「天竺鼠(てんじくねずみ)」と「モルモット」。
ペットショップや学校の飼育小屋で聞かれるこの二つの名前、実は全く同じ動物を指しています。
結論から言えば、「天竺鼠」が和名(漢字表記)であり、「モルモット」がオランダ語に由来する一般名(通称)です。この記事を読めば、なぜ同じ動物に二つの名前があり、しかもそのどちらもが「勘違い」に基づいているのか、その面白い歴史と、彼らの正しい生態・飼育法までスッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 結論:「天竺鼠」と「モルモット」は全く同じ動物です。
- 名前の違い:「天竺鼠」は和名。「モルモット」はオランダ語由来の一般名です。
- 語源の謎:名前は「天竺(インド)」でも「鼠(ネズミ)」でも「マーモット」でもありません。原産地は南米で、テンジクネズミ科の動物です。
結論:「天竺鼠」と「モルモット」は全く同じ動物
「天竺鼠」と「モルモット」の間に、生物学的な違いは一切ありません。どちらも齧歯目(げっしもく)・テンジクネズミ科の動物「*Cavia porcellus*」を指す言葉です。単に「和名」で呼ぶか、「一般名(通称)」で呼ぶかの違いにすぎません。
あなたがペットショップで「モルモット」を見ても、図鑑で「天竺鼠」という表記を見ても、それらは完全に同じ動物を指しています。
生物学的な分類は「齧歯目(ネズミ目) テンジクネズミ科 テンジクネズミ属」であり、同じ種(*Cavia porcellus*)です。
「モルモット」という呼び名が一般的に広く浸透していますが、日本の動物園や生物学の世界では、和名である「天竺鼠」が標準的に用いられることもあります。例えば、環境省の文書などでは、外来生物法(特定外来生物ではない)のリストなどで「テンジクネズミ(モルモット)」と併記されることがあります。
なぜ名前が違う?「天竺鼠」と「モルモット」の語源の謎
どちらの名前も、実は「勘違い」や「曖昧さ」から生まれています。「天竺鼠」は、インド(天竺)とは関係ありませんが、「遠い異国(天竺)から来たネズミのような動物」という意味で名付けられました。「モルモット」は、オランダ語で「マーモット」を意味する言葉が誤って伝わったものです。
この動物がややこしいのは、どちらの名前も「原産地」や「正しい分類」とは全く関係がない、という点です。彼らの本当の原産地は南米アンデス地方です。
【天竺鼠(てんじくねずみ)の由来】
- 天竺(てんじく):昔の日本で「インド」を指す言葉でしたが、転じて「遠い異国」「舶来の珍しいもの」という意味でも使われました。
- 鼠(ねずみ):見た目がネズミに似ていたため。
つまり、「天竺鼠」とは「インド(遠い異国)からオランダ船によって持ち込まれた、ネズミに似た動物」という意味で名付けられたもので、インド原産という意味ではありません。
【モルモットの由来】
- 江戸時代、オランダ人がこの動物を日本に持ち込みました。その際、彼らがこの動物をオランダ語で「Marmot(マーモット)」と呼んだ(あるいは日本人がそう聞き取った)とされています。
- しかし、マーモットはリス科の動物で、アルプス山脈などに生息する全く別の動物です。
- なぜオランダ人が間違えたのかは諸説ありますが、南米から来たこの動物を、ヨーロッパで知られていたマーモットと誤認したのではないか、と言われています。
つまり、「モルモット」という名前自体が、壮大な「勘違い」から始まっているのです。
「鼠」と付くけどネズミじゃない?生物学的な特徴
「天竺鼠」という名前や、「ネズミ目」という分類からネズミの仲間と誤解されがちですが、私たちが家屋で見かけるネズミ(ネズミ科)とは異なります。モルモットは「テンジクネズミ科」という独立したグループで、ずんぐりした体型で尻尾がないのが特徴です。
名前のせいで「ネズミの仲間」と一括りにされがちですが、生物学的には区別が必要です。
確かに、どちらも「齧歯目(げっしもく=ネズミ目)」という大きなグループに属しています。これは、リスやビーバー、カピバラも含む非常に多様なグループです。
しかし、その先の「科」が異なります。
- モルモット(天竺鼠):テンジクネズミ科
- 私たちがよく知るネズミ(ドブネズミ、クマネズミなど):ネズミ科
これは、イヌ科とネコ科くらいの違いがある、と考えると分かりやすいかもしれません。
見た目も大きく異なります。ネズミは素早く、警戒心が強く、長い尻尾を持っています。一方、モルモット(天竺鼠)は、ずんぐりとした体型で、尻尾は退化してほとんどありません。動きもネズミほど俊敏ではなく、穏やかで臆病な性格です。
