「テン」と「イタチ」、どちらも山道や時には住宅街でサッと走り抜ける姿を見かける、胴長短足のシルエットがそっくりな動物です。
「今の、イタチ?いや、テンかな?」と一瞬迷うのも無理はありません。彼らは同じイタチ科の動物であり、非常に近しい仲間です。しかし、実は体の大きさ、毛色、そして法律上の扱いが全く異なります。
特に重要なのは、イタチのメスは法律で捕獲が禁止されている点です。この記事を読めば、単純な見た目の見分け方から、それぞれの生態、そして私たちが遭遇した場合の法的な注意点まで、スッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 大きさ:テンの方がイタチよりも一回り大きく、尻尾もふさふさで長いです。
- 毛色(冬):テンは冬になると鮮やかな黄色(黄テン)や白っぽい毛色に変わる個体が多いですが、イタチは茶褐色のままです。
- 法律:テン(オス・メス)とイタチ(オス)は狩猟鳥獣ですが、イタチのメスは捕獲が禁止されています。
| 項目 | テン(貂) | イタチ(鼬) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | 食肉目 イタチ科 テン属 | 食肉目 イタチ科 イタチ属 |
| サイズ(体長) | オス:約40〜55cm | オス:約27〜37cm メス:約16〜25cm |
| サイズ(体重) | 約1.0〜1.5kg | オス:約0.6〜1.0kg メス:約0.3〜0.5kg |
| 尻尾の特徴 | ふさふさで長い(約15〜20cm) 体長の半分弱 |
テンより短い(オス:約12〜16cm、メス:約7〜9cm) 体長の半分以下 |
| 毛色(夏) | 黒っぽい黄褐色 | 茶褐色・赤褐色 |
| 毛色(冬) | 明るい黄褐色(黄テン) (東北・北陸では全身ほぼ白) |
茶褐色・赤褐色(変わらない) |
| 顔の特徴 | 夏は黒っぽく、冬は白っぽくなる | 顔の中心部が濃い褐色 |
| 行動・生態 | 木登りが非常に得意。雑食性(果実・小動物)。 | 木登りもするがテンほどではない。肉食性が強い雑食性(ネズミ・カエルなど)。 |
| フンの習性 | 「ため糞」の習性がある。フンは10mm程度。 | 「ため糞」の習性がある。フンは6mm程度と小さい。 |
| 法規制(狩猟) | 狩猟鳥獣(オス・メスともに捕獲可) | オスのみ狩猟鳥獣 メスは捕獲禁止 |
形態・見た目とサイズの違い
テンはイタチより一回り大きく、特に尻尾が長くてふさふさしています。最大の違いは冬毛で、テンは鮮やかな黄色(黄テン)や白に変わることがありますが、イタチは一年中茶褐色です。
イタチ科の動物はどれも胴長短足でシルエットが似ていますが、テンとイタチ(ニホンイタチやシベリアイタチ)を見分けるポイントは「大きさ」「尻尾」「毛色」の3点です。
まず「大きさ」ですが、テンの方がイタチよりも明らかに一回り大きいです。テンの体長が40〜55cmほどなのに対し、イタチのオスでも27〜37cmほどです。特にイタチのメスは16〜25cmと非常に小さいため、もし見かけた個体がかなり小柄であればイタチのメスの可能性が高いです。
次に「尻尾」です。テンの尻尾は体長の半分弱ほどもあり、長くてふさふさしています。一方、イタチの尻尾はテンに比べると短く、体長の半分以下です。
そして最もわかりやすい違いが「毛色」、特に冬毛です。
イタチは夏も冬も基本的に茶褐色(赤褐色)のままですが、テンは季節によって毛色が変わる(換毛する)のが大きな特徴です。
テンは夏場は黒っぽい黄褐色ですが、冬になると鮮やかな明るい黄褐色に変わります。これが「黄テン(キテン)」と呼ばれる状態です。さらに、東北地方や北陸地方に生息するテン(スステン)は、冬には顔や体がほぼ真っ白な毛に生え変わることもあり、非常に美しい姿を見せます。
まとめると、「一回り大きくて尻尾がフサフサ。冬に黄色っぽかったらテン」と覚えておくと良いでしょう。
行動・生態・ライフサイクルの違い
どちらも雑食性で夜行性ですが、テンは木登りが非常に得意で、樹上で活動することも多いです。イタチも木に登れますが、テンほどではなく、地上や水辺での活動を好みます。食性もイタチの方がより肉食性が強い傾向にあります。
テンもイタチも夜行性で、ネズミなどの小動物、昆虫、カエル、ザリガニ、そして果実などを食べる雑食性という点は共通しています。
しかし、その得意とするフィールドが少し異なります。テンは非常に木登りが得意で、樹上を巧みに移動しながら鳥の巣を襲ったり、柿やアケビなどの果実を食べたりします。
