「ザリガニ」と「エビ」。
どちらも水辺で見かけるおなじみの生き物ですが、この二者の違いを正確に説明できますか?
まず驚くべきことに、どちらも「魚類」ではありません。彼らはカニやダンゴムシと同じ「甲殻類(こうかくるい)」の仲間なのです。
最大の違いは、ザリガニが主に淡水に住み、戦闘用の「大きなハサミ」を持つのに対し、エビは主に海水に住み、「泳ぐ」ことに適した体型をしている点です。この記事を読めば、その見分け方から、生態、そして食べる際の危険性の違いまでスッキリわかります。
【3秒で押さえる要点】
- 分類:魚類ではなく、どちらも甲殻類・十脚目の仲間です。
- 形態:ザリガニは「大きなハサミ(鋏)」を持ち、歩行が主。エビはハサミが小さいか細長く、遊泳(泳ぐ)のが得意。
- 生息域:ザリガニは主に淡水(川や池)。エビは主に海水(海)ですが、淡水に住むエビ(ヌマエビなど)も多くいます。
| 項目 | ザリガニ(アメリカザリガニなど) | エビ(クルマエビ、ヌマエビなど) |
|---|---|---|
| 分類・系統 | 節足動物 甲殻類 十脚目 ザリガニ下目 | 節足動物 甲殻類 十脚目 コエビ下目・クルマエビ亜目など |
| 主な生息域 | 淡水(河川、池、沼、田んぼ) | 海水が大多数(一部、淡水・汽水) |
| 形態(ハサミ) | 第1胸脚が非常に大きな鋏(はさみ)になる。 | 種によるが、ハサミは小さいか、細長い(テナガエビなど)。 |
| 形態(体型) | 頑丈で、やや上下に平たい(エビ型)。 | 種によるが、多くは横に平たい(側扁)。遊泳に適応。 |
| 主な移動方法 | 歩行(水底を歩く)がメイン。 | 遊泳(腹部の遊泳脚を使う)がメイン。 |
| 危険性・衛生 | 寄生虫(肺吸虫など)リスク。生食厳禁。 | アニサキス(海水種)、寄生虫(淡水種)のリスク。 |
| 法規制(日本) | アメリカザリガニは条件付特定外来生物。 | 特になし(一部漁業規制あり)。 |
| 主な食文化 | 欧米では食用(茹でる)。日本では主にペット・釣り餌。 | 刺身、天ぷら、寿司、塩焼き、エビチリなど。 |
形態・見た目とサイズの違い
最大の違いは「ハサミ(鋏)」です。ザリガニは戦闘や防御に使うための、大きくて頑丈なハサミを持ちます。エビのハサミは、テナガエビのように細長いものはありますが、ザリガニほど太く強力なものは稀です。体型も、ザリガニは歩行に適した頑丈な体、エビは遊泳に適した流線型や横に平たい(側扁)体型をしています。
ザリガニとエビを見分けるのは、実は非常に簡単です。注目すべきは「ハサミ(鋏)」です。
ザリガニの最大の特徴は、第一胸脚(いちばん前の脚)が非常に大きく発達したハサミになっていることです。これは主に縄張り争いや防御、獲物を捕らえるために使われる強力な武器です。体全体も、水底を歩くために、硬い殻で覆われ、エビ(ロブスター)のような頑丈な体つきをしています。
一方、エビは非常に種類が多く一概には言えませんが、私たちがよく目にするクルマエビやサクラエビ、アマエビ(ホッコクアカエビ)などは、ザリガニのような巨大なハサミを持ちません。エビのハサミは、第一脚や第二脚が小さなピンセット状になっているものが多く、主にエサを掴んで口に運ぶために使われます。テナガエビのようにハサミ(脚)が非常に長い種類もいますが、ザリガニのハサミのように太く頑丈ではありません。
体型も、エビは水中を泳ぐ(遊泳する)ことに適応しており、ザリガニに比べて体が横に平たい(側扁)種類が多いのが特徴です。
「ザリガニ」と「エビ」は魚じゃない!分類学的な違い
どちらも「魚類」ではありません。カニや昆虫と同じ「節足動物」であり、その中の「甲殻類」に分類されます。さらに細かく見ると、どちらも「十脚目(じっきゃくもく)」という、10本の脚(胸脚)を持つグループの仲間です。
