「ヨウム」と「オウム」、どちらも人によく懐き、高い知能を持つ大型の鳥として絶大な人気を誇りますね。
「どっちも似たようなものでしょ?」と思っているなら、それは大きな誤解です。実はこの2種、生物学的な分類からして全く異なるグループで、見た目や性格、飼育の難易度も大きく異なります。
最も簡単な答えは、ヨウムは「インコ科」に属し、オウムは「オウム科」に属するということです。そして、オウムにはあってヨウムにはない決定的なパーツ、それが頭の「冠羽(かんう)」です。
この記事を読めば、単純な見た目の見分け方から、それぞれの驚くべき知能の違い、そして飼育する上で絶対に知っておくべき法規制(ワシントン条約)まで、スッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 分類:ヨウムは「インコ科」の鳥です。一方、オウムは「オウム科」の鳥で、生物学的に異なるグループに属します。
- 見た目:オウムは頭部に「冠羽(かんう)」と呼ばれる飾り羽を持ちますが、ヨウムは持ちません。
- 能力と性格:ヨウムは人間の5歳児並みの知能を持ち、言葉の意味を理解して会話すると言われるほど賢く繊細です。オウムは陽気で社交的、ダンスや物真似が得意なエンターテイナータイプが多いです。
| 項目 | ヨウム(Congo African Grey Parrot) | オウム(Cockatoo / Parrot) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | インコ・オウム目 インコ科 | インコ・オウム目 オウム科 |
| 冠羽(かんう) | なし | あり(興奮・威嚇時に立てる。収納可能) |
| 主な体色 | 灰色(尾羽は鮮やかな赤色) | 白(キバタン、タイハクオウムなど)、ピンク、黒、カラフルな種など多彩 |
| 知能・性質 | 極めて高い(人間の5歳児並み)。言葉を理解・模倣。繊細で内向的、ストレスに弱い。 | 非常に高い。陽気で社交的、自己主張が強い。ダンスや芸を好む。声が非常に大きい。 |
| 飼育難易度 | 非常に高い(最上級者向け)。知能が高く繊細なため、精神的ケア(多くの時間)が必須。 | 非常に高い(最上級者向け)。絶叫レベルの鳴き声、強い破壊力、精神的ケアが必須。 |
| 平均寿命 | 約40〜60年(非常に長寿) | 約40〜60年(非常に長寿) |
| 法規制(CITES) | CITES 附属書 I 類(最も厳しい規制対象) | 多くの種が CITES 附属書 I 類または II 類 |
見た目とサイズの違い
最大の見分け方は、頭にある「冠羽(かんう)」の有無です。オウムは興奮したり威嚇したりする際に立てる派手な飾り羽(冠羽)を持ちますが、ヨウムは持ちません。体色も、ヨウムは灰色ベースに赤い尾羽と決まっていますが、オウムは白、ピンク、黒など非常に多彩です。
ヨウムとオウムを実際に見比べたとき、最もわかりやすい違いは、間違いなく頭部の「冠羽(かんう)」です。
オウムの仲間(例えばキバタンやタイハクオウム)は、頭に収納可能な飾り羽を持っています。彼らは嬉しい時、興奮した時、あるいは威嚇する時に、この冠羽を扇のように大きく広げます。これは彼らにとって重要な感情表現のツールです。
一方、ヨウムにはこの冠羽がありません。頭は滑らかで、インコらしいスマートなフォルムをしています。
体色も明確に異なります。ヨウム(一般的に知られるコンゴヨウム)は、体全体が美しい濃淡のある灰色で、お尻から尾羽にかけてだけが鮮やかな赤色をしています。非常にシックでお洒落な色合いです。
対照的に、オウム科の鳥たちは非常にカラフル。全身真っ白なタイハクオウム、冠羽だけ黄色いキバタン、全身ピンク色のモモイロインコ、真っ黒なヤシオウムなど、そのバリエーションは非常に豊かです。
サイズはどちらも中型〜大型の鳥ですが、ヨウム(体長約30〜35cm)に比べ、オウムにはキバタン(約40〜50cm)やタイハクオウム(約45cm)など、一回り以上大きな種も多く含まれます。
性格・行動特性としつけやすさの違い
知能の「質」が決定的に違います。ヨウムは「知性の鳥」と呼ばれ、人間の5歳児並みの知能を持ち、言葉の意味を理解して会話すると言われています。その分、非常に繊細でストレスに弱いです。オウムは「陽気なエンターテイナー」で、社交的でダンスや芸を好みますが、自己主張が非常に強く、声も桁違いに大きいです。
