尻尾も体長と同じくらいの長さがありますが、ラットに比べると非常に細く、よく見ると短い毛で覆われています。

顔つきも、ラットは鼻先が丸みを帯びて穏やかな表情に見えるのに対し、マウスは鼻先が尖っており、耳が体に対して大きく見えるのが特徴です。

性格・行動特性としつけやすさの違い

【要点】

性格は正反対と言ってよく、ラットは「犬や猫のよう」と評されるほど非常に賢く、人懐っこいです。一方、マウスは「臆病で警戒心が強い」のが基本性質です。しつけやコミュニケーションのしやすさは、ラットが圧倒的に上です。

もしあなたが「ペットと触れ合いたい」と考えているなら、この性格の違いは最も重要なポイントになります。

ラット(ファンシーラット)は、驚くほど知能が高く、社会的で、人間に非常によく懐きます。飼い主を識別し、名前を呼ぶと寄ってきたり、肩に乗って遊んだりすることも珍しくありません。その人懐っこさから「小さな犬」と形容されることもあるほどです。トイレの場所を覚えるなど、簡単な「しつけ」も可能です。

一方、マウス(ファンシーマウス)は、その原種であるハツカネズミの性質を色濃く残しており、基本的に臆病で警戒心が強い動物です。物音や急な動きに非常に敏感で、すぐに隠れてしまいます。もちろん個体差はあり、手から餌をもらう程度には慣れることもありますが、ラットのような積極的なコミュニケーションを期待するのは難しいでしょう。

どちらかというと、マウスは触れ合って遊ぶというより、ケージの中でちょこまかと活動する姿を「観察して楽しむ」タイプのペットと言えます。

寿命・健康リスク・病気の違い

【要点】

寿命はラットが約2〜3年、マウスが約1.5〜2年と、どちらも非常に短いのが特徴です。ラットは呼吸器系疾患や乳腺腫瘍(メス)に、マウスも呼吸器系や腫瘍に注意が必要です。

残念ながら、ラットもマウスも、その寿命は犬や猫に比べて非常に短いです。ペットとして迎える場合、この「お別れまでの期間の短さ」は覚悟しておく必要があります。

平均寿命は、体が大きいラットの方がやや長く、約2〜3年マウスは約1.5〜2年とされています。

どちらも齧歯類(げっしるい)特有の病気にかかりやすい傾向があります。特に「呼吸器系疾患」は共通の悩みです。わずかなアンモニア臭(おしっこ)やホコリでも気管支を痛めやすいため、床材の選択やこまめな清掃が欠かせません。

また、ラットは(特に避妊手術をしていないメスの場合)「乳腺腫瘍」の発生率が非常に高いことが知られています。マウスも腫瘍全般にかかりやすい傾向があります。どちらも体が小さいため、病気の進行が早く、日頃の健康チェック(体を触ってしこりがないか確認するなど)が非常に重要です。

「ラット」と「マウス」の共通点

【要点】

どちらも「ネズミ目(齧歯目)ネズミ科」に属する哺乳類であり、「ファンシー」と呼ばれるペット用に改良された品種が存在します。夜行性で、前歯(門歯)が一生伸び続けるという齧歯類共通の特徴を持っています。

サイズも性格も全く異なるラットとマウスですが、もちろん多くの共通点があるからこそ、私たちは「ネズミ」として認識しています。

  1. 分類:どちらも齧歯目(ネズミ目)ネズミ科の動物です(ただし、ラットはクマネズミ属、マウスはハツカネズミ属と「属」レベルで異なります)。
  2. ペットとしての存在:どちらも人間が飼育・繁殖しやすいように改良した「ファンシーラット」「ファンシーマウス」と呼ばれる愛玩動物の品種が確立されています。
  3. 伸び続ける歯:齧歯類共通の特徴として、前歯(門歯)が一生伸び続けます。そのため、硬いものをかじって歯を削る習性があります。
  4. 生態:基本的には夜行性(夕方から明け方)で、雑食性です。
  5. 繁殖力:非常に繁殖力が強く、妊娠期間も短いため、オスとメスを一緒に飼うとあっという間に増えてしまいます。

歴史・ルーツと性質の関係

【要点】

ラットは主に「ドブネズミ」を、マウスは「ハツカネズミ」を家畜化・改良したものです。実験動物としての歴史が長く、ラットは体の構造が人間に近いため生理学や薬理学、マウスは遺伝子操作が容易なため遺伝学の研究で活躍してきました。

ラットとマウスの違いを決定づけているのは、その「祖先」です。

ラットの祖先は、主に「ドブネズミ(ノルウェーラット)」です。ドブネズミは大きく、泳ぎが得意で、湿った場所を好みます。このドブネズミを人間が家畜化し、実験動物や愛玩動物(ファンシーラット)として改良してきました。体が大きく、生理機能が人間に比較的近いため、薬理学や毒性試験、生理学の研究で重宝されてきました。

マウスの祖先は、「ハツカネズミ」です。ハツカネズミはその名の通り非常に小さく、狭い場所を好みます。マウスは体が小さいだけでなく、遺伝子改変(遺伝子操作)がラットに比べて容易であるという大きな特徴があります。そのため、特定の遺伝子の働きを調べる遺伝学や、病気のモデル動物として、医学研究に欠かせない存在となっています。

