冬の味覚の王様「アンコウ鍋」と、暗い深海で光る「チョウチンアンコウ」。
どちらも「アンコウ」と名前がつきますが、この二つ、実は全くの別物だとご存知でしたか?
結論から言うと、私たちが鍋などで食べている「アンコウ」は主にアンコウ科のキアンコウであり、「チョウチンアンコウ」はチョウチンアンコウ科の深海魚で、食用にはなりません。生息する水深も生態も全く異なる、名前が似ているだけの遠い親戚のような魚なんです。
この記事では、食用のアンコウと深海のチョウチンアンコウの決定的な違いから、生態、見分け方、そしてアンコウの美味しい食べ方まで、詳しく比較解説していきます。
これで、水族館のスターと冬の味覚を混同することはなくなりますよ。
結論|アンコウとチョウチンアンコウの違いを一覧表で確認
アンコウとチョウチンアンコウの最大の違いは、「分類」「生息水深」「チョウチンの有無」「食用の可否」です。私たちが食べる「アンコウ」はアンコウ科の魚で、水深500m程度までの海底に生息し、食用にされます。一方、「チョウチンアンコウ」はチョウチンアンコウ科の深海魚で、水深1000m以上の中層に生息し、頭に発光するチョウチンを持ちますが、食用にはされません。
まずは、食用の「アンコウ」と深海の「チョウチンアンコウ」の主な違いを一覧表で比較してみましょう。
| 項目 | アンコウ(主にキアンコウ) | チョウチンアンコウ |
|---|---|---|
| 分類 | アンコウ目 アンコウ科 | アンコウ目 チョウチンアンコウ科 |
| 主な生息域 | 水深30~500m程度の海底(砂泥底) | 水深200~1000m以上の深海(中層) |
| 見た目 | 体は平たい(縦扁)、褐色~茶色 | 体は丸く、黒っぽい |
| チョウチン(誘引突起) | あり(短く、発光しない) | あり(長く、発光する) |
| オスの生態 | メスより小さいが自力で生活 | メスに寄生し一体化する(種による) |
| 食用の可否 | 高級食材(鍋、肝、唐揚げなど) | 一般的に食用とされない |
このように、同じ「アンコウ目」という大きなグループには属しているものの、生態も利用法も全く異なる魚であることがわかりますね。
アンコウとチョウチンアンコウの定義と分類の違い
「アンコウ」は、アンコウ目の魚の総称ですが、食用としては主にアンコウ科の「キアンコウ」や「クツアンコウ」を指します。一方、「チョウチンアンコウ」は、アンコウ目の中でもチョウチンアンコウ亜目に属する深海魚の総称、または特定の種(チョウチンアンコウ科)を指します。
食用とされる「アンコウ」とは
私たちが普段「アンコウ」と呼んで食べているのは、そのほとんどがアンコウ目アンコウ科に属する魚です。
日本近海で食用として主に流通しているのは、「キアンコウ(ホンアンコウ)」と「クツアンコウ」の2種類です。特にキアンコウは味が良いとされ、高級食材として扱われています。これらは「アンコウ」という言葉の(食用における)狭い意味での定義と言えます。
深海魚の「チョウチンアンコウ」とは
一方、「チョウチンアンコウ」は、アンコウ目の中でもチョウチンアンコウ亜目に属する魚たちの総称です。ミツクリエナガチョウチンアンコウ科やチョウチンアンコウ科など、多くの科が含まれます。
彼らは深海魚の象徴的な存在であり、水族館などで見かける「頭にチョウチンをぶら下げた、黒くて丸い魚」のイメージは、こちらのグループのものです。
つまり、同じ「アンコウ目」ではありますが、「科」のレベルで異なる、遠い親戚のような関係なんですね。
見た目・生態・生息域(水深)の決定的な違い
食用のアンコウ(キアンコウなど)は、水深500m程度までの海底に生息し、体は平たく砂泥に紛れています。一方、チョウチンアンコウは水深1000mを超える深海の中層を漂い、体は丸みを帯びています。また、オスがメスに寄生する独特な生態も大きな違いです。