一方、イタチも木に登ることはできますが、テンほど得意ではありません。イタチは地上や水辺での狩りを好み、特にネズミやカエル、ザリガニなどを捕食する肉食性が強い雑食性です。家禽(ニワトリなど)を襲うこともあります。
フンの習性については、どちらも同じ場所にフンを繰り返す「ため糞」の習性を持っています。ただし、フンの大きさは体のサイズに比例し、テンの方がイタチよりも太く大きい(テン:10mm程度、イタチ:6mm程度)とされています。
鳴き声については、イタチは「キーキー」「ククク」と甲高く歯切れの良い声で鳴くのに対し、テンは「フィヤフィヤ」と鳥のように柔らかく鳴いたり、威嚇時には「ギュゥギュギュ」と鳴いたりする違いがあると言われています。
生息域・分布・環境適応の違い
どちらも全国の森林や里山、人家近くに生息しています。イタチ(ニホンイタチ)は本州、四国、九州に、シベリアイタチ(旧チョウセンイタチ)は西日本を中心に分布します。テンも同様に全国に分布しますが、イタチよりやや山地を好む傾向があります。
テン(ニホンテン)もイタチ(ニホンイタチ)も、日本全国(北海道や一部離島を除く)の森林や里山、時には人家周辺にも生息しています。
ただし、イタチにはもう一種、西日本を中心に分布を広げている「シベリアイタチ(旧チョウセンイタチ)」がいます。これは外来種(あるいは国内移入種)とされており、ニホンイタチよりも体が大きいのが特徴です。
テンはイタチよりもやや山地や森林を好む傾向がありますが、イタチと同様に人里にも頻繁に出没し、屋根裏に住み着くなどの被害を引き起こすことがあります。どちらも人間の生活環境への適応力は非常に高いと言えます。
危険性・衛生・法規制の違い
テンもイタチ(オス)も狩猟鳥獣ですが、イタチのメスは生態系の保護(ネズミの捕食)の観点から、法律(鳥獣保護管理法)で捕獲が禁止されています。無許可での捕獲は法律違反となり罰せられます。
ここが、テンとイタチを見分ける上で最も重要なポイントです。どちらも野生動物であるため、ダニやノミ、その他の病原菌を持っている可能性があり、素手で触るのは危険です。
しかし、法的な扱いは大きく異なります。
どちらの種も「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」の対象です。
テンは、オスもメスも「狩猟鳥獣」に指定されており、狩猟期間中であれば、狩猟免許を持った人が法に基づいた方法で捕獲することが可能です。
一方、イタチは非常に特殊な扱いを受けています。
イタチのオス(ニホンイタチ、シベリアイタチ共に)は狩猟鳥獣です。
しかし、イタチのメス(ニホンイタチ、シベリアイタチ共に)は、狩猟鳥獣から除外されています。つまり、一年を通じて捕獲が禁止されています。
これは、メスが繁殖の主体であることに加え、イタチ(特にメス)がネズミを捕食する能力に優れ、生態系(や農業)において有益な側面があるためとされています。オスとメスは体の大きさが倍近く違うため、小さい個体(メス)は捕獲してはいけない、というルールが厳格に定められているのです。
もし無許可で捕獲した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。家屋侵入などで被害が出ている場合でも、自分で対処せず、必ず専門業者や自治体に相談する必要があります。
文化・歴史・人との関わりの違い
イタチは古くから「イタチの最後っ屁」や「いたちごっこ」といった言葉で知られ、ややマイナスなイメージもありました。テンは、その美しい毛皮(特に冬毛の黄テン)が珍重され、古くから高級な防寒具や筆の材料として利用されてきた歴史があります。
イタチは、日本では古くから身近な動物であり、「いたちごっこ」や「イタチの最後っ屁(強い悪臭を放つこと)」など、あまり良くない意味のことわざにも登場します。一方で、ネズミを捕ってくれる益獣としての一面も持っていました。
テンもまた、古くから日本に生息していますが、特に注目されてきたのはその毛皮です。テンの毛皮は「セーブル」とも呼ばれ(厳密にはクロテンなどを指すことが多いですが)、非常に滑らかで光沢があり、高級な防寒具(襟巻きなど)として珍重されてきました。
特に冬毛の鮮やかな黄色い毛皮(黄テン)は価値が高く、歴史的に狩猟の対象とされてきました。また、テンの毛は弾力性とまとまりに優れるため、書道や絵画で使われる「面相筆」などの高級な筆の材料としても利用されています。
どちらも人里近くに現れるため、家屋の屋根裏に侵入して巣を作ったり、ため糞をしたり、家禽を襲ったりする「害獣」としての一面も共通しています。
