「健康に良いと言われる油」と「香ばしい風味付けの定番油」。
名前が似ているため混同されがちな「えごま油」と「ごま油」ですが、実は原材料も、含まれる栄養素も、使い方も全く異なる別物であることをご存知でしょうか?
特に「加熱できるかどうか」という点は、間違って使うとせっかくの栄養を台無しにしてしまう決定的な違いです。
この記事を読めば、毎日の食事にどちらの油を取り入れるべきか、その明確な基準と正しい使い方が分かります。
それでは、意外と知られていない両者の違いについて、詳しく見ていきましょう。
結論|えごま油とごま油の違いを一言でまとめる
ごま油は「ゴマ」を焙煎して搾った加熱調理向きの油で、えごま油は「シソ科のエゴマ」から搾った生食専用の油です。最大の違いは脂肪酸の種類と熱への強さです。
名前の響きから「えごま油はごま油の一種?」と思われがちですが、植物としての分類からして異なります。
結論から言うと、ごま油は「料理の味付けや加熱調理の主役」、えごま油は「サプリメント感覚で摂取する健康オイル」と認識して使い分けるのが正解です。
以下の比較表で、主な違いを整理しました。
| 項目 | ごま油 | えごま油 |
|---|---|---|
| 原材料 | ゴマ科のゴマの種子 | シソ科のエゴマの種子 |
| 主成分(脂肪酸) | リノール酸(オメガ6)、オレイン酸(オメガ9) | α-リノレン酸(オメガ3) |
| 加熱調理 | 可(酸化に比較的強い) | 不可(酸化に弱く、熱で劣化する) |
| 味・香り | 香ばしい、コクがある(焙煎ごま油) | クセが少ない、独特の草っぽい香り、無味に近い |
| 主な用途 | 炒め物、揚げ物、中華・韓国料理の風味付け | ドレッシング、味噌汁やヨーグルトにかける |
このように、成分も使い方も正反対と言っても過言ではありません。
特に健康意識の高い方が注目しているのは、えごま油に含まれる「オメガ3脂肪酸」ですが、これは熱に弱いため、ごま油のように炒め物に使っては意味がないのです。
原材料と植物分類の違い|「ゴマ」と「シソ」
ごま油はゴマ科の植物の種子から作られますが、えごま油はシソ科の植物「エゴマ(荏胡麻)」の種子から作られます。葉の形や香りが全く異なります。
そもそも「エゴマ」とは何なのか、普通の「ゴマ」とどう違うのか、植物としてのルーツを見てみましょう。
ごま油は「ゴマ科」の種子から
ごま油の原料は、私たちが普段よく目にする「白ごま」などのゴマ科の植物の種子です。
アフリカのサバンナ地帯が原産と言われており、乾燥に強いのが特徴です。
種子を焙煎(ロースト)してから油を搾ることで、あの独特の茶色い色と香ばしい風味が生まれます。
一方、焙煎せずに生のまま搾った「太白(たいはく)ごま油」という種類もあり、こちらは無色透明でクセがなく、サラダ油のように使える高級品として知られています。
えごま油は「シソ科」の種子から
えごま油の原料である「エゴマ」は、シソ科の一年草です。
名前に「ゴマ」とついていますが、植物学的には大葉(青ジソ)の仲間です。
韓国焼肉店などで「エゴマの葉」を見かけたことがある方も多いでしょう。
あの大葉に似た形の葉をつける植物の種子から油を搾ったものが、えごま油です。
別名「ジュウネン」とも呼ばれ、「食べると十年長生きする」という言い伝えがあるほど、古くから健康食材として親しまれてきました。
栄養成分の違い|オメガ3とオメガ6・9
えごま油は約60%が「α-リノレン酸(オメガ3)」で構成されています。ごま油は「リノール酸(オメガ6)」と「オレイン酸(オメガ9)」が主成分で、抗酸化物質セサミンを含みます。
