「ハダカ麦」と「大麦」。
どちらも「麦」であることは分かりますが、この二つ、一体何が違うのでしょうか? 健康食として人気の「もち麦」とも関係があるのでしょうか?
結論から言うと、「大麦」は穀物の「総称」であり、「ハダカ麦(裸麦)」はその大麦を分類したうちの「一種」です。
最大の違いは、「殻(穎=えい)」が実から簡単に剥がれるかどうかという点にあります。この違いが、そのまま加工法や用途の違いに直結しているのです。
この記事では、ハダカ麦と大麦の明確な関係性から、栄養価、そして私たちの食卓でどう使い分けられているかまで、スッキリと解説しますね。
まずは、大麦の分類とハダカ麦の立ち位置を一覧表で比較してみましょう。
結論|「ハダカ麦」と「大麦」の違いを一言でまとめる
「大麦(おおむぎ)」はイネ科オオムギ属の穀物全体の「総称」です。その「大麦」は、収穫・脱穀の際に「殻(穎)が実から剥がれやすいか」によって、「ハダカ麦(裸麦)」と「皮麦(かわむぎ)」の2種類に大別されます。
つまり、「ハダカ麦」は「大麦」という大きなカテゴリの中の一つ、ということです。リンゴ(総称)の中に、ふじ(品種)や王林(品種)があるのと同じ関係性ですね。
一般的に、私たちが「大麦」と聞いてイメージするものは、この「ハダカ麦」か「皮麦」のどちらかを指しています。
| 項目 | ハダカ麦(裸麦) | 皮麦(かわむぎ) |
|---|---|---|
| 分類 | どちらも「大麦」の一種 | |
| 殻(穎)の性質 | 実と癒着しておらず、脱穀で簡単に剥がれる | 実と癒着しており、剥がれにくい |
| 加工後の状態 | 小麦と似たつるつるの粒(裸)になる | 殻を取り除くため「搗精(とうせい)」が必要 |
| 主な用途 | 食用(麦ごはん、麦味噌、麦焼酎、はったい粉) | 醸造用(ビール、焼酎)、飼料、食用(押し麦) |
| 主な栽培地(日本) | 東海・近畿以西(特に愛媛県など瀬戸内) | 関東以北(耐寒性が高いため) |
「大麦」は総称、「ハダカ麦」はその一種
「大麦」という穀物は、植物学的な特徴によっていくつかの分類方法があります。穂につく実の列数による「六条大麦」「二条大麦」という分類や、デンプンの性質による「うるち性」「もち性(もち麦)」という分類などです。それらと並ぶ重要な分類が、殻の剥けやすさによる「皮麦」と「ハダカ麦」という分類なのです。
「大麦」という大きな分類
まず、「大麦」はイネ科の穀物です。小麦や米とは異なる植物です。
この大麦は、以下のような特徴で分類されます。
- 穂の列数:「六条(ろくじょう)大麦」(穂に実が6列つく)と「二条(にじょう)大麦」(穂に実が2列つく)。
- 殻の剥けやすさ:「皮麦」と「ハダカ麦」。
- デンプンの性質:「うるち性」(粘りが少ない)と「もち性」(粘りが強い=もち麦)。
例えば、「もち麦」の中にも「ハダカ麦」の品種(例:ダイシモチ)と「皮麦」の品種(例:キラリモチ)が存在します。
「皮麦」と「ハダカ麦」という決定的な違い
「大麦」を食品として加工する上で最も重要な違いが、この「皮麦」か「ハダカ麦」か、という点です。
これは、お米でいう「うるち米」と「もち米」の違いのように、大麦の品種が持つ根本的な性質の違いです。
「ハダカ麦」と「皮麦(大麦)」の定義と特徴
「ハダカ麦」は、脱穀(だっこく)するだけで殻(穎)が自然にポロっと剥がれ、小麦のような裸の粒になります。一方、「皮麦」は、殻が実に強く癒着しているため、脱穀しただけでは殻が剥がれず、お米のように「搗精(とうせい)」という工程で殻を削り取る必要があります。
ハダカ麦(裸麦):殻(穎)が簡単に剥がれる麦
「ハダカ麦(Naked barley)」は、その名の通り、収穫後の脱穀作業(実を穂から外す作業)で、もみ殻(穎)が簡単に剥がれ落ち、中身の粒が「裸」の状態で出てくる品種群のことです。
殻が実に癒着するための糊(のり)状の物質がないため、小麦のように簡単に粒を取り出すことができます。この「加工のしやすさ」から、古くから食用として重宝されてきました。