ペットとしてのラットが賢く人懐っこいのは、原種であるドブネズミが元々持っていた社会性や知能が、家畜化によって人間に対して発揮されるようになった結果と考えられます。

どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ

【要点】

「ペットと深く触れ合いたい」「賢い動物が好き」という人には、犬猫のように懐くラットが圧倒的におすすめです。一方、「触れ合いは少なくても良い」「省スペースで飼育したい」「ちょこまか動く姿を観察したい」という人にはマウスが向いています。

もしあなたがペットとして迎えることを検討しているなら、どちらが自分のライフスタイルに合っているか、冷静に判断しましょう。

【ラット(ファンシーラット)がおすすめな人】

  • 犬や猫のように、ペットと積極的に触れ合い、遊びたい人
  • 名前を呼んだら寄ってくるような、賢い動物が好きな人。
  • ある程度の大きさ(ウサギやモルモット程度)のケージを置くスペースがある人。
  • オスとメスを一緒に飼うと爆発的に増えるため、同性のみで飼育管理できる人。

【マウス(ファンシーマウス)がおすすめな人】

  • ペットとの触れ合い(ハンドリング)は最小限で良い人。
  • 臆病な性格を理解し、そっと観察する楽しみ方ができる人。
  • ケージを置くスペースがあまり取れない、省スペースで飼育したい人。
  • 寿命が短い(約1.5〜2年)ことを受け入れられる人。

賢いラットと臆病なマウス(体験談)

僕が大学生の頃、友人がファンシーラットのオスを2匹飼っていました。初めて彼の家で見たとき、その大きさと尻尾の太さに「うわ、ネズミだ…」と正直少し引いてしまいました。

しかし、その印象は数分で覆されました。友人がケージに向かって「クロ!」「シロ!」と名前を呼ぶと、2匹のラットが嬉しそうに駆け寄ってきたのです。ケージから出すと、ラットは友人の肩によじ登り、髪の毛を繕ったり(毛づくろい)、喉を撫でられて気持ちよさそうに目を細めたりしていました。その姿は、僕が知っている「ネズミ」のイメージとはかけ離れた、まるで小さな犬か猫でした

一方、ペットショップで見るファンシーマウスは、全く違いました。数十匹がケースの中でちょこまかと走り回っていますが、人が近づくと一斉に隠れ家に逃げ込んでしまいます。店員さんが捕まえようとしても、その素早さとかわし方は見事なもの。

この体験から、ラットは「コミュニケーションをとる相手」、マウスは「鑑賞する愛らしい存在」なのだと、その違いを強烈に実感しました。

「ラット」と「マウス」に関するよくある質問

Q: ラットやマウスと、ハムスターの違いは?

A: ハムスターも同じ齧歯目ですが、「キヌゲネズミ科」に属し、ラットやマウス(ネズミ科)とは分類が異なります。最大の違いは「頬袋(ほおぶくろ)」の有無と「尻尾の長さ」です。ハムスターは食べ物を頬袋に詰め込みますが、ラットやマウスはしません。また、ハムスターの尻尾は非常に短いです。

Q: ペットのラットやマウスは、実験動物と同じですか?

A: ルーツは同じ(ドブネズミやハツカネズミ)です。しかし、ペットとして楽しまれている「ファンシーラット」や「ファンシーマウス」は、毛色や模様の美しさ、穏やかな性格などを重視して繁殖されてきた愛玩用の品種です。実験動物は、研究目的に合わせて特定の遺伝的形質を持つよう厳密に管理・繁殖されています。

Q: 野生のドブネズミやハツカネズミを捕まえて飼えますか?

A: 絶対にやめてください。野生のネズミは、ペット用に改良された個体とは異なり、非常に警戒心が強く、人に懐くことはありません。何より、サルモネラ菌やレプトスピラ菌など、人間に感染する様々な病原菌や寄生虫を持っている可能性が非常に高く、衛生的にも極めて危険です。

「ラット」と「マウス」の違いのまとめ

ラットとマウス、どちらも「ネズミ」ですが、その違いは「ゾウ」と「ハイラックス(岩ダヌキ)」くらい、同じ仲間でも全く異なる動物と言えます。

  1. 祖先が違う:ラットは「ドブネズミ」、マウスは「ハツカネズミ」 が原種です。
  2. サイズが違う:ラットは大型で体重500g前後、マウスは小型で体重50g前後と、10倍近い差があります。
  3. 性格が真逆:ラットは「非常に賢く人懐っこい(犬猫のよう)」 ですが、マウスは「臆病で警戒心が強い」 です。
  4. 尻尾が違う:ラットは「太くて皮膚が目立つ」、マウスは「細くて毛が生えている」。
  5. 寿命が違う:ラット(約2〜3年)の方が、マウス(約1.5〜2年)より少し長生きです。

もしペットとして迎えることを検討するなら、この「性格」と「サイズ」の違いを最優先に考えてください。触れ合って遊びたいならラット、省スペースで静かに観察したいならマウスがおすすめです。

どちらも賢く、魅力的な哺乳類の仲間です。彼らの特性を正しく理解し、充実した飼育環境を整えてあげてくださいね。