ヨウムとオウムは、どちらも極めて高い知能を持っていますが、その「知性の方向性」や「性格」は正反対と言ってもいいほど異なります。
ヨウムは、しばしば「鳥類の天才」「知性の鳥」と称されます。その知能は人間の5〜6歳児に匹敵するとも言われ、単に言葉を真似るだけでなく、言葉の意味を理解し、状況に合わせて使いこなし、人間と「会話」ができたとされる研究(アレックスという有名なヨウムが有名です)もあるほどです。
しかし、その知能の高さは、非常に繊細で内向的な性格と表裏一体です。賢いがゆえに空気を読みすぎたり、飼い主のちょっとした変化や環境の変化に敏感に反応し、強いストレスを感じやすい傾向があります。
一方、オウムは「陽気なエンターテイナー」タイプです。非常に社交的で、人間や他の鳥と遊ぶのが大好き。音楽に合わせてダンスをしたり、大声で歌ったり、派手なジェスチャーで自己主張をしたりと、常に場の中心にいようとします。知能ももちろん高いのですが、ヨウムのような内省的な賢さというよりは、感情豊かで外向的な賢さが目立ちます。
しつけや飼育の難易度は、残念ながらどちらも「最上級者向け」です。
ヨウムは、その賢さゆえに「退屈」が最大の敵です。十分なコミュニケーションや、頭を使う遊び(フォージングなど)を提供できないと、ストレスから自分の羽を抜いてしまう「毛引き症(自咬症)」を発症しやすいという深刻な問題があります。
オウムは、その有り余るエネルギーと自己主張の強さが最大の課題です。彼らの鳴き声は「絶叫」と表現され、飛行機のエンジン音に匹敵するほどの騒音になることがあります。また、嘴の力も非常に強く、家具や家の柱を破壊する「破壊行動」も日常茶飯事。これらを許容できる環境と、彼らのエネルギーを受け止める体力、そして根気強いしつけが必須です。
寿命・健康リスク・病気の違い
どちらも非常に長寿で、平均寿命は40年〜60年と、人間のパートナーとして一生を共にする覚悟が必要です。ヨウムはカルシウム不足による疾患や、ストレス性の毛引き症に特に注意が必要です。オウムは脂質異常症や、鳥類特有のウイルス性疾患(PBFD)に注意が求められます。
ヨウムやオウムを家族に迎える上で、最も重く受け止めるべき違いが「寿命」です。
どちらの平均寿命も約40年〜60年と非常に長く、人間の子供が成人して独立するよりも長い時間を共に過ごすことになります。飼い主が先に亡くなってしまうケースも珍しくなく、「自分が生涯面倒を見る」という覚悟と、万が一の場合の後継人を決めておく必要がある、非常に重い責任を伴うペットです。
かかりやすい病気には、それぞれの特性が表れます。
ヨウムは、いくつかの栄養的な偏りや精神的なストレスから来る病気に特に注意が必要です。
- 低カルシウム血症:ヨウムは体質的にカルシウムを要求しやすく、不足すると痙攣発作などを起こすことがあります。日光浴(ビタミンD3合成)や適切な栄養管理が不可欠です。
- 毛引き症(自咬症):前述の通り、非常に賢く繊細なため、退屈、孤独、環境の変化などのストレスから、自分の羽をむしり取ってしまう精神的な疾患にかかりやすいです。
- 呼吸器系疾患:特にアスペルギルスというカビ(真菌)に弱く、不衛生な環境では重い呼吸器感染症を引き起こすことがあります。
オウムも長寿ゆえの病気や、特有の感染症に注意が必要です。
- PBFD(オウム類嘴・羽毛病):オウムやインコ特有のウイルス性疾患で、羽毛の異常や嘴の変形を引き起こす致死性の高い病気です。
- 脂質異常症:特にモモイロインコなど一部のオウムは、高脂肪の種子(ヒマワリなど)の与えすぎで肥満になりやすく、脂肪肝などの内臓疾患につながることがあります。
- 脂粉(パウダー):オウムの仲間は、羽の手入れのために「脂粉(しふん)」と呼ばれる非常に細かい白い粉を体から出します。これが人間の呼吸器に入るとアレルギー(鳥飼病)を引き起こすことがあるため、飼い主や家族のアレルギー体質にも注意が必要です。
「ヨウム」と「オウム」の共通点
見た目や分類は異なりますが、どちらも「インコ・オウム目」の鳥であり、非常に高い知能、強い社会性、そして非常に長寿である点が共通します。また、どちらも飼育には莫大な時間と費用、専門知識が必要な「最上級者向け」のペットである点も同じです。
