新株予約権とストックオプションの違いとは?定義と関係性を徹底解説

「新株予約権」と「ストックオプション」、この2つは「全体」と「一部」という包含関係にあります。

法律上の正式名称である「新株予約権」という大きな枠組みの中に、従業員への報酬として使われる「ストックオプション」が含まれているのです。

この記事を読めば、契約書などの公的な場面と、採用や報酬を語るビジネスシーンでの使い分けが明確になり、自信を持って言葉を選べるようになります。

それでは、まず両者の決定的な違いを整理していきましょう。

結論:一覧表でわかる「新株予約権」と「ストックオプション」の最も重要な違い

【要点】

「新株予約権」は会社法上の法律用語で、株式を一定条件で取得できる権利の総称です。「ストックオプション」はその一種で、特に取締役や従業員への「報酬」として付与される新株予約権を指します。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いは、「法律用語としての総称」か「報酬制度としての名称」かという点です。

以下の表にまとめましたので、全体像を把握してください。

項目新株予約権ストックオプション
定義あらかじめ定めた価格で株式を取得できる権利の総称新株予約権のうち、従業員等に報酬として付与されるもの
関係性全体(フルーツ)一部(リンゴ)
使われる場面登記、契約書、法律文書、M&A採用、人事評価、報酬制度の説明
対象者投資家、株主、提携先企業など幅広い役員、従業員、顧問など(社内関係者が主)

一番大切なポイントは、すべてのストックオプションは新株予約権ですが、すべての新株予約権がストックオプションではないということです。

例えば、買収防衛策として発行されるものや、社債に付帯するものも「新株予約権」ですが、これらは従業員への報酬ではないため「ストックオプション」とは呼びません。

なぜ違う?言葉の定義と構造からイメージを掴む

【要点】

「新株予約権」は会社法で定められた権利の名称です。「ストックオプション」は英語の「Stock Option(自社株購入権)」に由来し、主にインセンティブ報酬の文脈で使われるビジネス用語です。

なぜこの二つの言葉が使い分けられるのか、それぞれの言葉の成り立ちと定義を紐解くと、その理由がよくわかりますよ。

「新株予約権」の定義:会社法に基づく正式名称

「新株予約権」は、2002年の商法改正(その後、会社法へ移行)によって生まれた用語です。

文字通り、「しい式を受け取ることを予約する利」という意味を持っています。

具体的には、「将来の一定期間内に、あらかじめ決められた価格(行使価額)で会社から株式の交付を受けることができる権利」のことですね。

これは法律上の「器(うつわ)」のようなもので、その中身が報酬目的であれ、資金調達目的であれ、形式要件を満たせばすべて「新株予約権」と呼ばれます。

「ストックオプション」の定義:報酬としての機能名

一方、「ストックオプション」は英語の「Stock(株式)」と「Option(選択権)」から来ています。

ビジネスの文脈では、「株価が上がった時に権利を行使して利益を得られる」というインセンティブ制度そのものを指す言葉として定着しました。

会社法ができる前は、法律用語として存在しなかったため、実務上の呼び名として使われてきた経緯があります。

つまり、制度の「目的」や「機能」に焦点を当てた言葉がストックオプションであり、それを実現するための法的な「手段」が新株予約権なのです。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

法的な手続きや書類作成では「新株予約権」を使い、人材採用やモチベーション向上を語る場面では「ストックオプション」を使うのが一般的です。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

シーン別の使い分けを見ていきましょう。

ビジネスシーンでの使い分け(法務・財務)

契約書や登記、決算などの堅い場面では「新株予約権」が主役です。

【OK例文:新株予約権】

  • 臨時株主総会で、新株予約権の発行決議が行われた。
  • 発行した新株予約権の内容を登記簿に反映させる必要がある。
  • 転換社債型新株予約権付社債を発行して資金調達を行う。

ビジネスシーンでの使い分け(人事・採用)

「やる気」や「報酬」に関わる場面では「ストックオプション」が響きます。

【OK例文:ストックオプション】

  • 優秀なエンジニアを採用するために、ストックオプション制度を導入した。
  • 上場すれば、ストックオプションで大きなキャピタルゲインが得られるかもしれない。
  • 当社のストックオプションは、入社3年目から行使可能です。

これはNG!間違えやすい使い方

意味は通じますが、文脈として違和感がある例を見てみましょう。

  • 【NG】スタートアップ企業に転職して、新株予約権をもらうのが夢だ。
  • 【OK】スタートアップ企業に転職して、ストックオプションをもらうのが夢だ。

「新株予約権」と言うと、投資家として権利を得るようなニュアンスも含まれてしまい、従業員の夢としては少し事務的すぎますね。

  • 【NG】法務局に行って、ストックオプションの登記申請をしてきた。
  • 【OK】法務局に行って、新株予約権の登記申請をしてきた。

登記簿上の項目名は「新株予約権」ですので、手続きの話で「ストックオプション」と言うと、専門用語の使い分けが甘い印象を与えかねません。

【応用編】似ている言葉「無償割当」との違いは?