皮麦(かわむぎ):殻が実に癒着している麦
「皮麦(Covered barley)」は、殻(穎)が実(子実)に強く癒着している品種群です。
脱穀しても殻が剥がれないため、食用にするには、お米の玄米を白米にするのと同じように、「搗精(とうせい)」という機械で殻ごと周りを削り取る加工が必要です。
この加工によって作られるのが、麦ごはんに使われる「押し麦(おしむぎ)」(削った皮麦を蒸してローラーで平たくしたもの)や「丸麦(まるむぎ)」です。
見た目・食感・味わいの違い
「ハダカ麦」は殻を削る必要がないため、胚芽(はいが)や外皮に近い部分の栄養を丸ごと残しやすいのが特徴です。食感はプチプチとしており、香ばしい風味が強いです。一方、「皮麦」を加工した「押し麦」は、削られているためクセが少なく、白米と馴染みやすい柔らかい食感になります。
ハダカ麦
脱穀するだけで粒になるため、小麦と同様に「全粒粉」として利用しやすいのが特徴です。麦ごはんとして食べる場合も、皮麦ほど強く削る必要がないため、栄養価の高い部分(胚芽など)が残りやすいです。食感はプチプチ感が強く、麦本来の香ばしい風味を強く感じられます。
皮麦(押し麦など)
皮麦を麦ごはん用に加工した「押し麦」は、硬い殻を削り取っているため、ハダカ麦に比べると風味がマイルドです。また、蒸してローラーで押しつぶす加工により、火の通りが速く、食感も「柔らかく」なり、白米と一緒に炊いた時の違和感が少なくなるよう工夫されています。
栄養・成分・健康面の違い
「大麦」(ハダカ麦・皮麦ともに)は、白米に比べて圧倒的に食物繊維が豊富です。特に注目されるのが、水溶性食物繊維「βグルカン(ベータグルカン)」です。βグルカンは、食後の血糖値上昇を穏やかにしたり、コレステロール値を低下させる働き が報告されています。
「ハダカ麦」も「皮麦」も、同じ「大麦」の仲間であるため、基本的な栄養特性は共通しています。
豊富な食物繊維(βグルカン)
大麦の最大の健康メリットは、水溶性・不溶性の両方の食物繊維が豊富なことです。
特に「βグルカン」という水溶性食物繊維は、大麦の胚乳(中心部)にまで含まれているため、皮麦を削って「押し麦」にしても、ハダカ麦をそのまま使っても、βグルカンはしっかりと残ります。
このβグルカンは、腸内環境を整える だけでなく、糖の吸収を穏やかにする ため、健康的な主食として非常に優れています。
ハダカ麦は、皮麦よりもβグルカンが多く含まれる傾向があるとも言われています。
使い方・料理での扱い方の違い
「ハダカ麦」は、殻を剥く加工が不要なため、古くから「麦ごはん」や、麦を麹(こうじ)にした「麦味噌」、粉にして煎った「はったい粉」(麦こがし)など、主に食用として西日本で利用されてきました。一方、「皮麦」は、殻が剥けにくい性質から、ビールの原料(二条大麦)や麦焼酎、家畜の飼料として世界中で広く使われています。
ハダカ麦の主な用途(麦ごはん、麦味噌、はったい粉)
脱穀が簡単なため、古くから人間の食用(特に粒食)として重宝されてきました。
- 麦ごはん(丸麦):米に混ぜて炊く主食。プチプチした食感が特徴。
- 麦味噌:九州や四国、中国地方で作られる味噌の主原料(麹)。
- 麦焼酎:麦焼酎の原料としても使われます。
- はったい粉(麦こがし):ハダカ麦を焙煎して粉にしたもの。砂糖とお湯で練って食べる伝統的なおやつ。
皮麦の主な用途(ビール、焼酎、飼料)
硬い殻に覆われているため、加工が前提となります。
- ビール原料:二条大麦(皮麦)は、ビールの主原料(麦芽=モルト)として世界中で最も多く使われています。殻が、麦汁をろ過する際のフィルターの役割を果たします。
- 麦焼酎:皮麦も焼酎の原料として使われます。
- 押し麦:皮麦を削って蒸し、ローラーで平たくしたもの。麦ごはん用。
- 飼料:家畜のエサとしても広く利用されます。
栽培地・歴史・文化的背景