飼育上の特徴と注意点
モルモット(天竺鼠)は穏やかで飼育しやすいペットですが、重大な注意点があります。彼らはヒトやサルと同じく、ビタミンCを体内で合成できません。そのため、食事からビタミンCを摂取しないと「壊血病」という病気になり、死に至ることもあります。
モルモット(天竺鼠)は、穏やかな性格と愛らしい鳴き声から、ペットとして非常に人気があります。しかし、飼育する上で絶対に知っておかなければならない、ネズミや他の多くの動物とは異なる致命的な特徴があります。
それは、「ビタミンCを体内で合成できない」ことです。
私たち人間と同じように、モルモットはビタミンCを食事から摂取し続けなければなりません。もしビタミンCが欠乏すると、歯茎からの出血や関節の腫れなどを引き起こす「壊血病(かいけつびょう)」を発症し、死に至る危険性があります。
そのため、飼育下ではモルモット専用のビタミンCが添加されたフードを与えるか、ピーマンやブロッコリー、小松菜などの野菜を毎日欠かさず与える必要があります。
その他の特徴としては、完全な草食性であること(牧草が主食)、寿命が約5年〜8年と、ハムスターなどよりも比較的長いことが挙げられます。
文化・歴史・人との関わり
モルモット(天竺鼠)は、南米アンデス地方で古くから食用として家畜化されていました。ヨーロッパに持ち込まれてからは、その扱いやすさから実験動物として広く普及し、医学や生物学の発展に大きく貢献してきました。
モルモット(天竺鼠)の原産地は、南米のアンデス山脈地域です。
驚くべきことに、彼らは野生種(パンパステンジクネズミなど)が食用として家畜化された動物であり、原産地のペルーなどでは今でも貴重なタンパク源として食べられています。
16世紀にスペイン人によってヨーロッパに持ち込まれると、その穏やかな性質から愛玩動物(ペット)として広まりました。
さらに19世紀以降は、その扱いやすさや温和な性格、そして病気への感受性などから、実験動物として医学や生物学の研究に欠かせない存在となりました。「モルモット」という言葉が「実験台」や「被験者」の比喩として使われるのは、この歴史に由来しています。
「天竺鼠」と「モルモット」に関するよくある質問
Q: 天竺鼠とモルモットは本当に同じ動物ですか?
A: はい、全く同じ動物です。「天竺鼠(てんじくねずみ)」は和名、「モルモット」はオランダ語の「マーモット」が誤って伝わった一般名(通称)です。
Q: なぜ「天竺(インド)」でも「鼠(ネズミ)」でもないのに「天竺鼠」と呼ぶのですか?
A: 江戸時代にオランダ船によって日本に持ち込まれた際、「天竺」(当時の言葉で「遠い異国」の総称)から来た「ネズミに似た動物」という意味で名付けられました。インド原産でも、ネズミ科でもありません。
Q: モルモットはネズミの仲間ですか? ハムスターとの違いは?
A: 大きな分類では同じ「齧歯目(ネズミ目)」ですが、家ネズミやハムスターが属する「ネズミ科(またはキヌゲネズミ科)」とは異なる「テンジクネズミ科」というグループに属します。生態や飼育法も大きく異なります。
Q: 飼育で一番気をつけることは何ですか?
A: ビタミンCを体内で作れないことです。ビタミンCが添加された専用フードや、ビタミンCが豊富な野菜(ピーマン、小松菜など)を毎日与えないと、深刻な病気(壊血病)になるため、絶対に忘れてはいけません。
「天竺鼠」と「モルモット」の違いのまとめ
「天竺鼠」と「モルモット」の違いを巡る謎は、結論として「違いはない、同じ動物である」というものでした。
- 呼称の違い:「天竺鼠」は和名、「モルモット」は一般名(通称)。
- 語源の謎:どちらの名前も勘違いから生まれています。「天竺」はインドではなく「遠い異国」の意味。 「モルモット」は「マーモット」という別動物との誤認に由来します。
- 生物学的位置:ネズミ科ではなく「テンジクネズミ科」です。原産地は南米です。
- 飼育上の重要点:ビタミンCを体内で合成できないため、食事での補給が必須です。
名前の由来は混乱していますが、彼ら自身は非常に穏やかで愛らしいペットです。彼ら哺乳類の仲間との生活を考える際は、そのユニークな生態(特にビタミンC!)を正しく理解することが、何よりも大切です。
参考文献(公的一次情報)
- 環境省(https://www.env.go.jp/) – 外来生物法のリストなどで「テンジクネズミ(モルモット)」として言及される場合があります。
- 公益社団法人 日本動物園水族館協会(JAZA)(https://www.jaza.jp/) – 飼育動物の分類情報。