分類上は「インコ科」と「オウム科」に分かれる両者ですが、もちろん多くの共通点を持っています。
- 非常に高い知能:どちらも鳥類の中でトップクラスの知能を持ち、複雑な社会行動を理解し、人間と深いコミュニケーションをとる能力があります。
- 強い社会性:どちらも原産地では大規模な群れで生活する、社会性の高い鳥です。そのため、飼育下でも「群れの仲間」として人間との強い絆を求め、孤独を非常に嫌います。
- 非常に長寿:前述の通り、平均寿命が40年〜60年と、犬や猫とは比較にならないほどの長寿です。
- 強力な嘴(くちばし):ナッツや硬い種子を割るために、非常に強力な嘴を持っています。本気で噛まれれば大怪我につながるため、幼鳥期からの信頼関係と訓練が不可欠です。
- 法規制(ワシントン条約):どちらの種も、野生での絶滅が危惧されており、国際的な取引が「ワシントン条約(CITES)」によって厳しく規制されています。(詳細は次章)
歴史・ルーツと性質の関係
ヨウムはアフリカ中央部の熱帯雨林が原産です。群れでの複雑な音声コミュニケーションが、その高い言語能力と社会性を育んだとされます。オウムは主にオーストラリアやインドネシアなどの島嶼部に分布し、多様な環境が彼らの多彩な外見と自己主張の強い性質を生んだと考えられます。
ヨウムとオウムの性質の違いは、彼らの故郷(ルーツ)に深く関係しています。
ヨウムの原産地は、アフリカ中央部から西部の熱帯雨林です。彼らは森林で大規模な群れを形成し、複雑な音声コミュニケーションを取りながら生活しています。この密な社会生活と、天敵から身を守るための高度な情報交換が、ヨウムの驚異的な言語能力と高い知性を育んだと考えられています。
一方、オウムの仲間は、主にオーストラリア大陸や、インドネシア、フィリピン、パプアニューギニアといった周辺の島嶼(とうしょ)部に広く分布しています。森林からサバンナ(開けた草原)、乾燥地帯まで、非常に多様な環境に適応して進化してきました。この多様な環境が、オウムたちの多彩な体色や、遠くまで響く大きな声、そして目立つ冠羽といった自己主張の強い性質を発達させた一因かもしれません。
残念ながら、ヨウムもオウムの多くの種も、生息地の破壊や密猟によって野生での個体数を激減させています。
特にヨウムは、その高い人気ゆえに乱獲の対象となり、現在はワシントン条約(CITES)の「附属書 I 類」に分類されています。これは絶滅のおそれが最も高い種に与えられる分類で、商業目的の国際取引は原則として禁止されています。オウムの仲間も、キバタンやタイハクオウムなど多くの種が附属書 I 類または II 類に指定されており、国際的な保護対象となっています。
どっちを選ぶべき?ライフスタイル別おすすめ
どちらも犬猫以上に飼育が難しく、初めて鳥を飼う人、十分な時間を確保できない人には推奨されません。ヨウムは静かな環境でじっくり鳥と向き合いたい人向け。オウムは大きな鳴き声や破壊行動を許容できる防音環境があり、陽気なパートナーを求める人向けです。
ヨウムもオウムも、その知能と魅力から最高のパートナーになり得ますが、その飼育は犬や猫よりも遥かに難しく、時間も費用もかかります。安易な気持ちで飼い始めてはいけません。
【ヨウムがおすすめな人】
- 1日に何時間も、鳥と静かに向き合う時間を確保できる人
- 鳥の知的な行動や会話(模倣)に強い興味がある人
- ヨウムの繊細な性格を理解し、ストレスを与えない静かで安定した環境を提供できる人
- 毛引き症などの精神的な問題にも、根気強く向き合う覚悟がある人
- ワシントン条約I類の規制を理解し、適法な個体を生涯飼育する責任感がある人
ヨウムは「賢いから楽」なのではなく、「賢すぎるからこそ大変」な鳥です。
【オウムがおすすめな人】
- 飛行機の騒音レベルの鳴き声を許容できる防音設備(一軒家など)がある人
- 家具や柱が破壊されることを許容できるか、十分に対策できる人
- 毎日一緒にダンスをしたり、大声で歌ったりできる、体力と時間がある人
- 大量の脂粉(パウダー)によるアレルギーや喘息の心配がない家族
- パワフルな鳥と対等に付き合い、根気強くしつけができる人