検索キーワードでは「魚類」として検索されがちですが、これは生物学的には正しくありません。魚類は脊椎動物(せきついどうぶつ)ですが、ザリガニもエビも背骨を持たない無脊椎動物(むせきついどうぶつ)です。
どちらも、カニ、昆虫、クモなどと同じ「節足動物門」に属します。その中で、硬い殻(外骨格)を持つ「甲殻類(甲殻亜門)」に分類されます。つまり、ザリガニもエビも、魚よりカニに近い親戚なのです。
さらに細かく分類すると、どちらも「十脚目(じっきゃくもく)」というグループに属します。これは胸にある脚(胸脚)がハサミを含めて10本あることを意味します。
この十脚目の中で、ザリガニは「ザリガニ下目(Astacidea)」、私たちがよく知るエビの多くは「コエビ下目(Caridea)」や「クルマエビ亜目(Dendrobranchiata)」などに分かれます。
ちなみに、ロブスター(オマールエビ)は、実はこの「ザリガニ下目」に属しており、生物学的にはエビよりもザリガニに非常に近い仲間です。
行動・生態・ライフサイクルの違い
ザリガニは「歩行者」で、水底を歩いて移動し、ハサミで獲物を捕らえます。エビは「遊泳者」で、腹部にある遊泳脚(腹肢)を巧みに使って、器用に水中を泳ぎ回ります。どちらも危険を察知すると尾を使って猛スピードで後ろ向きに逃げます。
ザリガニとエビの生態は、その形態の違いと密接に関連しています。
ザリガニは、基本的に「歩行者」です。頑丈な脚(胸脚)を使い、川や池の底(水底)を歩き回って生活します。食性は雑食性で、水草、小さな魚、昆虫、貝類、さらには動物の死骸まで、何でも食べます。彼らの大きなハサミは、エサを掴むだけでなく、硬い貝殻を割るためにも使われます。
エビは、「遊泳者」です。胸脚は主に歩行やエサを掴むために使いますが、主な移動手段は腹部にあるヒレ状の脚(遊泳脚または腹肢)です。これをリズミカルに動かして、水中をスイスイと泳ぎます。
実は、どちらも危険を察知した時の逃げ方は共通しています。腹部の最後にある尾扇(びせん)と呼ばれるヒレで強く水を蹴り、「ピュッ!」と音を立てるかのように猛スピードで後ろ向きにジャンプして逃げます。これは「カニドイド逃避反応」と呼ばれる行動です。
生息域・分布・環境適応の違い
これが両者を分ける最も一般的な違いです。ザリガニは、そのほとんどが川、池、沼、田んぼなどの「淡水」に生息します。一方、エビは、その大多数が「海水(海)」に生息しています。
ザリガニとエビのどちらかを見分ける最も簡単な方法は、それがどこにいたかを確認することです。
ザリガニ(アメリカザリガニ、ニホンザリガニなど)は、ほぼ全ての種類が「淡水」環境に特化しています。川、池、沼、湿地、さらには田んぼの水路など、流れの緩やかな淡水域の水底に生息し、泥の中に穴を掘って隠れ家とすることもあります。(※前述のロブスターのように、ザリガニ下目には海水に住む仲間もいますが、一般的に「ザリガニ」と呼ぶ生物は淡水産です)
エビは、その生息域が非常に多様ですが、クルマエビ、サクラエビ、アマエビ(ホッコクアカエビ)、イセエビ(分類上はエビではないが)など、私たちが食用にする種の多くは「海水」に生息しています。
ただし、エビの中にも淡水に適応したグループが数多く存在します。ペットとして人気の「ミナミヌマエビ」や「ヤマトヌマエビ」、食用にもなる「テナガエビ」などは、一生を川や湖で過ごす淡水生のエビです。
したがって、「淡水にいたら100%ザリガニ」とは言えませんが、「海にいたら100%エビ(またはヤドカリ・カニの仲間)」とは言えます。
危険性・衛生・法規制の違い
