草餅とよもぎ餅は同じ?「ハハコグサ」から「ヨモギ」に変わった理由

春の和菓子としてお馴染みの「草餅」と「よもぎ餅」。

どちらも鮮やかな緑色と独特の香りが特徴で、見た目もそっくりですよね。この二つ、一体何が違うのでしょうか?

結論から言うと、現在では「草餅」と「よもぎ餅」は、ほぼ同じものを指しています。どちらも「ヨモギ(蓬)」を餅に練り込んだ和菓子です。</p

では、なぜ二つの呼び名が存在するのでしょうか?

その秘密は、歴史的な原材料の違いにありました。実は、古来の「草餅」はヨモギではなく、別の植物で作られていたんです。

この記事を読めば、二つの名前が持つ歴史的な背景や、なぜヨモギが主流になったのか、その違いがスッキリと分かります。

それではまず、二つの違いを一覧表で比較してみましょう。

結論|草餅とよもぎ餅の違いが一目でわかる比較表

【要点】

現在、「草餅」と「よもぎ餅」は、ほとんどの場合「ヨモギを練り込んだ餅」を指す同じものです。歴史的に見ると、「草餅」は元々「ハハコグサ(母子草)」を使っていましたが、江戸時代頃から香りの良い「ヨモギ」が主流となり、現在に至ります。

二つの主な違いを、歴史的な背景も含めて比較しました。

項目 草餅(くさもち) よもぎ餅(蓬餅)
現在の主な原材料 ヨモギ(蓬) ヨモギ(蓬)
古来の原材料 ハハコグサ(母子草) (平安時代は庶民が使用)
歴史的な背景 平安時代から存在。上巳の節句の行事食。 江戸時代頃からハハコグサに代わって主流になる。
風味・香り (ヨモギ使用)強い独特の香り、ほのかな苦味 (ヨモギ使用)強い独特の香り、ほのかな苦味
色の特徴 鮮やかな濃い緑色 鮮やかな濃い緑色
主な呼び方 関東地方で多い呼び方 関西地方で多い呼び方

草餅とよもぎ餅は現在では「ほぼ同じもの」

【要点】

現代の日本において、「草餅」と「よもぎ餅」は厳密に区別されていません。どちらも「ヨモギを練り込んだ餅」を指す名前として使われています。ただし、地域によって呼び方の傾向が異なる場合があります。

まず押さえておきたいのは、今、私たちが和菓子屋さんやスーパーで見かける「草餅」と「よもぎ餅」は、原材料も製法も同じ「ヨモギを使ったお餅」であることがほとんどだという点です。

どちらも、もち米や上新粉に、茹でてすり潰したヨモギの新芽を練り込み、あの独特の香りと鮮やかな緑色を出しています。中にはあんこが入っているものもあれば、お餅だけで、きな粉やあんこを付けて食べるタイプもありますね。

決定的な違いは歴史的な「原材料」

【要点】

二つの名前が存在する理由は、歴史的な原材料の違いにあります。古来、中国から伝わった「草餅」は、「ハハコグサ(母子草)」という草を使用していました。

では、なぜ「草餅」と「よもぎ餅」という二つの呼び名が生まれたのでしょうか。それは、「草餅」に使われる「草」が、時代と共に変化したからです。

古来の「草餅」:ハハコグサ(母子草)

「草餅」の歴史は古く、平安時代にまで遡ります。そのルーツは古代中国の「上巳の節句」(3月3日)に、邪気を払うために母子の健康を願って食べたお餅にあるとされています。

この時、餅に練り込まれていたのが、「ハハコグサ(母子草)」でした。ハハコグサは「御形(ゴギョウ)」とも呼ばれ、春の七草の一つでもあります。

平安時代の文献にも、このハハコグサを使った餅が「くさもちい」と呼ばれていた記述があり、これが「草餅」の原型と考えられています。当時は「母子餅(ははこもち)」とも呼ばれていたそうです。

現在の「よもぎ餅(草餅)」:ヨモギ(蓬)

「よもぎ餅」は、その名の通り、原材料として「ヨモギ(蓬)」を使ったお餅です。

ヨモギも古くから薬草として知られ、邪気を払う力があるとされていました。平安時代には、貴族がハハコグサの「草餅」を食べる一方、庶民は手に入りやすいヨモギで「よもぎ餅」を食べていた、という説もあります。

なぜハハコグサからヨモギに変わったのか?

【要点】

原材料がハハコグサからヨモギに変わった理由は諸説あります。一説には、「母子草」という名前が「母と子を(臼で)搗く」ことを連想させ、縁起が悪いとされたためと言われています。また、ヨモギの方が香り高く、色鮮やかに仕上がることも理由とされています。

平安時代から続いたハハコグサの「草餅」ですが、江戸時代頃からヨモギを使った「よもぎ餅」が主流になっていきました。

その理由はいくつかありますが、最もよく知られているのが縁起担ぎの説です。

「母子草(ハハコグサ)を餅と一緒に臼で搗(つ)く」という行為が、「母と子を一緒につく」と連想され、縁起が悪いと避けられるようになったという説です。

また、実用的な理由として、ヨモギの方がハハコグサよりも香りが強く、色も鮮やかな緑色に仕上がるため、菓子としての魅力が高かったことも大きな要因と考えられています。

こうして、次第に「草餅」=「よもぎ餅」として定着していったのです。ただし、現在でも一部の地域では、伝統にのっとりハハコグサを使った草餅(母子餅)を作っている場所もあります。