アンコウ(キアンコウなど)の生態と水深
食用のアンコウ(キアンコウやクツアンコウ)は、水深30mから500m程度の、比較的浅い海から大陸棚の海底に生息しています。
体は上から押しつぶされたように平たく(縦扁:じゅうへん)、大きな口が特徴です。砂泥の海底に巧みに擬態し、頭にある短い誘引突起(イリシウム)をヒラヒラと動かして、寄ってきた小魚や甲殻類を丸呑みにします。
チョウチンアンコウの生態と水深
チョウチンアンコウは、水深200mから、種によっては1000mを超えるような真っ暗な深海の中層を漂って生活しています。海底に張り付くアンコウとは、生活する「タナ(水深)」が全く違いますね。
体は平たくなく、丸くずんぐりとした体型で、色は黒っぽいものが多いです。
また、その生態は非常にユニークです。特に有名なのが、オスの「寄生」です。深海ではオスとメスが出会う機会が極端に少ないため、オスはメスを見つけると体に噛みつき、そのまま血管レベルで一体化してしまいます。オスはメスから栄養をもらい、精子を提供するだけの存在となるのです(※寄生しない種もいます)。
チョウチンアンコウの「チョウチン(誘引突起)」の秘密
チョウチンアンコウの「チョウチン(誘引突起:エスカ)」は、背ビレの一部が長く変化したものです。先端には発光バクテリアが共生しており、これを光らせることで暗い深海で餌をおびき寄せます。食用のアンコウにも誘引突起はありますが、短く、発光もしません。
両者の名前と姿を区別する最大のポイントが「チョウチン」です。
チョウチンアンコウは、その名の通り、頭から竿(イリシウム)が伸び、その先端に「チョウチン(誘引突起:エスカ)」と呼ばれる発光器を持っています(主にメス)。
このチョウチンの中には発光バクテリアが共生しており、生物発光によって光を放ちます。真っ暗な深海でこの光を点滅させ、好奇心で近づいてきた小魚などを大きな口で捕食するのです。
では、食用のアンコウにはチョウチンがないのでしょうか?
実は、食用のアンコウ(キアンコウなど)にも、チョウチンアンコウの竿(イリシウム)に相当する誘引突起はあります。しかし、それはチョウチンアンコウのように長く伸びず、皮弁(ひべん)と呼ばれるヒラヒラした飾りが付いているだけです。そして何より、発光する機能はありません。明るい海底では光らせる必要がなく、代わりに皮弁をゴカイなどの餌に見せかけて獲物をおびき寄せているのです。
食用の違い(アンコウ鍋 vs 食べられないチョウチンアンコウ)
「アンコウ」は、「アンコウ鍋」や「あん肝」として知られる冬の高級食材です。一方、「チョウチンアンコウ」は、肉が水っぽく食用には適さないとされており、市場に流通することはまずありません。
アンコウ(キアンコウ)の食べ方
食用のアンコウ(キアンコウ、クツアンコウ)は、特に冬(11月~2月)が旬とされ、身だけでなく内臓まで美味しく食べられる高級魚です。
- アンコウ鍋(どぶ汁):最も代表的な食べ方。身、皮、エラ、肝など様々な部位を野菜と一緒に煮込みます。特に肝を溶かしたスープは濃厚な旨味があります。
- あん肝(とも酢):「海のフォアグラ」とも呼ばれる濃厚な肝(肝臓)を蒸したもの。ポン酢やもみじおろしで食べられます。
- 唐揚げ:淡白でふっくらした身は唐揚げにも最適です。
チョウチンアンコウは食べられる?
一方、深海魚であるチョウチンアンコウは、その生態や水圧の関係から、肉質が非常に水っぽく、食用には適さないとされています。
漁獲されることも稀であり、市場に流通することはまずありません。私たちがチョウチンアンコウに出会えるのは、主に水族館の深海コーナーということになりますね。
まさに「アンコウ」は食材、「チョウチンアンコウ」は観賞・研究対象、という明確な違いがあります。
アンコウの「七つ道具」とは?