健康効果を期待して油を選ぶなら、この脂肪酸組成の違いが最も重要なポイントになります。
現代人に不足しがちな「α-リノレン酸」を含むえごま油
えごま油最大の特徴は、オメガ3系脂肪酸である「α-リノレン酸」が非常に豊富なことです。
α-リノレン酸は体内でEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)に変換される必須脂肪酸で、青魚に含まれる成分と同じ働きをします。
現代の食生活では不足しがちな成分であり、アレルギー抑制や血流改善、脳の活性化などが期待されています。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」でも、オメガ3系脂肪酸の積極的な摂取が推奨されています。
抗酸化成分「セサミン」を含むごま油
ごま油の主成分は、オメガ6系のリノール酸とオメガ9系のオレイン酸です。
これらは一般的な植物油にも多く含まれており、エネルギー源として重要ですが、摂りすぎには注意が必要です。
ごま油の特筆すべき点は、微量成分として「セサミン」や「セサミノール」などのゴマ特有の抗酸化物質が含まれていることです。
これらは油自体の酸化を防ぐだけでなく、体内でも活性酸素の除去を助ける働きがあると言われています。
だからこそ、ごま油は他の植物油に比べて酸化しにくく、常温保存でも比較的長持ちするのです。
味・香り・加熱耐性の違い
ごま油は加熱に強く香ばしい香りが特徴ですが、えごま油は熱に非常に弱く酸化しやすいため、独特の風味を生かすか無味に近い状態で生食します。
料理への使い勝手を左右するのは、この「熱への強さ」と「風味」です。
食欲をそそる香りのごま油は加熱OK
一般的な茶色いごま油は、焙煎によるナッツのような香ばしい香りが最大の特徴です。
加熱しても香りが飛びにくく、むしろ熱することで香りが立つため、炒め物の仕上げに回しかける使い方が定番です。
酸化安定性が高いため、揚げ油として使ったり、作り置きのおかず(きんぴらごぼう等)に使ったりするのにも適しています。
繊細で酸化しやすいえごま油は加熱NG
えごま油に含まれるオメガ3脂肪酸は、非常に酸化しやすく、熱に弱いという弱点があります。
加熱すると栄養成分が壊れるだけでなく、独特の生臭いような不快なにおいが発生することがあります。
味自体は製品によって異なりますが、シソ科特有の少し草っぽい風味があるものや、精製されてほぼ無味無臭のものがあります。
いずれにせよ、「焼く」「炒める」「揚げる」といった調理法には絶対に使ってはいけません。
使い方の違い|加熱調理 vs 生食
ごま油は風味付けや加熱調理全般に使えます。えごま油は出来上がった料理にかける、飲み物に混ぜるなど「生のまま」摂取するのが基本です。
それぞれの特性を活かした、具体的な活用シーンを紹介します。
ごま油が活躍する料理シーン
- 炒め物・揚げ物:野菜炒め、天ぷら(衣がサクッと仕上がり、冷めても美味しい)
- 風味付け:中華スープ、ラーメンの仕上げ、冷奴
- 和え物:ナムル、チョレギサラダのドレッシング
ごま油は「調味料」としての側面が強く、料理の味の決め手になります。
えごま油の効果的な摂取方法
- かける:サラダ、納豆、冷奴、お浸し、卵かけご飯
- 混ぜる:味噌汁やスープ(食べる直前に)、ヨーグルト、スムージー
- そのまま飲む:スプーン1杯を直接飲む(健康習慣として)
えごま油は「食品」というより「サプリメント」のように、いつもの食事にプラスして栄養を補う使い方が主流です。
味を大きく変えないため、和洋中問わずどんな料理にも「後がけ」できます。
歴史・文化的背景|かつては「油」といえばエゴマだった?