食感・風味・見た目の違い

【要点】

現在の草餅(よもぎ餅)は、ヨモギの若葉を使うことで、鮮やかな緑色と、ハーブのような清涼感のある強い香り、ほのかな苦味が特徴です。一方、古来のハハコグサの草餅は、香りも色もヨモギほど強くなく、より素朴な味わいであったと言われています。

よもぎ餅(現在の草餅)の特徴

ヨモギはキク科の植物で、その若葉(新芽)を使用します。

香り:非常に強く、清涼感のある独特の香り(ハーブ香)が特徴です。「春の香り」として多くの人に愛されていますね。

:ほのかな苦味と爽やかさがあり、あんこの甘さを引き立てます。

:鮮やかで濃い緑色に仕上がります。

食感:ヨモギの繊維が餅に練り込まれますが、柔らかい新芽を使うため、口当たりは滑らかです。

ハハコグサ(古来の草餅)の特徴

ハハコグサは全体が白い産毛に覆われている植物です。

香り:ヨモギほど強くはなく、ほのかで素朴な草の香りであったと言われています。

:仕上がりの色は、ヨモギのような鮮やかな緑ではなく、少しくすんだ緑色になります。

地域による呼び方の違い

【要点】

現在ではほぼ同義ですが、地域によって呼び方に傾向があります。一般的に、関東地方では古くからの呼び名である「草餅」が、関西地方では原材料を明示した「よもぎ餅」と呼ばれることが多いと言われています。

「草餅」と「よもぎ餅」、どちらもヨモギを使っているのに呼び名が二つある理由の一つに、地域差も挙げられます。

明確な境界線はありませんが、一説には関東では「草餅」関西では「よもぎ餅」という呼び方が優勢である、と言われています。

「草餅」という呼び名の方が歴史的に古く、ハハコグサで作られていた時代からの名称がそのまま残っているのに対し、「よもぎ餅」は原材料であるヨモギをストレートに表現した呼び名と言えるかもしれません。

体験談|春の香りを運ぶ「よもぎ餅」

僕にとって「草餅(よもぎ餅)」は、春の訪れを告げる香りそのものです。

子供の頃、春先になると近所の和菓子屋さんの店先に、鮮やかな緑色のお餅が並び始めました。そのお店では「よもぎ餅」として売られていて、きな粉がたっぷりとかかった、あんこが入っていないタイプでした。

母に買ってもらって一口食べると、口いっぱいに広がる、あの清々しくも少し苦味のあるヨモギの香り。「ああ、今年も春が来たんだな」と、その香りで季節の変わり目を感じたものです。

大人になってから、あの「よもぎ餅」が、平安時代には「ハハコグサ」で作られていた「草餅」の末裔(まつえい)であることを知りました。そして、ハハコグサが「母と子を搗く」から縁起が悪いという理由でヨモギに取って代わられたという歴史を知り、昔の人の言葉遊びや縁起担ぎの文化に、とても興味深く感じたのを覚えています。

今でも春によもぎ餅を食べると、あの独特の香りと共に、子供の頃の記憶と、その裏にある長い歴史に思いを馳せてしまいますね。

草餅とよもぎ餅に関するFAQ(よくある質問)

Q1. 結局、今売られている「草餅」は「よもぎ餅」ですか?

A1. はい、その通りです。
現在、日本国内で「草餅」という名前で販売されている商品のほとんどは、原材料に「ヨモギ」を使用しています。そのため、「草餅」=「よもぎ餅」と考えて差し支えありません。ただし、ごく一部の地域や店舗では、伝統を守り「ハハコグサ(御形)」を使った本来の草餅を提供している場合もあります。

Q2. なぜハハコグサ(母子草)を使わなくなったのですか?

A2. 理由は諸説ありますが、主に縁起担ぎと風味の問題です。
「母子草」という名前が「母と子を(臼で)搗く」と連想され、縁起が悪いとされたため、という説が有名です。また、ヨモギの方が香りや苦味が強く、色も鮮やかな緑色に仕上がるため、お菓子としての魅力が高かったからとも言われています。

Q3. 菱餅(ひしもち)の緑色もヨモギですか?

A3. はい、ヨモギが使われるのが一般的です。
ひな祭りに飾られる菱餅の三色(ピンク・白・緑)のうち、緑色は「健康や厄除け」を意味し、ヨモギ(草餅)で表現されるのが伝統です。これも草餅が持つ「邪気を払う」という力に基づいていますね。

まとめ|基本は同じ、ルーツに違いあり

「草餅」と「よもぎ餅」の違い、スッキリ整理できたでしょうか。

現在ではどちらも「ヨモギを使ったお餅」であり、基本的には同じものを指します。

しかし、その背景には、

  • 「草餅」は元々「ハハコグサ(母子草)」で作られていた。
  • 縁起担ぎや風味の良さから、江戸時代頃に「ヨモギ」が主流になった。
  • 「草餅」は関東、「よもぎ餅」は関西でよく使われる呼び名とも言われる。

という、興味深い歴史と文化の違いが隠されていました。

次に草餅やよもぎ餅を手に取るときは、ぜひその鮮やかな緑色と豊かな香りを楽しみながら、かつてはハハコグサで作られていた時代に思いを馳せてみるのも一興かもしれませんね。

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