「アンコウの七つ道具」とは、食用のアンコウを調理する際、捨てるところなく食べられる主要な7つの部位を指す言葉です。一般的に「肉(身)」「肝(あん肝)」「皮」「胃(水袋)」「エラ」「卵巣(ぬの)」「ヒレ(トモ)」を指します。
食用のアンコウは、その独特な吊るし切りの解体方法と共に、「アンコウの七つ道具」と呼ばれる言葉で知られています。これは、アンコウが骨とアゴ(口)以外はほとんど捨てるところなく食べられることに由来します。
地域によって数え方に多少の違いはありますが、一般的に以下の7つを指します。
- 肉(身):いわゆる白身の部分。唐揚げや鍋の具材に。
- 肝(キモ):あん肝。蒸して「とも酢」にしたり、鍋のスープに溶かし込んだりします。
- 皮:ゼラチン質が豊富で、湯通しして酢の物や鍋の具材に。
- 胃(水袋):コリコリとした食感が特徴で、ホルモンのように湯通しや鍋で食べられます。
- エラ:独特の食感があり、鍋の具材として珍重されます。
- 卵巣(ぬの):平たく布のように見えることから。煮付けや鍋の具材に。
- ヒレ(トモ):胸ビレや尾ビレの部分。ゼラチン質が多く、煮こごりや鍋に。
チョウチンアンコウが食用にされないのに対し、食用のアンコウはここまで徹底して食べ尽くされる魚なんですね。
アンコウとチョウチンアンコウの体験談(水族館・食文化)
僕にとって「アンコウ」という言葉は、二つの全く異なる記憶と結びついています。
一つは、水族館の深海コーナーで見た「チョウチンアンコウ」の姿です。真っ暗な水槽の中で、頭の先にかすかな光を灯し、ゆらゆらと漂う姿は、この世のものとは思えないほど幻想的でした。あの黒く丸い体に、不気味さとかわいらしさが同居する姿は、まさに深海のミステリーそのものでしたね。
もう一つは、冬に茨城県の大洗で食べた「アンコウ鍋(どぶ汁)」の記憶です。目の前で吊るし切りにされたアンコウ(もちろんキアンコウです)は、グロテスクな見た目とは裏腹に、鍋に入れると驚くほど上品な味わいでした。特に、新鮮な「あん肝」を鍋の出汁に溶かし込んだスープの濃厚なコクと、野菜の甘みが絡み合った味は、まさに冬の最高のごちそう。皮のプルプルした食感や、身の淡白な旨味も忘れられません。
水族館で光る幻想的な姿と、鍋で味わう濃厚な旨味。名前は似ていても、これほどまでに姿も生態も、我々との関わり方も違う魚は珍しいなと、そのギャップにいつも驚かされます。
アンコウとチョウチンアンコウのFAQ(よくある質問)
Q1. 私たちが食べる「アンコウ鍋」のアンコウに、チョウチンはありますか?
A1. ありません。食用のアンコウ(キアンコウなど)にも頭に餌をおびき寄せるための「誘引突起」はありますが、チョウチンアンコウのように長く伸びず、光ることもありません。光るチョウチンを持つのは、私たちが食べない深海魚のチョウチンアンコウですね。
Q2. チョウチンアンコウは食べられますか?
A2. いいえ、一般的に食用にはされません。深海魚であるため、肉質が水っぽく、食用には適さないと言われています。また、漁獲されることも稀で、市場には流通しません。
Q3. アンコウとチョウチンアンコウは全くの別物ですか?
A3. 分類学上は「アンコウ目」という同じグループの仲間です。しかし、そこから「アンコウ科」(食用)と「チョウチンアンコウ科」(深海魚)というように、異なる「科」に分かれます。生態や生息水深、見た目も全く異なるため、一般的には「別物の魚」と認識して問題ありません。
まとめ|アンコウとチョウチンアンコウの違いと見分け方
アンコウとチョウチンアンコウの違い、スッキリ整理できたでしょうか。
私たちが冬の味覚として楽しむ「アンコウ」(キアンコウなど)は、海底に住み、光らない誘引突起を持つ、食用として非常に美味しい魚です。
一方、「チョウチンアンコウ」は、暗い深海の中層を漂い、光るチョウチンで餌を誘う、食用にはならない神秘的な魚です。
名前は似ていますが、その違いは「アンコウ鍋」と「水族館の深海コーナー」ほどの違いがあります。それぞれの特徴を知ることで、冬の味覚も、水族館の展示も、より一層深く楽しめるようになりますね。
アンコウの食用利用については、農林水産省のウェブサイトなどで地域の食文化として紹介されていることもありますし、深海魚の生態については、厚生労働省が食用の可否情報(食用アンコウ以外の深海魚の毒性など)を提供している場合もあります。
当サイトでは、他にも様々な肉・魚介類の違いについても解説していますので、ぜひご覧ください。