日本では平安時代からエゴマ油(荏油)が灯明油や塗料として使われていました。菜種油やごま油が普及するまでは、エゴマが主要な搾油植物でした。
実は日本におけるエゴマの歴史は古く、縄文時代の遺跡からも種子が発見されています。
平安時代から江戸時代初期にかけては、「油」といえばエゴマから搾った「荏油(えのあぶら)」が主流でした。
当時は食用だけでなく、防水用の塗料(番傘など)や、夜の明かりを灯す灯明油として生活に欠かせないものでした。
しかし、江戸時代以降、より搾油効率の良い菜種油が普及し、香ばしく美味しいごま油が庶民の味として広まるにつれて、エゴマの生産は衰退していきました。
それが近年、オメガ3の健康効果が科学的に解明されたことで、「健康オイル」として再び脚光を浴びることになったのです。
体験談・えごま油を加熱して失敗した私の実話
これは私がえごま油を使い始めたばかりの頃の失敗談です。
「体に良い油なら、料理に使えば一石二鳥だろう」と安易に考え、野菜炒めを作る際にサラダ油の代わりにえごま油を使ってしまいました。
フライパンにえごま油を敷き、火をつけた瞬間までは良かったのですが、野菜を炒め始めると、何とも言えない生臭いような、古くなった魚のようなニオイが立ち込めてきたのです。
「あれ?野菜が傷んでたかな?」と思いつつ完成させましたが、食べてみるとやはり変な風味が鼻につき、全く美味しくありませんでした。
後で調べて、「えごま油は加熱厳禁」という事実を知り、深く後悔しました。
高い油を無駄にしただけでなく、料理も台無しにしてしまったのです。
それ以来、私は「ごま油はキッチン(コンロ横)に、えごま油は冷蔵庫(または食卓)に」と置き場所を完全に分けています。
えごま油は、朝の味噌汁に小さじ1杯垂らして飲むのが日課になりました。
これなら味も変わらず、無理なく続けられています。
皆さんも、高い健康オイルを無駄にしないよう、使い分けには十分ご注意くださいね。
よくある質問(FAQ)
Q. えごま油を味噌汁に入れても大丈夫ですか?熱で栄養が壊れませんか?
A. 大丈夫です。えごま油が酸化するのは、フライパンなどで高温調理(100℃以上など)をした場合です。お椀に注いだ味噌汁(食べる直前の温度)程度であれば、栄養成分が壊れる心配はありません。食べる直前に回しかけるのがおすすめです。
Q. えごま油と亜麻仁油(アマニ油)の違いは何ですか?
A. どちらもオメガ3(α-リノレン酸)を豊富に含む点では同じで、加熱NG・生食推奨という使い方も共通しています。違いは原料(エゴマの種子か、アマの種子か)と風味です。えごま油はシソ科特有のさっぱり感、亜麻仁油は少し独特の苦味やクセを感じる場合がありますが、近年はどちらも無味無臭に近い製品が多いです。
Q. ごま油にも健康効果はありますか?
A. あります。ごま油に含まれるリノール酸やオレイン酸は必須脂肪酸やエネルギー源として重要ですし、微量成分の「セサミン」には強い抗酸化作用があり、老化防止や肝機能のサポートなどが期待されています。ただし、カロリーは他の油と同じですので摂りすぎは禁物です。
まとめ|目的別おすすめの使い方
えごま油とごま油は、名前こそ似ていますが、その役割は全く異なるパートナーです。
最後に、それぞれの選び方と使い方のポイントを整理しておきましょう。
- ごま油:加熱調理、風味付け、食欲増進に。酸化に強く常温保存が可能。
- えごま油:オメガ3摂取、体質改善、生食専用に。酸化に弱く冷蔵保存が必須。
「料理を美味しく仕上げるならごま油」、「足りない栄養を補うならえごま油」。
この2つをキッチンに常備しておけば、美味しさと健康の両立がもっと簡単になるはずです。
ぜひ、今日から目的に合わせて使い分けてみてくださいね。
調味料の使い分けについては、以下の記事でも詳しく解説しています。