淡水に生息するザリガニやエビ(テナガエビなど)は、寄生虫(肺吸虫など)の中間宿主となるため、生食は絶対に禁止です。海水のエビもアニサキスのリスクがあります。また、アメリカザリガニは「条件付特定外来生物」に指定され、野外への放出が法律で禁止されています。
ザリガニとエビを扱う上で、特に重要な違いが2つあります。
1.寄生虫のリスク(生食厳禁)
まず、淡水に生息するザリガニやテナガエビは、生で食べてはいけません。
これらの甲殻類は、肺吸虫(はいきゅうちゅう、パラゴニムス)という危険な寄生虫の中間宿主となっている可能性があります。厚生労働省も、淡水産のカニやザリガニの生食をしないよう強く呼びかけています。これらの寄生虫は、加熱(中心部まで火を通す)によって死滅します。
海水のエビも、天然ものであればアニサキスなどの寄生虫がいる可能性があり、生食(刺身や寿司)の際は新鮮なものを選ぶなどの注意が必要です。
2.法規制(外来生物法)
日本で最も身近なザリガニである「アメリカザリガニ」は、その高い繁殖力と捕食性から、日本の生態系に甚大な被害を与えてきました。
このため、2023年(令和5年)6月1日から「条件付特定外来生物」に指定されました。これは、許可なく野外に放流すること、輸入すること、販売・頒布(無償で配ること)が法律(外来生物法)で禁止されることを意味します。
なお、一般家庭でペットとして飼育し続けることは、これまで通り許可なく可能ですが、逃がさないよう厳重な管理が求められます。詳しくは環境省のウェブサイト(環境省)を確認してください。
文化・歴史・人との関わりの違い
エビは、寿司、天ぷら、エビフライ、伊勢海老の鬼殻焼きなど、日本の食文化において「ご馳走」や「縁起物」として花形の食材です。一方、ザリガニは、日本では「子供のペット」や「釣り餌」としてのイメージが強く、食用としては一般的ではありません。
日本人にとって、エビとザリガニの文化的な位置づけは全く異なります。
エビは、日本の食文化において欠かせない主役級の食材です。刺身(アマエビ)、寿司(クルマエビ)、天ぷら、エビフライ、エビチリ、桜エビのかき揚げ、そして伊勢海老(※分類上はエビではないが)の鬼殻焼きなど、和洋中を問わず「ご馳走」として愛されてきました。その曲がった背中や赤い色から、長寿を祝う「縁起物」としておせち料理にも使われます。
一方、ザリガニ(アメリカザリガニ)は、日本では食用としての文化はほとんど根付いていません。多くの日本人にとっては、「子供の頃に公園の池で捕まえたペット」あるいは「ブラックバス釣りの餌」としての認識が強いでしょう。
しかし、これは日本特有の感覚です。フランス料理では「エクルビス(Écrevisse)」として高級食材ですし、アメリカ南部(ルイジアナ州など)では「クローフィッシュ(Crawfish)」と呼ばれ、大量のザリガニをスパイスで茹でる「クローフィッシュ・ボイル」は、春の風物詩として熱狂的な人気を誇るソウルフードです。
「ザリガニ」と「エビ」の共通点
生息域や形態は異なりますが、どちらも「甲殻類・十脚目」の仲間です。硬い外骨格(殻)を持ち、脱皮を繰り返して成長する点、エラ呼吸をする水生生物である点、そして危険を察知すると尾を使って後ろ向きに高速で逃げる点が共通しています。
淡水と海水、歩行者と遊泳者という大きな違いはありますが、生物学的には近い仲間であり、多くの共通点を持っています。
- 分類:どちらも「魚類」ではなく、「節足動物門 甲殻類 十脚目」に属する仲間です。
- 外骨格と脱皮:どちらも硬い殻(外骨格)に覆われており、成長するために「脱皮」を繰り返します。
- 呼吸:どちらも水中で生活し、エラ(鰓)呼吸を行います。