「大麦」は世界で最も古くから栽培されてきた穀物の一つです。「皮麦」は寒さに強いため、関東以北でも栽培されます。一方、「ハダカ麦」は寒さにやや弱く、東海・近畿以西の温暖な地域、特に愛媛県を中心とした瀬戸内沿岸が日本一の産地として知られています。
大麦の栽培は、紀元前7000年頃には西南アジアで始まっていたとされます。その変種であるハダカ麦も、紀元前6000年頃には栽培が始まっていました。
日本国内では、栽培される地域が分かれています。
皮麦:耐寒性が高いため、関東地方や北の地域でも栽培が可能です。
ハダカ麦:温暖な気候を好み、主に西日本で栽培されます。特に愛媛県は日本一のハダカ麦の生産量を誇り、高品質なハダカ麦が生産されています。
体験談|「はったい粉」の香ばしさと「麦ごはん」の食感
僕は子供の頃、「大麦」というと、給食で出てくる「押し麦ごはん」のイメージしかありませんでした。白米の中に平たく潰れた麦が混ざっていて、少しパサパサする、というのが正直な感想でした。(あれは「皮麦」から作られていたんですね)
そのイメージが変わったのが、二つの「ハダカ麦」体験です。
一つは、祖母が作ってくれた「はったい粉(麦こがし)」です。茶色い粉末(これがハダカ麦を煎って粉にしたもの)に砂糖を混ぜ、お湯で練っただけのシンプルなおやつ。これが、きな粉とは違う、穀物特有の強烈な「香ばしさ」と、ねっとりした食感、素朴な甘みがあって、大好きでした。
もう一つは、大人になってから食べた「もち麦(もち性ハダカ麦)」入りのごはんです。押し麦の「パサパサ」とは全く違う、「プチプチ」「プリプリ」とした楽しい食感。そして、噛むほどに広がる麦の旨味。
「大麦って、こんなに美味しかったのか!」と感動しました。殻が剥けやすい「ハダカ麦」は、麦の栄養と風味を丸ごと味わうのに最適な、日本の素晴らしい食材なのだと実感しました。
「ハダカ麦」と「大麦」に関するよくある質問
最後に、ハダカ麦と大麦に関するよくある疑問にお答えしますね。
Q: 結局、「ハダカ麦」と「大麦」はどっちが健康に良いですか?
A: どちらも同じ「大麦」の仲間なので、食物繊維(βグルカン)が豊富で健康に良い食材です。あえて言えば、「ハダカ麦」は殻を削る(搗精)必要がないため、外皮や胚芽に近い部分の栄養素(ミネラルなど)を丸ごと摂取しやすいというメリットがあります。
Q: 「もち麦」と「ハダカ麦」の違いは何ですか?
A: 分類の「軸」が違います。「ハダカ麦」は殻の剥けやすさ(ハダカ性)による分類です。「もち麦」はデンプンの性質(もち性)による分類です。したがって、「もち性のハダカ麦」も存在しますし(例:ダイシモチ)、「もち性の皮麦」も存在します(例:キラリモチ)。
Q: ハダカ麦と小麦の違いは何ですか?
A: 植物の種類が違います。ハダカ麦は「大麦」の一種です。小麦は「小麦」という別の穀物です。小麦にはパンが膨らむ「グルテン」ができますが、大麦にはできません。また、粒の大きさも、ハダカ麦と小麦はほぼ同じくらい(皮麦の方が大きい)とされています。
まとめ|「ハダカ麦」と「大麦」の違いと選び方
「ハダカ麦」と「大麦」の違い、スッキリ整理できたでしょうか。
「大麦」という大きな家族の中に、殻の剥け方によって異なる二つのタイプが存在していました。
- 大麦(おおむぎ):「総称」。イネ科の穀物。βグルカンが豊富。
- ハダカ麦(裸麦):「種類」の一つ。脱穀で殻が剥ける。主に食用(麦ごはん、麦味噌、はったい粉)。
- 皮麦(かわむぎ):「種類」の一つ。脱穀で殻が剥けない(要搗精)。主に醸造用(ビール)や飼料、加工品(押し麦)。
この違いを知れば、なぜ麦ごはんに「押し麦」と「丸麦」があるのか、なぜビールの原料が「大麦」なのかが理解できますね。
「健康のために麦ごはんを始めたい」なら、プチプチ食感で栄養豊富な「ハダカ麦(もち麦など)」や、白米と馴染みやすい「押し麦(皮麦の加工品)」を選ぶのがおすすめです。
当サイト「違いラボ」では、他にも様々な穀物・豆類の違いについて詳しく解説しています。ぜひ他の記事も参考にしてみてください。
(参考情報:はくばく「大麦とその効用」)