どちらの鳥も、飼育には数十万円の初期費用(生体代、大型ケージ代、医療費など)と、生涯続く医療費や食費、そして何よりも「50年間、毎日世話をする」という圧倒的な覚悟が求められます。
賢すぎる鳥との対話(体験談)
僕が以前、大型のペットショップの鳥類コーナーを訪れた時のことです。ひときわ大きなケージの中で、真っ白な「タイハクオウム」が僕を見つけるなり、「オハヨー!オハヨー!」と大絶叫。そして、おもむろに頭の冠羽をバサッと広げ、音楽も流れていないのに体を上下に揺らして踊り始めました。その陽気なスター性に、僕は一瞬で心を奪われました。「これがオウムか!」と。
その数週間後、今度は鳥専門のカフェを訪れる機会がありました。そこには一羽の「ヨウム」が静かに止まり木に止まっていました。オウムのような派手な動きは一切ありません。彼はただ、店内の客たちの会話をじっと聞いているかのようでした。
僕が試しにケージに近づき、「こんにちは」と声をかけてみました。すると彼は、僕の目をじっと見つめ返し、完璧すぎるほどの僕と同じイントネーションで「コンニチハ」と返してきたのです。それはオウムのような大声の「模倣」とは明らかに違う、まるで「文脈を理解して返答した」かのような、静かで知的な響きでした。
あの瞬間、僕は鳥肌が立ちました。オウムの魅力が「底抜けに明るい外向的な知性」にあるとすれば、ヨウムの魅力は「全てを見透かすような内省的な知性」にあるのだと。どちらも人間が太刀打ちできないほどの賢さを持っている、そう直感した体験です。
「ヨウム」と「オウム」に関するよくある質問
Q: 結局、ヨウムはインコなんですか?オウムじゃないんですか?
A: はい、生物学的な分類では、ヨウムは「インコ科」に属します。オウム(オウム科)とは、進化学的にも比較的早い段階で分岐した、異なるグループの鳥です。「冠羽の有無」や「羽の構造(インコ科は構造色で光沢があるが、オウム科は脂粉が多く粉っぽい)」で明確に区別されます。
Q: 一番おしゃべりが上手なのはヨウムですか?
A: 個体差は非常に大きいですが、ヨウムは数ある鳥類の中でも、人間の言葉の意味を理解し、文脈に沿って使用する能力が最も高い種の一つとして世界的に知られています。単なる音の模倣(オウム返し)を超えた「会話」ができる可能性があると言われています。
Q: ヨウムのワシントン条約I類って、飼うのが禁止ということですか?
A: 商業目的の国際取引(輸出入)が原則禁止されているという意味です。日本国内で飼育・譲渡(売買)することは可能ですが、それには環境省の「種の保存法」に基づく正規の「国際希少野生動植物種登録票」が必須です。この登録票がない個体の売買や譲渡は違法であり、厳しく罰せられます。購入する際は、必ず正規の登録票があることを確認してください。
Q: オウムの鳴き声はどれくらいうるさいですか?
A: 冗談ではなく、飛行機のエンジン音や救急車のサイレンに匹敵する100〜120デシベルを超えることがあります。これは人間の耳には苦痛を伴うレベルの騒音です。マンションはもちろん、通常の一戸建てでも近隣トラブルになる可能性が極めて高く、防音室レベルの対策が必要になることも珍しくありません。
「ヨウム」と「オウム」の違いのまとめ
ヨウムとオウム、どちらも非常に賢く魅力的な鳥ですが、その違いは非常に大きいことがお分かりいただけたかと思います。
- 分類が根本から違う:ヨウムは「インコ科」、オウムは「オウム科」であり、生物学的に異なるグループです。
- 見た目が違う:オウムは感情表現豊かな「冠羽」を持ちますが、ヨウムは持ちません。
- 知能の質が違う:ヨウムは「内省的・言語的」な知性(学者タイプ)、オウムは「外向的・社交的」な知性(エンターテイナータイプ)が際立ちます。
- 飼育難易度はどちらも最高レベル:ヨウムは「賢さ・繊細さ」ゆえの精神的ケア、オウムは「騒音・破壊力」ゆえの物理的・環境的ケアが必須です。
- 法規制が厳しい:特にヨウムはCITES I類に指定されており、飼育や譲渡には国の厳格な登録制度が適用されます。
もし家族として迎えることを検討するなら、その鳥の特性、そして何より「50年先まで」自分がお世話をし続けられるかを、人生をかけて自問自答する必要があります。
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