- 逃避行動:どちらも危険を感じると、腹部にある尾扇(びせん)を使って水を蹴り、瞬時に後ろ向きにジャンプして逃げます。
- 食用:どちらも世界的に広く食用にされています(日本ではザリガニは稀ですが)。
僕が体験した「ザリガニ」と「エビ」の“捕まえ方”の違い(体験談)
僕にとって、ザリガニとエビの違いは、子供時代の「狩りの難易度」にあります。
近所の公園の池での「ザリガニ釣り」は、僕の初めてのハンティング体験でした。スルメイカを縛り付けたタコ糸を垂らすだけ。すると、泥の中から真っ赤なアメリカザリガニがのっそりと現れ、その大きなハサミでスルメをガッシリと掴みます。ザリガニは食い意地が張っていて頑固なので、ゆっくり引き上げてもスルメを離しません。その鈍重さとハサミの迫力に、子供ながらに「捕獲した!」という強い満足感を得られました。
一方、夏休みに田舎の小川で挑戦した「エビ(ミナミヌマエビやスジエビ)」捕りは、全くの別物でした。彼らはザリガニと違い、常に水中をフワフワと泳いでいたり、石の裏に隠れていたりします。タモ網で掬おう(すくおう)とすると、目にも留まらぬ速さで「ピッ!」と後ろにジャンプして消えてしまいます。ザリガニのような「力」ではなく、「スピードと隠密性」が彼らの武器でした。
ザリガニが「重戦車」なら、エビは「俊敏な忍者」。同じ甲殻類でも、その戦略の違いに、子供ながらに生物の多様性を感じた思い出です。
「ザリガニ」と「エビ」に関するよくある質問
Q: ザリガニとエビは魚ですか?哺乳類ですか?
A: どちらも違います。魚類でも哺乳類でもありません。彼らはカニや昆虫と同じ「節足動物」であり、その中の「甲殻類」に分類されます。
Q: ザリガニは食べられますか?寄生虫が心配です。
A: 食べられます。ただし、淡水に生息するため、肺吸虫(パラゴニムス)などの寄生虫がいる可能性が非常に高いです。生食は絶対に禁止されており、食べる際は必ず中心部までしっかり加熱する必要があります。調理前の泥抜き(綺麗な水で数日飼う)も重要です。
Q: アメリカザリガニを捕まえて、別の川に放してもいいですか?
A: 絶対にダメです。アメリカザリガニは2023年から「条件付特定外来生物」に指定され、許可なく野外に放流・運搬することが法律で禁止されています。違反すると罰則の対象となります。
Q: ロブスターや伊勢海老はどっちの仲間ですか?
A: 見た目が似ていますが、分類は異なります。ロブスター(オマールエビ)は生物学的には「ザリガニ」に非常に近い仲間(ザリガニ下目)です。一方、伊勢海老(イセエビ)は「イセエビ下目」に属し、ザリガニとも一般的なエビ(コエビ下目)とも異なるグループです。
「ザリガニ」と「エビ」の違いのまとめ
「ザリガニ」と「エビ」は、どちらも「魚類」ではなく「甲殻類」の仲間です。その違いは、生息域と形態にありました。
- 分類と生息域:ザリガニは主に「淡水」に生息するザリガニ下目の仲間。エビは主に「海水」に生息するコエビ下目などの仲間(淡水種もいる)。
- 形態(ハサミ):ザリガニは「大きな鋏(はさみ)」を持つ。エビはハサミが小さいか細長い。
- 移動方法:ザリガニは「歩行」がメイン。エビは「遊泳」がメイン。
- 危険性:ザリガニ(および淡水エビ)は寄生虫のリスクから生食厳禁。海水エビはアニサキスに注意。
- 法規制:アメリカザリガニは「条件付特定外来生物」であり、野外への放出が禁止されている。
子供の頃に捕まえたザリガニも、お寿司で食べるエビも、実はカニの親戚。そう考えると、水辺の生き物たちの世界がより面白く見えてきますね。他にも(ユーザーの検索意図に基づき)魚類の仲間たちの違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。