「テン」と「イタチ」の共通点
どちらも同じイタチ科イタチ属に分類される近縁種です。胴長短足の体型、5本指の足(ただし足跡の現れ方が違う)、肛門腺から強い臭気を出す習性、ため糞をする習性など、多くの共通点を持っています。
違いを強調してきましたが、もちろん彼らは非常に近い仲間であり、多くの共通点を持っています。
- 分類:どちらも食肉目イタチ科イタチ属に属する、正真正銘の「親戚」です。
- 体型:胴が長く、足が短い「胴長短足」の体型は、狭い場所にも潜り込めるイタチ科の典型的な特徴です。
- 足指:どちらも前足・後足ともに5本指です(ただし、タヌキやイヌとの比較で述べたように、イタチの足跡は4本指に見えることが多いです)。
- 臭腺:どちらも敵に襲われた際などに、肛門の近くにある臭腺(肛門腺)から非常に強い悪臭の分泌液を噴射します。これが「イタチの最後っ屁」の正体です。
- 生態:夜行性、雑食性、ため糞の習性など、生態面でも似ている部分が多いです。
夜道で出会ったのはどっち?体験談
僕が夜にゴミ出しに行った時のことです。アパートの裏手にある茂みから、ガサガサと音がしました。ネコかな?と思って目を凝らすと、暗闇の中に胴長短足のシルエットが浮かび上がりました。
「うわ、イタチだ!」
茶色く、素早いその動きは、まさにイタチ。ネズミでも追いかけていたのでしょうか。しかし、次の瞬間、その動物は僕の視線に気づくと、あっという間にフェンスを駆け上がり、隣家の屋根へと消えていきました。
その垂直移動のあまりの速さと軽やかさに、僕は「あれ?」と立ち尽くしました。イタチも木に登るとは聞きますが、あの動きはまるで忍者のよう…。後で調べてみると、イタチよりもテンの方が圧倒的に木登りが得意だということが分かりました。
さらに数週間後、今度は日中に、近所の家の屋根の上を歩いている動物を目撃しました。今度ははっきりと見えました。鮮やかな黄色い毛並みと、ふさふさの長い尻尾。あれは間違いなくテン(黄テン)です。
あの夜、僕が見たのも、実はイタチではなくテンだったのかもしれません。住宅街だからイタチ、と決めつけるのは早計で、彼らは想像以上に立体的に活動範囲を広げているのだと実感しました。
「テン」と「イタチ」に関するよくある質問
Q: テンとイタチはどっちが強いですか?
A: 一般的に、体のサイズが大きいテンの方がイタチよりも強いとされています。生息域が重なる場所では、イタチがテンを避ける傾向があると言われています。
Q: イタチのメスだけ、なぜ捕獲が禁止されているのですか?
A: イタチのメスは、主にネズミを捕食し、その数が減ることを防ぐ(生態系や農業への貢献)という観点から、鳥獣保護管理法によって非狩猟鳥獣とされ、一年中捕獲が禁止されています。オスは狩猟鳥獣に指定されています。
Q: 家の屋根裏にいるのは、テン・イタチ・ハクビシンのどれですか?
A: 3種とも屋根裏に侵入する可能性があります。見分けるポイントはフンと足音です。イタチやテンは「ため糞」をする傾向があり、同じ場所にフンが溜まっていきます。ハクビシンもため糞をしますが、果実の種などが混じることが多いです。足音は、イタチが最も小さく「トトト…」という感じ、テンはそれより少し大きく、ハクビシンは「ドスドス」と最も大きな音がすると言われます。
Q: フェレットとイタチの違いは?
A: フェレットはイタチ科のヨーロッパケナガイタチを家畜化した動物であり、ペットです。野生のイタチ(ニホンイタチなど)とは種が異なります。フェレットは野生では生きていけず、性格も温和です。野生のイタチを捕まえて飼育することは法律で禁止されています。
「テン」と「イタチ」の違いのまとめ
テンとイタチ、どちらも日本の自然を構成する重要なメンバーですが、その違いを理解することは、私たちの生活や生態系を守る上で非常に重要です。
- サイズと尻尾が違う:テンは「大きく、尻尾が長い」。イタチは「小さく、尻尾が短い」。
- 冬毛が違う:テンは冬に「鮮やかな黄色(黄テン)」や白になる。イタチは「茶褐色のまま」。
- 得意技が違う:テンは「木登りが得意」。イタチは「地上や水辺が得意」。
- 法律が違う:イタチのメスは捕獲禁止。テンとイタチのオスは狩猟鳥獣です。
もし家屋への侵入や農作物被害で困った場合は、決して自分で捕獲しようとせず、必ず自治体や専門の駆除業者に相談してください。その際、「尻尾は短かった」「冬なのに黄色かった」といった見た目の特徴を伝えられると、スムーズな対策につながるはずです。
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