【要点】

「無償割当」は株主に無料で新株予約権などを割り当てる「方法」のことです。ストックオプション(報酬)や新株予約権(権利そのもの)とは異なり、株主への還元や買収防衛策の一環として行われる行為を指します。

「新株予約権」に関連して、「新株予約権の無償割当」という言葉を聞くことがあるかもしれません。

これは、既存の株主に対して、申し込みや金銭の払込みなしに、新株予約権を割り当てる仕組みのことです。

ストックオプションが「従業員への報酬」であるのに対し、無償割当は「株主への配布」という点で目的が異なります。

しばしば敵対的買収を防ぐための「ポイズンピル(毒薬条項)」として利用される手法ですね。

「新株予約権」と「ストックオプション」の違いを法務・会計の視点で解説

【要点】

会社法では全て「新株予約権」として扱われますが、会計基準では従業員等に付与するものを特に「ストック・オプション」と定義し、費用計上のルールなどが定められています。

専門的な視点から見ると、この二つの言葉の境界線はより明確になります。

会社法上の取り扱い

日本の会社法においては、「ストックオプション」という法律用語は存在しません。

従業員に配るものも、投資家に販売するものも、すべて「新株予約権」として規定されています(会社法第238条など)。

したがって、雇用契約書や割当契約書などの法的文書のタイトルは、一般的に「新株予約権割当契約書」となります。

会計基準上の取り扱い

一方で、企業会計基準委員会(ASBJ)の「ストック・オプション等に関する会計基準」では、明確に使い分けられています。

ここでは、自社株オプションのうち、従業員等に対して労働の対価として付与されるものを「ストック・オプション」と定義しています。

会計上、ストックオプションは「人件費」のような性質を持つため、公正な評価単価に基づいて費用計上する必要があるのです。

つまり、法務担当者は「新株予約権」と呼び、経理担当者は「ストックオプション(費用)」として処理する、という側面があるんですね。

「新株予約権」と「ストックオプション」に関する契約書での体験談

僕が以前、急成長中のITベンチャーに人事担当として転職したばかりの頃の話です。

経営陣から「採用競争力を高めるために、SO(ストックオプション)制度を至急整えてほしい」と指示を受けました。

意気込んで候補者向けの「労働条件通知書」や「オファーレター」のひな形を作成し、「ストックオプション制度あり」と魅力的に記載して、内定者に提示していました。ここまでは良かったのです。

問題が起きたのは、実際に付与の手続きに入った時でした。

顧問弁護士から送られてきた契約書のドラフトを見て、僕は思わず手を止めました。

タイトルにデカデカと「第○回 新株予約権割当契約書」と書かれていたからです。

「あれ? 先生、これ違いますよ。僕たちがやりたいのはストックオプションです。投資家向けの資金調達じゃないんです」

あわてて電話をかけた僕に、弁護士は冷静に教えてくれました。

「人事さん、法律上の書類では全部『新株予約権』になるんですよ。中身が従業員向けなら、それが世間でいうストックオプションのことです」

顔から火が出るほど恥ずかしかったです。内定者には「ストックオプションあげるよ!」とキラキラした言葉で説明していたのに、いざサインしてもらう書類が、なんだか難しそうな「新株予約権」という名前だったことで、内定者から「これって本当に説明されていたSOですか?」と逆に質問されてしまう始末。

「法的には新株予約権という名前になりますが、内容はストックオプションそのものです」と、後から汗をかきながら説明して回ることになりました。

この経験から、「入り口の魅力付けはストックオプション、出口の契約実務は新株予約権」という使い分けを、肌身にしみて理解しました。言葉の定義を正確に知っておくことは、相手に無用な不安を与えないためにも重要なんですね。

「新株予約権」と「ストックオプション」に関するよくある質問

「新株予約権」と「ストックオプション」、履歴書にはどちらを書くべきですか?

職務経歴書などで、前職の待遇や実績として記載する場合は「ストックオプション付与」と書くのが一般的で伝わりやすいですね。法務・財務系の職種で、実務経験として登記や発行手続きに関わったことをアピールしたい場合は「新株予約権の発行実務」と書く方が専門性が伝わります。

税制適格ストックオプションと税制適格新株予約権は同じですか?

はい、同じものを指しています。税制上の優遇措置(権利行使時の課税繰り延べなど)を受けられる要件を満たしたものを指しますが、一般的には「税制適格ストックオプション」という呼び名が圧倒的にメジャーです。租税特別措置法などの法律用語としては「特定新株予約権」といった表現が使われます。

投資家が持っているのはストックオプションとは言わないのですか?

はい、言いません。投資家が持つものは、資金調達や投資の対価として得たものであり、労働の対価(報酬)ではないからです。この場合は単に「新株予約権」や「ワラント」と呼びます。ストックオプションはあくまで「人(役職員)」に紐づく報酬というニュアンスが強い言葉です。

「新株予約権」と「ストックオプション」の違いのまとめ

「新株予約権」と「ストックオプション」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本の関係:「新株予約権」が全体(法律用語)、「ストックオプション」がその一部(報酬制度)。
  2. 使い分け:契約・登記などの手続きなら「新株予約権」、採用・モチベーションの話なら「ストックオプション」。
  3. 注意点:従業員以外(投資家など)が持つ権利は「ストックオプション」とは呼ばない。

言葉の背景にある「法律上の定義」と「ビジネス上の機能」の違いを掴むと、機械的な暗記ではなく、場面に応じて自然に使い分けられるようになります。

これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。さらに詳しいビジネス用語や法律用語について知りたい方は、ビジネス用語の違いまとめ法律・制度の言葉の違いまとめもぜひ参考にしてみてください。